ASEANの日系サプライヤー:電動化・電装化関連の部品・部材投入が増加

域内での需要増や輸出増に対応、中国からの生産シフトも

2019/08/20

要約

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タイの自動車工場マップ(クリックすると拠点マップが開きます)
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インドネシアの自動車工場マップ(クリックすると拠点マップが開きます)
上記以外の国・地域は完成車メーカー工場立地マップよりご参照ください

  タイにおける2018年の自動車生産台数は216.8万台で前年比9.0%増と好調。2019年1~6月は106.6万台で前年同期比0.9%の微増。国内販売台数は好調な景気に支えられ、2018年が103.9万台で同19.2%増と2年連続で2桁台の増加。2019年1~6月は52.4万台で同7.1%増と好調を継続。完成車輸出は2018年が114.1万台で同0.1%増だったが、輸出環境の悪化で2019年1~6月は0.4%減の56.0万台とやや減少している。

  こうした中、エコカー・電動車シフトの動きも進んでいる。タイ政府は電動車投資奨励策に参加申請したトヨタ、日産、ホンダ、マツダにはHV生産、Mercedes-Benz、BMW、SAIC Motor-CPにはPHV生産、FOMMにはEV生産の投資プロジェクトを認可した。モデル投入では、日産が2018年11月にEVのLeafを発売。トヨタは第2期エコカープロジェクトの要件に適合したエコカー2モデルを2019年8月に発売する。Mercedes-Benzは2019年にEVのEQCを発売する計画で、将来は現地生産化の可能性もあるという。

  インドネシアの自動車販売台数は、2018年が景気回復により115.1万台と前年比6.9%増と好調だったが、2019年1~6月は前年同期比13.0%減の48.2万台と低迷。生産台数も2018年は134.4万台で同10.4%増と大きな増加をみたが、2019年1~6月は同6.7%減の59.2万台と減少。一方でMPV(多目的車)やSUVの販売は引き続き伸びている。

  インドネシア政府は電動化車両に関する施策を策定中。メーカー各社はこれまで推進されてきたLCGC適合車などの新型車投入を控え、電動車導入の準備も進めている模様。


  日系自動車部品メーカーは、ASEAN諸国での中期的な需要増や輸出増を見込み、生産能力の増強や生産自動化を進めている。加えて、環境・安全規制の強化や電動化・電装化などに伴う需要増に対応する部品・部材の投入を進めている。

  インドネシアでは、住友金属鉱山によるEV電池材料向けニッケル精錬所の建設方針、阪和興業のリチウムイオン電池向けニッケル・コバルト化合物の合弁会社への出資など、同国の資源を活用する事業が見られる。

  タイでは素材メーカーが生産体制を増強している。クラレが耐熱樹脂の新工場建設を計画。第一稀元素化学が排ガス触媒に使用する化合物の販売会社を設立。軽量化部材では、積水化成品が高機能発泡プラスチック成形品を新たに生産し、日本製鉄とJFEスチールが1.2ギガパスカル級ハイテン材の生産準備を進め、UACJが熱交換器用アルミ材の生産設備を新設。

  素材関連ではこのほか、宇部興産がタイとマレーシアで低燃費タイヤ材料の合成ゴムの生産能力を増強。古河電工がベトナムでワイヤハーネス用アルミ電線の生産能力を増強する計画。また、シンガポールではデンカがEVなど電動車向け放熱材料の生産能力増強を計画。マレーシアでは出光興産が電動化や自動運転の電装部品で需要が高まるエンジニアリングプラスチックの生産設備新設を計画している。

  電装品関連では、ベトナムでNOKがフレキシブルプリント基板、京写が両面プリント配線板の工場建設を計画。フィリピンでは、EMデバイスが車載用パワーリレーの生産能力を増強し、ロームが小信号半導体のトランジスタやダイオード工場で新棟を建設する。


  中国からASEANへ生産を移管する動きも見られる。ヨコオは中国での人件費上昇を背景に日米向け製品の生産をベトナム工場に移管してきたが、米中貿易摩擦の影響で制裁関税の対象となった米国向けアンテナ製品の生産移管を前倒しで実施。トピー工業は中国から米国に輸出するアルミニウムホイールについて、タイでの生産・輸出に変更することを検討。フォスター電機は中国での人件費上昇を背景に、ミャンマー工場を拡張して車載用スピーカーの生産体制を拡充する。三洋化成工業は中国における環境規制強化の影響を受け、タイ工場に生産設備を新設して電着塗料用樹脂の生産を開始、中国生産分の多くをタイに移管する。また、部品メーカーによる生産移管の動きに対応して、東レはベトナムに樹脂事業のマーケティング拠点を開設。ミタチ産業はフィリピンの電子機器製造受託サービス(EMS)子会社の生産能力を引き上げて受注増加に対応する。


  以下は、ASEAN地域における日系自動車部品メーカーの生産拠点新設、生産能力増強、生産品目拡大、販売・開発体制強化等の動きである (収録対象は2018年4月から2019年5月までの約14カ月間)。

 

ASEAN全般 ( )内は生産品目など、*印は新品目投入

生産能力増強、生産ライン増設、新品目投入 愛知製鋼(鍛造部品:タイ、インドネシア)、宇部興産(タイヤ用合成ゴム:タイ、マレーシア)、JFEスチール(*1.2ギガパスカル級超ハイテン材:タイ、インドネシア)、日立金属(電動パーキングブレーキ(EPB)用ハーネス:ベトナム、タイ)
販売サービス インクリメントP(高精度デジタル地図サービス:ASEAN10ヵ国)

 

タイ

新規進出、出資 クラレ(①自動車用耐熱樹脂:合弁会社、②イソブチレン誘導品)、JFE商事(車載モーター事業で現地日系部品メーカーに出資)、住江織物(カーマット)、日本ゼオン(アクリルゴム)、野原電研(センサー部品)
生産能力増強、生産ライン更新、新品目投入、開発拠点設立など <新工場建設>
積水化成品(高機能発泡プラスチック成形品の第2工場)
<工場拡張、設備増強>
旭化成(樹脂コンパウンド)、江崎工業(自動車用パイプ)、小松精機(ディーゼルエンジン燃料噴射装置部品)、三洋化成工業(*電着塗装用樹脂:中国工場から生産移管)、新明和工業(*テレスコ式シリンダーなど)、タイコエレクトロニクス(配線用コネクター)、田中精密工業(エンジン部品)、トピー工業(アルミホイール:中国工場から生産移管)、日本製鉄(*1.2ギガパスカル級の超ハイテン材)、日本特殊陶業(貴金属性点火プラグ)、ヒルタ工業(SUV向け金属部品)、丸順(金型製作で日・中・タイのネットワーク構築)、三井化学(PPコンパウンド)、山元(プレス部品)、UACJ(①熱交換器用のアルミ板=フィン材、②アルミ材:研究開発拠点開設)
販売体制構築、事業休止 アイシン精機(アフターマーケット部品販売で現地会社と資本提携)、第一稀元素化学(排ガス処理の触媒に使用するジルコニウム化合物等の販売会社)、TBK(ブレーキ摩擦材の生産拠点の事業休止)

 

インドネシア

新規進出、買収、出資 NTN等速ジョイント:合弁工場)、住友金属鉱山(ステンレス鋼、EV電池材料など向けのニッケル製錬所)、ダイヤモンドエレクトリックHD(点火コイル)、東プレ(プレス部品)、阪和興業(ニッケル・コバルト化合物の合弁工場に出資)、三菱ケミカル(PVCコンパウンドメーカーを買収)
生産能力増強・新品目投入、開発拠点設立 <新工場建設>
豊田合成(*カーテンエアバッグやサイドエアバッグ合弁会社:2つ目のエアバッグ工場)
<設備増強、開発拠点>
エイチワン(金型内製)、キャタラー(排ガス触媒)、タツミ(電装部品、ブレーキ部品)、DIC(塗料で使う顔料:開発拠点設立)、日本精工(小径ベアリング)、日本ピストンリング(ピストンリング)
販売体制強化 東京ラヂエーター製造(トラック向けEGRクーラーなど排ガス対策部品)

 

ベトナム

新規進出:生産拠点、販売・マーケティング会社 NOK(フレキシブルプリント基板)、京写(プリント配線板)、JSR(自動車部品などの輸出入・国内販売)、竹田印刷(電子部品実装工程用メタルマスク)、中央自動車工業(市販サスペンション部品:製造・販売合弁会社)、東レ(樹脂事業のマーケティング拠点)、日本プラスト(ステアリングホイール、エアバッグモジュール)、本多通信工業(車載用コネクター:中国から生産移管)
生産能力増強・新品目投入 <新工場建設>
住友電装(ワイヤハーネスの第4工場)
<設備増設、生産品目追加>
TANOI(車載ターボ向け超精密部品)、藤倉コンポジット(自動車部品)、古河電気工業(アルミ電線)、ヨコオ(*米国向けアンテナ製品:中国から生産移管)

(参考資料:各社広報資料、各紙報道)

 

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<日系サプライヤーの海外事業動向>
  中国全般 (2019年6月)
  中国・華東地区 (2019年5月)
  中東欧 (2019年6月)
  西欧 (2019年5月)
  インド (2018年11月)
  メキシコ (2018年10月) 
  米国・カナダ (2018年9月) 
  ASEAN (2018年8月)

 

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