VW Tiguan 分解調査:ADAS(先進運転支援システム)

Continental製前方レーダー、Bosch製後方レーダー、Valeo製アラウンドビューモニターなど

2019/04/02

概要

VW Tiguan分解調査
VW Tiguan分解調査

  VW Tiguanは、2015年9月のフランクフルトモーターショーで2代目が世界初公開され、2016年初頭から欧州等で販売を開始したSUV。VWグループが開発したMQBプラットフォーム(FFとFFベースの4WD車用のエンジニアリングアーキテクチャ)を採用している。

  本レポートは2019年2月にひろしま産業振興機構のベンチマーク活動で実施されたVW Tiguanの車両分解調査から、Tiguanに搭載された電子部品について予防安全機能部品を中心に解説し、VWグループの最新ADASシステムを知ることを目的としている。


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(下) 直線的骨格で合理性を追求した車体構造


Volkswagen オールイン・セーフティ

  VW Tiguanの安全面は、総合安全制御のコンセプト「Volkswagen オールイン・セーフティ」に基づいた、「予防安全」「衝突安全」「二次被害防止」の3つのステージで総合的に危機を回避する技術が採用されている。

Volkswagen オールイン・セーフティ

Volkswagen オールイン・セーフティ

出典:VW Japan

  1. アダプティブクルーズコントロール(ACC)
      ミリ波レーダーを用いて、前走車を設定速度で追従する機能。0km/h から対応する全車速追従機能をサポートしている。Tiguanの場合、停止時間が2秒間を超えると自動的に電動パーキングブレーキが作動し、停止保持を行う。再度ACCモードに入るためには、ステアリングスイッチまたはアクセルペダルを少し踏むことでACCでの走行が再び始まる。
  2. レーンチェンジアシストシステム
      フロントガラス上部に設置された単眼カメラにより車線を検知し、自車が車線中央にとどまるようにステアリングを制御する機能である。65km/h以上の走行により自動的に起動する。ステアリングに組み込まれたトルクセンサーにより、ドライバーの手放し運転が検知された場合には警告を発し、それ以上に一定期間の手放し運転が続く場合はシステムがオフとなる。
  3. Traffic Assist
      「ACC」に「レーンチェンジアシスト」を組み合わせた機能で、渋滞時にストップ&ゴーが多い状況での運転をサポートする。システムは30km/h以上で走行中にドライバーがハンドルに触れていることを条件に起動する。0~60km/hの速度領域でACC機能を起動すれば一定の車間を保ちながら自動的に加速、減速するのに加えて、ステアリングの操作、レーンキープ機能も動作する。
  4. スタティックコーナーリングライト
      低速でカーブを曲がる時に、ステアリングの舵角およびウインカーと連動してコーナーリングライトが点灯。交差点での歩行者の確認がしやすく、歩行者側に注意を促すこともができる。
  5. ダイナミックライトアシスト
      対向車への眩惑を軽減。フロントカメラで対向車・先行車の位置や距離を算出し、その結果に基づき、適切な状態でヘッドランプの照射エリアを細かく調整。対向車や先行車のドライバーを眩惑することなく、前方の路面と路肩を広範囲に明るく照らすことが可能となる。ハイビームアシストは、他の車両等が検知されると、ハイビームとロービームを自動的に切り替える。
  6. リアビューカメラ
      バック時の後方視認をサポート。ギアをリバースに入れると車両後方の映像を映し出し、画面にはガイドラインが表示され、車庫入れや縦列駐車などの際に安全確認をサポートする。
  7. アラウンドビューカメラ
      フロント・左右サイド・リアの4台のカメラにより、車両を上空から見下ろしているような合成画像をディスプレイに表示。それぞれのカメラの画像はワンタッチで切り替えが可能。車両の周囲を視覚的に把握できるので、狭い路地での確認などをサポート。
  8. 駐車支援システム
      超音波センサーによって縦列駐車・車庫入れ駐車時の駐車スペースの検出とステアリング操作を自動的に行うことで駐車をサポートするシステム。ドライバーはメーター内のディスプレイに表示される操作にしたがってアクセル、ブレーキ、シフトレバーの操作を行うことで駐車が可能である。
  9. ドライバー疲労検知システム
      ドライバーのステアリング操作をモニタリングすることで、急な操作や通常の運転パターンと異なる場合に、表示と警告音で休憩を促すシステム。
  10. パークディスタンスコントロール
    パークディスタンスコントロール
    12個の超音波センサーを装備(出典:VW)
    パークディスタンスコントロール(オプティカルパーキング)
      フロントバンパーに6個、リアバンパーに6個の合計12個の超音波センサーを用いて障害物への接近を知らせるシステム。システムは、①センターレバーを"R"にした時、②車両が後退した時、③15km/h以下の速度で前方の障害物に接近した時に作動する。
  11. リアトラフィックアラート
      リアバンパーに内蔵されたミリ波レーダーにより車両後方の交通状況をモニタリングすることで、死角から接近してくる車両を検知し、警告音によりドライバーに対して注意を促すシステム。
  12. プリクラッシュブレーキシステム
      フロントエンブレム裏に搭載された76GHzのミリ波レーダーにより、時速5~65km/h 走行中においては歩行者検知機能が働き、時速5~30km/hにおいてはエマージェンシーブレーキが作動する。車両だけでなく歩行者も検知し、自動ブレーキを作動させることで危機回避、追突の被害を軽減する。


前方ミリ波レーダー

  フロントエンブレム裏側に設置されたレーダーはContinental製の76GHzミリ波レーダーである。このレーダーは従来よりも性能が向上し、検知が難しいとされてきた電波の反射率が低い歩行者の検知も可能である。

前方ミリ波レーダー
Continental製前方ミリ波レーダー


  制御基板は、NXP製の車載用MCU[SC5773] (32bit Power Architecture)を中心に各制御を行っており、High Speed CANトランシーバーICにはNXP製[TJA1042]を中心に2系統のCAN通信を備えている。

  歩行者を検知するSRR(Short Range Rader、短距離レーダー)用途として、24/26GHz帯(UWB、帯域4GHz)の準ミリ波レーダーが通常使われているが、衛星通信等との干渉を避けるため、送信パワーが低く抑えられていることで長距離を検知できないという短所がある。そのため、より感度の高い76-77GHzのレーダーが高級車から導入され始めている。24GHz帯のミリ波レーダーに比べて検知距離200m以上の長距離・狭角のLRR(Long Range Rader)を実現できる特徴がある。TiguanもADAS機能高度化のために76-77GHz帯のレーダーが採用されている。Continental製のフロントミリ波レーダーは、トヨタC-HRにも同型の部品が採用されている。



前方カメラ

  フロントガラス内部に設置されている前方カメラにはBosch製の単眼カメラが採用されている。このカメラは、ホンダCivicに採用されているカメラと同型である。
  Bosch製単眼カメラは、解像度が1280 x 960 pixel 、横方向の視野角50度、縦方向の視野角が28度という仕様のカメラが使われている。

  システム構成は、Dual-CoreのマイクロプロセッサーとXILINX社のFPGAにより構成されている。FPGAを採用している背景には、将来の機能向上に備えると同時に、イメージプロセッシングによる検知ロジックをアップデートすることが可能なシステムとなっている。

  このカメラシステムの検知範囲は対象物の大きさに依存し、車両検知であれば120m以上、歩行者用としては60mまでが検知可能である。

Bosch製の単眼カメラ
Bosch製の単眼カメラ


  VW Tiguan のADAS機能は、トヨタC-HRとホンダCivicの良いとこ取りをした機能を提供している。トヨタC-HRがContinental製のレーダーを採用しているのに対して、ホンダCivicはBosch製のレーダーを採用。VW Tiguan はフロントにContinental製、リアにBosch製という組み合わせとなっている。

Tiguan、C-HR、Civicの主なADAS機能
Tiguan、C-HR、Civicの主なADAS機能


後方ミリ波レーダー

  Tiguanにはリアバンパーの左右にレーダーが装着されている。このレーダーはBosch製76-77GHzミリ波レーダーである。ホンダCivicの前方レーダーとして採用されているシリーズと同等のミリ波レーダーであるが、リア専用に調整されている。

  Bosch MRRシリーズのMid-Range Raderセンサーとしての基本構成は同じだが、MRRリア用は検知範囲を0.36mm~80mとしている(フロント用は 0.36~160m)。また検知角度においてもフロント用は、±10度(60m)に対して±75度(close range)まで対応している。これによって、車両後方の死角にある他の車両を容易に検出することができる。(BSW機能)

リアバンパーの左右に装着されたレーダー リアバンパーの左右に装着されたレーダー
リアバンパーの左右に装着されたレーダー


  Bosch製のレーダーは、アンテナおよび制御基板と、電源基板の2つの基板から構成されている。また、4つの独立した受信チャネルとデジタルビームフォーミング(DBF)を備えたバイスタティックマルチモーダルレーダーである。これらの技術により、異なる方向に対して独立したアンテナでミリ波レーダーを構成することができ、角度測定の精度が向上し、状況に応じてレーダーの視野を調整することを可能としている。

  ホンダCivicが採用していた同型のフロント用レーダーでは、主アンテナを±6度の狭角メインローブに集中させることで最大距離160mの検出を可能としているが、リア用に調整されたTiguanに装着されているレーダーは、主アンテナを±5度~75度という広い範囲に向けて調整されている。

Bosch製レーダー
Bosch製レーダー 2つの基板(電源基板、アンテナおよび制御基板)で構成


  電源部は、Bosch製 PMIC [40203] を中心に内部電源を生成している。通信ブロックは、Infineon製High Speed CANトランシーバーIC [TLE6251-2G] と、CAN+FlexRay内蔵のBosch製PMIC [40203] を中心に2系統のCAN通信を備えている。電源部基板には、アンテナ&制御部基板と接続するためにベローズタイプの結合用コネクターが配置されている。

電源部基板
電源部基板


  制御部は、STMicroelectronics [A267BB] とNXP製MCU [SC667226MMMA] の2チップ構成である。

  アンテナ部のRFフロントエンドは、Infineon 製のVCO(電圧制御発振器)内蔵トランスミッター(TX)とレシーバー(RX)の2チップセットによって構成される。TX側のIC [RTN7735PL] は、TXとVCOを統合することで部品数を削減しているのが特徴である。

制御部基板
制御部基板
(注:2019年10月に画像修正)


  ホンダCivicの前方レーダーとして採用されていたBosch製の同型MRRのアンテナ部と比較すると、その違いがよく分かる。同じ76-77GHzのミリ波レーダーにおいても、アンテナの構造によって機能が大きく変わる。前方に使用されるレーダーではレーダー波を集中させ遠くまで届かせる役割が重要となる。そのため、Civicの前方レーダーでは主アンテナが集中して配置されているのが分かる。これに対して後方用のレーダーは広範囲の検知を可能とするため、Tiguanのリア用レーダーアンテナでは照射アンテナ間が広く配置されている。

  Civicの前方レーダーにおける特徴は、仰角アンテナ(右下画像の青く囲った部分)を使用して、追加の上向き仰角ビームを生成する。この追加されたビームによって関連する物体を確実に分類し、車両がその下を走行することが可能か否かを判定するために、検出された全ての物体の高さを計測することができる。

アンテナ部の比較
後方レーダーと前方レーダーのアンテナ部の比較
(注:2019年10月に画像修正)


超音波センサー

  車両前後のバンパー内に装着されている超音波センサーは、駐車支援や障害物接近警告などに使用される。Bosch製の超音波センサーであり、最小検知距離が15cm、最大検知が5.5mとなっている。

超音波センサー 超音波センサー
前後のバンパーに装着されている超音波センサー


  Tiguanでは、この超音波センサーを フロントバンパーに6個、リアバンパーに6個の合計12個を装着しており、このセンサーを統合しているのはBosch製のPDC (Parking Distance Control) モジュールである。

Bosch製PDCモジュール
Bosch製PDCモジュール


アラウンドビューモニター

  2016年のVWモデルはクラリオン製のユニットを採用していたが、今回分解調査を行ったTiguanではValeo製のシステムに変わっている。

Valeo製アラウンドビューモニターユニット
Valeo製アラウンドビューモニターユニット


  Valeoが提供するアラウンドビューのシステムには、メインプロセッサーとしてSTMicroelectronics社の32bit MCUが搭載されており、画像処理部には米Texas Instruments社のSurround View用SOC (TI TDAxシリーズ) が採用されている。

  また、カメラ入力としてはBroadcom社の7port Ether Switchを搭載しており、LVDS I/Fによりカメラが接続されている。

アラウンドビューシステム
アラウンドビューシステム


メーターディスプレイ

  Tiguanには、従来のアナログ型に代わる大型ディスプレイによるフルデジタルメータークラスターが採用されている。

  高解像度ディスプレイはグラフィック性能がさらに向上し、基本の速度計とタコメーターの表示に加え、ナビゲーションモードを選択した場合は、画面中央に"Discover Pro"と連動したマップをより大きくワイドに映し出すことが可能となった。マルチファンクションステアリングホイールの"View"ボタンや"Discover Pro"から、簡単に素早く基本画面を切り替えることができる。

  このメーターディスプレイユニットはContinental製である。当初VW/AudiグループはBosch製のフル液晶ディスプレイを採用していたが、車種によりContinental製も使われるようになった。

フル液晶メーターディスプレイ
フル液晶メーターディスプレイ


  メーターユニットの構成は、液晶ディスプレイと制御基板1枚というシンプルな構造となっている。

メーターユニットの構成
メーターユニットの構成


  制御基板に搭載されているのは、メインプロセッサーとしてRenesas製のR-Carが搭載されている。通信やその他の制御用として搭載されている32bitのSUBプロセッサーもRenesas製である。

  特徴的なのは、XILINX社のProgrammable SoCであるZYNQシリーズが搭載されていることである。Programmable SoCはARM プロセッサーとFPGAを組み合わせたもので、ハードウェアとソフトウェアをプログラミングにより変更できるという特徴を持つ。

  Continental のメーターディスプレイモジュールは汎用性が高く設計されており、共通化のためにこの回路部分が使われていると想定される。(例えば、通信方式の違いなどに対応)

制御基板
制御基板


  Tiguanの発売時期からすると、メーターユニットに使用されているRenesasのSoCは R-Car D1と推定できる。Renesasの資料によると、R-Car D1はメーターおよびSUB Displayの2画面対応が可能であることから、メーターユニットは、メーターの液晶グラフィック描画とセンターディスプレイのグラフィック描画の2画面を制御する構成となっている。

RenesasのSoC
RenesasのSoC 2画面を制御する構成

出典:Renesas



ADAS系システム全体構成(想定)

ADAS系システム全体構成(想定)
ADAS系システム全体構成(想定)


  メーターディスプレイがフル液晶となったことで、メーターディスプレイがシステムの映像コントロールを中心的に行なっている構成となっている。メーターディスプレイに採用されているRenesas R-Carは2つのディスプレイを同時に扱えるパフォーマンスを持っており、センターディスプレイとメーターディスプレイの2つの液晶ディスプレイに対してグラフィック描画を行なっている。
  メーター内表示とは関係しない、アラウンドビューモニターや地デジチューナーは、直接センターディスプレイの映像入力にインプットされ切り替えが行われている。

  VW Tiguan のADAS機能を構成する要素は、リアバンパー部左右に搭載された76-77GHzのミリ波レーダーと、76GHzの前方レーダーおよび前後のバンパーに組み込まれた12個の超音波センサー、そしてフロントガラス内側に装着されたフロントカメラにより構成されている。
  この構成は、国内のトヨタ系ADASとホンダのHonda Sensing を合わせたような構成であり、現時点においては、ADASに必要な機能がふんだんに盛り込まれていると言える。


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分解、VW、Tiguan、Continental、Bosch、Valeo、NXP、STMicroelectronics、Infineon、Renesas、XILINX、ADAS、ミリ波レーダー、カメラ、超音波センサー、SoC、アラウンドビューモニター、メーター、ディスプレイ、アンテナ、インストルメントパネル、コックピットモジュール、カーナビゲーション、クルーズコントロール、車線逸脱防止システム、駐車支援

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