中国・華東地区の日系サプライヤー:NEV向け製品の生産体制を増強

中国市場の減退やコロナ禍での稼働調整、中長期的には生産・販売を強化

2020/09/15

要約

華東周辺
中国の自動車工場マップ(クリックすると拠点マップが開きます。)
華東地区の自動車工場マップ

  本レポートは、中国・華東地区における日系部品メーカーの動向である。(2019年4月から2020年7月までの約16ヵ月間を収録)


  2019年の中国の自動車生産台数は2,572万台(前年比7.5%減)、販売台数(工場出荷台数)は2,577万台(同8.2%減)で、2年連続の減少となった。主な要因として米中貿易摩擦の影響、排ガス基準の切換などが挙げられる。
  2020年に入ると新型コロナウイルスの感染拡大により、自動車販売台数がさらに大きく減少し、1月は前年同月比18.6%減、2月は同79.1%減、3月は同43.2%減となった。しかし、4月からは各メーカーの工場が順次稼働を再開し、4月は生産、販売共に前年同月比でそれぞれ2.3%増、4.5%増に回復。その後も増加を続け、1-7月累計では生産台数が1,231万台(前年同期比11.8%減)、販売台数も1,237万台(前年同期比12.7%減)と累計の減少幅を縮小させている。
  新型コロナウイルス感染拡大の影響として、アイシンAWはFF用6速ATを生産する2つの新合弁工場の稼働を延期した。アーレスティのダイカスト製品工場は市場減退をうけて2019年に数度の減産を実施していたが、2020年に入ってコロナ禍の影響で2月上旬まで休業、その後は順次稼働を再開し、4~6月には前年並みの生産量に回復している。愛知電機はモーター新工場の2020年4月稼働予定を延期したが、中長期な増強方針は変更せず、新エネルギー車(NEV)向けの供給体制を強化する。


  EV、PHVなどの新エネルギー車(NEV)は2019年通年で生産台数が124.2万台(同2.3%減)、販売台数が120.6万台(同4.0%減)だった。年前半は前年比増と好調だったが、7月から実施されたNEVへの政府補助金の減額が大きく影響し、7月は販売台数が前年同月比2%減と初めて減少に転じた。その後も減少が続き10月には同48%減、11月には同44%減、12月には同30%減と減少幅を拡大させた。
  2020年に入ってからも1月から6月まで生産・販売台数共に前年を下回ったが、7月に生産台数が前年同月比15.6%増の10万台、販売台数も同19.3%増の9.8万台に回復した。政府が経済へのてこ入れとして行ったNEVへの販売支援策が功を奏した。


  華東地区はNEVや次世代自動車を開発・生産する大手メーカーや新興メーカーが多い。中国大手メーカーでは上海VW、上海GM、吉利汽車、奇瑞汽車、安徽江淮汽車などがあり、新興EVメーカーではNIO(蔚来汽車)やWM Motor(威馬汽車)などがある。新興EVメーカーには地元政府による資金支援も強化されている。Teslaは2019年末に上海臨港地区に単独出資のEV工場を稼働させた。トヨタは江蘇省常熟市に電動車の部品工場や開発拠点をおいている。

  日系自動車部品メーカーはこうした動きに対応して、EV、PHV向けの部品や材料の生産・販売を増強している。E-Axle専用工場が2019年に稼働した日本電産は主要納入先の広汽新能源汽車に加えて、新たに吉利汽車向け製品の開発・供給を開始した。このほか工場増築による新品目の投入では、昭和電工のHV向け発電モーターの封止材、豊田自動織機のHV向けエアコン用電動コンプレッサー、昭和電線のEV向けワイヤハーネス、ニチコンのEV向けフィルムコンデンサー、明電舎の電動車用モーター・インバーター、淀川ヒューテックのリチウムイオン電池向けガスケットなどがみられる。事業体制の強化では、帝人が上海エナジーとのライセンス契約によるEV向けLIB向けセパレータ開発を開始、ロームが中国のベンチャーと共同研究所を設立しSiC搭載のEV向けインバーター開発を強化する動きがみられる。

 

中国での日系サプライヤーの動向 (*新品目投入)

新会社(工場)設立・稼働 江蘇省 愛知電機(*カーエアコン用電動コンプレッサー向けモーターの新工場建設)
積水化学(*自動車内装用ポリオレフィンフォーム:生産ライン稼働)
ダイキン工業(半導体・電池材料向けフッ素化学品:合弁会社、第2生産拠点)
三菱アルミニウム(*バンパー/車載用電池筐体など:合弁会社設立検討)
三菱重工(*カーエアコン用電動コンプレッサー:新会社設立)
浙江省 アイシンAW(*FF用6速AT:新合弁工場稼働、2020年の生産計画を下方修正)
阪和興業(普通鋼やステンレス鋼の加工:合弁コイルセンター稼働)
生産能力増強
新商品投入
生産ライン・設備の増強、
建屋拡張
上海市 昭和電工(*HV向け発電モーターの封止材BMCの供給開始:新規生産)
江蘇省 イソライト工業(*耐熱性1400℃の生体溶解性ファイバー:量産開始)
キャタラー(*高機能活性炭シート:設備増強も)
豊田自動織機(*電動車向けエアコン用電動コンプレッサー:新ライン設置)
ニチコン(*EV向けフィルムコンデンサー:設備増設・専用の生産棟建設へ)
日本ピストンリング(ピストンリング:設備増強、自動化ライン導入)
三菱ケミカル・宇部興産(LiB用電解液:生産能力増強を検討)
淀川ヒューテック(*リチウムイオン電池向けガスケット:生産ライン)
安徽省 TPR(商用車用ディーゼルエンジン向けシリンダライナー:生産ライン増強)
工場増設 江蘇省 AGC(*大型3D・複雑形状の車載ディスプレイ用カバーガラス:新工場増設)
エンビジョンAESC(*新型二次電池:試作ライン+新工場、上海に開発拠点)
オンド(自動車変速機の中核部品:新工場建設+既存拠点と生産工程分担)
ニチリン(エアコン/ブレーキホース:新工場竣工、上海工場から生産移転)
リョービ(*次世代車向けシャシー部品:第3工場建設)
浙江省 昭和電線(*EV向けワイヤハーネス:現地子会社に増資して新工場建設)
戸田工業(モーター用のボンド磁石材料の磁性コンパウンド:新工場建設)
日本電産(*吉利汽車向け150kW型E-Axle:供給開始。第2工場も稼働予定)
明電舎(*電動車用モーター・インバーター:増資により新工場建設)
事業体制強化
(ライセンス契約、開発・
研究所、増資・子会社化、
販売会社など)
上海市 アイシン精機(クラッチ・エンジン・変速機部品:交換部品の販売会社設立)
出光興産(潤滑油、電子材料等:中国グループ会社の財務統括投資公司設立)
田岡化学工業(EV向け電装部材材料:販売会社設立)
帝人(*EV向けLIB向けセパレータ:上海エナジーとライセンス契約・開発)
堀場製作所(開発、生産、アフターサービスを含む一貫体制の新拠点建設)
ルネサスエレクトロニクス(*車載用アプリ:上海VWと共同研究所設立)
ローム(*ベンチャーとSiC搭載のEV向けインバーター開発の共同研究所)
江蘇省 アイシンAW(パワートレイン/ソフトウエアの開発:2子会社を経営統合)
神戸製鋼所(非汎用圧縮機:増資により出資先企業を子会社化)
浙江省 愛知製鋼(モーター用磁石加工:追加出資で連結子会社化)
JFE商事(電磁鋼板などのモーター部品:仏部品メーカーの現地法人に出資)
国外に生産移管、撤退、
減産など
上海市 ニチリン(曲管ホース:インドネシアや日本に生産移管へ)
浙江省 日本製鉄(自動車部品向け特殊鋼:生産から撤退、工場閉鎖も)
安徽省 アーレスティ(ダイカスト製品:2019年に減産、2020年は2月上旬まで休業)

(参考資料:各社広報資料、各紙報道)

 

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中国スマートカーイノベーション発展戦略 (2020年4月)


<日系サプライヤーの海外事業動向>
  ASEAN (2020年8月)
  西欧 (2020年4月)
  インド (2019年11月)
  米国・カナダ (2019年9月)
  中国全般 (2019年6月)
  中国・華東地区 (2019年5月)
  中東欧 (2019年6月)
  メキシコ (2018年10月)

 



上海市:中国企業との共同開発(帝人、ルネサスエレクトロニクス、ローム)、設備増強(昭和電工)、事業強化(堀場製作所、出光興産など)

アイシン精機 上海市にアフターマーケットの販売会社を2019年に設立
アイシン精機は2019年6月、100%子会社の愛信精机(中国)投資公司(天津市)が、交換部品の現地販売代理店の珠海信至盟投資合夥企業(珠海市)と合弁で、アフターマーケット向け販売を行う愛信精机(上海)貿易有限公司を2019年4月に設立し、同年6月より営業を開始したと発表。資本金は1400万元。出資比率は愛信側が60%、珠海側が40%。クラッチ関連部品、エンジンや変速機の交換部品などを販売する。ブレーキなどを手がけるグループ会社のアドヴィックスセールス広州の商品も取り扱う予定。
出光興産 上海市に中国のグループ会社の財務を統括する投資公司を2019年に設立
出光興産は、中国でのグループ会社の財務ガバナンスを強化するため、出光(上海)投資有限公司を2019年4月に設立。資本金は3000万ドル。中国には潤滑油、電子材料、機能化学品、石炭の4部門計7社の現地法人を有している。
昭和電工 トヨタの新型ハイブリッド車(HV)向けに発電モーターの封止材を供給開始
昭和電工は2019年8月、グループ会社の上海昭和高分子有限公司(SSHP)で生産する熱硬化性成形材料(BMC)をトヨタが中国国内で販売開始した新型ハイブリッド車(HV)の発電モーターの封止材用として出荷したと発表。トヨタの電動車パワートレインを現地開発・生産するとの方針に沿い、トヨタ自動車(常熟)部品会社に供給開始したもの。SSHPでのHV用BMCの生産は、2010年の操業以来初めて。
田岡化学工業 上海にEV向け電装部材材料の販売会社を設立
住友化学系の化学メーカーの田岡化学工業は、EV向け電装部材材料を販売する100%出資の子会社 田岡化工材料(上海)を2019年10月に設立。登録資本金は100万米ドル。新エネルギー車(NEV)の電装部材に使用される高機能絶縁被覆材料を中国で調達して、自動車関連企業に販売する。2020年1月に業務を開始し、取引先の評価を踏まえて同年12月から正式に販売を開始する予定。また、同販売子会社を田岡化学製品の中国市場開拓、原材料調達拠点とする。3~5年後に売上高30億円を目指す。
帝人 上海エナジー社とライセンス契約を締結、EVのLIB向けセパレータを共同開発
帝人は2019年11月、上海恩捷新材料科技股份有限公司(上海エナジー社)との間で、車載用リチウムイオン二次電池(LIB)に使用される溶剤系コーティングセパレータの製造に関する技術ライセンス契約を締結したと発表。帝人は、独自のフッ素系化合物による溶剤系コーティングセパレータの特許技術を提供し、上海恩捷のもつ基材生産能力やコスト競争力との融合を図る。高容量で、バッテリー性能が高く、安全性も担保できるEV向けLIBの実現に寄与するセパレータの共同開発を目指し、溶剤系コーティングセパレータ市場でのシェアを高める。技術供与の期限は設けない。
ニチリン 曲管ホースの生産を上海工場からインドネシアや日本に移管へ
ニチリンは、中国での自動車向けホース生産を再編する。その一環として、低圧のマスターパワーホースやパワーステアリングホースといった曲管ホースの生産を、上海市の子会社の日輪橡塑工業からインドネシアや日本に生産移管する。上海工場が環境規制を受ける可能性があることと、移管品の一部には米国向けも含まれ、米中貿易摩擦による米国関税の対象になるため。(2019年12月報道)
堀場製作所 上海子会社の事業強化のため、開発、生産、アフターサービスを含む一貫体制新拠点を建設、2021年6月に稼働予定
堀場製作所は、子会社の堀場儀器(上海)有限公司の新拠点建設を2019年12月に開始したと発表。場所は上海市嘉定区の工業地域内で、総工費は約90億円。2021年6月に稼働予定。新拠点の延床面積は現状比3倍強で、オフィス棟や開発・生産棟、自動車計測試験ラボの施設などで構成する。科学分析アプリケーションセンター、製品ライフサイクル全体をサポートするテクニカルセンターなども備える。同地区が中国の新エネルギー開発拠点である特長を活かし、大学・企業とのアプリケーションの開発を進め、取引先が開発を行う上での材料解析やテスティングサポートや分析トレーニングなども行う。供給力と開発力を強化し、ビジネスの拡大を図る。
ルネサスエレクトロニクス 上汽VWと共同でオートモーティブ・エレクトロニクスの研究所を設立
ルネサスエレクトロニクスは2019年6月、上汽VWと「オートモーティブ・エレクトロニクス共同研究所」(上海市)を同年4月に設立したと発表。共同研究所では、中国の自動車市場に向けた次世代デジタルコクピットや車載制御システムをはじめとする最新の車載用アプリケーションの研究開発を行い、上海VWの次世代車載電子プラットフォーム開発を支援する。
ローム 中国のベンチャーとSiC搭載のEV向けインバーター開発の共同研究所を2020年に開設
ロームは、中国自動車部品ベンチャーのLeadrive Technology (Shanghai)と、「SiC技術共同研究所」を上海自由貿易区試験区臨港新区にあるローム社工場内の一角に開設した。除幕式を2020年年6月に実施。研究所では、ロームの炭化ケイ素(SiC)金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)チップなど用いた、EVの駆動部向けインバーターなど開発する。2020年内のサンプル開発、2022年の量産化を目指す。


江蘇省:新工場設立(ダイキン工業、三菱重工など)、工場増設(AGC、エンビジョンAESCなど)、設備増強(キャタラー、豊田自動織機、ニチコンなど)

アイシンAW 蘇州と杭州の開発子会社2社を2020年に経営統合
アイシンAWは2019年11月、パワートレインの設計・評価・開発を行うエィ・ダブリュ蘇州テクニカルセンター有限会社(江蘇省蘇州市、AWTC-C)と、車載用ソフトウェア開発のエィ・ダブリュ杭州ソフトウェア有限会社(浙江省杭州市、AWH)の2社を2020年10月に経営統合すると発表。存続会社はAWTC-Cで、AWHは分公司として残す。パワートレインの技術開発と車載用ソフトウェア設計が一体となった活動を行うことで、開発のスピードアップや経営効率の向上を図る。
愛知電機 カーエアコン用電動コンプレッサー向けモーターの新工場を建設
愛知電機は、カーエアコン用電動コンプレッサー向けモーターを生産する蘇州愛知高斯電機有限公司(江蘇省蘇州市)の新工場を建設。投資額は約27億円。2020年春をめどに完成する計画だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で同年4月の稼働予定を延期した。中長期な増強方針は変更しておらず、EVなど新エネルギー車(NEV)向けの供給体制を強化する。主な納入先は日系自動車メーカー。
イソライト工業 自動車排ガス処理装置向けの耐熱性1400℃の生体溶解性ファイバーを量産開始
イソライト工業は、耐熱性を1400度Cに高めた生体溶解性ファイバーを製品化し、2019年10月から江蘇省子会社の蘇州伊索来特耐火繊維有限公司(SIE=Suzhou Isolite Eastern Union Ceramic Fiber Co., Ltd.)で量産開始。当面の月産能力は50トン。生産設備は、既存の耐熱性1200度Cの生体溶解性ファイバー製造ラインを活用する。1400度Cファイバーの原料には、リフラクトリーセラミックファイバー(RCF)の代替繊維であるアルカリアースシリケート(AES)を用いる。これにより健康被害のリスクが高い化学物質規制対象品のRCFの代替需要ニーズに応える。主に自動車排ガス処理装置向けでの受注増を狙う。(2019年9月報道)
AGC 無錫市の子会社に大型3D・複雑形状の車載ディスプレイ用カバーガラス工場を新設
AGCは2019年9月、子会社の艾杰旭汽車玻璃(蘇州)有限公司(蘇州工業園区)に、大型3D・複雑形状の車載ディスプレイ用カバーガラスを生産する新工場を建設すると発表。2021年10-12月期をめどに稼働し、既に受注が決定している複数の車種向けに、2022年に販売を開始する予定。新工場には、各種光学薄膜コーティングから、装飾印刷、複雑曲面の一体成形に至るまで、最先端技術を導入した一貫生産ラインを備える。自動運転・電動化・コネクテッドの進展に伴うコックピットのデジタルラウンジ化に対応。
エンビジョンAESC
(旧オートモーティブエナジーサプライ)
無錫市に車載用二次電池の新工場を建設、2021年の量産を計画
中国の再生エネルギー大手エンビジョングループ傘下のエンビジョンAESCは、江蘇省無錫市のエンビジョン・ダイナミックス・テクノロジーに車載用二次電池の試作ラインを2020年春にも構築する計画。1時間当たりの生産能力は30セル以上を見込み、試作品の需要増に対応する。その後、2020年末までに完成する江陰新工場での2021年からの量産を目指す。2023年には年産能力を20GWhまで高め、新世代バッテリー“Gen5-811”を年間約40万台のEVに供給可能とする計画。この他、2019年9月に上海の開発拠点が稼働。2023年までに開発人員を倍増させ、日本本社の開発拠点に対する人員比率を現在の約2割から約4割に引き上げる。
オンド 江蘇省で新工場建設、自動変速機の中核部品の増産を計画
マツダ向けが主力の部品メーカーのオンドは、江蘇省に新工場を建設し、自動変速機の中核部品で、変速を補助する「プラネタリーキャリア」を製造する。2020年秋の操業開始を計画。同部品は、江蘇省南通市にある同社の既存工場でも生産している。今後は部品を構成する細かいパーツをその既存工場でつくり、組み立て工程を新工場に集約して増産を図る。日系部品メーカーが中国で製造する変速機向けに供給する。新工場の建設を決めたのは自動車市場の減速が本格化する前の2018年夏だったが、長期的には成長の余地が大きいと判断。土地、建物への投資額は12億円。
キャタラー 中国で自動車内装向けに高機能活性炭シートを投入、新排ガス規制「国6」に対応
キャタラーは、中国で自動車内装向けに高機能活性炭シートを新たに投入する。2020年に始まる新排出ガス規制「国6」に車室内の揮発性有機化合物(VOC)の規制も組み込まれており、その対応策として同製品が活用できると判断。法規制の展開状況を見ながら、増産も検討する。自動車向けの高機能活性炭シートの本格展開は、国内外含めて初めて(2019年6月報道)。同社の中国での生産拠点は現在、科特拉(無錫)汽車環保科技有限公司の1ヵ所で、自動車用・二輪車用触媒の製造販売を行っている。
神戸製鋼所 無錫の出資先企業を子会社化し、拡大する非汎用圧縮機需要を取り込む
神戸製鋼所は、石油精製・化学プラント、天然ガスプラント等の心臓部に用いられる非汎用圧縮機の製造・設計・販売を行う元国営企業の無錫圧縮機股份有限公司を2020年4月に子会社化した。それまでの出資比率は約4割だったが、7割に引き上げた。子会社化により、機動的な事業運営や営業力強化、きめ細やかなサービスを提供し、拡大が見込まれる中国の非汎用圧縮機需要を取り込む。
積水化学工業 無錫の新工場で自動車内装用ポリオレフィンフォームの生産ラインが2019年に稼働
積水化学工業は2019年7月、2017年に設立した積水映甫高新材料有限公司(無錫市)が2019年5月から自動車内装向けポリオレフィンフォームの生産・販売を開始したと発表。同製品は自動車内装の下地材として使用され、高いクッション性や成形性などの機能を有する高機能フォーム。顧客ニーズの高級化を背景に需要が急激に高まっており、当初計画を2カ月前倒しして生産・販売を開始した。生産ラインの投資額は約25億円。今後の増産を見込み、工場レイアウトは追加の生産ラインを複数導入可能な設計とした。
ダイキン工業 江蘇省にフッ素化学品の新合弁会社設立、リチウムイオン電池などの市場開拓へ
ダイキン工業は2019年5月、半導体・電池材料向けフッ素化学品の生産・販売機能を強化するため、江蘇省常熟市に大金新材料(常熟)有限公司を2019年10月に設立すると発表。中国では同製品の第2生産拠点。資本金は10億元。出資比率は、大金氟化工(中国)が60%、ダイキン工業が40%。2022年をめどに400億~500億円を投じて工場を新設し、半導体製造設備や車載用リチウムイオン電池の部材に使うフッ素化学品を製造する計画。中国での第5世代通信(5G)機器用の半導体需要やEV市場の拡大に期待。
豊田自動織機 電動車向けカーエアコン用電動コンプレッサーを江蘇省昆山と山東省烟台の既存工場で生産開始
豊田自動織機は、ハイブリッド車(HV)などの電動車向けカーエアコン用電動コンプレッサーの海外生産を開始する。まず中国の2拠点で順次生産を開始する。生産能力は計約80万台。最初にコンプレッサー生産子会社の豊田工業電装空調圧縮機(昆山)有限公司で2020年3月に、次いで烟台首鋼豊田工業空調圧縮機有限公司で2021年6月に生産を始める計画。主に中型車向けを生産する予定で、それぞれの工場に電動用生産ラインを新たに設置し、年産能力は各々約40万台。投資額は計60億円。現地生産により需要取り込みを図る。
ニチコン EV向けフィルムコンデンサーを江蘇省の既存工場で生産開始
ニチコンは、パソコンなどに使うポリマーコンデンサー工場の尼吉康電子(宿遷)有限公司(江蘇省)に2019年度に生産設備を導入し、新たにEV向け基幹部品のフィルムコンデンサーの生産を開始した。中国でのEV市場の拡大に備え、EVメーカーなどに供給する。投資額は数億円程度とみられる。同製品は、長野県の工場でも同時期に生産開始した。当初は主力の滋賀工場の生産量の約3割を日中の2拠点で生産する。2020年度以降に数十億円を投じて、中国工場の敷地内に専用の生産棟を建設し生産能力を大幅に高める。最終的には日中合計で現状の数倍に引き上げる見通し。
ニチリン 常熟の新工場が竣工、上海工場からエアコンホースとブレーキホースの製造を順次移管
ニチリンは2019年9月、常熟市に設立した合弁会社の蘇州日輪汽車配件(蘇州日輪)の新工場竣工を発表。同社の上海にある合弁子会社の上海日輪汽車配件(上海日輪)が手がけるエアコンホースとブレーキホースの製造と販売を順次移管し、2020年中のフル稼働を目指す。上海日輪の工場周辺は都市化が進み、これ以上の拡張が困難なことから常熟市に新工場を建設。床面積を上海日輪に比べ5割拡張し、ニチリンの子会社で最大規模となった。
日本ピストンリング 江蘇省儀征市のピストンリング工場を自動化、コスト3割減へ
日本ピストンリングは、江蘇省の日環汽車零部件製造(儀征)有限公司の工場で、6億~7億円を投じて関連設備を導入する。これにより、2021年度をめどに加工ラインの生産コストを従来比約3割減、生産能力を同約1割増とする。足元では中国での新型コロナウイルス感染は収束していないが、中長期的な事業の成長を見据えて生産体制を強化する。日米の工場に導入して生産合理化を図った「革新的生産ライン」をベースに、生産効率化につながるライン構築を検討する。製品の生産ライン内搬送を自動化するなど、できるだけ人手を介さない体制づくりに取り組む。(2020年3月報道)
三菱アルミニウム バンパーや車載用電池筐体などを生産する合弁会社設立を検討
三菱アルミニウムは2020年4月、中国のアルミ押し出し材料メーカーの江蘇亜太軽合金科技と共同で、自動車用押し出し加工部品の新工場建設の検討を開始したと発表。軽量化、電動化が進む中、将来の需要回復を見込み、2020年9月までに合弁会社を設立する考え。バンパーや車載用電池筐体や車体構造部材などを生産する計画。生産規模や投資額、稼働時期などの詳細は合弁の設立時までに詰める。(2020年4月報道)
三菱ケミカル・ 宇部興産 常熟市のリチウムイオン電池用電解液工場の生産能力増強を検討
三菱ケミカルと宇部興産は日本で合弁会社を設立し、両社のリチウムイオン二次電池用をはじめとする電解液事業を承継させると2020年3月に発表。これにより中国で2018年1月に設立したリチウムイオン電池用の電解液事業の共同出資会社「常熟宇菱電池材料有限公司(Changshu UM Battery Materials Co., Ltd.)」を新合弁会社の100%子会社とする。常熟工場の電解液の年産能力は現在1万トンだが、7~8千トンの増強を検討中。
三菱重工 常熟市にカーエアコン用電動コンプレッサーの生産拠点設立、2021年度内の稼働を予定
三菱重工は2019年10月、子会社の三菱重工サーマルシステムズが、江蘇省常熟市が運営する工業団地にカーエアコン用電動コンプレッサーの生産拠点を設立すると発表。EVなど新エネルギー車に対する需要拡大を見込み、ソフトウェアを搭載した電動式スクロール圧縮機を生産する予定。2020年内に100%出資の菱重汽車空調系統(常熟)有限公司(仮称)を設立し、2021年度内の稼働を目指す。年産能力は50万台からスタートする。カーエアコン用としては中国で2カ所目の拠点。
淀川ヒューテック 常熟市の製造拠点で新たに車載リチウムイオン電池向けガスケットを生産開始
淀川ヒューテックは、全社で2021年度までに車載リチウムイオン電池パックの密封性を高めるガスケット(封止材)の生産能力を現状比2倍の月産5400万個に引き上げる。滋賀県の工場で設備を増強するほか、江蘇省の常熟淀川恵徳塑料制品有限公司に2019年8月から順次設備を導入し、2020年初頭に同製品の量産を開始する計画。最初に6ラインを設置。2021年度までに4ラインを追加して計10ラインとし、月産能力1740万個体制にする。総投資額は約10億円。(2019年5月報道)
リョービ 常州市の子会社に第3工場新設、次世代車向けシャシー部品を2021年から量産開始
リョービは、中国子会社の利優比圧鋳(常州)に70億円を投じて第3工場を新設する。新規受注した次世代車向けシャシー部品生産に対応するため新たな鋳造設備や加工設備の導入が不可欠と判断。工場完成は2020年7月、量産開始は2021年8月の予定。この他に、従来車向けトランスミッション部品も生産する。


浙江省:新会社稼働(アイシンAW、阪和興業)、工場増設(昭和電線、戸田工業、日本電産、明電舎)、事業強化(愛知製鋼、JFE商事)、撤退(日本製鉄)

アイシン精機アイシンAW AT合弁会社での生産計画を下方修正か、ただし中国でのAT販売は2020年に前年比15%増と予想
アイシン精機は、子会社のアイシンAWが中国でのATの増産を図るため2018年に浙江吉利控股集団、広州汽車集団とそれぞれ設立した2つの合弁会社で、前者は2020年2月、後者は同年8月頃から前輪駆動(FF)用6速ATを年40万基ずつ生産する計画だった。しかし、2019年上半期の中国での市場減退を踏まえ、それぞれの年産台数を当初計画の半分以下の17万~18万基程度に減らす方針を固めた。稼働開始時期を変更する可能性もある(2019年8月報道)。その後、アイシン精機によると、2020年4月末時点では中国側と話し合いながら最適な生産能力や立ち上げ時期を検討しているという。なお、アイシン精機は中国でのAT販売について、新型コロナの影響で2020年1~3月は当初計画比15万基減だったが、4月以降は回復。その後は、四半期当たり60万基程度で推移し、2020年通年では前年比15%増とみている。
愛知製鋼 子会社の浙江愛智機電に2度目の追加出資、連結子会社化で磁石事業の基盤強化
愛知製鋼は、2019年にモーター用磁石加工を手掛ける浙江愛智機電 (Zhejiang Aichi Mechanical & Electrical Co., Ltd.)に800万元(約1.4億円)を追加出資し、出資比率を33.3%から48.6%に引き上げ、月産能力を80万個から140万個に拡大させた。加えて、2020年7月には、約1億円を更に出資し、出資比率を56.6%に引き上げ連結子会社としたことを発表。2020年度内に月産能力160万個体制を整える。浙江愛智は主に自動車シートやサンルーフ用などのモーターを手がけており、引き合いも増えている。今後、EV向けモーターへの参入も視野に入れて、事業を強化する。
JFE商事 仏大手モーターコアメーカーの現地法人に出資し、電磁鋼板などのモーター部品生産や販路を拡大
JFE商事は2019年5月、仏大手モーターコアメーカーr. bourgeois S.Aの中国現地法人であるZhejiang r. bourgeois mechanics(浙江ブルジョア)の一部株式を取得したと発表。出資比率は明らかにしていないが数十%とみられる。同社は欧州系や中国系の自動車・電機メーカー向けにモーターコアの加工・販売を行っている。EVや家電でのモーター需要が拡大する中、出資を通じてモーターの中核材料である電磁鋼板の加工やモーター部品の生産を拡大し、販路も従来の日系メーカーに加えて欧州や中国系メーカーに広げる。
昭和電線HD EV向けワイヤーハーネス事業拡大に向け現地子会社に増資、工場を新設して既存2工場を統合へ
昭和電線ホールディングスは2019年6月、EV向けワイヤハーネス事業拡大に向け、現地子会社の嘉興昭和機電有限公司(嘉興市)に約200万ドルの増資を決定したと発表。嘉興市でワイヤーハーネスを生産する2工場の近隣に、敷地面積を倍増させた新工場を建設して2工場を移転・統合する。新たに加工技術開発センターとしての機能も付加し、高付加価値化を目指す。
戸田工業 モーター用のボンド磁石材料の磁性コンパウンドの新工場建設、生産能力増強
戸田工業は、自動車モーターなどに使うボンド磁石の需要拡大に対応して、その材料となる磁性コンパウンドを生産するグループ会社の戸田塑磁材料(浙江)有限公司(浙江省東陽市)に新工場を建設。2019年7月に操業を開始し、浙江省の既存工場から生産を移管した。新工場の磁性コンパウンドの年産能力は操業開始時点で従来比4割増の約7,000トン。
日本製鉄 浙江省平湖市の自動車部品向け特殊鋼工場の生産から撤退へ
日本製鉄は2019年、全額出資子会社の日鉄日新製鋼が運営する浙江日鉄日新華新頓精密特殊鋼(浙江省平湖市)の自動車部品向け特殊鋼工場での生産から撤退する方針を固めた。現地当局などとの協議に入り、工場閉鎖も含めて検討する。同工場は2014年に設立。現地の日系自動車部品メーカー向けの供給を狙ったが、需要の開拓が進まなかった。同社は、伊藤忠丸紅鉄鋼、米鉄鋼大手のワージントンとの合弁工場で、日新が55%を出資。生産能力は年間12万トン。(2019年12月報道)
日本電産 平湖工業圏の専用工場で生産するE-Axleを吉利汽車にも供給、第2工場立ち上げへ
日本電産は、中国のEV市場の将来性を見込んで平湖工業圏に建設したトラクションモーターシステム「E-Axle」の専用工場が2019年4月に最大出力150kW型の量産を開始、広汽新能源汽車のEV「Aion S」などに供給。また、2020年5月に吉利汽車が発表した新型EV「幾何 C」にも150kW型が採用された。吉利汽車向け「E-Axle」の改良・開発は2019年5月からスタートし、新型のインバーターを採用するなどして走行性能を高めたという。浙江省平湖の「E-Axle」専用工場の年産能力は、稼働中の第1工場が60万台、新規立ち上げ予定の第2工場が40万台の予定。
阪和興業 普通鋼やステンレス鋼を加工する合弁コイルセンターが2019年に稼働
阪和興業は、ステンレス鋼や炭素鋼を加工するコイルセンターの合弁会社「浙江大明阪和金属科技有限公司」(浙江省嘉興市)が2019年11月に本格稼働。普通鋼を年間80万トン、ステンレス鋼を同35万トン加工し、日系や中国系の自動車関連メーカーや家電メーカー、機械メーカーなどに供給する計画。合弁会社の登録資本金は7,500万ドル。中国の鉄鋼流通・加工大手の浙江大明国際控股(江蘇省無錫市)グループが85%、阪和興業が15%出資。工場への総投資額は約130億円。
明電舎 EVなど電動車用モーター・インバーターの工場を新設、稼働は2021年3月の予定
明電舎は、2019年5月に資本金1.5億円で設立した子会社の明電舎(杭州)駆動技術有限公司に2019年内に41億円の増資を行い、海外では初となるEV関連事業の生産拠点にすると発表。元々はエレベーター用モーターなどの生産子会社だが、EVを生産するメーカーのサプライヤーに選定されたため、増資により既存拠点の近隣に敷地を取得して新工場を建設。EV・PHEV用モーター・インバーター等を製造する。新工場は2019年11月に着工し、稼働は2021年3月の予定。年産能力は17万台。


安徽省:設備増強(TPR)、生産調整(アーレスティ)

アーレスティ 合肥工場でダイカスト製品などを2019年に減産、新型コロナウイルスの影響で一時休業したが生産回復
アーレスティは、子会社の合肥アーレスティ(合肥阿雷斯提汽車配件有限公司)でダイカスト製品などの生産を2019年2月に3~4割減産した。同年11月からも再び2割程度減産。「国6」規制への対応に伴うエンジン設計の見直しや、米中貿易摩擦の影響による中国市場の減退などによって、主要顧客の中国メーカーが減産したことへの対応(2019年11月報道)。2020年に入ってからは、新型コロナウイルス感染症の拡大で主要顧客が操業を停止し、その影響から2月上旬まで休業した。それ以降は順次稼働を再開し、2020年4~6月には前年水準並みの生産量に回復している。
TPR ディーゼルエンジン用シリンダライナーの生産能力増強、商用車向けの受注拡大を目指す
TPRは、安徽省安慶市の工場でディーゼルエンジン向けシリンダライナーの鋳造ラインや加工ラインを2020年初までに増強。さらに、2020年12月までに加工機械を増設して、乾式と湿式合わせて年産能力を現状比4割高める。設備投資額は約10億円。中国では商用車用ディーゼルエンジン向け需要が堅調なため、事業の拡大につなげる (2020年2月報道) 。なお、TPRの中国での商用車向けシリンダライナーの生産は、子会社の安慶帝伯格茨缸套有限公司(ATGL:Anqing TP Goetze Liner Co.,Ltd.)で行われている。

(参考資料:各社広報資料、各紙報道)


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