中国・華東地区の日系サプライヤー:NEV向け製品の生産体制を増強

中国市場の減退やコロナ禍での稼働調整、中長期的には生産・販売を強化

2020/09/15

要約

華東周辺
中国の自動車工場マップ(クリックすると拠点マップが開きます。)
華東地区の自動車工場マップ

  本レポートは、中国・華東地区における日系部品メーカーの動向である。(2019年4月から2020年7月までの約16ヵ月間を収録)


  2019年の中国の自動車生産台数は2,572万台(前年比7.5%減)、販売台数(工場出荷台数)は2,577万台(同8.2%減)で、2年連続の減少となった。主な要因として米中貿易摩擦の影響、排ガス基準の切換などが挙げられる。
  2020年に入ると新型コロナウイルスの感染拡大により、自動車販売台数がさらに大きく減少し、1月は前年同月比18.6%減、2月は同79.1%減、3月は同43.2%減となった。しかし、4月からは各メーカーの工場が順次稼働を再開し、4月は生産、販売共に前年同月比でそれぞれ2.3%増、4.5%増に回復。その後も増加を続け、1-7月累計では生産台数が1,231万台(前年同期比11.8%減)、販売台数も1,237万台(前年同期比12.7%減)と累計の減少幅を縮小させている。
  新型コロナウイルス感染拡大の影響として、アイシンAWはFF用6速ATを生産する2つの新合弁工場の稼働を延期した。アーレスティのダイカスト製品工場は市場減退をうけて2019年に数度の減産を実施していたが、2020年に入ってコロナ禍の影響で2月上旬まで休業、その後は順次稼働を再開し、4~6月には前年並みの生産量に回復している。愛知電機はモーター新工場の2020年4月稼働予定を延期したが、中長期な増強方針は変更せず、新エネルギー車(NEV)向けの供給体制を強化する。


  EV、PHVなどの新エネルギー車(NEV)は2019年通年で生産台数が124.2万台(同2.3%減)、販売台数が120.6万台(同4.0%減)だった。年前半は前年比増と好調だったが、7月から実施されたNEVへの政府補助金の減額が大きく影響し、7月は販売台数が前年同月比2%減と初めて減少に転じた。その後も減少が続き10月には同48%減、11月には同44%減、12月には同30%減と減少幅を拡大させた。
  2020年に入ってからも1月から6月まで生産・販売台数共に前年を下回ったが、7月に生産台数が前年同月比15.6%増の10万台、販売台数も同19.3%増の9.8万台に回復した。政府が経済へのてこ入れとして行ったNEVへの販売支援策が功を奏した。


  華東地区はNEVや次世代自動車を開発・生産する大手メーカーや新興メーカーが多い。中国大手メーカーでは上海VW、上海GM、吉利汽車、奇瑞汽車、安徽江淮汽車などがあり、新興EVメーカーではNIO(蔚来汽車)やWM Motor(威馬汽車)などがある。新興EVメーカーには地元政府による資金支援も強化されている。Teslaは2019年末に上海臨港地区に単独出資のEV工場を稼働させた。トヨタは江蘇省常熟市に電動車の部品工場や開発拠点をおいている。

  日系自動車部品メーカーはこうした動きに対応して、EV、PHV向けの部品や材料の生産・販売を増強している。E-Axle専用工場が2019年に稼働した日本電産は主要納入先の広汽新能源汽車に加えて、新たに吉利汽車向け製品の開発・供給を開始した。このほか工場増築による新品目の投入では、昭和電工のHV向け発電モーターの封止材、豊田自動織機のHV向けエアコン用電動コンプレッサー、昭和電線のEV向けワイヤハーネス、ニチコンのEV向けフィルムコンデンサー、明電舎の電動車用モーター・インバーター、淀川ヒューテックのリチウムイオン電池向けガスケットなどがみられる。事業体制の強化では、帝人が上海エナジーとのライセンス契約によるEV向けLIB向けセパレータ開発を開始、ロームが中国のベンチャーと共同研究所を設立しSiC搭載のEV向けインバーター開発を強化する動きがみられる。

 

中国での日系サプライヤーの動向 (*新品目投入)

新会社(工場)設立・稼働 江蘇省 愛知電機(*カーエアコン用電動コンプレッサー向けモーターの新工場建設)
積水化学(*自動車内装用ポリオレフィンフォーム:生産ライン稼働)
ダイキン工業(半導体・電池材料向けフッ素化学品:合弁会社、第2生産拠点)
三菱アルミニウム(*バンパー/車載用電池筐体など:合弁会社設立検討)
三菱重工(*カーエアコン用電動コンプレッサー:新会社設立)
浙江省 アイシンAW(*FF用6速AT:新合弁工場稼働、2020年の生産計画を下方修正)
阪和興業(普通鋼やステンレス鋼の加工:合弁コイルセンター稼働)
生産能力増強
新商品投入
生産ライン・設備の増強、
建屋拡張
上海市 昭和電工(*HV向け発電モーターの封止材BMCの供給開始:新規生産)
江蘇省 イソライト工業(*耐熱性1400℃の生体溶解性ファイバー:量産開始)
キャタラー(*高機能活性炭シート:設備増強も)
豊田自動織機(*電動車向けエアコン用電動コンプレッサー:新ライン設置)
ニチコン(*EV向けフィルムコンデンサー:設備増設・専用の生産棟建設へ)
日本ピストンリング(ピストンリング:設備増強、自動化ライン導入)
三菱ケミカル・宇部興産(LiB用電解液:生産能力増強を検討)
淀川ヒューテック(*リチウムイオン電池向けガスケット:生産ライン)
安徽省 TPR(商用車用ディーゼルエンジン向けシリンダライナー:生産ライン増強)
工場増設 江蘇省 AGC(*大型3D・複雑形状の車載ディスプレイ用カバーガラス:新工場増設)
エンビジョンAESC(*新型二次電池:試作ライン+新工場、上海に開発拠点)
オンド(自動車変速機の中核部品:新工場建設+既存拠点と生産工程分担)
ニチリン(エアコン/ブレーキホース:新工場竣工、上海工場から生産移転)
リョービ(*次世代車向けシャシー部品:第3工場建設)
浙江省 昭和電線(*EV向けワイヤハーネス:現地子会社に増資して新工場建設)
戸田工業(モーター用のボンド磁石材料の磁性コンパウンド:新工場建設)
日本電産(*吉利汽車向け150kW型E-Axle:供給開始。第2工場も稼働予定)
明電舎(*電動車用モーター・インバーター:増資により新工場建設)
事業体制強化
(ライセンス契約、開発・
研究所、増資・子会社化、
販売会社など)
上海市 アイシン精機(クラッチ・エンジン・変速機部品:交換部品の販売会社設立)
出光興産(潤滑油、電子材料等:中国グループ会社の財務統括投資公司設立)
田岡化学工業(EV向け電装部材材料:販売会社設立)
帝人(*EV向けLIB向けセパレータ:上海エナジーとライセンス契約・開発)
堀場製作所(開発、生産、アフターサービスを含む一貫体制の新拠点建設)
ルネサスエレクトロニクス(*車載用アプリ:上海VWと共同研究所設立)
ローム(*ベンチャーとSiC搭載のEV向けインバーター開発の共同研究所)
江蘇省 アイシンAW(パワートレイン/ソフトウエアの開発:2子会社を経営統合)
神戸製鋼所(非汎用圧縮機:増資により出資先企業を子会社化)
浙江省 愛知製鋼(モーター用磁石加工:追加出資で連結子会社化)
JFE商事(電磁鋼板などのモーター部品:仏部品メーカーの現地法人に出資)
国外に生産移管、撤退、
減産など
上海市 ニチリン(曲管ホース:インドネシアや日本に生産移管へ)
浙江省 日本製鉄(自動車部品向け特殊鋼:生産から撤退、工場閉鎖も)
安徽省 アーレスティ(ダイカスト製品:2019年に減産、2020年は2月上旬まで休業)

(参考資料:各社広報資料、各紙報道)

 

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中国スマートカーイノベーション発展戦略 (2020年4月)


<日系サプライヤーの海外事業動向>
  ASEAN (2020年8月)
  西欧 (2020年4月)
  インド (2019年11月)
  米国・カナダ (2019年9月)
  中国全般 (2019年6月)
  中国・華東地区 (2019年5月)
  中東欧 (2019年6月)
  メキシコ (2018年10月)

 

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