メルセデス・ベンツ・グループは2月22日、Olla Källenius CEOとHarald Wilhem CFOとThierry Piéton CFOがアナリスト及び投資家(第1部)、メディア(第2部)向けに2023年通期決算に関するプレゼンテーションを行った。
2023年通期決算のハイライト
- 2023年度の乗用車部門の調整後EBITは2022年の162億ユーロから143億ユーロに減少した。実売価格の改善、原材料価格の低下、製造コストの低下、インフレ、物流上の制約が大きな影響を及ぼした。
- 2023年の販売台数は前年並みで、メルセデス・マイバッハとAMGが増加したものの、「Gクラス(G-Class)」がわずかに減少した。メルセデス・ベンツの乗用車販売における電気自動車(EV)の比率は12%となった。米国のEV市場では海外メーカーのなかで最も高いシェアを獲得した。
- グローバルではEV販売は73%伸長した。EVの市場は内燃エンジン(ICE)車の市場と比較すると依然として小さい。
- 新型「Eクラス(E-Class)」、「GLCクーペ(Coupe)」、「CLE」、AMG「GTクーペ」、マイバッハ「EQS SUV」を発売した。
- バンセグメントはメルセデス・ベンツの販売で最も大きな割合を占め、前年比8%増加した。電気バンの伸長は51%増と伸長がさらに顕著だった。
- メルセデス・ベンツの2023年のCO2排出量は109gとなり、規制目標の129gを達成した。
業績概要
- 2023年通期の連結決算は、売上高が前年比2.1%増の1,532億1,800万ユーロ、調整後金利税引き前利益(EBIT)が3.2%減の200億400万ユーロ、純利益が1.9%減の145億3,100万ユーロとなった。
- 乗用車部門の平均販売価格は2022年と比べて2%上昇し7万4,200ユーロとなった。パンデミック前の2019年は5万1,000ユーロだったので、これと比較すると46%上昇した。
2024年以降の見通し
現時点での2024年の見通しは以下の通り:
- メルセデス・ベンツ乗用車部門:
- 販売台数は2023 年と同水準
- 電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド車(PHV)の販売比率は19-21%
- 売上高営業利益率(RoS)は10-12%
- キャッシュコンバージョンレシオ(CCR:キャッシュフロー/純利益)は0.8-1.0
- 設備投資(PP&E)は前年を大幅に上回る
- 研究開発投資は2023年並み
- メルセデス・ベンツ・バン部門:
- 販売台数は2023年の水準をわずかに下回る
- EVとPHVの販売比率は6-8%
- 売上高営業利益率(RoS)は12-14%
- キャッシュコンバージョンレシオは0.6-0.8
- 設備投資は前年を大幅に上回る
- 研究開発投資は2023年を大幅に上回る
総収益は2023年と同程度になると予想されるが、EBIT(利払前・税引前利益)とフリーキャッシュフローは若干減少する可能性がある。
メルセデス・ベンツは近い将来の戦略的優先事項について以下を挙げた:
- The Mercedes Way (2024年通年で販売・サービスパートナーへのトレーニング実施)
- 新しい小売ブランドコンセプト
- ブランド力の広報(AMG、マイバッハ、「Gクラス(G-class)」における個別顧客体験確立)
- eコマースとデジタル顧客体験
- 充電インフラの拡大
- 国際合弁事業により2030年までにEU、中国、米国で4万ポイント以上のHPC(高出力充電)ポイントを設置
- 主要市場にメルセデス・ベンツブランドのHPC充電器をさらに1万ポイント以上追加
- 2024年以降北米でテスラ・スーパーチャージャーへのアクセスを可能にし2025年にNCAS(北米充電規格)充電ポートを組み込む
- 中国における「Eクラス(E-Class)」の発売と2024年度中のその他15モデルの発売
- 2025年にMMA(Mercedes Modular Architecture)プラットフォームとMB.OS(Mercedes Benz Operational System)を併せて導入
- 電動車(xEV)向けのMB.EA、AMG.EA、VAN.EAプラットフォームを使用したxEVモデルの発売
- バッテリーコストを将来30%以上削減するために以下の手段で取り組む:
- セルおよびモジュールの設計最適化
- 車両統合の改善
- NMC(ニッケルマンガンコバルト)バッテリーと次世代LFP(リン酸鉄リチウムイオン)バッテリーの開発
- ライフサイクル中のセル更新
- サプライヤーと協力して継続的改善を推進
Q&A (アナリスト・投資家向け、メディア向け)
1. 2023年の財務的課題
Q: 利益率の改善があまり進んでいないように見える。その理由は何か? どのように価格を安定させ、利益率を高めていくつもりか?
A: (Harald Wilhem CFO) 当社は価格の維持及び量より価値の重視を通じて高級ブランドであり続ける。2023年第3四半期と第4四半期はインフレ、サプライチェーン費用の上昇、生産能力調整などの影響を受けた。この状況は2024年第1四半期も続き業績は前年同期を下回る見込みだが、2024年後半には材料費に追い風が吹くと予想している。利益率は10-12%を見込んでいる。
将来的には以下の方策によりキャッシュフローの改善が期待できる:
- 2025年と2026年に適切な利益率の新製品を投入
- 多くの投資案件を実行(現在調整中)
- キャッシュフローを圧迫しないよう運転資金を適切に管理
今後は2024年に限らず乗用車部門で8-10億ユーロ、バン部門で6-8億ユーロのキャッシュフローを見込んでいる。
2. 規制
Q: EV成長のために規制緩和を期待しているか?
A: (Olla KälleniusCEO) 政策について確実な予測をするのは難しい。欧州では2035年にCO2ゼロを目指す政策の見直しが2026年に行われる。消費者がモビリティの利便性低下を認めるとは思えないので我々も製品の改善に取り組むが、インフラも同時に改善される必要がある。
脱炭素化やCO2ニュートラルは喫緊の課題であり我々はその解決策を見つけなければならない。これまで何年も脱炭素化目標が達成できなかったからといって、この先目標が達成できないということにはならない。目標を達成するには再調整が必要なのだ。2026年には我々がどこまで到達したか、何を修正すべきかが分かるだろう。我々はCO2半減を諦めたわけではない。2030年にはサプライチェーンや生産など全体でCO2を49.7トンから25トンに削減できるだろう。
我々が非炭素車だけを販売するようになっても、その時点で路上には15-20億台の内燃エンジン(ICE)車が残っている。CO2排出量を削減するためにはあらゆる機会を活かすべきで、水素や合成燃料を始めCO2を排出しない燃料なら何でも利用し、自動車産業のみならず各産業界、航空宇宙分野でも取り組む必要がある。
3. MMAプラットフォーム
Q: 2025年に市場に投入されるMMA(Mercedes Modular Architecture)プラットフォームはエントリーモデルの価格上昇をもたらすのではないか?
A: (Olla KälleniusCEO) 我々がMMAで取り組むことは3つある:
- ポートフォリオの最適化:現在の7モデルをMMAプラットフォームで最高のパフォーマンスを発揮すると思われる4モデルに集約
- 該当セグメントの技術基盤の向上
- 特に重要なのは該当セグメントの顧客に対する注意深いアプローチ
4. EVとICE車の販売比率
Q: 御社ではEVとICE車の販売比率は同等になると見ているのか? また、EVの価格政策は?
A: (Olla KälleniusCEO) これまでのEVの市場シェア推移を見ると下位セグメントから上位セグメントへと移行している。これは中国における政策決定及び中・小型セグメントに焦点を当てた中国市場の動向による面がある。「EQE」と「EQS」がこのセグメントに入らないことを考えれば、市場がまだそれほど大きくない中で我々の市場シェアはかなり健闘していると言える。
2025年に発売する「CLA」はメルセデスのエントリーモデルとなる。2026年にはEVの「GLC」とプレミアムクラスの「Cクラス(C-Class)」を発売し、2027年には全ラインナップが揃う。
当社では米国(主にカリフォルニア州)の規制に基づいて2027年までにICEパワートレインをすべて更新し、2030年代まで対応できるまったく新しいラインアップを用意する。また、まったく新しいエントリークラスの4気筒エンジンを開発してMMA投入後9カ月程度で導入する。
EVの価格政策については、車両の総所有コストを考慮すべきだというのが当社の戦略だ。EVがICE車より依然として高価なことは承知しているが、購入後数年も経てばEV所有の経済的メリットはICE車を上回る。
各種EVの利益率がICE車よりはるかに低いことは周知の事実だが、それでも十分プラスだ。EV台数が増える中で我々は変動費にも焦点を当て、バッテリーやその他の品目についても最低30%のコスト削減に注力している。我々は2024年のEV市場の行方を見てキャッシュフローを確保する戦略を決定する。
5. 中国と米国における戦略
Q: 中国市場における御社のプレゼンスを、生産拠点や将来の投資の面からもう少し詳しく伺いたい。また、アメリカ市場での戦略は?
A: (Olla KälleniusCEO) 2023年の中国市場にはパンデミック後に多くの人々が期待したほどの力強さは見られなかったが、EVにとっては非常に良好で堅調な年となった。2024年も楽観はしていないが、現地生産の中核モデルのひとつである「Eクラス」を発売する。中国市場は競争が激しく、生産台数に関しては柔軟に対応していきたい。
米国市場に関しては、IRA(インフレ抑制法)に基づく補助金をアラバマ州の工場拡張とサウスカロライナ州のバン工場拡張の2件で申請した。当社の申請が前向きな回答を得て現地生産が拡大できることを期待している。なお、プラグインハイブリッドやフルハイブリッドに移行する方針はないが、市場ニーズがあると判断した場合は可能性はある。
6. 今後の投資
Q: 御社は2021年、電動化とデジタル化に向け2025年までに7,000万ユーロを投資すると表明した。そうした大規模な投資は今後も計画に織り込まれているのか、それとも電動化方針に影響を与えるステークホルダー次第なのか? また、御社は2030年代半ばまでICEモデルの刷新を続けると述べている。現在の投資はICEモデルを含むのか、それともICEの開発は追加投資で賄われるのか?
A: (Olla KälleniusCEO) EV (MB.AE、AMG.AEなど)のアーキテクチャへの投資については計画が策定され実行に移っている。アーキテクチャには新技術が含まれているため既に割り当てた投資額は増額が必要だろう。eモビリティへの投資に変更はなく本格化している。
ICEアーキテクチャについては、ICE車への投資は計画に織り込み済みだ。当社では通常5カ年投資計画を立てる際、市場分析に基づいてその5年間を予測するが、2030年代半ば以降については見通しの範囲を超えている。しかし、当社ではユーロ7、中国の国7、米国の規制に将来対応できる体質を備えているため、2030年代を含めた計画を立てることができる。
7. eモビリティの拡大
Q: メルセデス・ベンツの総販売台数に占めるEVとPHVの割合は現在約20%だが、2020年代半ばに50%を占めると確信を持てるのは何故か?
A: (Olla KälleniusCEO) 2025年に最初の車両投入を予定しているMMAアーキテクチャと2026年に導入し2027年フル生産を計画するMB.EAアーキテクチャを組み合わる戦略は強力で、市場に魅力的なEVをもたらす。これと並行してPHV製品群が電動化構想を補完する。PHVで今年最も重要なモデルは「Eクラス」で、これはxEVの普及を図る良い機会となる。50%の目標はこのようにして達成できると確信している。
8. EVの競争力と価格
Q: EV市場は非常に競争が激しい。高級ブランドの位置づけを損なうことなくこの市場の一翼を担う方法はあるのか? 価格面で魅力的な中国のEVが欧州に進出しているがそれに勝つ戦略は?
A: (Olla KälleniusCEO) EVとICE車の間に大きな価格差があることは承知しており、その差を縮めることも計画に入っているが、EVのコストダウンは優先事項ではない。EVの変動費(材料費)はICE車より高いので、自動車の総所有コストに着目するのが我々の戦略だ。EVは依然としてICE車より高価だが、購入後数年経てばEVのほうがICE車を保有するより経済的なメリットが大きくなる。
中国モデルとの競争については、メルセデス・ベンツ独自の方策に集中している。
9. 「EQS」の戦略
Q: 「EQS」の売れ行きは期待ほどではなかったようだが今後の戦略は?
A: (Olla KälleniusCEO) 顧客調査によると「EQS」は非常に好意的に受け止められている。初期の購入者は納得しており、我々はハイエンドで大きなシェアを持つマーケットリーダーでもある。とは言うものの、過去3年間のEVに対する市場の反応は予想を下回るものだった。我々は6月に改良型「EQS」を市場に投入し、航続距離、車内スペース、優れたエアロダイナミクスを一層進化させてこの問題に対処する。