※英GlobalData社 (旧LMC)のアナリストによるショートレポート (7月12日付) をマークラインズが翻訳したものです。
・南アフリカは、アフリカ大陸最大の自動車生産国として知られており、自動車産業が大黒柱として南アの経済成長や雇用、国際貿易の中心を担っている。南アの自動車産業は、洗練され、世界的な競争力を持つ産業へと発展した。本稿では、南アの自動車生産の現状、見通し、課題について概要を紹介した上で、電気自動車(EV)生産に移行する準備ができているかどうかについて考察する。
・南アではBMW、フォード、トヨタ、VWを含む大手の子会社が自動車産業を独占している。これら大手が南アに工場を構えたことで、生産ハブへと変貌を遂げ、自動車と部品を世界150カ国以上に輸出するまでになった。南アのライトビークル(乗用車+ライトトラック)生産は2023年に対前年比で14%の伸びを示した。GlobalDataは、2024年にも5%の成長を予想している。
・複数の要素が今後数年間にかけて南アの自動車産業の成長を促す原動力となるだろう。例えば、
- 戦略的立地: 南アフリカの地理的立地は、他のアフリカ諸国や欧州・アジア市場への理想的な輸出ハブとして位置付けられる。近年では、国内生産のうち、輸出向けが60%超を占めている。
- 輸送インフラと熟練労働者: 近代的な港湾、鉄道、道路網を含む近代的なインフラが、自動車工学と製造業に特化した数多くの技能訓練プログラムにより、よく訓練された労働力と相まって、効率的な物流とサプライチェーン管理を支えている。
- 部品産業:南アには国内と輸出向けにタイヤ、エンジン部品、その他の基幹部品を供給する部品産業セクターがある。
課題と機会
・このような強みを持つ一方で、経済の不安定性、ストライキ、世界的なサプライチェーンの混乱という複数の面で課題を抱えているのが南アの現状である。しかし、それぞれの課題は同時に、労働者のスキルアップや研究開発、戦略的パートナーシップの促進、他のアフリカ地域市場への進出など、イノベーションと成長のチャンスとも捉えられる。
・特に他のアフリカ地域への進出は、大きな成長のチャンスを生みだす可能性を秘めている。最近合意されたアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)協定が貿易障壁を低減し、域内の貿易を促進することで、拡大に向けて重要なツールとなる。
南アはEV生産の準備ができているか?
・南アはEV生産を受け入れる準備ができているかどうかという点で重要な岐路に立たされている。EV生産に移行し、主要プレーヤーとして市場での地位を確立する基準に適合するには、複数の側面を検討する必要がある。南アはバッテリー生産に不可欠なリチウム、コバルト、マンガンという鉱物資源が豊富な一方、セルや電動ドライブトレインなどのEV専用部品のサプライチェーンが不足している。よって、現地生産能力を強化し、バッテリー生産への投資を誘致することが不可欠になる。輸入部品への依存度が高いままだと、サプライチェーンの混乱や生産コストの上昇にもつながる。
・EVの生産工場や関連インフラの設置には多額の投資が必要である。内燃エンジン車に比べて相対的に高コストな点を踏まえると、消費者のEV需要は制限される可能性が高い。南ア政府はこれまでも現地生産と投資にインセンティブを提供する「自動車生産開発プログラム(APDP)」などを通じて産業支援を目的とした様々な取組みを行ってきたが、OEMへの補助金やEV購入補助金を含めEVの普及促進のための政策やインセンティブのさらなる拡大が求められる。既存の設備や地域の専門的人材を活用するために世界の大手EVメーカーとの戦略的パートナーシップを結ぶチャンスもある。
・南アフリカは、現時点では今すぐにEV生産を受け入れる準備が整っているとは言えないものの、主要な課題に取り組み機会を受け入れることで、EVの生産能力を開花させる潜在能力を十分にもっている。世界の自動車産業がEVにシフトする中、南アはEV生産でアフリカ大陸をリードするポテンシャルがある。関連インフラと生産能力への投資が新興市場における主要プレーヤーとなる鍵となるだろう。
原文はこちら