メキシコの日系自動車部品サプライヤー:EV向け部材など受注増への対応

USMCA発効、コロナ禍の市場縮小の中でも将来に向けた生産体制の増強が続く

2021/07/28

要約

メキシコの自動車工場マップ(クリックすると拠点マップが開きます)

  メキシコ自動車工業会(AMIA)/国立統計地理情報院(INEGI)によると、自動車生産台数(除く大型バス・トラック)は2019年が381万1,068台、2020年が304万178台(前年比20.2%減)、輸出台数は2019年が338万8,305台、2020年が268万1,806台(同20.9%減)となり、国内販売台数は2019年が131万7,732台、2020年が94万9,121台(同28.0%減)と、それぞれ4年連続の減少となった。
  2020年は新型コロナウイルス感染拡大に対応して、3月以降に全ての自動車メーカーが順次稼働休止となり、ほとんどの工場が5月末まで再開できなかった。また、世界的な景気減退の影響を受けて輸出台数も減少した。
  2021年1-6月は、生産台数が前年同期比31.8%増の159万5,701台、輸出台数が同33.5%増の140万4,637台、国内販売台数が同18.1%増の51万5,401台と回復している。


  2020年7月1日にUSMCA(United States-Mexico-Canada Agreement、米国-メキシコ-カナダ協定)が発効し、NAFTA(North America Free Trade Agreement、北米自由貿易協定)の仕組みの多くを踏襲しつつも、米国への生産回帰を狙う項目が追加され、メキシコにおける自動車生産への影響が懸念されていたが、自動車メーカー各社はメキシコでの生産体制強化や生産調整を進めている。
  GMはメキシコでのEV生産のために10億ドル超をRamos Arizpe工場の改造に投じる。また、2023年にはホンダブランドの電気SUVも生産開始する計画。
  FCAは2018年に米国生産移管を計画したヘビーデューティ・ピックアップRamについて、USMCA合意を受けてメキシコでの生産を継続する方針。
  トヨタは2020年2月にGuanajuato新工場を本格稼働させた。米テキサス州の工場で生産している中型ピックアップトラック「Tacoma」の生産を新工場へ移管するため、2021年までに年産10万台のフル稼働生産を目指している。既にTacomaを生産しているBaja Californiaの工場と併せて年26万6,000台まで引き上げる。
  日産は、2019年以降にAguascalientes 第1、第2工場とCuernavaca工場で新型「Versa」、新型「Sentra」の生産を相次いで開始。さらに6億ドル超を投じて5つのモデルについても刷新。日産とDaimlerの合弁工場COMPASが2019年に稼働し、DaimlerブランドのコンパクトSUV「GLB」を集中生産。2020年にはインフィニティブランドの2021年型コンパクトクロスオーバーSUV「QX55」の生産を開始した。
  ホンダは四輪事業の利益率改善に向けて、2020年からメキシコ工場の生産体制再編を進めた。Guadalajara工場での「HR-V」の生産を取り止め、四輪車生産をCelaya工場に集約。さらにCelaya工場での「Fit」生産を2020年内に終了し、生産車を「HR-V」に一本化している。


  日系自動車部品メーカーでは、将来の受注増を見込んだ生産能力増強が進められている。その一方で、一部の企業では市場の落ち込みに対応した事業体制の修正もみられる。新規進出では、JEFスチールやJFE商事の鋼板工場、イリソ電子工業の車載用コネクター工場などが稼働。生産能力増強では、豊田合成が2つ目のエアバッグ用バッグ新工場を、住友重機械工業が4つ目の小型減速機新工場を建設。また、エフテックがEV向け足回り部品の新規受注により工場を拡張。日本電産はEV向け駆動用モーターの生産開始に向けて工場拡張を計画している。一方、事業体制の見直しでは、日本精機が計器部品のメキシコ3子会社を合併、メタルワンによる鋼板加工の3子会社の統合などがみられるが、これらはいずれも競争力強化を図る動きである。


  以下は、メキシコにおける日系部品メーカーの最近の動向である(収録対象は、2021年6月半ばまでの約2年半)。

 

メキシコでの新規工場設立 ( )は生産品目

新規工場進出 イリソ電子工業(車載用コネクター)、三協精機工業(車用スプリング)、JEFスチール(溶融亜鉛鍍金鋼板)、JFE商事(高張力鋼板の加工・販売)、パイオラックス(工場建設を検討:環境規制対応の燃料タンク部品)

 

メキシコでの生産能力拡充 ( )は生産品目など、*は新品目投入

米国からメキシコに生産移管など アドバネクス(メキシコに生産集約:価格競争力の低い精密ばね)、日東電工(米墨伯で相互に生産品目移管:車用各種テープ)、三菱製鋼(メキシコに生産移管:スタビライザー)
中国からメキシコに生産移管 クラリオン(ナビゲーションシステム)、シークス(米国向け車載関連EMS製品)
設備増強 ゴーシュー(設備増設:*ハイブリッド車向け変速機部品)、タチエス(設備増強:シート部品)、日本航空電子工業(量産体制構築:エアバッグ用スクイプコネクター)、日本特殊陶業(既存工場で生産準備:*ノックセンサー)、三井金属アクト(生産ライン増設:米国向けサイドドアラッチを全量生産へ)、ユニプレス(1生産ライン設置:*ホットスタンプ)
工場拡張 エフテック(工場増築:足回り部品、EV向けを新規受注)、シナノケンシ(工場増設:車載用精密モーター)、ニチリン(工場拡張:エアコンホ-スなど)、日本電産(工場増設:*EV向け駆動用モーター)、森六テクノロジー(建屋増設:内装部品アウトレット)
新工場建設 住友重機械工業(4つ目の工場建設:小型減速機)、豊田合成(2つ目の工場建設:エアバッグ用バッグ)
事業・販売体制強化、テクニカルセンター設立、会社清算 蛇の目ミシン(販売会社設立:電子機器・部品)、進和(営業拠点新設:CASE関連製品)、日本精機(メキシコの3子会社を合併:計器部品)、パトライト(販売子会社設立:積層信号灯など)、富士プレス(合弁を解消し新会社に:プレス部品)、ブリヂストン(子会社清算:自動車用ウレタンフォーム)、三菱マテリアル(テクニカルセンター設立:切削加工技術)、メタルワン(3子会社を統合:鋼板加工)、
現地会社の事業取得、買収 双日(現地会社の事業継承:自動車セルフファイナンス)、ノリタケカンパニー(現地メーカー買収:工業用砥石)

 

関連レポート:
OEM各社の米国事業動向(2020年) (2020年12月)
USMCAの発効とメキシコ自動車業界の動向 (2020年7月)
メキシコ:米国の需要変化に対応し、小型車からSUV・ピックアップへ生産シフト (2019年4月)


<日系サプライヤーの海外事業動向>
  米国・カナダ (2021年4月)
  中東欧 (2020年12月)
  中国全般 (2020年10月)
  中国・華東地区 (2020年9月)
  ASEAN (2020年8月)
  西欧 (2020年4月)
  インド (2019年11月)
  メキシコ (2018年10月)

 

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