USMCAの発効とメキシコ自動車業界の動向

NAFTA改定で米国への製造回帰を狙うが、メキシコの輸出基地化は進む

2020/07/02

要約

  3年近くにわたり米国-メキシコ-カナダの3国間で交渉と検討が進められてきたNAFTA(North America Free Trade Agreement、北米自由貿易協定)の見直しは、3国間の合意と各国議会の承認を得て、2020年7月1日にUSMCA(United States-Mexico-Canada Agreement、米国-メキシコ-カナダ協定)として発効した。

  USMCAは1992年に施行されたNAFTAの仕組みの多くを踏襲しているが、より高い北米原産地要件に加えて米国への車両生産回帰を狙う条項など、いくつかの新しい要件が追加されている。

  USMCAはより厳しい「原産地規則」を義務付けており、無関税扱いとなるためには少なくとも75%の域内調達が求められる。さらに追加された「賃金条項」では、車両の部材の40~45%が、労働者が時給16ドル以上の高給を得る地域で生産されることを要件としている。

  これまで自動車関連企業は、NAFTAのメリットを最大限に活かし米国への輸出基地としてメキシコ投資を拡大し、それを背景にメキシコは自動車生産大国に成長した。米国の需要を狙った各社のメキシコ工場への新規投資や、生産車種刷新は、NAFTA交渉の行方が不透明な中でも近年一層の進展を見せてきた。今回のUSMCAの発効によって将来計画を阻害する不確定要因が払しょくされたことは関連業界に一般に好意的に受け止められているが、今後は、想定されるコスト増を甘受するか、あるいは関税回避のために北米での生産体制やサプライチェーンを見直すかの検討や選択を迫られる企業も出てくる。

  本レポートでは、USMCAの内容と背景を整理すると共に、最も大きな影響が及ぶと予想されるメキシコの自動車業界に焦点をあてて最近の状況を報告する。


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