CES 2018:自動運転とHMIの技術展示
モビリティとユーザーエクスペリエンスを向上する最先端テクノロジー
2018/02/05
要約
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CES展示会場入口 |
CES 2018は、2018年1月9日から12日まで米国ネバダ州ラスベガスにおいて開催された。160件余の自動車関連の展示に約30万平方フィートが充てられ、自動車関連の展示はこれまでのCESで最大規模となった。近年、CESでは自動車メーカーや部品メーカーがこぞって、新たな顧客開拓に向けて発表・展示を行うため、自動車関連の展示が急増している。
CES 2018におけるOEMの展示では、ユーザーの安全と生活の質を改善する自律的でインテリジェントな技術の利用が重要なテーマの1つとなっていた。トヨタは利便性を向上させるインテリジェントな自動運転モビリティのコンセプトを出展。Fordの展示は、リビングストリートコンセプトとそれを支える自動車技術を展示することにより、生活空間の進化に焦点を当てた。一方、現代と日産は販売モデルにすでに搭載もしくはまもなく搭載される運転支援技術を強調した。
自動車メーカーはまた、ユーザーエクスペリエンスがより楽しくなるインターフェイスシステムを多数展示。Mercedes-Benzは新しいインターフェイスシステムのMBUX (Mercedes-Benz User Experience)を発表、ビジュアル効果と容易な操作を兼ね備えた設計としている。起亜はNiro EV Conceptのテクノロジーを紹介する2つのコックピットデモを置き、現代のコックピットデモもユーザーエクスペリエンスを向上させる技術を紹介していた。
CES 2018における自動車メーカーの展示を中心にまとめた2本のレポートのうち、本稿ではモビリティの向上に利用される自律的かつインテリジェントな技術アプリケーションと、新しいユーザーインターフェイス、HMI (human-machine interface)に焦点を当てる。もう1本のレポートは、EVおよび環境対応車の技術について報告する。
関連レポート:
CES 2018:EV普及促進へ (2018年2月)
Daimler:2025年までに世界販売の15-25%をEVへ (2018年1月)
日産:自動運転時代を見据えたコネクテッド戦略 (2018年1月)
自動運転技術:日米欧OEMの取り組み状況 (2017年12月)
東京モーターショー2017:センシング技術、先進HMIほか、自動運転向けシステム (2017年11月)
東京モーターショー2017:日産・ホンダ・三菱自の出展 (2017年11月)
東京モーターショー2017:トヨタの多彩な出展 (2017年11月)
未来のモビリティに向けた自動運転技術と人工知能(AI)の利用と恩恵
トヨタ Concept-i Series、e-Palette Concept Vehicle、Platform 3.0
CES 2017で初公開したConcept-愛iは、車に搭載された人工知能 (AI) システムがユーザーのニーズに対応することにより、個人のモビリティを改善できる例を示したものである。CES 2018では、トヨタはConcept-愛i Seriesを出展し、このコンセプトを進化させた。トヨタの展示には、Concept-愛iのシミュレータも含まれる。シミュレータはユーザーの好みに基づき、アクティビティやお勧めスポットを提案し、ユーザーとの会話やユーザーの感情を追跡することにより、適切な提案を行う。Concept-愛iは自動運転で走行中に、このような提案を提供してくれる。またトヨタは、都市モビリティ用に開発し、自動運転機能を備えた小型車Concept-愛i RIDEと、歩道を走行可能な一人乗りのモビリティConcept-愛i WALKも出展した。Concept-愛i Seriesのすべての車は、AIエージェントを使用してユーザーと対話する。
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Toyota Concept-i interior | Toyota Concept-i simulator |
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Toyota Concept-i RIDE | Toyota Concept-i WALK |
CES 2018において、トヨタは新しいモビリティサービス事業のアライアンスe-Palette Allianceを締結すると発表し、e-Palette Concept Vehicleを出展した。アライアンスにはAmazonやPizza Hut等のサービスパートナー、マツダやUber等の技術パートナーが参加する。e-Palette Conceptは自動運転技術を活用したMaaS (Mobility as a Service) に対するトヨタのビジョンを示すもので、完全自動運転、量産、カスタマイズが可能な次世代バッテリーEVである。低床・箱型で3サイズの車両が用意され、宅配、ライドシェアリング、送迎サービスなど様々な用途に応じた設備を搭載する。同ConceptはトヨタのMobility Services Platformを使用して利用データを収集し、ファイナンスオプションや車両メンテナンスをサポートし、無線によるソフトウェアのアップデートを行う。
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Toyota e-Palette Concept Vehicle | Toyota Platform 3.0 |
トヨタは、次世代の自動運転実験車Platform 3.0を出展し、同社の研究成果も紹介した。Lexus LS 600hLをベースとしたPlatform 3.0は、他の自動運転車をリードする認識能力を備え、スムースでエレガントなデザインを保持し、容易に量産できるように開発されている。認識範囲が200メートルのLuminar 社製LIDARシステム4つを車両の周囲に配置し、360度を監視。これを、車両の周囲に装着した4つの短距離LIDARが補う。さらに、8つのレーダーシステムと複数のカメラを搭載する。Platform 3.0のテスト車の生産は、ミシガン州York Townshipにある試作車開発センターで2018年春に開始される予定。
Ford Living Street
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Ford CES 2018 Living Street の展示 |
FordのCES 2018における展示の中心は、未来のLiving Streetのコンセプトである。Living Streetが目指すのは、車の通行にのみ使用される道路の領域を減らし、スマートビークルにより人と車が共存できるエリアを拡大することである。Fordの展示は、モビリティを改善するために同社が行った研究と協業の成果を示した。たとえばFordは、スマートフォン向け半導体大手のQualcomm Technologiesとの協業により、Cellular Vehicle to Everything (C-V2X) 技術を利用する次世代テレマティクスプラットフォームを開発している。これは、自動車と他の自動車、歩行者、インフラ、ネットワークとの通信を可能にする技術である。
Fordは、車のシートのような形状のカバーでドライバーを覆い隠す自動運転実験車を展示した。Virginia Tech Transportation Instituteと共同開発したこの車は、無人運転車に歩行者がどう反応するかを調べるために使用されたものである。この実験から、Fordは車の意図を伝えるメッセージスクリーンを使用した人と歩行者の間のインターフェースを開発した。出展されたもう1台の実験車は、FordとDomino's Pizzaの協業によるもので、自動運転車をフードデリバリーに利用する方法を調査した。Fordは地域のオンデマンド配送に携わるロジスティックス会社のPostmatesとも提携しており、2018年に試験的プログラムを実施して、自動運転車が配送サービスに与える影響を調べる予定。
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Ford および Virginia Tech 実験車両 | Ford および Domino's Pizza 実験車両 |
現代 Nexo ADAS機能
CESで初公開された現代自動車の燃料電池車Nexoは、自動運転機能を拡大した運転支援システムを搭載する。これには、Nexoの後方と側方を同時にセンタークラスターに映し出す、業界初のBlind-spot View Monitor (BVM) が含まれる。Nexoの両側に搭載されたサラウンドビューカメラが、車の死角の画像を提供する。Hyundaiの新装備Lane Following Assist (LFA) システムは、時速90マイルまでNexoを走行車線の中央に維持する。Highway Driving Assist (HDA) システムはセンサーとマップデータを使用して、限定範囲内で自動運転機能を補助する。最後に、Remote Smart Parking Assist (RSPA) は、ドライバーが乗車していなくても駐車場への駐車・出庫を行うことができる。
日産 ProPILOT Assist
日産がCES 2018に出展したモデルは、同社のIntelligent Mobility戦略のテーマであるIntelligent Drivingに焦点を当てている。中でも日産が重視しているのは、2018年型Rogueと2018年型Leafに搭載されたProPILOT Assistである。Leafは、ProPILOT Assistとe-Pedalシステムに対し、Consumer Technology Association (CTA:全米民生技術協会、CESの主催) から「Vehicle Intelligence and Self-Driving Technology」カテゴリーにおける「2018 Best of Innovation Award」を受賞した。また、やはりCES 2018に出展した日産IMxコンセプトはProPILOTの進化バージョンを搭載しており、完全自動運転機能と手動・自動モードの切替機能を有する。
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Nissan Rogue | Nissan ProPILOT application display |
LeafとRogueに搭載されたProPILOT Assistは、前方監視カメラ、前方監視レーダー、センサーと高度な画像処理技術を組み合わせ、高速道路での同一車線走行を支援する。このシステムは車両を走行車線の中央に維持し、一定の速度または先行車との一定の距離を維持するよう設定することができる。先行車が停止すると、ProPILOT Assistはドライバーが操作しなくても車両を停止させる。車の往来が再開すると、ドライバーはスイッチを押すかアクセルペダルを軽く踏むことにより、ProPILOT Assistを再作動させることができる。すべてのプロセスにおいて、ドライバーはステアリングを回すかブレーキをかけることにより、ProPILOT Assistの機能を停止することができる。
ホンダ ロボティクスのコンセプト
ホンダは従来のような乗用車の展示ではなく、生活の質を高めるために人と共働するように設計された複数のロボティクスデバイスを出展した。3E-D18はオフロードを自動走行できる電動車で、用途は探索、救助、消防、建設、農業など。自動運転機能と多様なアタッチメントを装着できる機能により、ハイリスクな環境で人の作業時間を最小限にし、人の代わりに時間のかかる作業に従事する。3E-B18は最小回転半径が小さく、シートの高さを調節でき、床に占める面積が小さいため、パーソナルモビリティを進化させる乗り物である。スーツケースやバッグを運搬することもでき、ホンダの着脱可能な可搬式バッテリーMobile Power Packを動力源とする。
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Honda 3E-D18 Robotic Concept | Honda 3E-B18 Robotic Concept |
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Honda 3E-C18 Robotic Concept |
最後に、3E-C18は移動可能なプラットフォームとして人々を支援する。機器や器具、天蓋等を保管するスペースがあり、アーティストや企業家、小規模事業主等の活動をサポートする。また、このプラットフォームは人工知能 (AI) システムを搭載しており、他の人々を観察して学習し、自律的に動くことができる。
利便性を高めるユーザーインターフェースとHMIシステム
Mercedes-Benz MBUX User Interface
Mercedes-BenzはCES 2018において、Mercedes-Benz User Experience (MBUX) と称するインターフェースを公開した。NVIDIAと共同開発したMBUXは、最新世代のグラフィック処理装置を使用して、ダッシュボードに搭載された2つのディスプレイに高精細なグラフィックや3Dアニメーションを映し出す。デジタルインスツルメントクラスターはすべてカスタマイズ可能で、様々な情報を表示する。オペレーティングシステムは、情報密度の異なる3つのレベルで構成される。
- ホームスクリーン:ラジオ、電話、ナビゲーションなど自由に選択できるアプリケーションと、現在重要な情報とを組み合わせて使用する
- ベーススクリーン:メディアまたはマップなど特定のアプリケーションのためのディスプレイとコントロールに使用
- サブメニュー:まれにしか使用しない詳細情報や設定に使用
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Mercedes-Benz MBUX User Experience system | Mercedes-Benz MBUX User Experience system |
MBUXの操作は、自然言語を認識する音声コントロールと、タッチスクリーン、タッチパッド、タッチコントロールボタン等のタッチコントロールで行うことができる。自然言語を理解するため、「Raise the temperature two degrees (温度を2度上げて) 」というような定型コマンドの代わりに、「I feel cold (寒いなあ) 」という文でもシステムは適切に反応する。操作や機能設定の一部は、車両を描いた3D動画を一度タッチするだけで変更可能。グローバルな検索エンジンを使用して、MBUXの特定機能や興味のある事柄に関する一般的な情報を探し出すことができる。また、MBUXは人工知能 (AI) を利用し、ユーザーの行動パターンに基づいてアクティビティを提案する。たとえば、ドライバーが毎日一定時刻に特定のラジオ局の番組を聞いているなら、MBUXはラジオ局を提案する。最後に、MBUXは、将来の利用のために保存できるユーザーのプロフィールにより、個人別の設定が可能である。
MBUXは、2018年内に投入される予定の新型A-Classに初搭載される予定。
起亜 インタラクティブコックピットのデモンストレーション
起亜は、Niro EVコンセプトの技術を利用した2つのインタラクティブコックピットユニットを出展した。1つ目のコックピットユニットは、Niro EVコンセプトの新しいマンマシンインターフェース(HMI)を搭載する。インフォテインメントシステムとHVACシステムはいずれも、タッチコントロールまたはジェスチャーコントロールで操作が可能。たとえば、ステアリング中央をスワイプすれば、ミュージックトラックを変更できる。デジタルダッシュボードは、車両設定やパワートレインの状態など付加的な情報を伝える。さらに、このコックピットはAmazon Web Servicesと共同開発した顔および音声認識技術を採用しており、ドライバーを認識して、あらかじめ個別に設定された通りに個人認証設定を変更する。
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Kia Niro EV Concept Cockpit demonstrator | Kia 5G Concept Cockpit demonstrator |
起亜の2つ目のコックピットコンセプトは、SK Telecomと共同開発した世界初の車載5G通信接続を紹介し、ソウルとラスベガスをリアルタイムで結んでみせた。このコックピットは5G通信接続により、HDコンテンツを車載インフォテインメントシステムへ高速でダウンロードおよびストリーミングし、他の車と情報を共有することができる。また、Niro EVコンセプトのSeparate Sound Control Systemも搭載しており、前席と後席の乗員が同時に別々の音楽またはポッドキャストを聞くことができる。これは、ヘッドレストに組み込まれたスピーカーとノイズキャンセレーション技術によって可能となった。
日産 Brain-to-Vehicle テクノロジー
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Nissan Brain-to-Vehicle technology デモンストレーション |
日産は、脳波測定による運転支援技術Brain-to-Vehicleを紹介するデモンストレーションユニットを出展。主に2つの用途を紹介した。Brain-to-Vehicle技術は、ドライバーの脳波を分析することにより、ブレーキをかける、あるいはステアリングを回すといったドライバーの次の運転操作を予測する。該当する脳の行動準備電位が検出されると、実際に行動が起こる前に運転支援システムが支援を開始し、反応時間を短縮する。この技術はドライバーのストレス検出にも使用され、ドライバーの状態に合わせて車両の設定を変更する。同システムは、自動車の動きに伴い新しいデータを受信するため、常にアップデート・改良され続けている。たとえば、ドライバーの脳の行動準備電位が、ブレーキをかけようとしていることを示唆しても、実際にはブレーキをかけなかった場合、システムは今後の行動のために新しいデータを使って自動でアップデートする。
Jeep Wrangler 車載インフォテインメントシステム
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Jeep Wrangler 内装 |
FCA USはCESにおいて2018年型Jeep Wranglerを4台展示し、その車載インフォテインメントシステムを紹介した。新型Wranglerは4世代目のUconnectシステムを採用し、8.4インチのディスプレイ、4G LTE接続サービス、Apple CarPlayおよびAndroid Autoのスマートフォン連携機能を搭載する。また、FCAは下記のような新しいUconnectサービス・機能を紹介した。
- スマートウォッチと互換性があるアプリ
- Family Alert機能:ユーザーが設定した境界線、門限、速度制限を超えるとユーザーに通知する
- オンライン検索機能:セルラー通信によりクラウドから得られた結果を利用する
- 音声認識技術Amazon AlexaをJeepに搭載することにより、複数の機能が音声コマンドで操作可能
このほか、FCA USのブースでは、Amazon AlexaとGoogle Assistantのhome-to-car接続のデモンストレーションが行われた。これら2つの機能は、2018年にJeep Wranglerで利用可能となる予定。
現代 Intelligent Personal Cockpit デモンストレーション
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Hyundai Intelligent Personal Cockpit demonstrator room |
現代自動車のIntelligent Personal Cockpitのデモンストレーション用ユニットは、人工知能 (AI) やIoT等のコネクティビティ技術がドライバーをどのようにサポートするかを紹介した。このコックピットはSoundHoundの音声認識技術を利用して、車載機器やCar-to-Home機能の操作を行う。特に注目されるのは、このシステムが1文中の複数のコマンドを認識・処理できることである。また、このコックピットは、次の飛行機のフライトの出発時刻を教えるなど、ドライバーのニーズを予測してドライバーをアシストする。さらに、ステアリングと運転席のシートに設置されたセンサーにより、コックピットはユーザーのストレスレベルを検知し、照明や音楽によってリラックスできる雰囲気を創出し、緊急の場合は医師のところへ連れて行く。最後に、Hyundai傘下のスタートアップ企業Tune!tは、IoTを通じてコックピットを個人の好みに合わせて変更するSmart Tuning Packageを開発した。
サプライヤーの展示
Bosch、Hyundai Mobis、Magneti Marelli、三菱電機、Motherson Innovations、パナソニック、ZFなど、多くの部品メーカーがHMIおよびコックピットコンセプトを出展した。パナソニックは、さまざまなレベルの自動運転向けに設計されたコックピットコンセプトをいくつか展示していた。Magneti Marelliは4つの異なるディスプレイと1つのディスプレイから他のスクリーンに情報を転送する機能を備えたコックピットコンセプトを出展。現代Mobisは自動運転車のためのドライバーを強調しない次世代HMIコックピットコンセプトを提示していた。Motherson Innovationsは、ドライバーのニーズに適応するシステムを備えた共感型コックピットコンセプトを出展。ZFは様々なADAS機能のコントロールを簡素化することを強調したConcept 2020コックピットを披露した。
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パナソニック Living Space Autonomous Cabin concept | 現代Mobis 次世代HMIコンセプトのデモンストレーション |
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Magneti Marelli HMI Cockpit Concept | 三菱電機 EMIRAI4 Smart Mobility Concept |
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キーワード
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