欧州市場:2050年の脱炭素を目指し、2035年に内燃機関車の販売禁止へ

EVバッテリーの域内生産を拡大、2020年のEV販売は倍増の75万台

2021/08/11

要約

  欧州連合(EU)の欧州委員会は2021年7月14日、2050年までに域内の温暖化ガス排出を実質ゼロとするため、具体的な措置をまとめた包括案「Fit for 55」を公表。運輸部門については、自動車のCO2排出基準の厳格化が必要であるとして、排出量を2030年までに2021年比55%削減、2035年までに100%削減を目標とする。そのため、2035年にはハイブリッド車(HV)を含むガソリン車など内燃機関車の新車販売を実質禁止する。

  欧州自動車工業会(ACEA)に加盟する自動車メーカーは、「現時点で特定の技術を禁止するのは合理的ではない」と反発する一方、代替燃料インフラ整備に関する規則制定については歓迎している。

  各国政府は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた自動車産業に対し、2020年5-6月から需要喚起策を実施。電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)に購入補助金を支給して電動化を推進してきたが、ドイツ、フランス、英国等では2021年以降も購入支援策を継続している。

  電動車の普及には重要部品であるバッテリーの供給確保と価格の引き下げが必要不可欠である。欧州の各自動車メーカーは、EVの原価の30-50%を占めるとされるバッテリーの自社開発・生産を進め、バッテリーのコスト削減と供給確保を図っている。

  欧州における電動車の販売(EV、PHV、HV)は2020年に大幅に増加し、EVは前年比107%増の74.6万台、PHVは210%増の61.9万台、HVは51.3%増の144.8万台となった。しかし、販売台数に占める割合は、EVが6.2%、PHVが5.2%、HVが12.1%にとどまっている。各自動車メーカーはCO2排出規制目標を達成するため、EVやPHVモデルの投入を拡大している。

  欧州30カ国の2020年の乗用車販売は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で前年比24.5%減の1,196万台となった。2021年1-6月は前年同期比27.1%増の649万台となったが、コロナ前の2019年1-6月(843万台)と比較すると200万台近く下回っている。

  欧州17カ国の2020年の乗用車生産は前年比25.3%減の1,176万台。2021年1-5月は前年同期比35.5%増の529万台。2019年1-5月と比較すると24.5%減となった。半導体供給不足で工場休止や減産が実施され、生産はまだコロナ前の水準に戻っていない。

欧州の電動車販売台数の推移 EV e-tron GT
欧州の電動車販売台数の推移
(出典:ACEAデータをもとに作成)
Audiの新型スポーツクーペのEV e-tron GT
(出典:Audi)


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