Ford(下)欧州と中国で合理化進捗と積極的な商品強化が徐々に奏功

欧州は商用車強化と電動化、中国はSUVの新車と現地生産化で収益改善を図る

2020/11/20

要約

SUV Territory
中国市場に投入したSUV Territory(領界)
(2020年北京モーターショーに出展)

  Fordは欧州で生産体制合理化などリストラ策の実行によるコスト削減を進めると共に、強みである商用車とハイブリッドなど需要の高まる電動車のラインアップ拡充を進める。EV導入は提携先Volkswagenのプラットフォーム活用を計画する。

  販売縮小と大幅赤字が続いていた中国では、現地提携企業との連携を強化し、2019年以降立て続けに現地生産SUV車種の新規投入を行った。商品ラインアップ刷新の効果が2020年に入ってからの販売、収益の回復傾向として現れてきた。

  2020年のFordのグローバル収益は、前半に世界的な需要縮小の影響を大きく受けたが、第3四半期(7~9月)に各地域の経済回復に助けられて収益改善を果たし、2020年通期の業績見通しを上方修正した。

  Fordグループの中期的な生産台数(~2023年)の予測では、2020年の落ち込み後漸増し2023年には537万台(対2019年4.9%増)となると見込む。成長は米国と中国が牽引し、欧州では西欧から東欧への生産シフトが予想される。

  本レポートは、北米と新経営体制について報告した既掲載のFord(上)の後編として、Fordの欧州、中国市場の状況、並びに最新の企業業績を報告すると共に、LMC Automotiveによる最新の中期グローバル生産台数予測を掲載する。


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欧州:リストラと並行して、商用車と電動化ラインアップの拡充を進める

2018年からの合理化で10億ドルのコスト削減を実現

  Fordは2019年初頭に発表した欧州事業の再建計画「Roadmap to Sustainable Profitability」の中で、不採算車種の整理と併せ、2020年末までに欧州の6工場の閉鎖または売却と、12,000名の従業員削減を含むリストラ計画を打ち出し、実行に移してきた。

  10月末に発表された2020年第3四半期の決算報告では、欧州事業のリストラ計画の進捗により、2018年からこれまでで10億ドルのコスト削減が実現したと体質改善の成果が強調されている。2019年通年の欧州事業のEBIT(調整後金利税引前利益)は、前年の3億9,800万ドルの赤字からブレークイーブンに近い水準(4700万ドルの赤字)まで3億5100万ドルの改善を果たしたが、2020年の第3四半期まで(1~9月)の欧州EBITは、コロナ禍による販売減とCクラスSUV Kugaのプラグイン・ハイブリッド車(PHV)の品質問題に起因する費用負担が大きく影響し、売上は10%減、EBITは12億4,700万ドルの大幅赤字(前年同期は5,100万ドルの黒字)となった。

  Kuga PHVは、バッテリーが過熱する問題で2020年6月までに生産された20,808台の車両がリコールとなった。Fordは、影響額は第3および第4四半期で5~6億ドルになり、Kugaの品質問題がなければ、第3四半期(7~9月)は黒字になっていたとしている。

  また、これによる同モデルの販売停止で2020年のEUの排気基準の達成が困難になり、VolvoとのCO2排気プール(排気量の融通)の判断に至る要因となった。上記の影響額にはこの排気プールの費用も含まれている。

 

商品戦略:ほぼ全ての車種に電動化バージョンを設定

  Fordにとって欧州市場は、卸売ベースでグローバル販売台数の23%(第3四半期報告1~9月実績)を占め、北米に次ぐ販売規模を持つ市場である。Fordは欧州市場で戦略的に重要な商品グループを、

  • 商用車
  • 欧州生産の乗用車
  • ブランドを象徴する輸入車

  の3つとし、それらに資源を投入する方針を掲げている。

 

<商用車>
Transit Custom
Transitの1トンクラス「Transit Custom」(出典:Ford)

  Fordは欧州のNo.1商用車メーカーであり、同社は、欧州の商用車市場でのシェアが第3四半期(7~9月)に15.1%に達した(全セグメントでのシェアは7.6%)としている(2020年第3四半期業績報告、欧州は主要20市場)。また同期間のFordの販売台数の32%が商用車で、宅配の増加トレンドに支えられ需要拡大が加速しているという。

  Fordの商用車販売の主体は、商用バンのTransitシリーズで、積載荷重0.5トンクラスの小型(Transit Courier/Connect)から、同2トンクラス(Transit)までを取り揃える。最量販の中型1トンクラス(Transit Custom)ではディーゼル・マイルド・ハイブリッド(HV)とPHV、Transitではディーゼル・マイルドHVの設定がある。また様々な商用ユーズに向けた仕様や、更なる高負荷に対応できるシャシーキャブも用意されている。

  2020年6月に発表されたFordとVWの提携拡大合意によると、VWのミニバン新型Caddyをベースにした都市型デリバリーバンを、早ければ2021年に発売するとしている。Caddyは2020年2月に初公開されたVWの主力小型商用バン/MPVの新型車で、計画通りであればVW提携による最初の成果が商用車ラインアップの強化に活かされることになる。
VWとの提携詳細についてはFordレポート(上)を参照方

 

<欧州生産乗用車>
Fordの西欧販売構成
Fordのモデル別 西欧販売構成
(出典:マークラインズ Fordの販売台数データより作成)

  Fordの欧州の主力車はFocus(Cクラス。5ドア)とFiesta(Bクラス。3/5ドア)で、両モデル合計で全Ford販売の1/3以上(西欧17カ国、2020年1~9月で36%)を占める。AクラスのKaとCクラスMPVのC-MAXの販売を2019年に終了し、2019年10月にCクラスのSUV風クロスオーバーPumaの生産がルーマニアのクラヨバ(Craiova)工場で開始され、2020年から販売が始まった。

  Fordは2020年1月に、欧州向け乗用車の新たなブランド方針「Bring on Tomorrow」を発表した。

  同社はその中で2020年末までに14種類の電動化車両を欧州市場に投入し、将来的には発売される乗用車をすべて電動車にすると表明した。

  新ブランド方針のもと、変化する市場と技術をイノベーションでリードする企業というイメージを前面に打ち出すマーケティング・キャンペーンを展開する。それを具現化するモデルとしてMustang Mach-Eを始め、新規投入Puma、2020年4月に発売された新型Kugaなどを前面に打ち出す。KugaにはPHV、フルHV、マイルドHVのエンジンタイプが設定され、Kugaを「Fordで最も電動化されたモデル」としている。

  Fordは、Pumaに設定されたEcoBoost 48VマイルドHVバージョンが、同モデルの2020年第3四半期販売の74%を占めたと報告している。

 

Ford Puma Bring on Tomorrow広告
2019年10月新発売のFord Puma Mustang Mach-Eを前面に出した「Bring on Tomorrow」広告

(出典:Ford)

 

  2020年1月には、電動化戦略を進めるために、スペインのバレンシア (Valencia)工場での、Sマックス ハイブリッド (S-MAX Hybrid)」と「ギャラクシー ハイブリッド (Galaxy Hybrid)」の生産、並びにバッテリー組立工場立ち上げに4,200万ユーロを投資すると発表した。5~7座席MPVのS-MAX/GalaxyのHVバージョンは2021年前半に導入される予定で、これによりFordの欧州生産ブランドはEcoSport(ルーマニア工場製)を除き電動車の設定を持つことになる。

  欧州生産車のEV導入については、VWのMEB(Modular Electric Drive)プラットフォームを使って設計・開発するFordブランドのEVを2023年までに発売する計画を発表しており、ラインアップのゼロエミッション化にVWとの提携を活用する。

 

<輸入車>

  スポーツクーペのMustang、P/UトラックのRangerなど、Fordのイメージを牽引する車種を揃える。2019年末にはExplorerがSUVラインアップの上級モデルとして導入され、2020年5月にはPHVバージョンが追加された。輸入車全体の台数規模は大きくないが、「2024年までに販売規模を3倍に増やす」(2019年初頭に発表した欧州再建計画)としている。現在予約注文受付け中のEVであるMustang Mach-Eは、メキシコCuautitlan工場で生産され、2020年内の発売が予定されている。

  EUはCO2の排出規制を強化しており、2021年から段階的に導入される新たな規制では、新車のCO2排出の基準量を達成できないメーカーへの罰金が課される。OEM各社の積極的な取り組みにより、EVなど環境対応車の市場でのシェアが2019年以降急増している。

 

Fordの西欧販売台数(主要モデルと主要市場)

通年比較 1-9月比較 構成比
モデル名 車型クラス (3) 2018年 2019年 増減% 2019年 2020年 増減% 2020/
1-9月
主要
モデル別
Ka A-Car 48,170 49,448 2.7% 35,281 57 -99.8% 0.0%
Fiesta B-Car 260,873 222,469 -14.7% 175,271 117,001 -33.2% 17.8%
Focus C-Car 172,124 206,900 20.2% 165,711 121,508 -26.7% 18.5%
Mondeo D-Car 43,264 34,640 -19.9% 27,906 13,400 -52.0% 2.0%
EcoSport B-SUV 105,393 114,171 8.3% 89,756 38,850 -56.7% 5.9%
Puma C-SUV - 251 - 8 73,546 - 11.2%
Kuga C-SUV 144,049 149,226 3.6% 99,680 53,388 -46.4% 8.1%
C-MAX (1) MPV 51,932 30,122 -42.0% 26,311 111 -99.6% 0.0%
Galaxy/S-MAX MPV 34,030 34,938 2.7% 28,418 15,154 -46.7% 2.3%
Ranger P/Uトラック 30,653 30,606 -0.2% 22,977 18,871 -17.9% 2.9%
Transit (2) バン/ワゴン 228,197 238,563 4.5% 184,348 138,397 -24.9% 21.1%
その他モデル 129,094 117,423 -9.0% 88,865 66,965 -24.6% 10.2%
Ford 合計 1,247,779 1,228,757 -1.5% 944,532 657,248 -30.4% 100.0%
市場別 英国 382,175 354,856 -7.1% 283,706 186,780 -34.2% 28.4%
ドイツ 302,114 333,430 10.4% 252,157 171,979 -31.8% 26.2%
イタリア 150,241 144,139 -4.1% 106,845 77,154 -27.8% 11.7%
フランス 113,725 111,342 -2.1% 83,769 62,226 -25.7% 9.5%
スペイン 91,756 83,756 -8.7% 61,601 36,642 -40.5% 5.6%
その他西欧 207,768 201,234 -3.1% 156,454 122,467 -21.7% 18.6%

出典:マークラインズ Fordの販売台数データより作成
注:(1) Grand C-Max含む。
(2) Connect/Courier/Customを含む。Tourneoは含まない。
(3) Car/SUVの区分はFordウェブサイトによる。
(4) 上表で西欧に含むのは、主要5カ国(英国、ドイツ、イタリア、フランス、スペイン)と、オランダ、ベルギー、ルクセンブルグ、デンマーク、アイルランド、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、オーストリア、スイス、ポルトガル、ギリシャの計17カ国

 



中国:現地生産のSUVラインアップ強化により長期凋落に歯止め

2020年第3四半期の販売は25%増

  世界最大の自動車市場となった中国は、Fordにとっても国単位では米国に次ぐ売上規模を持つ。同社の中国事業は、長安汽車との合弁会社である長安FordによるFord車の製造・販売を主軸に、江鈴汽車(JMC)との共同開発によるFord/JMCブランド車の製造・販売を行う。

  自動車需要の頭打ちと米中貿易摩擦の逆風に加えて、Fordは新車投入の遅れと商品の魅力不足が顕著で、2016年前後に100万台レベルに達した中国の販売台数は急激に減少し、2019年には56.8万台(対前年では26.1%減)となった。しかしながら2019年以降のSUVの新車投入や現地生産化が奏功し、最新のFordの発表では、2020年第3四半期(7~9月)の販売実績(JMCブランド車含む)は前年同期比25.4%の大幅な増加となる16.4万台となった。その内、Fordブランドは8.7万台(同12.5%増)、Lincolnブランドは1.9万台(同64.8%増)。

  収益的には、2018年に15億ドルを超える大幅赤字であったEBITを、リストラ費用の縮小等により2019年には7.7億ドルの赤字まで改善し、2020年には市場回復と商品投入の効果に支えられ、1~9月で4.4億ドルの赤字と、徐々にではあるが赤字幅を縮小している。

 

商品戦略:2019年新規投入SUVのEscapeとTerritoryが新たな主力車に

Ford/Lincolnブランド中国販売構成
Fordのモデル別 中国販売構成
(出典:マークラインズ Fordの販売台数データより作成)

  Fordの中国市場での販売は小型セダンが中心であったが、2019年以降SUVの新型車を立て続けに投入し、市場のトレンドに対応する商品力の強化が増販につながっている。

  長安汽車とFordは2019年9月末に戦略提携深化の合意書に調印すると共に長安Fordの「加速計画」を発表し、同社の開発能力増強、Ford/Lincolnブランド新型車の国産化、新エネルギー車の投入を加速させる方針を打ち出した。その方針を具現化する形で、2019年にはCクラスSUVの Focus (福克斯)ActiveとEscape(鋭際)(それぞれ8月と12月)、2020年6月にDクラスSUVのExplore (探検者)を発売した。加えてLincolnブランドも中国生産を開始し、2020年にDクラスSUVのCorsair(冒険家)とEクラスSUVのAviator(飛行家)を発売した(それぞれ3月と7月)。

  また、2019年1月に江鈴汽車の開発・製造によるSUV Territory(領界)が発売され、8月に同モデルのEVバージョンが追加された。

  現在のFordブランドのモデル別販売を見ると、Escort(福睿斯)、Focusなどの基本乗用車に加え、SUV比率が高まり、Escape、Territoryなどの新規車が主力ラインアップの一部になっている(下表参照)。LincolnブランドはFordの中国販売の約2割を占めており(2020年1~9月で19.5%、米国市場でのLincoln比率は同時期で約5%)、これまで輸入モデルのみであったLincoln車の現地生産化が中国市場での拡販の牽引力となっている。

 

Ford/Lincoln車の中国販売構成(2020年1~9月実績)

販売 (2020年1-9月) 補足(台)
モデル名 車型 台数 構成比
Ford
中国生産車
Escort C-基本乗用車 30,411 14.9%
Focus C-基本乗用車 26,761 13.1% 内)Active 2,700
Mondeo D-基本乗用車 17,410 8.5% 内)PHV 2,793
Taurus D-基本乗用車 6,337 3.1%
Escape SUV (Class C) 23,680 11.6%
Kuga SUV (Class C) 5,714 2.8%
Edge SUV (Class D) 17,965 8.8%
Territory SUV (Class D) 22,931 11.2% 内)EV 122
Explorer SUV (Class D) 8,863 4.3%
その他中国生産 1,902 0.9%
Ford 輸入車計 2,609 1.3% 内)Mustang 2,190
Fordブランド計 164,583 80.5%
Lincoln
中国生産車
Corsair SUV (Class D) 18,895 9.2%
Aviator SUV (Class E) 3,019 1.5%
Lincoln 輸入車計 18,021 8.8% 内)Nautilus 5,840
Lincolnブランド計 39,935 19.5%
Ford/Lincolnブランド合計 204,518 100.0%

出典:マークラインズ Fordの販売台数データより作成
注:台数は小売登録台数

 

2019年以降に発表、発売された主な車種

車名 車型 発表時期 説明
Fordブランド
Territory
(領界)
SUV (Class D) 2019年1月 Fordと江鈴汽車が中国の消費者をターゲットとして共同開発した多機能SUV。1.5L EcoBoost145 直噴ターボエンジンを搭載し、CVTを組み合わせる。48Vマイルドハイブリッドバージョンの設定がある。
中国生産のSUVとして初めてCo-Pilot360安全支援パッケージを搭載している。江鈴汽車の小藍工場で生産。
Territory
(領界) EV
SUV (Class D) EV 2019年8月 中国市場向けの初投入となるEVで、2019年4月に発表した「Ford中国2.0計画」における新エネルギー車(NEV)第1弾となるもの。NCM622角形三元系リチウムバッテリーを搭載し、NEDC航続距離は435km。
Focus
(福克斯) Active
SUV (Class C) 2019年8月 FocusベースのクロスオーバーSUV。1.5L 4気筒ターボエンジンを搭載する。長安Fordの杭州工場生産。米国への輸出が計画されたが、トランプ政権が課した25%の関税により計画は中止となった。
Escape
(鋭際)
SUV (Class C) 2019年12月 新規投入車。第4世代EcoBoost 2.0Lツインスクロール・ターボエンジンを搭載。SYNC+インフォテインメントシステム等が標準装備。一部のモデルには運転支援システムCo-Pilot360が搭載される。長安Fordの重慶第2工場で生産。2020年にはTerritoryと共にFordのSUVの最量販車となった。
Explorer
(探検者)
SUV (Class D) 2020年6月 モデルチェンジに合わせ中国で現地化。6人乗りと7人乗りが選択可能。2.3L ターボエンジンを搭載し、SYNC+インフォテインメントシステムを標準装備する。
Lincolnブランド
Corsair
(冒険家)
SUV (Class D) 2020年3月 Lincolnブランド初の中国生産車。2.0Lターボエンジンが標準。長安Fordの重慶第2工場で生産。発売後販売台数を伸ばし、2020年の増販に大きく貢献。
Aviator
(飛行家)
SUV (Class E) 2020年7月 Lincolnブランドの2モデル目の中国生産車。中国独自の黒色のフローティングルーフによるダイナミックな外観。3列シートで、6/7人乗りのレイアウトが選択可能。長安Fordの杭州工場で生産。

参照先:マークラインズ 車種別投入計画 - フォード中国販売モデル

 

Territory EV 新型Escape
江鈴汽車との共同開発による新型SUV Territory(領界)のEVバージョン 新型Escape(鋭際)

(出典:Ford)



南米:生産体制再編を進め赤字縮小を図る

  Fordは南米で生産体制の合理化、再編を進めており、操業を縮小して大型トラックの生産を残していたSao Bernardo do Campo工場を2019年10月に閉鎖した。南米のフォード車の車両生産工場は、KaとEcoSportの両モデルを生産するブラジルのCamacari工場とRangerを生産するアルゼンチンのPacheco工場となっている。2020年11月10日には、ウルグアイの商用車生産会社のNordexと共同で2021年に商用バンTransitをウルグアイで生産開始する計画を発表した。南米市場で成長の見込めるセグメントでの競争力強化を図る。

  また、2020年9月から、中国の江鈴汽車が生産するSUVのTerritoryの輸入販売が始まっている。

  Fordの南米事業は赤字が続いており、2019年通期は7億400万ドルのEBIT赤字となった。2020年第3四半期まで(1~9月)では、3億6,800万ドルのEBIT赤字だが、対前年で改善(1億5,900万ドル赤字減少)を見せている。Fordはインフレと通貨下落の逆風の中で、販価改善とコスト削減の成果が表れているとしている。

 



グローバル収益:2020年第3四半期は改善し、通年見通しを上方修正

  Fordが10月28日に発表した2020年第3四半期(7-9月期)の決算は、売上高が前年同期比1%増の375億ドル、調整後EBIT(金利税引前利益)は前年同期の2倍となる36.4億ドル、純利益は同5.6倍となる23.9億ドルで、いずれも黒字となった。

  第2四半期は卸売台数が前年同期に対し半減したが、第3四半期は5%減の117.8万台まで急回復し、2020年1~9月では、減少幅を27%減に縮めた。新型Kuga PHV車の品質費用が発生した欧州を除き、いずれの地域も収益(EBIT)が改善しているが、経済の再開と共に利幅の大きいフルサイズ・ピックアップトラックの需要が高まった北米での増収貢献が大きく、利益を全て北米に依存する体質は変わっていない。

  見通しについては、第2四半期業績報告時にEBITで赤字としていた2020年通年見通しを上方修正した。第4四半期に北米で発売する新型車3車種の費用発生で同期の調整後EBITはマイナス5億ドル~ゼロが予想されるものの、2020年通期では6億ドルから11億ドルの黒字と見込んでいる。

 

Fordの決算数値推移

通年実績 1~9月実績 7~9月実績
2018年
1-12月
2019年
1-12月
増減率
(%)
2019年
1-9月
2020年
1-9月
増減率
(%)
2019年
7-9月
2020年
7-9月
増減率
(%)
売上高
(10億ドル)
160.3 155.9 -3% 売上高
(10億ドル)
116.2 91.2 -22% 37 37.5 1%
調整後EBIT
(100万ドル)
7,002 6,379 -9% 調整後EBIT
(100万ドル)
5,894 1,066 -82% 1,793 3,644 103%
内)自動車部門 5,422 4,926 -9% 内)自動車部門 4,711 378 -92% 1,329 2,644 99%
北米 7,607 6,612 -13% 北米 5,912 2,550 -57% 2,012 3,178 58%
南米 -678 -704 -- 南米 -527 -368 -- -165 -108 --
欧州 -398 -47 -- 欧州 51 -1,247 -- -144 -440 --
中国 -1,545 -771 中国 -565 -435 -- -281 -58 --
中東・アフリカ -7 -141 -- IMG(その他) -160 -104 -- -93 72 --
アジア太平洋 444 -23 -- 純利益
(100万ドル)
1,719 1,509 -12% 425 2,385 461%
純利益
(100万ドル)
3,677 47 -99%
 
卸売台数
(千台)
5,982 5,386 -10% 卸売台数
(千台)
4,034 2,949 -27% 1,244 1,178 -5%
北米 2,920 2,765 -5% 北米 2,085 1,541 -26% 639 651 2%
南米 365 295 -19% 南米 222 122 -45% 79 48 -39%
欧州 1,533 1,418 -8% 欧州 1,048 681 -35% 298 239 -20%
中国 732 535 -27% 中国 375 415 11% 134 164 22%
中東・アフリカ 109 94 -14% IMG(その他) 303 191 -37% 93 76 -18%
アジア太平洋 323 279 -14%

(出典:Ford決算資料より作成)


  Fordは、2019年度に大幅に販売と収益が悪化(グローバル販売で対前年10%減、純利益が年金関連費用負担22億ドル反映後99%減の4,700万ドル)し、短命な経営トップが続いたこともあり、成長力や収益性に対する市場からの懸念が示された。2019年9月のMoody’sに続いてS&Pも2020年3月に格付けを「投機的」水準に引き下げている。

  既存モデルの根強い人気と主要市場の回復に助けられて足元の業績は改善傾向を示しているが、大きく変化する競争環境の中で、安定的な収益性と長期的な成長を実現できるかが問われる。

 



LMC Automotive生産台数予測:Fordグループの2023年グローバル生産は2019年比で4.9%増

(LMC Automotive, 2020年10月)

2020年見通し

Fordグループの生産台数予測

  Fordのグローバル販売台数は2020年第2四半期に前年同期に比べマイナス38.2%、52.1万台の減少となった。販売減はすべての地域に及んでいる。原因となった新型コロナウイルスの感染拡大は、第2四半期を通して世界各地でシャットダウンを余儀なくさせ、経済の広い範囲で不確実性が拡大した。新型コロナウイルスの消費行動への影響が年内に収まる見通しが無いことを織り込み、2020年通年の販売台数は2019年に対し18.9%(97.8千台)減少すると予測する。販売減少はあらゆる地域、車型、価格帯に及ぶと思われる。

  第2四半期には多くの国や地域で外出禁止令が出され、さらに新型コロナウイルス感染拡大による需要の大幅減があり、Fordのグローバル生産は第2四半期に前年比マイナス58.3%(約75.7千台)の落ち込みとなった。生産台数減はすべての地域に及ぶが、北米の減少幅が42.5千台と最も大きい。生産が同地域に集中していることも影響の大きかった要因である。Fordの2020年通年のグローバル生産台数は前年比22.0%(約112万台)の減少になると予測される。

  コロナ禍による販売と生産の減少に加えて、Fordには発売計画の遅れの問題も発生している。特に次世代のFord F-150、新規投入のFord Mustang Mach-E、そして新型の Ford Bronco Sportといった注目度の高い新車の発売にいずれも2~3カ月の遅れが生じ、この先2023年までのその他モデルの発売計画も影響を受ける。

 

中期生産台数予測

  2020年の大幅な落ち込みの後の数年間は、世界の自動車需要の回復に合わせてFord全体での生産も徐々に回復すると予想される。Fordグループの2023年の生産台数はグローバルで536.6万台を見込み、これは2019年実績に対して4.9%、2020年に対しては34.4%上回る水準となる。

  台数の増加は、同グループが重点的にリソースを投入する米国と中国が中心となる。米国と中国での生産台数は、2019年から2023年の間にそれぞれ11.0%と48.3%増加すると見込まれる。中国では、SUVモデルであるCorsairとAviator の現地生産をそれぞれ2019年後半と2020年初頭に開始したLincolnブランドが同地域の成長に貢献すると予想される。

  欧州での生産は、西欧(ドイツ、並びにスペイン)から、東欧(ルーマニア、並びに将来的にはポーランド)にシフトしていくと予想される。

  合理化による収益体質の強化が優先される地域では、今回の予測期間を通して生産台数が減少すると見込まれる。それらにはインド、ブラジル、ロシアなどが含まれる。

 

Fordグループの生産台数予測(LMC Automotive, 2020年10月)

(単位:台)

COUNTRY GLOBAL MAKE 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023
Ford Group Ford 6,136,116 5,536,946 4,889,657 3,785,538 4,765,451 4,950,696 5,100,395
Lincoln 181,225 161,369 181,742 163,709 187,595 234,522 228,450
JMC 0 0 43,649 41,642 34,068 36,248 36,059
Troller 1,726 1,779 1,504 791 1,052 1,092 962
Zotye-Ford 0 0 0 11 10 11 11
Total 6,319,067 5,700,094 5,116,552 3,991,691 4,988,176 5,222,569 5,365,877
USA Ford 2,311,857 2,213,313 2,039,393 1,675,328 2,087,351 2,211,749 2,260,718
Lincoln 91,592 83,312 95,453 85,915 90,453 108,706 109,046
USA sub-total 2,403,449 2,296,625 2,134,846 1,761,243 2,177,804 2,320,455 2,369,764
China Ford 928,953 487,597 284,105 267,386 296,989 343,858 344,952
Lincoln 0 0 1,027 38,469 67,806 94,058 106,457
JMC 0 0 43,649 41,642 34,068 36,248 36,059
Zotye-Ford 0 0 0 11 10 11 11
China sub-total 928,953 487,597 328,781 347,508 398,873 474,175 487,479
Germany Ford 634,019 556,051 504,666 320,596 399,207 392,063 434,037
Turkey Ford 367,005 368,007 363,958 303,856 342,738 362,447 365,818
Mexico Ford 272,706 246,831 219,954 133,982 230,591 285,749 289,323
Lincoln 39,087 33,677 29,670 13,063 0 0 0
Mexico sub-total 311,793 280,508 249,624 147,045 230,591 285,749 289,323
Romania Ford 49,771 141,507 140,884 183,544 231,986 228,211 257,982
Spain Ford 417,033 380,577 345,612 274,609 379,344 296,789 252,596
Thailand Ford 185,217 184,347 153,619 117,161 136,523 172,700 182,683
Canada Ford 203,608 193,318 198,358 120,994 144,122 156,344 163,185
Lincoln 50,546 44,380 55,592 26,262 29,336 31,758 12,947
Canada sub-total 254,154 237,698 253,950 147,256 173,458 188,102 176,132
Brazil Ford 249,113 252,097 223,775 128,967 170,838 188,307 163,552
Troller 1,726 1,779 1,504 791 1,052 1,092 962
Brazil sub-total 250,839 253,876 225,279 129,758 171,890 189,399 164,514
South Africa Ford 91,344 104,356 94,461 66,273 112,374 112,379 130,760
India Ford 268,706 263,156 213,956 116,845 140,274 89,188 91,774
Poland Ford 0 0 0 0 0 19,350 53,838
Argentina Ford 70,464 65,761 46,581 31,700 42,650 36,972 52,336
Chinese Taipei Ford 17,559 12,968 17,213 20,936 18,445 18,736 18,810
Russia Ford 53,572 49,743 28,720 13,471 13,694 16,569 18,366
Uruguay Ford 0 0 0 0 4,477 8,210 8,823
Vietnam Ford 11,457 13,169 10,150 5,437 9,345 6,535 6,299
Nigeria Ford 3,372 3,891 4,252 4,453 4,503 4,540 4,543
Venezuela Ford 360 257 0 0 0 0 0

Source: LMC Automotive "Global Automotive Sales Forecast (October 2020)"
(注) 1. データは、小型車(乗用車+車両総重量 6t以下の小型商用車)の数値。
2. 本表の無断転載を禁じます。転載には LMC Automotive 社の許諾が必要になります。

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