ASEANの日系自動車部品サプライヤー:中期的な需要増に対応

タイ、インドネシアへの生産集約、マレーシアでの半導体生産増強など

2021/11/18

要約

  本レポートは、ASEAN諸国における日系部品・素材メーカーの投資・事業動向などをまとめたものである。 (収録対象は2020年2月から2021年9月までの1年8カ月間)

  タイの2020年の自動車生産台数は142.7万台で前年比29.1%減、販売台数は80.4万台で同21.8%減、輸出は73.6万台で同30.2%減だった。2021年1~9月は、生産台数が121.2万台で前年同期比25.9%増、販売台数が53.2万台で同0.5%減、輸出は67.7万台で同29.9%増と国内販売を除き回復している。

  インドネシアの2020年の自動車生産台数は69.0万台で前年比46.4%減、販売台数は53.2万台で同48.5%減だった。2021年1~9月は生産台数が79.4万台で前年同期比64.4%増、販売台数が62.8万台で同68.7%増となり、大きく回復している。

 

コロナ禍で事業計画を延期、中期的な需要増への対応も

  新型コロナウイルス感染に伴うロックダウンで、日系サプライヤーはASEAN各国で工場の稼働停止に追い込まれ、事業計画の延期を余儀なくされた例もあった。東洋紡はタイにエアバッグ用原糸を生産する新工場を建設する計画だったが、日本からエンジニアを派遣出来ないため工事が進まず、2020年11月にタイのインドラマ社と合弁会社を設立して工場新設を前に進めた。NTNも同様の事情から計画が遅れていたインドネシアの合弁新工場での等速ジョイント(CVJ)の生産を2021年から開始した。

  一方で、中期的な需要増を見据えた生産体制強化の取り組みも行われている。日本プラストはベトナム工場を2021年に立ち上げ、アジア圏の主力工場としてインドネシア工場での新製品立ち上げの際のパイロット工場にも位置づけ、タイ工場では樹脂部品などの生産能力を増強する。タイでは、日本ゼオンのアクリルゴム新工場が稼働、ミネベアミツミは既存工場敷地内に新工場を建設し、ミニチュア・小径ボールベアリングを増産する。中央発條はシャシばね製品の設備拡充を計画、神戸製鋼は今後2、3年で高級鋼の生産能力を増強する計画。ベトナムでは、住友理工が自動車用ホースの2拠点目の新会社を設立、京セラは既存工場でのセラミック・有機パッケージなどの生産設備増強と新工場棟建設計画を進めている。

  ASEAN各国への生産集約の動きも進んでいる。不二越は、日本・台湾での汎用ベアリング生産をタイの新工場に集約する。三洋化成は、中国工場からタイに自動車向け電着塗料の原料の生産を移管し、工場の能力を増強。三菱重工エンジン&ターボチャージャは、オランダでのターボタージャ部品カートリッジの生産をタイ工場に集約。ファインシンターは、ショックアブソーバー用部品で日本からインドネシア工場への生産移管をさらに進める計画。

  タイでは工場の省力化・自動化も進められている。総合ドアラッチメーカーの三井金属アクトは、組立ラインでのICTを2021年に導入する。ファインシンターは、日本や先進国に次いでタイ工場のデジタル化や自動化、省人化を進める。インジェクターやブレーキ、ターボチャージャ向け部品を生産する平岡産業は新型コロナウイルスの影響で売上高が落ち込む中、マザー工場に位置付けるタイ工場の生産改革・自動化・省力化を進め、コスト競争力を高める方針。

 

電動化、モビリティサービスへの対応

  電動化への対応では、ジヤトコが日産からe-POWER用モーターの生産を受託し、2021年にタイ工場で生産を開始する。住友電工は、タイ工場で車載モーター用や車載電池用ハーネスの設備増強し、フィリピンでは新工場を建設する。日本精工は、早ければ2022年にも車載モーター向け小型軸受けを生産する工場をASEAN(候補地としてベトナムかフィリピン)に新設する計画。マレーシアでは、デンソーが2021年から既存工場を拡張し、高度な自動車用半導体の生産に乗り出す。富士電機は、既存工場に追加投資してEV向けパワー半導体の生産能力増強を進める計画。

  この他、パイオニアがマレーシアで5G環境下の自動運転実証実験に参加する。交通問題への対応では、モビリティサービスのスマートドライブ社がマレーシアに現地法人を設立し、日系企業と交通安全サービスの協業を開始。また、日本工営とインドネシア・マカッサル市で、交通データを活用した渋滞緩和向けの実証実験を行う予定。

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タイの自動車工場マップ
(クリックすると拠点マップが開きます)
ベトナムの自動車工場マップ
(クリックすると拠点マップが開きます)

上記以外の国・地域は完成車メーカー工場立地マップよりご参照ください


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