トヨタ:一般道での自動運転用高精度地図を車載カメラ・衛星画像から生成
TRI-ADがCARMERA、Maxar、NTTデータなどと共同でHDマップを生成
2020/04/15
要約
![]() |
Maxar Technologies、NTTデータとの共同実証実験で衛星画像から生成した高精度地図(出典:TRI-AD、以下同様) |
本レポートは、トヨタが進めている、一般道での自動運転用高精度地図(HD (High Definition)マップ)を、一般車が搭載するカメラやドライブレコーダー、衛星画像などから生成する計画について報告する。
実際の業務は、トヨタ、デンソー、アイシン精機の3社が2018年3月に設立したTRI-AD(Toyota Research Institute Advanced Development)が担当する。TRI-ADは、オープンなソフトウェア・プラットフォームAutomated Mapping Platform(AMP:自動地図生成プラットフォーム)を開発した。AMPでは、参画する開発者がつくったアプリケーションやソフトウェアを搭載した車両のセンサー・データがAMPに提供される。その代わりに、開発者は車種を問わず、AMPで生成した高精度地図に簡単・安全に、そして持続的にアクセスできる。
TRI-ADはここ1年の間に、2件の実証実験を行った。1件目はCARMERA社と提携し、一般車が搭載するカメラやドライブレコーダーの映像データをもとに高精度地図を自動生成する。2件目は、Maxar Technologies、NTTデータとの提携により、衛星画像を用いて高精度地図を生成する。2020年3月に、2件の実証実験が成功し、自動運転に必要な高精度地図生成に有効であるとの結果を得たと発表した。同時に、欧州の地図大手TomTomおよびHERE Technologiesとの実証実験も行い、両社のプラットフォーム上で一般道での自動運転に必要な高精度地図生成と更新に成功した。TRI-ADは地図の精度をさらに向上させるために、今後もパートナー企業との連携を進めていくとしている。
また2020年3月、TRI-ADと自動運転用の高精度地図を提供するダイナミックマップ基盤株式会社(DMP)は、同年4月より共同で新たな実証実験を進めることで合意した。TRI-ADのAMPを用いて、車両センサーで収集した画像等のデータから道路上の変化した箇所を検出することで、DMPが生成した高精度地図の効率的な更新の可能性について実証する。
関連レポート:
日立製作所:カーナビ地図から自動運転用の地図を自動生成(2020年3月)
(日立製作所の計画も一般道での自動運転用地図を低コストで生成することを目指し、その点は本レポートで報告するトヨタの計画と共通。しかし日立製作所の計画はナビ地図をベースとし、既に高速道路向けに整備されている高精度地図並みの精度は必ずしも必要としない、また運転が困難な箇所でのベテランドライバーの運転ノウハウをデータベース化し取り込むなどトヨタの計画と異なる。)
オートモーティブワールド2020:ロボタクシー、LiDAR、高精度3Dマップなど(2020年2月)
日産とホンダの自動運転:高速道でのハンズオフから市街地へ(2020年1月)
2019年の自動運転業界を振り返って(2020年1月)
人とくるまのテクノロジー展2019:自動運転社会に向けたコネクテッド技術・サービス(2019年6月)
オートモーティブワールド2019:実用化・高性能化が進む自動運転技術(2019年2月)
自動運転実現のため、2018年までに高速・自動車専用道路の三次元地図を生成(2017年1月)
トヨタグループ:TRI-AD(Toyota Research Institute Advanced Development)を設立
トヨタ、デンソー、アイシン精機の3社は、2018年3月に自動運転技術の先行開発分野での技術開発を促進するために新会社「TRI-AD(Toyota Research Institute Advanced Development)」を東京に設立した。トヨタが90%、デンソーとアイシン精機は各5%を出資。
トヨタは2016年にTRI(Toyota Research Institute)を米国に設立し、AI、自動運転、ロボティクスといった技術の研究を行ってきたが、さらなる競争力強化を目指し、本新会社を設立した。新会社は、研究から開発まで一気通貫のソフトウェア開発、及びデータハンドリング技術の強化を図り、TRIとの連携を強化しその研究成果を先行開発、そして製品へと効率良くつなぐことを目指す。
当面の課題としては、
1) 高速道路での自動運転車「Highway Teammate」を2020年中に導入する
2) AMP(Automated Mapping Platform)の計画を軌道にのせる
の2点を掲げている。
今回報告する一般道での自動運転地図の生成計画は、TRI-ADが中心となり進めている。
TRI-ADが「自動地図生成プラットフォーム(AMP)」を開発
TRD-ADは、オープンなソフトウェア・プラットフォームAutomated Mapping Platform(AMP:自動地図生成プラットフォーム)を開発した。AMPでは、参画した開発者がつくったアプリケーションやソフトウェアを搭載した車両のセンサー・データがプラットフォームに提供される。その代わりに、開発者は車種を問わず、AMPにより生成した高精度地図に簡単・安全に、そして持続的にアクセスできる。
AMPは、全世界の全ての舗装された道路を対象とする。高速道路や一般道路で安全な自動運転を行うためには、精度が高い最新の地図が必要となるが、現時点で網羅されている高精度地図の道路ネットワークは、全世界のたった1%未満(注)にすぎない。次のステップとして、高速道路以外の一般道での高精度地図作成が課題となっており、AMPは参加企業から得たデータを共有して高精度地図を生成するという構想である。
(注)日本・米国・中国・ドイツの高速道路の高精度地図が既に整備されているとした場合、全世界の道路ネットワークに占める割合は1%未満と想定。(2019年12月 TRI-AD調べ)
CARMERA社と共同で実証実験、一般車のカメラやドライブレコーダー画像を活用
2019年2月、TRI-ADと米国のCARMERAの2社は、高精度地図の自動生成に向けた一般道での実証実験を共同で行うことで合意した。TRI-ADが開発したAMPというオープンなソフトウェア・プラットフォームを実証する第一歩となる。CARMERA社は、大規模かつ高解像度の自動運転車向け地図生成のための「Street Intelligence Platform」を提供する。
今回の実証実験において2社は、今後数カ月にわたり、Toyota Safety Senseに使用されているカメラを試験車に搭載し、東京の市街地のデータを取得する。またToyota Safety Senseを搭載しないフリート車両には市販のドライブレコーダーを搭載し、それらの画像データをCARMERA社のリアルタイムプラットフォームで処理し高精度地図を生成する。
本実証実験で自動生成される地図と、市場に流通している地図を組み合わせることで、より信頼性の高い道路情報の提供が可能となり、将来的には世界中の市販車から取得したデータをもとに高精度の地図が自動生成され、あらゆる道路における自動運転の実現が期待できるとしている。
これまで信頼性の高い自動運転向け地図の生成には、非常に高価な装備を搭載した計測専用車両(Mobile Mapping System)によるデータ取得と、人手を使った生成プロセスが必要であったため、多大なコストと時間がかかっていた。CARMERAと共に実証する高精度地図の自動生成によって、これらの課題を解決し、自動運転の実現に貢献できるとのこと。
![]() |
![]() |
カメラで撮影した画像データをもとにしたCARMERAの対象物検出イメ-ジ (curb:縁石、dashed line:破線、solid line:実線) |
車両カメラの画像を元にしたTRI-AD/CARMERAの地図生成イメージ |
Maxar TechnologiesおよびNTTデータと衛星画像を用いた高精度地図生成で提携
2019年4月に、TRI-AD、Maxar Technologies、NTTデータの3社は、高解像度の衛星画像を用いた自動運転用高精度地図の自動生成に向けた共同実証実験を行うと発表した。
昨今の電子工学および航空宇宙工学の発展のおかげで、人工衛星からグローバルな画像をより高い解像度で、より頻繁にアップデートできるようになった。さらに、機械学習のおかげで画像データ内にある道路要素の関連性を自動で発見し、統合することができるようになった。
自動運転車では、複数のリアルタイムセンサーを用いることで、安全運転を確実なものとするので、本取り組みは前項のCARMERAとの共同実験とともに、AMPというTRI-ADのオープンなソフトウェア・プラットフォーム構想をさらに前進させる重要な一歩となる。
今回の取り組みでは、3社協力のもと、衛星画像を加工し車両に使いやすい高精度地図を生成する。まず、Maxarのクラウドベースの地理空間情報クラウド(GBDX)から光学衛星画像ライブラリーの画像を取得。次に、NTTデータの人工知能(AI)を活用した独自アルゴリズムにより、道路ネットワークの作成に必要な地図情報を自動抽出する。そして、TRI-ADが自動運転用に作成した高精度地図をクラウド環境からトヨタの自動運転試験車へ配信する。
今後3社は、まず、東京の特定エリアの高精度地図を自動生成することを重点的に取り組み、将来的にはあらゆる道路における自動運転を実現していく計画。
![]() |
![]() |
東京の特定エリアの衛星画像 | 左の画像を元とした自動運転用の高精度地図の例 (車線、停止線、中央分離帯が示されている) |
TRI-AD:複数のパートナーとの実証実験に成功(2020年3月発表)
TRI-ADは2020年3月、自動運転用一般道高精度地図生成について複数のパートナーとの実証実験に成功し、精度向上に向けさらなるパートナー連携を深めていくと発表した。
高精度地図生成はコストがかかるため、広範囲での網羅が難しく、従来は自動車専用道路に限られていた。TRI-ADでは高精度地図生成に対する効果的な手法を追及してきたことにより、今回複数のパートナーと実証実験を実施し、コストを抑えながら自動運転に必要な相対精度:50cm程度以下の地図生成が可能であることを確認した。
今回の実証実験では、以下の2点を検証し、いずれも高精度地図生成に有効であるという結果を得た。
- 専用の計測車両(Mobile Mapping System)を使用せずに、衛星や一般車両から得られる画像データなどを元にして、自動運転用の地図情報を生成する
- TRI-ADの自動地図生成プラットフォームである Automated Mapping Platform(以下:AMP)上の車両データのデータ形式を変換し、アルゴリズムを補正することにより、他社のプラットフォームで活用する
これらの実験成果を活用することで、自動運転用地図の更新期間の短縮、エリアの拡大、作成および維持コストの大幅な削減が期待できるとしている。
CARMERA社と共同の実証実験
CARMERA社とTRI-ADは、東京23区と米国2都市で、一般車両にも搭載可能なドライブレコーダーを使用した自動地図生成技術の検証を行った。この中で、ドライブレコーダーのデータのみで自動運転に必要な相対精度:40cm程度の地図生成に成功した。両社が連携し、CARMERA の Real-Time Events and Change Management engine と同じマシンラーニング技術などを使用することで、自動運転に必要な最新情報を判別し、HDマッピング・システムに送信、更新することが数分でできるようになった。これにより、AI認識に必要な画像データを収集し、幅広いエリアの地図生成の可能性について実証した。
![]() |
![]() |
郊外道路の標識配置マップ(オレンジ色の☆は道路標識、ピンク色の☆は速度制限の表示) | 都会の道路の特徴点検知(信号機、停止線などを示している) |
Maxar Technologies、NTTデータと共同の実証実験
Maxar Technologies、NTTデータとTRI-ADの3社は、2019年4月より3社合同で高解像度の衛星画像を用いた自動運転用高精度地図の自動生成に向けた実証実験を行った。その中で、衛星画像に写る自動車や影などの地図以外の要素を解析、除去、補正することで、必要な地図情報を自動抽出することに成功した。東京23区と海外6都市で、自動運転制御に活用できる相対精度:25cm程度の地図生成を実現し、自動運転用地図として有用であることを確認した。
![]() |
![]() |
![]() |
衛星画像(海外) | 左の画像から自動車等を除去し画像を補正 | さらに地図情報(車線、中央分離帯、道路境界線)を抽出 |
TomTom Internationalと実証実験
TRI-ADは、オランダの地図大手TomTomと共同で実証実験を行った。
両社はTRI-ADが集めたAMPの車両データの信頼性を検証し、TomTomのクラウドベースの地図生成プラットフォーム用にデータ形式を変換し、TomTom独自のアルゴリズムを活用して入力することで、自動運転に必要な車線情報を含む一般道高精度地図の生成と更新に成功した。
HERE Technologiesと提携
TRI-ADはHERE Technologiesとの共同実証実験も行い、TRI-ADの車両データの位置誤差をHEREの高度セルフヒーリング技術で補正することにより、自動運転に必要な車線情報を含む一般道高精度地図の生成に成功した。車両データをHERE Platformに入力することで、HERE独自のアルゴリズムで高精度の一般道地図を自動生成することができる。
![]() |
![]() |
高精度地図上でのレーンマーク (TomTomと共同の実証実験) |
自動生成された高精度地図 (HEREと共同の実証実験、黄色:実線、白色:破線、赤:道路端) |
TRI-ADとダイナミックマップ基盤:高精度地図更新の実証実験を開始
TRI-ADは2020年3月、自動運転用HDマップを日本と北米で提供するダイナミックマップ基盤株式会社(以下DMP)と、同年4月より新たに双方の技術を活用した実証実験を進めることで合意した。TRI-ADのオープンなソフトウェア・プラットフォームであるAMPを用い、車両センサーで収集した画像等のデータから道路上の変化した箇所を検出することで、DMPのHDマップの効率的な更新の可能性について実証する。
先進運転支援システムや自動運転システムのグローバルな普及に伴い、高精度及び高品質の自動運転用地図に対する需要が高まってきている。地図を実際に活用していくには、実際の道路上のペイントや構造物の変化を正確かつ迅速に把握し、効率的に地図を更新することが重要。現在は主に道路工事情報等に基づいた計測車両(Mobile Mapping System)での現地調査によって道路の変化を把握しており、多大な調査費用や作業に要する時間が課題となっている。
今回の実証実験では、TRI-ADの画像認識技術を活用して、一般的な車両に搭載可能でかつ普及価格帯のカメラで入手したデータから、道路上の変化した箇所を自動で検出する。この手法により、計測車両の走行距離や台数、人件費を大幅に削減しつつ、迅速にHDマップを更新することができる。
両社は、日本国内の自動車専用道路においてDMPのHDマップ更新が効率的に行えることを確認し、2021年度からの運用開始を目指す。また、更なる更新頻度の短縮に向けた方策の検討、及び北米でHDマップを提供しているUshr, Inc.(DMPが2019年に買収した)によるデータ更新への活用についても検討していく。
DMPグループは、今後他の自動車メーカー等が保有する画像等のデータを広く利用することで整備コストの低減にも努めていく。その結果、すべての人にとってHDマップの品質が向上すると期待している。
------------------
キーワード
トヨタ、自動運転、高精度地図、TRI-AD、CARMERA、Maxar Technologies、NTTデータ、TomTom International、HERE Technologies、ダイナミックマップ基盤株式会社
<自動車産業ポータル マークラインズ>