米国の自動車関税、トランプ政権下での貿易政策

NAFTA改定交渉、中国との貿易戦争、鉄鋼・アルミ関税

2018/09/27

要約

 2016年の大統領選挙戦から大統領就任にかけて、ドナルド・トランプ氏は中国とメキシコからの輸入品を主な標的として様々な関税を提案した。例えば、大統領選立候補演説では、トランプ氏はメキシコから輸入する自動車と自動車部品の両方を対象として35%の関税を賦課するよう提案した。ニューヨーク・タイムズ紙とのインタビューでは、トランプ氏は中国からのすべての輸入品に45%の関税を課す案も表明していた。また、関税が米国の貿易赤字を縮小し、国内産業を強くし、雇用を拡大するとの考えを示している。

 2018年に入ると、トランプ大統領はこれまで掲げてきた提案を実施に移し、様々な製品への関税発動を開始する。米国大統領が徐々に各種の通商法を根拠として関税を追加する権限を手中にすることで、トランプ氏は目的実行を可能にした。これらの関税は、カナダ、メキシコ、中国など、影響を受けた国々を報復的な行動に駆り立てている。特に、米国と中国の間での通商摩擦が、対象製品の金額を積み上げる報復関税の応酬となり、世界を巻き込んだ貿易戦争に発展する懸念が増している。

 追加関税の発効と更なる関税の脅威が合わさって、米国経済と自動車産業に影響を及ぼしている。自動車メーカーやサプライヤーは各社の年度見通しの修正を行っている。短期的には企業は追加関税による負担を吸収するが、これが継続する事態になれば、コストは最終的に消費者に転嫁されることになる。ピーターソン国際経済研究所は、自動車の関税率が25%になると、米国の自動車および部品の生産は1.5%減少し、雇用は1.9%減少すると分析している。

 さらにトランプ政権は現在、カナダおよびメキシコとNAFTA見直しを進めている。現在、暫定的に米国とメキシコの2カ国間での合意が成立している。二国間協定の改定は、米国とメキシコでの現地生産比率の向上を図ると共に、より賃金の高い国での生産比率を増やすことを求めている。自動車産業との関連において、これらの変更は主に米国への生産シフトを目的としたものである。

 本レポートでは、米国をめぐる貿易紛争と関税措置、ならびにその影響について現在の状況を概説すると共に、米国、メキシコ、カナダ間のNAFTA改定に関する現時点での進展を要約する。

 

MarkLinesインタビュー NAFTA改定に関して、メキシコに拠点を持つ日系大手部品メーカーの経営幹部のコメント
「賃金条項にある「時給16ドル」は、ミシガン州を中心としたUAW(全米自動車労働組合)加入の企業が多い地域の水準であり、日系メーカーが多く進出するケンタッキー、テネシー、テキサス、アラバマなどの中南部の賃金は13~14ドル程度。仮に米国生産に切り替えても、16ドルの条件を満たすことができない。また、設備の移管工事そのものは容易ではない。いずれにせよ、協定発効に至るまでには両国の議会の承認を取り付ける必要があるが、合意内容の細部はまだはっきりしない点が多い。部品メーカーとしては両国政府・議会とカーメーカーの動向を見守る以外ない。」

 

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