ガラスアンテナに関する技術動向

AGC、セントラル硝子、日本板硝子による特許出願動向

2020/08/05

要約

  本レポートは、トヨタテクニカルディベロップメント株式会社(TTDC)が提供している「技術情報配信サービス-swimy」の特許情報をもとに、昨今の自動車業界を取り巻く技術トピックスに関するレポートをMarkLinesが作成した。TTDCは、知的財産(IP)事業と計測制御事業を展開。知的財産(IP)事業では世界の自動車開発に関する情報収集と解析を行い、研究企画のコンサルティングをはじめ、外国語特許の出願や技術翻訳を実施している。


  5Gやコネクテッドカーの普及に伴い、ガラスアンテナに関する技術が注目されている。そこでガラスアンテナの技術について、各社が取り組んでいる技術や開発アイテムについての動向を示す。

  ガラスアンテナの技術について、AGC、セントラル硝子、日本板硝子、の順に特許出願件数が多く、WGR、原田工業は増加傾向にあるが、他各社は減少傾向にある。「安定性及びノイズ低減」、「小型化」、「受信感度の向上」、といった技術についての特許出願が多い動向があり、AGCは「安定性及びノイズ低減」の技術に関する特許出願、セントラル硝子は「受信感度の向上」の技術に関する特許出願、日本板硝子は「安定性及びノイズ低減」、「受信感度の向上」の技術に関する特許出願が多い。


トヨタテクニカルディベロップメント株式会社

技術情報配信サービス-swimy URL:http://www.toyota-td.jp/business/ip/swimy/
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ガラスアンテナに関する技術動向

【抽出条件】

テーマ ガラスアンテナに関する技術動向
概要 主要各社のガラスアンテナに関連する技術の特許出願および実用新案出願を抽出する。
期間 出願年・優先権主張年が2013年以降かつ、2020年7月までに公開された特許出願および実用新案出願の公報。
国・地域 日本
出願人 特許出願件数上位10社
AGC、セントラル硝子、日本板硝子、日本電産、WGR、フジクラ、原田工業、ヨコオ、SAINT-GOBAIN、パナソニックIPマネジメント

 

各社の特許出願数

  日本におけるガラスアンテナに関する特許出願はAGC、セントラル硝子、日本板硝子、の順に特許出願件数が多い。

図1各社の特許出願数
図1 各社の特許出願数

出典:技術情報配信サービス-swimy URL:https://thinktank.toyota-td.jp/pub/list

 

各社の特許出願推移

  各社の特許出願の推移をみると、近年、WGR、原田工業、以外では各社は減少傾向にある。

図2 各社の特許出願推移
図2 各社の特許出願推移

出典:技術情報配信サービス-swimy URL:https://thinktank.toyota-td.jp/pub/list

 



ガラスアンテナの技術の動向

  ガラスアンテナに関する技術について、安定性及びノイズ低減に関する技術、小型化に関する技術、受信感度の向上に関する技術、導波に関する技術、の順に特許出願件数が多い。

  技術分類についてはテキストマイニングにより特許出願に記載されている要約を分析し、機械的に分類を行った結果をグラフに示している。

図3 ガラスアンテナの技術の動向
図3 ガラスアンテナの技術の動向

出典:技術情報配信サービス-swimy URL:https://thinktank.toyota-td.jp/pub/list

 

各社のガラスアンテナに関する技術の取り組み

  ガラスアンテナに関する技術の各社の取り組みについて、AGCは、安定性及びノイズ低減に関する技術、広帯域の受信、アンテナの配置に関する技術、の順に特許出願件数が多い。

  セントラル硝子は、受信感度の向上に関する技術、芯線に関する技術、安定性及びノイズ低減に関する技術、の順に特許出願件数が多い。

  日本板硝子は、安定性及びノイズ低減に関する技術、受信感度の向上に関する技術、の順に特許出願件数が多い。

図4 各社のガラスアンテナに関する技術の取り組み
図4 各社のガラスアンテナに関する技術の取り組み

出典:技術情報配信サービス-swimy URL:https://thinktank.toyota-td.jp/pub/list


  これら各社のガラスアンテナの技術の取り組みについて、AGC、セントラル硝子、日本板硝子の特許出願件数が多い技術分類について事例紹介する、最も特許出願件数多い技術分類が複数ある場合、それぞれの技術分類について事例紹介する。

 



AGCの技術分類「安定性及びノイズ低減に関する技術」の技術例(特願特開2016-105527)

図5 安定的な送受信によりアンテナ利得の低下を防止できる構造
図5 安定的な送受信によりアンテナ利得の低下を防止できる構造
出典:技術情報配信サービス-swimy
URL:https://thinktank.toyota-td.jp/pub/list

  車内への熱線の進入を低減させるためや窓ガラスに生じた曇りを除去するために窓ガラスは導電膜が全面に形成されている。導電膜を窓ガラスの全面に設けると、線状導体アンテナを窓ガラスに設けるスペースがなくなるため、窓ガラスの外縁に対して導電膜の外縁を後退させることで形成された細隙にアンテナ導体を設けて、導電膜とアンテナ導体とを共存する形になる。しかし、窓ガラスに設けられた大面積の導体である導電膜の影響によりアンテナ導体のアンテナ利得が低下する場合がある。

  この課題に対して、アンテナ導体に対向する導電膜の対向外縁部で開放する開放端にスロット(23)を備え、スロットを備えることにより、アンテナ導体に対する導電膜の影響を低減できる。

 



セントラル硝子の技術分類「受信感度の向上に関する技術」の技術例(特開2016-025604)

図6 受信感度を向上させるためのアンテナ配置構造
図6 受信感度を向上させるためのアンテナ配置構造
出典:技術情報配信サービス-swimy
URL:https://thinktank.toyota-td.jp/pub/list

  自動車に設けられたガラスアンテナがデザイン性の向上や軽量化のために、合成樹脂で成型されるものがある。また、バックドアが金属製であっても、バックドアを構成するインナーパネルとアウターパネルとの間の空間が狭かったり、インナーパネルとアウターパネルの間にバックドアの剛性を確保するための構造部材が設けられるために、バックドアの部材にアンテナのアースを適切に設けられないことがある。さらに、バックドアにガラスアンテナを設ける場合、窓ガラスにデフォッガが備えられるが、バックドアの窓ガラスは一般的にセダン車のリアガラスに比べて大きな角度で取り付けられているので、ガラスアンテナを設けることができる余白部の面積が小さくなる。特に、このような窓ガラスに複数のアンテナを設ける場合、良好なアンテナ感度を得ることが難しい。

  この課題に対して、アンテナに関して、二つ以上のアンテナ(11,21)をリアガラス上のデフォッガが設けられていない余白部に備える、この構成により、良好なアンテナ感度を得ることができる。また、ルーフやスポイラーにFMアンテナを設ける必要がなく、自動車のデザイン性を向上することができる。

 



日本板硝子の技術分類の事例

※「安定性及びノイズ低減に関する技術」および「受信感度の向上に関する技術」が最も特許出願件数が多い技術分野であるため、それぞれの技術分野について事例を紹介する。

 

「安定性及びノイズ低減に関する技術」の技術例(WO18/079415)

図7 アンテナのノイズを低減するガラスアンテナ構造
図7 アンテナのノイズを低減するガラスアンテナ構造
出典:技術情報配信サービス-swimy
URL:https://thinktank.toyota-td.jp/pub/list

  自動車のウインドシールドには、放送波を受信するアンテナのほか、車間距離を測定するためのセンサなど、種々の電子機器が配置されている。しかし、電子機器から発せられるノイズにより、放送波の受信性能が低下するという問題がある。

  この課題に対して、ガラス板(1)には、アンテナ(6)と、測定ユニット(4)からのノイズを抑制するためのキャンセルエレメント(7)を配置する。この構成により、アンテナが電子機器から受けるノイズを抑制することができる。

 

「受信感度の向上に関する技術」の技術例(特開2020-43605)

図8 受信感度を向上するガラスアンテナ構造
図8 受信感度を向上するガラスアンテナ構造
出典:技術情報配信サービス-swimy
URL:https://thinktank.toyota-td.jp/pub/list

  車両のリアガラスにアンテナパターンが形成されるガラスアンテナは、従来のロッドアンテナに比べて意匠面で出っ張りがないために外観上優れ、破損の心配がなく、風切り音が発生しない等の理由により、広く使用されるようになった。しかし、ハイブリッド車両では、DC-DCコンバータが設けられており、このコンバータが駆動すると、放射ノイズが発生する。そして、このDC-DCコンバータはリアガラスに近い車両の後部に配置されているため、発生する放射ノイズは、アンテナに影響を与える。

  この課題に対して、デフォッガ3とFMアンテナ素子2との距離Sを40mmよりも大きくすると、FMアンテナ素子2におけるノイズの低減に加え、FMアンテナ素子2の受信感度が向上することを見出した。すなわち、距離Sが大きくなるほど、FM電波の全周波数域で受信感度が向上することが見出されたが、特に、距離Sが40mmよりも大きくなると、88~108MHzの海外周波数帯における受信感度が向上することが見出された。なお、この受信感度の向上は、DC-DCコンバータを搭載したハイブリッド車両のみならず、通常のエンジンにより駆動する車両においても、距離Sを大きくすることで実現される。

 

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キーワード
TTDC、特許出願、AGC、セントラル硝子、日本板硝子、ガラスアンテナ、5G、コネクテッド

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