トヨタクラウン車両分解調査(Ⅰ)

直噴2.5L V6エンジン「4GR-FSE」

2016/05/12

要約

トヨタクラウン車両分解調査 トヨタクラウン車両分解調査


 トヨタクラウンロイヤル(2.5L V6エンジン搭載、後輪駆動仕様車:2012年12月発売)の車両分解調査が、広島県産業振興機構のベンチマーク活動で、2015年11月27日より実施された。各部品とコンポーネントの調査結果を報告する。今回は搭載されていた2.5L V6の4GR-FSE型エンジン及び、パワートレーン関連部品について報告する。このエンジンは直噴で、吸気、排気両方のバルブタイミングを可変制御するDual VVT-iを備え、デュアルメインマフラーの採用等も合わせて、動力性能、低燃費、そして静粛性を考慮して開発されたエンジンである。次回に、シャシー関係、次々回に車体関係を報告する予定である。

 

過去の分解レポート:
トヨタ 4代目プリウス
(上)燃費40km/Lのために高効率化と軽量化されたパワートレーンユニットの進化」(2016年2月)
(中)TNGA/シャシー・空力性能技術の進化 (2016年3月)
(下)新プラットフォームTNGAの車体構造と遮音吸音材・制振材の技術(2016年3月)
132部品の写真集:TNGAのコンポーネント/部品の詳細写真と主要部品サプライヤー一覧 (2016年4月)

 

ダイハツムーブ (2015年2/3月掲載)
  (上) サプライヤーリストとシャシー/シート/電装関係部品
  (中) 軽量化・小型化を追求したターボエンジンと3軸ギヤトレーンのCVT
  (下) 直線的骨格で合理性を追求した車体構造

VW  Polo  (2014年11/12月掲載)
  (上):サプライヤーリストとエンジンルーム、運転席周りの分解
  (下):1.2TDIターボディーゼルエンジン、サスペンションの構造

日産 ノート (2014年9月掲載)
  (上):主要安全技術と先進運転支援システム
  (下):スーパーチャージャーを採用したドライブユニット

ホンダ アコードハイブリッド (2014年2月掲載)
  (上):PCUとシャシ関連部品
  (中):電池関連部品と電動サーボブレーキシステム
  (下):ドライブユニット

ホンダ フィットハイブリッド (2013年12月掲載)
  (1) 電池関連部品と電動サーボブレーキシステム
  (2) エンジンとモーター内蔵7速デュアルクラッチトランスミッション

トヨタ アクア (2012年11月掲載)
  (1) 主要部品サプライヤーと電池関連部品
  (2) 燃費35.4km/Lを達成したハイブリッドシステム

日産 リーフ
  (1) 分解調査(2012年2月掲載)
  (2) 主要部品の分解展示報告 (2012年9月掲載)
  (3) カットボディーの展示取材報告(2012年11月掲載)

トヨタ プリウス (2010年3月掲載)
  プリウスの分解実験

 



4GR-FSEエンジンの概要

 4GR-FSEエンジンはクラウンを始め、レクサスGS、レクサスIS、マークXのベースモデルに搭載されるFR高級車用の2.5LV6自然吸気のエンジンである。このエンジンはレギュラーガソリン仕様でありながら12.0という高い圧縮比で、筒内直接噴射を採用し、シンプルな構造ながら、特に低燃費、静粛性を追求している。同じクラウンやレクサスシリーズ等FR車に搭載されている4つのエンジンの中で最も低価格な車両に設定されたエンジンで、他の3つのエンジンである3.5L V6エンジン(2GR-FSE)と、ハイブリッド仕様の2.5L直4エンジン(2AR-FSE)、そして2015年に追加設定された2.0L直4ターボエンジン(8AR-FTS)が、筒内直接+ポート燃料噴射で2系統の燃料噴射システムであるのに対し、このエンジンは筒内直接噴射の1系統である。分解車両及びエンジンの主要諸元は以下のとおりである。

車名・車両グレード クラウンロイヤル・2.5ロイヤル
車両寸法 全長4895mm x 全幅1800mm x 全高1460mm
ホイールベース 2850mm
エンジン型式 4GR-FSE
種類・弁機構 V型6気筒DOHC24バルブ
排気量 2499cc
ボア x ストローク 83.0mm x 77.0mm
ボアストローク比 0.93
圧縮比 12.0
吸気方式 自然吸気
使用燃料 無鉛レギュラーガソリン
最大出力 149kW(203PS) /6400rpm
最大トルク 243Nm (24.8kgm)/4800rpm
リッター出力 81.2PS/L
リッタートルク 9.9kgm/L
JC08モード燃費 11.4km/L(今回供試車:2WD仕様車)

 

車載したまま、フロントバンパーとグリル、ラジエーター、コンデンサーを取り外した状態 車両から下ろした状態のエンジン左側
エンジン車載状態
フロントバンパー、グリル、ラジエーター、コンデンサーを取り外した状態
車両から下ろした状態のエンジン左側

 

車載したまま、エンジンルーム上方より見た状態 車両から下ろした状態のエンジン後方部とトランスミッション

エンジン車載状態
エンジンルーム上方より見た状態

車両から下ろした状態のエンジン後方部とトランスミッション

 



吸気系

サージタンク(樹脂製)とインテークマニホールド インテークマニホールドを外した状態のサージタンクとスロットルボディ
サージタンク(樹脂製)とインテークマニホールド インテークマニホールドを外した状態のサージタンクとスロットルボディ


 スロットルボディ、サージタンク(樹脂製)とインテークマニホールドが両方のVバンクの中央上部に配置されている。サージタンクには可変吸気システム(ACIS: Acoustic control induction system)を採用している。これは吸入工程における脈動効果を積極的に活用するために、エンジン回転数により変化する脈動流の周期に合わせて、モーター駆動のアクチュエーターで有効吸気管長を切り換え、広い範囲のトルクアップを図っている。

 

インテークマニホールド インテークマニホールド
インテークマニホールド(シリンダーヘッド取付面側) インテークマニホールド(サージタンク取付面側)


 モーター駆動のスワールコントロールバルブがインテークマニホールドに装備され、低負荷状態で吸入空気量が少ない時に、インテークマニホールドの吸気通路を半分塞ぐことで、シリンダー内にタンブル(縦渦)流を発生させる。

 

エアクリーナー(デンソー製)と外気導入ダクト エアクリーナーからスロットルボディに繋ぐエアダクト
エアクリーナー(デンソー製)と外気導入ダクト エアクリーナーからスロットルボディに繋ぐエアダクト

 フロントグリル裏側の上部に外気導入ダクトが設置されて、エアクリーナーに繋がる。エアクリーナー出口には、エアフローセンサーが設置され、ホットワイヤーで吸入空気量を測定する。エアクリーナーとスロットルボディを繋ぐエアダクトの中間にレゾネーターが設置され、特定周波数帯域の音を低減することで、静粛性を高めている。
エアフローセンサー(デンソー製)
エアフローセンサー(デンソー製)


シリンダーヘッド

シリンダーヘッド(インテークポート側) シリンダーヘッド(エキゾーストポート側)
シリンダーヘッド(インテークポート側) シリンダーヘッド(エキゾーストポート側)


 Vバンク左右2つのシリンダーヘッドは、Vバンクの内側にインテークポートが配置される。インテークポートは各気筒に2つの吸気通路を有し、インテークマニホールドに設置されたスワールコントロールバルブが閉じると、片方だけのインテークポートのみに吸気が流れる。片側を閉じることで、強い斜めのタンブル(縦渦)流を生成し、シリンダー内の燃料と吸気の混合と燃料の気化を促進する。

 

シリンダーヘッド(燃焼室) シリンダーヘッドとフューエルインジェクター
シリンダーヘッド(燃焼室) シリンダーヘッドとフューエルインジェクター


 燃焼室はペントルーフ型である。3極イリジウム点火プラグ用の穴が、中央に配置されている。吸気ポート側の燃焼室円周沿い(左の写真の燃焼室の下側)の穴は、燃焼室内に直噴するフューエルインジェクターの取り付け穴である。右側の写真はフューエルインジェクターが取り付けられた状態である。スワールコントロールバルブが閉じている状態では、片方のインテークポートから流れ込む、タンブル流に燃料を噴射する。



ピストン

ピストン上部 ピストンとコンロッド、コンロッドキャップ
ピストン上部(ピストンはアート金属工業製) ピストンとコンロッド、コンロッドキャップ


 ピストン側の燃焼室は、中央部に浅いキャビティを設け、通常時の均質混合気燃焼と冷間時での成層混合気燃焼の両立を狙っている。ピストンはアルミ鋳造品で、スカートが短く肉厚も薄く、軽量化とコスト低減を狙っている。

 



燃料噴射システム

フューエルインジェクター(デンソー製) 高圧噴射ポンプ(デンソー製)
フューエルインジェクター(デンソー製) 高圧噴射ポンプ(デンソー製)


 左写真がシリンダーヘッドに取り付けられて、筒内に直接燃料を噴射するフューエルインジェクターである。直噴により燃料の気化潜熱による吸気冷却を図る。右写真は燃料噴射用の高圧ポンプである。高圧で燃料を噴射することで、燃料の微粒化図る。



カムシャフト

排気カムシャフト(左)と吸気カムシャフト(右) カムシャフトラダーフレーム(車両右側バンク用)
排気カムシャフト(左)と吸気カムシャフト(右) カムシャフトラダーフレーム(車両右側バンク用)
シリンダーヘッド上面に取り付けられて、この上にカムシャフトが乗る。左の溝が排気カムシャフト用、右の溝が吸気カムシャフト用


 動弁系はDOHCで、吸気側、排気側両方のカムシャフトに、可変バルブタイミングシステム(VVT)が設定され、運転状況に応じて吸排気バルブタイミングを制御している。左写真の下部の円筒部にVVT用のモーターと減速ギヤが内蔵されている。カムシャフトの駆動は、プライマリー側チェーンで両バンクの吸気カムシャフトを駆動し、セカンダリー側チェーンで吸気カムシャフトから排気カムシャフトを駆動する2ステージのチェーン駆動方式となっている。

 右側写真はカムシャフトラダーフレームで、シリンダーヘッド上面に取り付けられて、この上に吸気及び排気カムシャフトが取り付けられる。動弁系の振動を抑えるために、高い剛性で支えるように梯子型の構造となっている。



シリンダーブロック

シリンダーブロック(シリンダー側) ウォータージャケットスペーサー
シリンダーブロック(シリンダー側)
ライナーの外側にあるウォータージャケットに右写真のウォータージャケットスペーサーが挿入される
ウォータージャケットスペーサー
シリンダーブロック(クランクケース側) シリンダーブロック(車両前方側)
シリンダーブロック(クランクケース側) シリンダーブロック(車両前方側)


 シリンダーブロックはアルミ合金製で、鋳鉄製ライナーを鋳込んでいる。樹脂製のウォータージャケットスペーサーをウォータージャケットに挿入することで、シリンダー上部を効果的に冷却している。ウォータージャケットの高さの約半分のスペーサーをはめ込むことで、ボア下部の水流れを悪くし、ボア下部の壁温温度の上昇を図り、ボア上下での温度差を小さくすることで、変形を抑え、フリクションを低減する。シリンダーブロックは、ロングスカートタイプで、クランクシャフトを固定するベアリングキャップ取り付け面よりも、下方部分までの寸法をたっぷり取り、音と振動の低減を考慮している。



クランクシャフト

クランクシャフト ベアリングキャップ
クランクシャフト ベアリングキャップ


 クランクシャフトは、シリンダーブロックのスカート部に、鋳鉄製のベアリングキャップによって取り付けられる。



オイルパン

アルミダイキャスト製オイルパンシリンダーブロック取り付け面側 アルミダイキャスト製オイルパン下面側
アルミダイキャスト製オイルパンシリンダーブロック取り付け面側 アルミダイキャスト製オイルパン下面側
車両下側から見たエンジン シリンダーブロックからオイルパンを取り外した状態
車両下側から見たエンジン シリンダーブロックからオイルパンを取り外した状態
車両後ろ側にオイルストレーナーがある。前側のオイル通路はオイルフィルターへ繋がる


 オイルパンはエンジン本体の音と振動を低減するため、アルミダイキャスト製で、シリンダーブロックの剛性向上の役割を果たしている。

 オイルパンの車両前側に突出した部分に、オイルフィルターケースが組み込まれている。その先端部分を回転すると、内蔵されたオイルフィルターが交換できる構造となっている。

 エンジンの前側の下部ぎりぎりに、ステアリングギヤが配置された車両レイアウトのため、オイルパン油量を確保するために、オイルパン後部にオイル溜まりのスペースを左右に拡げている(右上写真の左側部分)。その部分の下側開口部には、スチール製のカバーが取り付けられる。

 左下写真はアンダーカバーを外した状態で、エンジンを下から見上げた写真である。オイルパンの前半部の真下に、ステアリングギヤが配置され、フロントサスペンションメンバーの中央部に大きな長円のくりぬかれたスペースがあり、そこにオイルパン油量を確保するため横長となったスチール製カバーが見える。

 右下写真は、オイルパンを取り外したシリンダーブロック側である。バッフルプレートがクランクシャフト全面を覆っている。前側にオイルフィルターに繋がるオイル通路がある。



ヘッドカバー・タイミングチェーンカバー

ヘッドカバー裏面 ヘッドカバー表面
ヘッドカバー裏面 ヘッドカバー表面


 最近の大衆車クラスのエンジンでは、ヘッドカバーやフロントカバーは、軽量化のため樹脂化が進んでいるが、このエンジンではアルミダイキャスト製となっている。音・振動の低減を目的とした高剛性化を重視している。ヘッドカバーには、カムシャフト潤滑用のオイルジェットが設定されている。

 

フロントカバー(アイシン精機製)裏側 フロントカバー(アイシン精機製)表側
フロントカバー(アイシン精機製)裏側 フロントカバー(アイシン精機製)表側


 チェーンケースには、オイルポンプとウォーターポンプが内蔵される。



排気系

エキゾーストマニホールド・前側触媒 エキゾーストマニホールドのO2センサー(デンソー製)
エキゾーストマニホールド・前側触媒 エキゾーストマニホールドのO2センサー(デンソー製)
フロントパイプ・後側触媒・センターマフラー フロントパイプのO2センサー(デンソー製)
フロントパイプ・後側触媒・センターマフラー フロントパイプのO2センサー(デンソー製)
ミドルパイプ・リヤマフラー(三五製) センターマフラー後部のジョイント部
ミドルパイプ・リヤマフラー(三五製) センターマフラー後部のジョイント部
フレキシブルジョイントを採用している


 エキゾーストシステムは、V6エンジンの左右バンクそれぞれから、エキゾーストマニホールドが取り付けられ、そこに続いて、前側触媒、フロントパイプ、さらに後側触媒が2系統で配置される。左右2系統のフロントパイプがセンターマフラーの直前で、1本に合流しセンターマフラーに繋がる。センターマフラーを出て、ミドルパイプから左右2本に再び分岐して、左右2つのリヤマフラーに繋がる。

 エキゾーストパイプとフロントパイプは冷間始動後の排気ガスを保温し、触媒での効果を高めるために、2層管構造となっている。また、2層管構造は周辺部品への遮熱の効果もあり、エキゾーストマニホールド周辺の遮熱カバーを省略している。



補機類

エアコンコンプレッサー(デンソー製) スターターモーター(デンソー製)
エアコンコンプレッサー(デンソー製) スターターモーター(デンソー製)


 エアコンコンプレッサーとスターターモーターは共にデンソー製である。



トランスミッション

トランスミッションとトルクコンバーター トランスミッション(エンジンとの結合部)
トランスミッションとトルクコンバーター トランスミッション(エンジンとの結合部)
エンジンからトルクコンバーターを取り外した状態 車両下側から見たトランスミッション搭載状態
エンジンからトルクコンバーターを取り外した状態 車両下側から見たトランスミッション搭載状態

 トランスミッションは、アイシン・エイ・ダブリュ製のA960E型の6速ATである。トヨタの3.0リッター以下のエンジンを搭載したFR車用で、クラウン以外にはレクサスIS、レクサスGS、マークX等に搭載される。

                     <自動車産業ポータル、マークラインズ>