富士重工(下):2016年にプラットフォームを1種類に統合、開発・生産を効率化

第3世代アイサイトを搭載、米国ではレーダーセンサーによる安全装備も設定

2014/06/30

要 約

 本レポート「富士重工(下)」では、同社のモデル計画、アイサイトなどの安全装備、最大市場である米国での計画について報告する。

 富士重工は、2014年に新型アウトバック、レガシィをまず米国で発売する。日本では、6月にレガシィ・ツーリングワゴンの後継車となるレヴォーグを発売した。

 また、現在の2種類あるプラットフォームを1種類に統合し、開発・生産の効率を高める。2016年発売車から適用する。

 安全装備面では、2014年発売車から第3世代のアイサイトを搭載している。さらに米国仕様車には、レーダーセンサーを使用する安全装備も設定した。

 パワートレインの強化では、直噴エンジン搭載の拡大(最終的に全車直噴化する)、気筒休止、リーン燃焼技術の導入を計画。電動車両については、プラグインハイブリッド車と、現行車より燃費性能を高めた新しいハイブリッド車の投入を発表している。

スバルレヴォーグ
2014年6月に発売されたスバルレヴォーグ
スバルレヴォーグ
スバルレヴォーグ(サイドビュー)


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モデル計画:2016年に新設計プラットフォームを導入

 富士重工は、2014年にレガシィ・シリーズを一新する。日本では、ツーリングワゴンの後継車となるレヴォーグを発売した。

 2016年をめどに、現在のレガシィ/アウトバック用のプラットフォームと、インプレッサ/フォレスターなどに使用しているプラットフォームを統合し、新設計プラットフォーム、Subaru Global Platform (SGP)を導入する。衝突安全性能、運動性能を高め、同時に室内空間の最大化を目指すとしている。

 また、国内・海外の販売店からコンパクト車についての要望が強いが、計画はしていない。富士重工は、ターゲット市場や車種を絞ることによって現在の利益率を実現している。1例として、新興国向けコンパクトカーを開発して大手量産自動車メーカーと真正面から戦うことはしないとしている。

富士重工:2014~2018年モデル計画

レヴォーグ Levorg 2014年6月 (日本で発売)  富士重工は、日本国内での現行レガシィ・シリーズの受注を6月末で終了する。次期型は、B4(セダン)とアウトバックの2タイプとなり、ツーリングワゴンは廃止されレヴォーグが後継車となる。スポーツカーの楽しさとワゴンのユーティリティを併せ持つモデルを目指し開発した。
 5代目と6代目(2014年発売)のレガシィは北米を意識して大型化したが、レヴォーグは国内市場に向けて全長と全高は4代目並におさえた。全幅は5代目レガシィと同じ1780mm。
 パワートレインは、新開発した1.6L直噴ターボエンジンまたは2.0L直噴ターボエンジンを搭載。販売台数の約8割が1.6Lエンジン車になると見込む。全車AWD。また第3世代のアイサイトを初設定し、予約段階では99%が搭載車を選んだ。

(注)日本で発売する次期型レガシィB4とアウトバックについては、2014年内に発表予定。

新型アウトバック Outback 2014年7月 (北米で発売)  2014年4月のニューヨーク国際自動車ショーにおいて、新型アウトバック米国仕様車を世界初公開した。7月に発売する。アウトバック誕生以来の乗用車の快適性、SUVの走破性、ワゴンの積載性を併せ持つとするコンセプトを磨き上げ進化させた。
 パワートレインは、2.5L水平対向4気筒DOHC NAエンジン、または3.6L水平対向6気筒DOHC NAエンジンと、6速マニュアルモード付きリニアトロニックを組み合わせる。また、第3世代アイサイトなどの安全装備を搭載する。廉価版の2.5iを除き、全仕様AWD。
 X-modeを設定。例えば雪道での発進でタイヤが空転するとき、X-modeのスイッチをONにしておくと、エンジン・トランスミッション・AWD・VDCを統合制御し、四輪の駆動力とブレーキを適切にコントロールすることで、スムーズな脱出が可能になる。
新型レガシィ Legacy 2014年夏 (北米で発売)  2014年2月、シカゴオートショーで新型レガシィ(米国仕様車)を世界初公開した。2014年夏に発売する。開発においては「デザインとエンジニアリング(技術力)の高次元での融合」を商品コンセプトとした。
 パワートレインは、2.5L水平対向4気筒DOHC NAエンジン、または3.6L水平対向6気筒DOHC NAエンジンと、6速マニュアルモード付きリニアトロニックを組み合わせる。また、第3世代アイサイトなどの安全装備を搭載する。廉価版の2.5iを除き、全仕様AWD。
 2013年に、米国でアウトバックを125,554台、レガシィを40,800台生産したが、2014年にレガシィを60,000台生産する計画。競合の激しい中型セダン市場で、これまでより有力な存在になるとしている。
7人乗りSUV 2016~ 2020年  米国ディーラーから強い要望があり、販売不振のTribecaに代わる7人乗りSUVを開発する方針。日本で販売するエクシーガをベースに開発し、生産国は米国が有力とされる。
富士重工:電動化対応計画
プラグイン ハイブリッド車 2017年 (米国)  2018年から、小規模メーカーを除く大半の自動車メーカーが米国カリフォルニア州の"Zero-emissions regulations"の対象となるため、富士重工はトヨタの技術支援を得てプラグインハイブリッド車を投入する計画。
 カリフォルニア州は、2025モデルイヤーで、各自動車メーカーが販売台数の15.4%をZEV(EV、FCV、およびPHV:PHVは、EV走行距離分がカウントされる)とするよう求めている。他に10州が同様の規制を導入する見込み。
次世代 ハイブリッド車 ~2018年  富士重工が自社開発し2013年秋に発売したXV Crosstrekハイブリッドは、スポーティーな走行性能を重視し、燃費は33 mpg highway/29 mpg cityにとどまる。米国の燃費規制が年々厳しくなるので、トヨタの支援を得て、さらに燃費性能を向上させたHVを投入する計画。
 (日本で2013年6月に発売したSubaru XV HYBRIDのJC08モード走行燃費は20km/L。)

 

 



第3世代のアイサイト(EyeSight)を2014年から日米で搭載

 富士重工は2013年10月、新型(第3世代)のアイサイト(EyeSight)を発表した。2014年6月に日本国内で発売する新型ワゴン「レヴォーグ(Levorg)」、同年夏に北米で発売する新型Outback/Legacyから搭載する。

 なお米国販売車については、両サイドとリヤにレーダーセンサーを装備し、死角検知機能(Blind Spot Detection)などの機能を追加する計画。

 第3世代のアイサイトには、車線中央維持などの「自動運転の領域に近づいた」機能を加えた。富士重工は、2020年までに(運転の責任をドライバーが持つことを前提とする)自動運転の実用化を目指しており、第3世代アイサイトをその第1歩にしたいとしている。

 国内では、価格は税抜き10万円を維持した。スバル車での搭載比率は約8割で、好調な国内販売を支える要因のひとつになっている。

第3世代アイサイト(EyeSight)の新機能

第3世代のアイサイトは、ステレオカメラの視野角、視認距離をともに約40%拡大し、かつカラー画像化。視認範囲拡大、物体認識精度向上、ブレーキランプ点灯・赤信号の認識を可能とすることで、衝突回避、衝突被害軽減、運転負荷軽減などの各種性能を進化させた。また操舵制御機能を追加することで、安全性能向上と、さらなる運転負荷軽減を実現した。 
レーンキープアシスト (車線中央維持) (新機能)  「全車速追従機能付クルーズコントロール」を作動中、約65km/h以上かつ走行車線両側の白線を認識している状態で走行している場合、車線中央を維持するよう、ステアリングの自動操舵を行い、ドライバーの運転負荷を大幅に軽減する。
レーンキープアシスト (車線逸脱抑制) (新機能)  自動車専用道路などを約65km/h以上で走行している場合、車線からはみ出しそうになると、従来の車線逸脱警報(表示 + 警報音)に加え、ステアリングにトルクを加えることで車線内側方向に操舵する制御を行い、車線からの逸脱を抑制する。
プリクラッシュブレーキ (機能向上)  自動ブレーキによる、自車と対象物との衝突回避もしくは被害の軽減が可能な相対速度を、従来の約30km/hから50km/hへ向上させた。
全車速追従機能付 クルーズコントロール (機能向上)  ステレオカメラの認識性能向上により、先行車への加速・減速応答性を高め、コーナー追従性を高性能化した。
(新機能)  ステレオカメラのカラー画像化により、先行車のブレーキランプの点灯状態を検出することで、全車速追従機能付クルーズコントロールの機能を強化。追従時に従来機能に比べさらに早めの減速を可能にする制御を開発した。
AT誤後進抑制制御 (新機能)  後進時のアクセルの急な踏み込みまたは高い後退速度を検出した場合、警報すると同時にエンジン出力を制限し、急な後退走行を抑制する。
危険回避アシスト (新機能)  先行車等前方障害物との衝突可能性が高いと判断した場合、VDCの車両統合制御により、ドライバーの衝突回避操舵をアシストする。

 

米国仕様アウトバック/レガシィにレーダーセンサーを使用する安全装備を設定

 2014年に米国で発売する新型アウトバックと新型レガシィから、第3世代アイサイトに加え、後側方視界支援機能と、SRF(Steering Responsive Fog Lights)を設定した。
後側方視界支援機能
死角検知機能 (Blind Spot Detection)  後方視界が、C、Dピラーに遮られて死角となってしまうエリアに存在する車両を検知して、ドアミラーに付いているLEDランプを点灯させることでドライバーに注意を促す。
車線変更支援 (Lane Change Assist)  隣車線において高速で接近中の車両が存在する状態で、ドライバーがウィンカーを操作し車線変更を試みると、前項と同じドアミラーに付いているLEDランプが点滅してドライバーに警告する
後退時支援 (Rear Cross Traffic Alert)  後退時に左右から接近してくる車両を検知し、衝突の危険性があると判断した場合にドライバーに警告する。
SRF(Steering Responsive Fog Lights)
 コーナリング時に片側フォグランプを自動で点灯させ、夜間のコーナリング時の視認性を向上させた。対向車に配慮し、ステアリング操舵角、走行スピードに反応して、自動点灯・消灯制御することが可能。

 

 



米国市場:2014年に6年連続で過去最高を更新する見込み

 スバル車の米国販売は、5年連続で過去最高を更新している。2014年1~5月米国販売台数は196,641台、前年比18.9%増加し、2014年に6年連続で更新する見込みとしている。

 富士重工の新しい経営ビジョン「Prominence 2020」では、北米販売を2013年度の47.8万台から60万台に拡大する計画。

 ここ2~3年の販売拡大では、インプレッサ、フォレスター、XV Crosstrekの輸入車が増加し、2013年には26.2万台(米国販売の62%)が輸入車となった。富士重工は、米国生産能力を2013年の17万台から2016年31万台に増強し、為替感応度を引き下げる方針。

 また、急速な販売の拡大にディーラーのサービス体制が追いつかない懸念があり、富士重工も支援してサービスの拡充を進める計画。

米国モデル別新車販売台数

2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2013年 1~5月 2014年 1~5月
Impreza 46,611 36,072 27,391 68,175 58,856 24,343 25,822
Impreza WRX   8,323 13,805 13,624 17,969 7,856 11,170
Legacy 64,997 38,725 42,401 47,127 42,291 19,045 14,723
Outback 21,333 93,148 104,405 117,553 118,049 49,101 51,230
BRZ     0 4,144 8,587 3,279 3,738
乗用車計 132,941 176,268 188,002 250,623 245,752 103,624 106,683
Tribeca 5,930 2,472 2,791 2,075 1,598 722 544
Forester 77,781 85,080 76,196 76,347 123,592 40,578 61,083
XV Crosstrek       7,396 53,741 20,438 28,331
小型トラック計 83,711 87,552 78,987 85,818 178,931 61,738 89,958
米国計 216,652 263,820 266,989 336,441 424,683 165,362 196,641
米国生産車 92,260 134,345 149,597 166,755 161,938 68,868 66,497
輸入車 124,392 129,475 117,392 169,686 262,745 96,494 130,144

資料:Automotive News

 

米国のディーラーのサービス体制を強化

 米国でのスバル車販売は、2011年の266,989台から2013年に424,683台に59%増加するなど急速に拡大した。富士重工は、しばらく拡大のスピードを一桁台に緩めて、その間にディーラーのサービス体制を強化する計画。このままでは、急速に増加するサービス工場への入庫にサービス体制が追いつかず、せっかく獲得した顧客の信頼を失うとの懸念がある。
 2013年11月に、ディーラーのサービス体制強化を支援する"Fixed Operations Expansion"プログラムを発表した。サービス工場の入庫スペース数やリフト機構を拡充する計画を、財政的に支援する。富士重工は、ディーラーのサービス能力を、4年間で70%拡充する方針。
 2014年5月現在で、米国のスバル車ディーラーは621店。ここ数年間に約 1/4を入れ替えて販売力を強化してきた。今後も店舗数は、現状を維持する計画。また1 店舗当たり年間700~800台販売しているが、安定的に年間 1,000台販売できる体制を構築する計画。

資料:日経産業新聞 2014.5.28、Automotive News 2013.11.18/2014.1.20/2014.1.27

 

 



中国市場:2013年度小売販売台数は6万台、2020年度に12万台販売を目指す

 富士重工は、それまで富士重工100%出資であった中国におけるスバル車の販売会社「スバル汽車(中国)有限公司」に、多くのブランドの自動車ディーラーを運営している厖大汽貿集団から40%の出資を受入れた。体制変更は2013年1月に発表され、10月から本格稼働した。

 2013年度の小売販売台数は6.0万台で、2010年度の5.8万台を上回り過去最高となった。2012年末に新型を投入したフォレスターが34,971台(52.0%増)、2012年2月に新規投入したスバルXVが13,836台(39.5%増)と販売を牽引した。

 現在の約200店の販売店を2年以内の早い段階で250店に拡大、商品ラインアップも拡充し、2020年度に12万台以上の販売を目指している。

 富士重工は、合弁での中国生産を中国政府に申請しているが、2014年6月時点で認可されていない。当面輸入による商品戦略と販売網強化でスバルブランドの浸透を図る方針。

                     <自動車産業ポータル、マークラインズ>