【ものづくり】2020年版「グローバルニッチトップ企業100選」 (1)

世界市場のニッチ分野で勝ち抜く自動車部品メーカー

2020/08/25

要約

  経済産業省は2020年6月30日、世界市場のニッチ分野で勝ち抜いている企業や、国際情勢の変化の中でサプライチェーン上の重要性を増している部品、素材等の事業を有する優良な企業113社を、2020年版「グローバルニッチトップ企業100選」として選定した。この中には自動車部品メーカーも数社あり、本稿ではその一部を紹介する。

 

自動車部品の受賞企業(2020年版グローバルニッチトップ企業100選より抜粋)

受賞会社 受賞製品 本社所在地
愛知製鋼㈱ Nd系異方性ボンド磁石 愛知県東海市
大同工業㈱ 二輪車用ドライブチェーン 石川県加賀市
㈱東郷製作所 ホースクランプ 愛知県愛知郡東郷町
㈱フコク 新車装着用ワイパーブレードラバー(ゴム部分) 埼玉県上尾市
太平洋工業㈱ 自動車タイヤバルブ 岐阜県大垣市
マルヤス工業㈱ EGRクーラー 愛知県名古屋市
㈱志水製作所 電動車用パワートレインに使用される金属部品 愛知県一宮市
第一稀元素化学工業㈱ 自動車排ガス浄化触媒用材料 大阪市中央区
田中貴金属工業㈱ 燃料電池用触媒 東京都千代田区


◇経済産業省ホームページ:2020年版グローバルニッチトップ企業100選とは
   https://www.meti.go.jp/press/2020/06/20200630002/20200630002.html

◇選定企業一覧(113社)
   機械・加工部門61社、素材・化学部門24社、電気・電子部門20社、消費財・その他部門8社
   https://www.meti.go.jp/press/2020/06/20200630002/20200630002-1.pdf

 

【ものづくり】関連レポート:
2020年版「グローバルニッチトップ企業100選」 (2) マルヤス工業、志水製作所、第一稀元素化学工業、田中貴金属工業(2020年9月)
マークラインズオンライン展示会2020:EV部品、低抵抗ベアリング(2020年7月)
第24回機械要素技術展2020:日本とタイの自動車部品(2020年3月)
テクニカルショウ ヨコハマ2020:高機能自動車部品・コストダウン技術(2020年2月)
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愛知製鋼:Nd系異方性ボンド磁石

  愛知製鋼は1940年創業のトヨタ系の愛知県東海市の特殊鋼メーカー。自動車のエレクトロニクス化、情報化に伴い、軽量で高性能なモーターへの期待が高まり、高磁力のボンド磁石への関心が寄せられている。同社が開発したNdFeB系異方性ボンド磁石「マグファイン」は、次世代の革新的なモーターを実現するコア素材として世界的な注目を集めている。

 

NdFeB系異方性ボンド磁石「マグファイン」

  • Nd系:磁石のうち、Ndネオジムを主成分にする強力磁石
  • 異方性:等方性と異方性がある。一般のフェライト磁石は等方性だが、強力磁石は異方性磁石で、特定の方向のみ強く磁化する。
  • ボンド磁石:一般のフェライト磁石は焼結工法だが、樹脂を混ぜて射出成型機で制作する制作が容易な磁石をボンド磁石という。

  「マグファイン」は、ネオジム系異方性ボンド磁石の中で最も強い磁力を持ち、更に、高い形状自由度で最適な磁石設計を可能にする一体射出成形により、モーターの高性能化・小型軽量化に貢献している。また、重希土類であるジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)に加え、希少金属のコバルト(Co)も添加しておらず、資源問題の解決にも貢献している。

  ネオジム磁石の欠点は120度で突如として磁力が失われる消磁現象がある。その限界温度を150度に高めるために、高価な希土類元素Dyが配合されている。また、Dyは中国でしか産出されないため、供給や価格の安定性に不安があった。それらの課題解決のために、愛知製鋼では「ジスプロシウム(Dy)フリー」を研究開発テーマとして取り組み、Dy入りと同じ限界温度150度を実現することができた。

強力Dyフリー強力ボンド磁石「マグファイン」 一体射出成形によるVE提案 IPMタイプ
マグファイン IPMタイプ
小型軽量化に貢献 性能向上のための細工形状が容易

(高機能素材WEEK2018に展示)

 

  「マグファイン」はこれまで自動車のシートモーター、充電式草刈機やチェーンソー、産業用ドローンなどのモーターに採用され、現在は電動車の主機モーターの一体開発にも取り組んでいる。

量産:自動車ヘッドレストモーター ボンド磁石
自動車ヘッドレストモーター ボンド磁石

(高機能素材WEEK2018に展示)

 



大同工業:二輪車用ドライブチェーン

二輪車用ドライブチェーン
二輪車用ドライブチェーン
(出典:大同工業プレスリリース)

  大同工業は1933年創業の石川県加賀市の二輪車、自動車、産業用などのチェーン専業メーカー。四輪車タイミングチェーンの世界シェアは約10%、二輪車ドライブチェーンの国内シェアは60%以上を占める。特に二輪車用では、国内・海外のメーカーやMotoGP等、世界の名だたるレースにおいて長年にわたり採用され、世界中のマーケットで絶大な信頼を獲得している。今回はこの二輪車用ドライブチェーンが評価され、機械・加工部門で認定された。

 

アフターマーケット向け・二輪車用ドライブチェーン

アフターマーケット向け二輪車用ドライブチェーン
アフターマーケット向け二輪車用ドライブチェーン
(2016年 オートモーティブワールドに展示)

  アフターマーケット用ではOEM納入品より高性能なチェーンを販売する。基本設計はサイズごとの専用設計。チェーンの引張強度は同等だが、実用域では「実使用域動剛性」を向上させ、ライダーの感性に応えるレスポンスを実現している。また、ローラーチェーンのローラー部はピン、ブッシュ、ローラーの3重構造になっているが、高剛性とシール抵抗50%低減を謳っている。高剛性構造は、純正で採用される巻ブッシュから精度の高い冷間鍛造の一体形状ブッシュに変更することで、変形しづらく、レスポンス向上、加速性能向上、ハンドリング向上といった効果がある。シール抵抗50%低減構造は、グリースを封入するシールを装備したシールチェーンにおいて、シールの断面形状を純正で採用されるOリングからXリングに変えている。回転摺動抵抗を下げ、スムーズな走りと燃費向上に貢献している。これらの対策と独自開発した特殊グリースとの相乗効果により、スタンダードチェーンに比べ磨耗寿命が1.2~4倍になるという。

 

シールチェーン DIRECT技術
シールチェーン DIRECT技術
高剛性:ソリッドブッシュ
シール抵抗50%低減:Xリングシール
サイズごとの専用設計により、「実使用域動剛性」を向上させ、ライダーの感性に応えるレスポンスを実現している。

(第46回国際東京モーターサイクルショー2019に展示)

 



東郷製作所:自動車用ホースクランプ

  東郷製作所は1881年創業の愛知県愛知郡東郷町の板バネメーカーで140年の歴史がある企業。ホースクランプが主力製品で工場はグローバル展開している。自動車用ホースクランプは国内外で高いシェアを占め、特にトヨタ車のホースクランプではシェア100%という。世界中のマーケットで絶大な信頼を獲得しているホースクランプが評価され、機械・加工部門で認定された。

ホースクランプ ホースクランプ
ホースクランプ ホースクランプ各種
(出典:東郷製作所ホームページ) 各種サイズは異なるが、仕様は標準化が進んでいる。
(金属プレス加工技術展 名古屋2019に展示)

 

世界拠点と生産品目
ホースクランプは海外拠点でも生産中
(金属プレス加工技術展 名古屋2019に展示)

  東郷製作所はカイゼン活動にも注力しており、2019年2月21日付けでトヨタより「原価改善活動(部品部門)」及び「品質管理優秀賞」を受賞した。

  ISOの自動車規格ISO/TS16949は運転免許証のようなもので、設備、金型、製造基準書、QC工程表、作業標準へ製造ノウハウの落とし込みをいくらやっても「不良ゼロ」はできないが、カイゼン活動ではモデルラインを作り専任チームで徹底して行い「不良の出ないライン」を作っている。不良品が出るとその現場に入り、徹底的に原因を追究する現場、現物、現実の「三現主義」で、表面的な原因でなく「なぜなぜ分析」で真の原因まで追究している。最後は人だが、非正規社員化が進む日本の現状では、作業員の意識や能力を平準化することが難しい状況にあるが成果を出している。

 



フコク:新車装着用ワイパーブレードラバー

  フコクは1953年創業の埼玉県上尾市の非タイヤ自動車用ゴムメーカー。主力製品はワイパーブレードラバーとブレーキ用ゴムなど。新車組付け用「ワイパーブレードラバー」は年間生産数およそ2億本。日本国内純正品(OEM)では圧倒的なシェアを獲得、世界OEMシェアでも約40%。質・量ともに世界NO.1の実績を誇っている。今回は長年にわたり世界中のマーケットで絶大な信頼を獲得しているワイパーブレードラバーが評価され、機械・加工部門で認定された。

新車装着用ワイパーブレードラバー
新車装着用ワイパーブレードラバー

(出典:フコクプレスリリース)


  フコクは独自のゴム表面処理の摩擦抵抗技術を開発したことを皮切りに、創業以来67年にわたり、ゴム材料やコーティング材の開発、表面処理技術、カット工法など様々な技術を磨き、 自動車のブレーキ製品やエンジンプーリー、等速ジョイントブーツなどもグローバルで多数生産している。

 



太平洋工業:自動車用タイヤバルブ

  太平洋工業は1930年創業の岐阜県大垣市のタイヤバルブなどの自動車部品メーカー。今回は自動車タイヤの空気注入口につけるタイヤバルブについて、国内で100%、世界で20%以上の高いシェアを占めることなどが評価され選定された。

  タイヤの空気注入口であるタイヤバルブの中に入っているのが、通称「ムシ」と呼ばれるバルブコア。創業当時、外国からの輸入品に頼っていたバルブコアの国産化に挑み、日本で初めて製品化に成功した。世界規格品となっているバルブコアは、直径5.1㎜、長さ19.5㎜、重量わずか1グラムと小さな部品だが、タイヤバルブの心臓とも言える精密部品で、空気注入時には弁が開いてスムーズな流通を確保し、通常時には空気を外へ漏らさない重要な働きをする。タイヤの空気圧を保持し、車が走行するためには欠くことのできない大切な役割を果たしている。

タイヤバルブ・バルブコアの装着位置 タイヤバルブの断面図
タイヤバルブ・バルブコアの装着位置 タイヤバルブの断面図
バルブコアの構成部品 バルブコアの大きさ
バルブコアの構成部品 バルブコアの大きさ
バルブコアは7つの部品から構成されている。一つひとつの部品は単純だが、気密性が重要特性であり、複合的なものづくり技術が必要とされる。 直径5.1㎜、長さ19.5㎜、重量1グラム

(出典:太平洋工業ホームページ)


  ものづくりでは、切削加工のみならず、ゴム配合設計から加工・組立までの一貫生産体制を構築し、ゴム精錬、ゴム成形加工、鍛造加工、プレス加工、切削加工、ばね加工、組立加工等の複合技術で、オンリーワンのものづくりを推進している。

 

TPMS(Tire Pressure Monitoring System:タイヤ空気圧監視システム)

  太平洋工業はTPMSに注力している。TPMSとは、Tire Pressure Monitoring System(タイヤ空気圧監視システム)の略で、タイヤの空気圧や温度を送信機内のセンサーで直接測定し、その情報を無線で車体側の受信機に送り、ドライバーに異常を知らせるシステム。送信機、受信アンテナ、受信機、表示器からなるシステムのうち、送信機の生産を行っている。

  自動車用バルブコアで創業した太平洋工業が、長年培った保有・固有技術を活かし、電子回路設計製造技術も習得し、バルブに付加価値をつけた次世代バルブとして開発した。

ドライバーにタイヤの異常を知らせるシステム TPMS送信機の外観
ドライバーにタイヤの異常を知らせるシステム TPMS送信機の外観
システム概要 TPMS送信機

(出典:太平洋工業ホームページ)


  TPMSは、日本では高級車にしか採用されていないが、海外では法規制が進み、TPMSを装備するモデルが増えている。2000年に米国で自動車の安全性に関する規制「TREAD法」が成立し、2007年9月から米国で販売される新車にはTPMSの装着が100%義務づけられた。米国市場の需要拡大を受け、TPMS送信機の市場は急速に拡大し続けている。法規化の流れは世界に広がり、TPMSは、欧州、韓国、台湾、ロシア、中近東、中国ですでに規制対象となっている。


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キーワード
ものづくり、愛知製鋼、大同工業、東郷製作所、フコク、太平洋工業、マグファイン、ボンド磁石、モーター、ドライブチェーン、タイミングチェーン、ホースクランプ、ワイパーブレードラバー、タイヤバルブ、バルブコア、TPMS

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