SAE China 2018(2):NEVとビッグデータ

ビッグデータを活用しNEVの利用状況や充電環境などを把握

2019/01/07

要約

 NEV(新エネルギー車:New Energy Vehicle、以下NEV)産業の発展は、中国ひいては世界の主要国の国家戦略の一つとなっている。また、ビッグデータ技術は政策「中国製造2025」の重要技術の一つとして、今後NEV産業と密接に関連することも業界の共通認識となっている。今回のSAE年次大会において、技術学会及び関連研究組織から参加した人々はNEV及びビッグデータに関してそれぞれ自らの意見を述べた。本稿はSAE China取材レポートの第2弾で、NEVとビッグデータの組み合わせた技術の応用に焦点を当てる。

 中国汽車工程学会(SAE-China)は1963年に自動車技術関係者によって自主的に設立された、全国的な、学術性の強い法人団体である。中国科学技術協会の組織の一部で、非営利組織である。国際自動車技術会連盟(FISITA)のメンバーであり、国際太平洋地区自動車技術会(IPC)の発起団体の一つでもある(現在はアジア太平洋地区自動車技術会/APACと改名)。本会議に出席した専門家は、中国、上海市ひいては世界中のNEVの発展や使用状況、及び如何にしてビッグデータ技術とNEVと組み合わせるかという議題に対して述べた。



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NEVの国家ビッグデータと自動車業界の応用技術

組織名 組織の概要 講演者 職位
北京理工大学、新エネルギー車国家大ビッグデータ連盟

中国有名大学。新エネルギー車国家監測/管理センター、NEVメーカー、部品サプライヤー、インターネットアプリケーションサーバー、科学研究機構、関連社会団体組織により自主的に組織された全国的、連合的、非営利社会組織であり、中国工業情報化部の業務指導及び監督管理を受ける。

劉鹏 副教授

副教授及び修士指導教官、副秘書長。

 

NEVにおけるビッグデータの価値

刘鹏副教授在进行演讲
劉鹏 副教授によるプレゼンテーション

 現在、NEV産業のデータ体系はすでに単一データが次々と発生する段階から、データが繋がり融合する産業デジタル化の段階に入っている。周辺データから、消費者、環境、道路及び地理的位置などのレベルにおいてそれぞれ行動習慣データ(例、これまでの消費履歴など)、天気データ、道路の高低データ、運行位置データなどを生成することができる。内部データからは、車両データ、生産、販売、アフターサービス、使用及び廃棄の複数の環境段階において有用なデータを生成することができる。デジタル化は自動車産業の体系価値を高め、メーカーの生産最適化、ディーラーの販売量の向上、消費者の満足度を向上させる。自動車産業の「四化」(コネクテッド化、自動運転化、シェアリング化及び電動化、以下「CASE」)に伴い、ビッグデータ技術とAI技術が結合し始めたことで、自動車のビジネスモデルに大きな変化をもたらし、自動車産業のエコシステムは急速に拡大し、ますます多くの新体系や新分野が参入している。

 

NEVのビッグデータ応用

1.業界の現状把握:133万台のNEV、うち73.3%が乗用車、広東省の台数が最大

 2018年までに「新エネルギー車国家監督管理プラットフォーム」に、実際に入力または今後入力予定の車両台数は以下の通りである。

2018年 200万台
2020年 700万台
2025年 8,000万台
2030年 1.5億台

 ビッグデータ技術を利用し、NEVバスのバッテリーの生産から廃棄までのトレーサビリティ管理を行うことが可能である。その他、「新エネルギー車国家監督管理プラットフォーム」のデータを通して、現在のNEVの普及状況を把握することができる。2017年1月から2018年10月まで、「新エネルギー車国家監督管理プラットフォーム」に接続した省、直轄市、自治区は合計で31、累計で133万台のNEV情報が入力され、そのうちの乗用車が73.3%、バスが13.8%、特装車が12.9%を占めた。車両タイプ及び省の区分では、乗用車、バス及び特装車のすべてにおいて広東省からのデータ入力が最大であり、それぞれの車両タイプ総数の13.15%、10.39%及び22.72%を占める。中国のNEVのデータ入力企業を見ると、乗用車、バス、特装車の分野に集中しており、いずれも一部の優良企業が市場シェアを占めるという現象となっている。乗用車、バス及び特装車の市場において、上位10社の市場シェアはそれぞれ78.13%、74.61%、62.11%に達する。「新エネルギー車国家監督管理プラットフォーム」では、ビッグデータ技術を使用して、NEVデータの信頼性や有効性のモニタリングが可能である。

2017-2018

2.バッテリーの応用:ビッグデータによるモデリング、バッテリー状況に対する評価モデルの確立

 収集されたデータは分析モデルの処理の後に、バッテリーの劣化状態の把握、消費エネルギーの分析及び運転挙動の分析などを行うことができる。最終的に走行効率の向上、運転挙動の最適化及び運営コストの低減という効果を得ることができる。さらに、ビッグデータによるモデリングにより、バッテリーの劣化状態に対する評価モデルを確立することが可能。実車の走行データに基づき、例えばバッテリー使用回数、累計放電時間、バッテリーのバランス性及びバッテリーパックの外形評価など多くの指標を考慮することで、さらに包括的な関係を確立することができる。その後、各項の静的データ、動的データ、Artificial Neural Network(略称NN:Neural Network)のトレーニングに基づき、バッテリーの劣化状態を正確に評価することも可能。ビッグデータ技術の使用により、パラメーターのスクリーニング測定が可能となる。バッテリーの初期状態の情報を提供し、その後の蓄電池のバックグラウンドデータの分析及び状態評価を保証する。また、バックグラウンドデータを抽出し、エネルギー貯蔵システムのエネルギー利用率を高めることもできる。最終的には業界全体の指標を把握することができ、例えば車載バッテリーの充電率(SOC:State Of Charge)の統計をとることで、航続距離の信頼度を把握することができる。現在大部分の車両のSOCは50%前後であることから、ユーザーがNEVの航続距離に対して危惧していることが分かる。

 

3.運行分析:車型によるNEVの1日当たりの走行距離及び充電状況

 現在NEV乗用車の1日の総走行距離は2-20kmの間に集中しており、近距離の外出に多く使用されている。NEVバスの1日の総走行距離は160-180kmの間に集中しており、往復の運行に用いられている。NEV特装車の1日の総走行距離は40-60kmの間に集中しており、多くが近・中距離輸送に用いられている。地図と結合してNEVタクシーの充電状況からSOC値の分布を見ることができ、充電ステーションなどのインフラ整備に反映することも可能である。

 

4.安全指数の構築:ビッグデータプラットフォームによるバッテリー不具合警告

 ビッグデータ技術の使用により、車両のマクロ的な全体状況のモニタリングと車両のミクロ的な単一データのチェックを実現することができる。故障時の即時処理や安全管理システムとなどを行うことができる。統計によると、2017年以降、中国国内ではNEVの発火事故が19件発生しており、関連車両は100台を超える。充電時における発火事故の割合が42%を占め、走行中における発火事故は21%を占める。ビッグデータプラットフォームを使用することで、バッテリーシステムの時間の尺度を用いて事前警告を行うことができる。データ履歴を基に、中・長時間のバッテリー状態及びリスク評価を行う。リアルタイム情報及び中・長期の警告情報(値)に基づき、バッテリーの劣化状態及びリスク情報を融合し、短期間の安全上のリスクをオンラインで早期警告する。この他に、ビッグデータに基づき、車両メーカーが提供する安全限界値を組合せ、データを縦方向及び横方向で比較することで、安全性の高いバッテリーシステムのリモート故障診断体系及び故障警告体系を確立。この2つの体系により、バッテリーシステムの故障タイプ、故障場所、故障の発生回数の統計など細分化した分析を行い、電動車の故障診断及び警告の効率及びや正確性を向上し、電動車の使用上の安全を保証する。



上海市のNEV車両運行データ分析

組織名 組織の概要 講演者 部門と職位
上海市新エネルギー車公共データ収集/監測研究センター 上海市経済情報委員会による指導、上海市社会団体管理局の承認により設立された民間の非営利組織(NPO) 鄧斯文 分析部マネージャー

 

グローバル及び上海市のNEV市場の概況

邓斯文在进行演讲
鄧斯文 氏によるプレゼンテーション

 グローバルでは、2013年から2017年の間にNEVの保有台数が急速に増加し、2017年のグローバルでのNEV保有台数は300万台を超え、EVがPHVをやや上回った。米国、欧州、中国での保有台数が大多数を占め、うち中国の保有台数が最大で約130万台。2013年から2017年の間における上海市のNEVの累計保有台数は18万8,863台に達した。上海の消費者は、EVに比べPHVを好む傾向があり、PHVのシェアが最も小さい2017年でもNEVの65%(6万1,354台)をPHVが占める。

 

上海市NEV公共データプラットフォームの紹介

 2018年10月までに、上海市新エネルギー車公共データ収集/観測研究センター が収集したデータは、乗用車では、OEM60社、360モデル、20万2,113台、商用車が、OEM53社、264モデル、1万9,176台、合計で113社、624モデル、22万1,289台であった。当センターは、専門的且つ安全に、融合されたビッグデータのオープンプラットフォームを確立し、政府、業界及び社会にサービスを提供することを目的としている。センターの研究員が主にセンターに常駐し研究を行う方法により、データの安全性を保証した状態でデータの開放を実現する。研究員はデータを見ること、データを使用すること、データを分析することは可能だが、データを持ち出すことはできない。例えば、上海地図座標で収集したNEV公共データは、プライバシー保護処理を行った後に形成されたサンプルデータを提供することが可能で、その後は国家標準(GB)に公開される。

 当センターは、データ指標体系、データ管理体系、データラベル体系、分析指標体系及び応用シーンの体系を構築することで完全な「EV五指標体系」を確立した。そのデータベースは日を追うごとに豊富且つ多様となり、現在すでにNEVのリアルタイム運行データ、NEVの月間販売データ、上海市の人口及び人の往来に関するデータ、NEV関連の上海地図データ及び車/充電スタンド/ネットワークポイント、上海市道路網及びOD調査データ(survey on OD (origin-destination))、上海市の毎日の気候データをカバーしている。リアルタイムデータの収集は日増しに正確性が高まり、国家標準GB/T 2960.3-2016に基づき、車両データ、エンジンデータ、駆動バッテリーデータ、警報データ、位置データ、バッテリー極値データをカバーしている。また、異なる車型及びユーザーの属性、バッテリーの種類、価格などの要素を総合し、クロス分析を行うことができる。

 

上海市のNEV運行に対する分析

1.運転特性:PHVの80%は年間平均走行距離5,000km-22,000km
驾驶特征
鄧斯文氏による講演の中で提起されたワイブル分布に近似する確率密度関数

 研究センターによると上海におけるPHVの年間平均走行距離12,253km。5,151台分のPHVを統計分析した結果、80%のPHVが5,000kmから22,000km分布することが分かった。日中の走行距離を横軸、走行確率密度を縦軸にした場合、上海のPHVユーザーの走行確率分布はワイブル分布関数に近似する。(右下の写真を参照)

 PHVのEVモードによる航続距離が100kmに達すると、上海のユーザー90%に対して1日の平均走行距離の需要を満たすことができる。

 

2.充電の特徴:PHVの1回当たりの充電時間は1-4時間に集中

 充電時間に関して、4モデルのPHVの統計分析によると、上海におけるPHVの1回当たりの充電時間は1-4時間に集中して分布していることが分かった。4モデルのEVに対する統計分析では、充電時間は1-3時間に集中して分布している。結論として、実際の消費電力データは、日々の共有充電に適用することができ、居住区の各充電スタンドは毎晩2-3台の電動車の充電が可能。そのうち、新設の居住区では、全ての駐車スペースの40%-50%にビッグデータ権限付与手段(調整機能)搭載の充電スタンドが設置されており、居住区の全ての車両の夜間における充電ニーズを満たすことができる。つまり、時間を区切って順次充電することや、居住区の配電容量の規模をコントロールすることが有益となる。すでに建設済みの居住地や職場では、消費者の実際の充電データを利用して、夜間または昼間の時間帯に駐車スペースの1つの充電スタンドで2-3台の電動車とタイムシェアリングで充電することが可能である。

 毎回の充電量に関して、4モデルのPHVの統計分析によると、上海のPHVにおける毎次のSOC分布は30%-60%の電気量に集中していることが分かった。4モデルのEVの統計分析によると、上海のEVにおける毎次のSOC分布は20%-60%の電気量に集中していることが分かった。結論としては、3.5kWhの交流充電スタンドを使用すれば、PHV及び航続距離が300km以下のEVを有する個人ユーザーの車1台に対して、充電スタンド1つで実際の1日の充電ニーズを満たすことができる。データによると7kWhの交流充電スタンドを使用すれば、居住区の1つの充電スタンドに対して毎晩2台の電動車がシェアして充電すればニーズを満たすことが可能。

 

3.商用パターン:物流電動車の走行距離は平均66.2km/日、走行時間の平均は3.5時間/日

 上海市の電動物流車に対する統計分析から、1日の走行距離の平均は66.2kmで、1日の走行時間は平均3.5時間であることが分かった。主な走行エリアは上海中心の市街区である。平日、自家用車と物流車は明らかに異なる移動特性を示す。自家用車は主に通勤に使用するため、早朝と夕方にピークを迎えるが、物流車の移動は明らかに早朝と夕方のピーク時を避ける傾向にある。反対に、週末は、各種車両の移動特性は基本的に一致し、自家用車の場合20時から23時の間の移動率は物流車よりやや高い。

 また、走行距離、温度、運転挙動及び充電行為などに関するビッグデータ分析により、当センターはバッテリーの劣化状態を予測することが可能である。研究対象となった4モデルは全てより長く走行するとバッテリー容量は著しく減少するという負の相関を示すことが分かり、4モデル全てのバッテリー容量は走行距離8km以内であれば、消費量は1万km当たり0.65%-0.9%となる。そのうちリン酸鉄リチウム電池の減衰状況は三元系リチウムイオン電池に比べて微減。

 

研究センターの3つのスキームと原則

1.データ付与の原則  「ビッグデータオープンラボ」の環境下で、各種科学技術型企業、科学研究大学が共同してデータ統計、時系列、ニューラルネットワークに基づくデータの深堀りと研究を行い、最終的に価値のあるデータの応用シーンと製品を構築する。

2.プロジェクト委託の原則  OEM、部品企業及びコンサルティング会社はデータセンターに委託し特定の車型、特定ユーザーに基づいた走行挙動、充電行為の分析を行い、製品計画、製品の研究開発のために定性のデータを提供する。

3.提携による開発の原則  OEM及びバッテリー、保険などの企業は、委託または共同提携を受け入れ、データに基づく長期統計分析の成果または機械学習アルゴリズムを生成する。また、データ融合を通して、密接な提携によりSOH(States Of Health)データに基づく、製品、バッテリーメンテナンス製品及び車両とバッテリーを分離した保険商品を生み出することもできる。


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キーワード:SAE、新エネルギー車、NEV、EV、PHV、バッテリー、ビッグデータ、SOC

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