日産リーフ分解調査:機電一体構造のパワートレインと駆動系の解説

モーターのローター/ステーター、減速機、ドライブシャフトなど要素技術

2018/11/14

要約

リーフ車両
日産 リーフ 車両分解調査

  EV専用モデルであるリーフは2010年の登場以来初めてのフルモデルチェンジ(FMC)を2017年に行なった。本レポートは埼玉県産業振興公社・次世代自動車支援センター埼玉の主催で9月7日(分解立会)、10月2日(部品確認会)に行われたこのリーフの分解調査を取材したものである。

  EVシステムは2012年にモーター、インバーター等のePT(電動パワートレイン)の機電一体構造化、2015年にバッテリーの改良をほどこし、今回のFMCでインバーターの効率アップをはかり、リーフはいまやEVの技術標準的な存在となっている。本稿では、電動駆動系の基本技術をあらためて俯瞰することを目的とした。

 

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電動パワートレインの構成

電動走行用機器類 電動走行用機器類
車体前部のモータールーム内に搭載された電動走行用機器類 モジュール化して搭載されている機電一体構造。
この状態での長×幅×高は最大部で 390×380×425 mm
(資料:日産自動車ホームページ)


  電動パワートレインとは日産自動車の呼称で、モーター、インバーター、パワーデリバリーモジュール (PDM)、減速機をコンパクトに一体化し搭載したものである。減速機の先にはドライブシャフトがあり、前輪を駆動する。動力断続のためのクラッチや多段変速機はもたない。

 

リーフのモータールーム リーフを車体下方から見る ノートeパワーのエンジンルーム
リーフのモータールーム。写真で左半分の電動パワートレインと右側バッテリーや電子機器の間には広い空間があり、車体アンダーカバーが良く見える。 リーフを車体下方から見る(アンダーカバーを外した状態)。やはり電動パワートレイン周辺には空間が目立ち建屋天井が見える。 比較のためノートeパワーのエンジンルーム。こちらの方がコンパートメントの典型的な光景であるが、さまざまな部品が隙間なく搭載されている。


モーター

各部の主な仕様

システム仕様 ローター仕様
モーター型式 EM57 極数 8
永久磁石埋込み同期式 コア長さ 140 mm
定格出力 85 kW コア段付ひねり量 約 3.5 °
最高出力 110 kW   軸ベアリング
150 PS     ・呼称 6206
最大トルク 320 Nm     ・外径×内径×厚さ 62×30×16 mm
32.6 kgm     ・形式 深溝ボールベアリング
最高回転数 10,500 min-1 永久磁石材質 重希土添加
Nd-Fe-B系
 
ステーター仕様 外径 × 長さ 約φ130 × 142 mm
スロット数 48 スプライン径 × 長さ 約φ26 × 34 mm

 

システムとモーター

  大出力とスムーズな回転という両面の要求を満足するため、従来モデルと同様に以下の2点で最適化を図っている:

  1. 高級材料の採用: ハイブリッド車の走行モーターとして一般化している、ネオジム永久磁石を使用。
  2. ステーター(固定側)、ローター(回転側)はピーク出力よりトルク脈動や回転変動の抑制を優先した快適性重視の設計。

  大多数の高出力モーターと同じ思想であり、エンジンのトルク特性と比較して鋭いレスポンスをもつモーターに円滑な回転を与えることを重視している。今回のフルモデルチェンジでは最高出力が 80 → 110 kW、最大トルクが 254 → 320 Nmに増加しているが、これにはインバーターの出力電流増加、変調率(インバーターでの出力/入力電圧利用率)の 0.7~0.8 → 1.0 への増大、モーターコイルの温度保護ロジック変更などが貢献している様である。一方、重希土(レアメタルの一種)の使用量削減も織り込まれ、今後もレアメタルの削減・廃止、モーター構造の変更による低コスト化などを目指すものと予想される。

 

ハウジングとステーター

モーター本体からローターを抜いた状態 ハウジング内冷却水通路の模式図
モーター本体からローターを抜いた状態 ハウジング内の冷却水通路


  左上の画像は、モーター本体から給電側カバー、減速機側カバー、ローターを外したところ。ハウジング側面に立つ2本の水管は冷却水出入口(内径 16mm)。冷却水は左側水管から入りハウジング内を左進し、給電側カバーのくぼみ部(下の画像)で反転する。この左進、右進水流を分けるのが写真に示す仕切壁で、右進した水流は減速機側カバーに当たり再び反転、右側水管に到達し、そこからハウジング外に排出される。

 

給電側モーターカバー 給電側 / 減速機側
給電側モーターカバー(外気面) 給電側(ハウジングとの合せ面) 減速機側モーターカバー(合せ面)


  給電側モーターカバーには、高電圧の警告表示とレゾルバー(ロータシャフトの回転位置を検出する装置)が取り付く。両側モーターカバーのハウジングとの合せ面にはハウジングの冷却水ジャケット形状に合わせたくぼみがあり、ここで水流が反転する。

 

給電側 巻線始末 減速機側 巻線始末
給電側 巻線 減速機側 巻線


  コイルは分布巻(*注)であり、他相のコイル配線をまたぐ必要から、集中巻(*注)に比べコイルがコア端面より相当はみだす。
(*注) スロット(巻線室)は円周方向に48ヵ所並び、スロット間には鋼板が櫛の歯のように仕切壁を形成する。
 集中巻とはコイルがひとつの仕切壁だけを取り巻いて完結する巻き方で、分布巻とはコイルが1つのスロットから他の(3相モーターでは少くとも3つ隔てた)スロットへ連続して巻かれる様式である。分布巻では、他のスロットへの連絡線がコア端面で他相の線をまたぐ(重なる)ことから、どうしてもコア端面から飛び出す部分が厚くなり、ステーターの体格が大きくなる。

  しかし下記のような利点をもつ:
(1) 磁力分布が全スロットに広がり、回転力がスムーズに変化する(集中巻では1ヵ所のスロットに分布する)。
(2) 回転変動の山谷の数(基本波次数)は極数とスロット数の最小公倍数で、トルク脈動はこの次数が大きい方が感じにくく、快適性が高まる。ローター極数8極同士で比較すると、集中巻で一般的に最も多い12スロットでは基本波次数が24(812の最小公倍数)となるが、分布巻では本品(48スロット)で次数48となり、分布巻の方が優位にある。

  一般的にはモーター最大出力や小型化を重視するなら集中巻が有利であるが、なめらかさが重視される3相モーターでは分布巻が多い。

 

ローター

ローター全体形
ローター全体形。向かって左が減速機側、右がレゾルバー等がつく給電側

端面 段付き部拡大 カバー円板のバランシング孔
端面(分解現品ではない) ローターの段付き部 拡大 端面(両側)カバー円板の回転バランス調整孔

 

(1) 磁石材料
 永久磁石埋込み式で、磁石材料は重希土(ジスプロシウムなど)を添加したネオジウム系である。この材料は 1mmでもモータを小型化したい場合には標準的である。ただし、資源の希少性から、高価で価格変動や供給不安が払拭できない。

(2) 磁石配置
 今回、ローター端面をカバーする円板は外さなかったので主催者の準備した参考写真(左上)に示す。端面に見える星形の輪郭が永久磁石で、リラクタンストルク(*注)を増し、低速トルクの増強をはかるものである。

(*注) ローターとステーター間には、NS極同士の吸引/反発によるトルク(マグネットトルク)とコア鉄部がステーター磁力に引かれるトルク(リラクタンストルク)の合成トルクが働く。星形の頂点では磁石とローター外周が接近しており、星形の谷付近ではローター外周との間に広い鉄部が存在する。このため1回転のなかで鉄を吸引するトルク(リラクタンストルク)が大きく変動する。その方向はローターを回転させる方向と引き戻す方向で1回転すると±ゼロであるが、マグネットトルクと合成すると強い回転力ピークが現れ、トルク増強をもたらす。この効果は星形の谷が深いほど大きく、トルク変動量も増える。快適性を考慮して谷の深さをチューニングしているものと考えられる。

(3) ローターの段付き
 ローターの積層鋼板は、ちょうど中央部で約 3.5°ひねった形で接合されている。これはひねりを付与したことで、モータートルクのピークやねじり力が 減じる効果がある。

(4) 電磁鋼板
 鋼板の積層部分は分解しなかったので実測していないが、旧型を継承していれば厚さは0.3mmである。コアの薄板化は内部に発生する渦電流損失を低減するもので、板材では電流の大きさが厚さの2乗に比例するためわずかの厚さ低減でも効果が大きい。



減速機

減速機仕様
型式 RE1F61B
減速ギア比 8.193
  ギア歯数
  -インプット 17
  -中間 in/out 32 / 17
  -ファイナル 74
減速機

  簡素な1段減速機で、3軸のトータル減速比は歯数から 74 / 17 × 32 / 17 = 8.193 である。旧型リーフでは減速比が7.938 であったので僅か(中間が31歯→32歯)に変更されている。ギア歯数はかみ合い周波数が高周波とならない様少なく選定し、高回転のモーターとの組合せに配慮している。その分かみ合い率は低下する傾向となるため、歯幅を広めにとりリカバーしているようである。また歯切り・熱処理のあと歯面研磨を入れ、ギアの精度を上げている。簡素な設計のなかにも、ノイズに対する配慮が細かくなされている。

 

  パーキングブレーキ用のロックを内蔵する(写真の状態ではアクチュエーター部が外されている)。インプットギアと同軸にロックギアをもち、ここにロックレバーの突起が嵌入する構造である。突起の角には大きなRがつけられ、絶対にギアとの喰い付きがないように設計されている。

レバー(フリー状態) レバー(ロック状態)
レバー(フリー状態) レバー(ロック状態): 指で押し込んでいる

 

  今後の技術動向として、低/高速での効率を両立させるための検討が継続される可能性もある。(一般的なアプローチ例)

多段トランスミッション

  エンジンと異なり、モーター/インバーター効率の高い範囲が広く、2段あるいは3段の変速機で十分であると一般的に考えられており、これを検証する論文も見受けられる。現在、量販EVで多段変速機をもつ機種はないが、かつては5段変速機を装備していた市販車もある。

可変界磁モーター

 高速回転時には、永久磁石による電磁誘導作用がモーター駆動を妨げる。この磁界を弱めるため、ステーター巻線で逆磁界をつくるが、それは損失であり、高速で効率低下となる。永久磁石の電磁誘導作用を高速で弱めればロスなく行えるため、モーター内にその機構を設ける提案がいくつかなされている(① ローターの永久磁石を2分割しその固定角度を変え合計磁力を増減するといった手法、② ステーター巻線の結線を高/低速で切り替え電磁誘導作用を減じる、等)が量産化されていない。

 



ドライブシャフト

減速機側(左右とも) ホイール側(左右とも)
等速ジョイント型式 トリポード 等速ジョイント型式 バーフィールド
軸方向ストローク 約40 mm

ドライブシャフト

 

 内燃機関搭載車と同様のFWD用ドライブシャフトである。一般論として、EVの駆動系は 「こわしやすいので注意が必要」 という声を開発者から聞く。これは、モーター出力がエンジンと異なり応答性の高い衝撃入力となること、回転振動が正/逆転で細かく入ることなどが影響している。写真のシャフト最小断面部の直径は 25mm(幅は27mm)で、過大入力時に破断しモーターや減速機を守る。その両側の一般部軸系は 28mmである。


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キーワード
分解、日産、LEAF、リーフ、EV、電動パワートレイン、モーター、ステーター、ローター、インバーター、減速機、ドライブシャフト

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