Mercedes-Benz M256 直列6気筒ガソリンエンジン
Daimlerモジュラーエンジン更新計画、48Vマイルドハイブリッドシステムを採用
2018/08/31
概要
ドイツDaimlerは気筒あたりの排気量を500㏄とした、新設計のモジュラーエンジン群を2016年から順次投入し始めている。これらのエンジンは、Daimlerが新しく作った共通設計指針MPA(Mercedes Powertrain Architecture)に基づいて開発されている。
そのモジュラーエンジンの中でも、M256は同社のSクラスに搭載される主力の3Lガソリン6気筒エンジンで、Daimlerとしては、初めて48V電源部品を採用してマイルドハイブリッド化している。補機の電動化により補機駆動用のベルトを廃し、エンジン全長を短縮し、エンジンルームへの搭載性や衝突安全性を向上させている。Daimlerでは1997年に直列6気筒エンジンM104の生産を中止して以来、V型6気筒を採用してきたが、今回、V型6気筒M276の後継ユニットとして直列6気筒エンジンを投入した。 このM256は、先代V型6気筒エンジン(M276)比で約20%のCO2排出量削減と、15%以上の出力向上を実現した。
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M256エンジンフロント側 | M256エンジンリア側 |
出典:Daimler広報資料
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新型モジュラーエンジンファミリーの全体像
新型モジュラーエンジンは全機種ともターボチャージャーを装備し、2L直列4気筒ガソリン/ディーゼル、3L直列6気筒ガソリン/ディーゼル及び4L V型8気筒ガソリンの5機種から構成される。排気対策は、全機種ともEuro6 Phase2に対応している。
シリーズの中核をなす2Lと3Lのガソリンエンジンは計画当初から48Vマイルドハイブリッドとの組み合わせで設計されており、同シリーズのディーゼルエンジンにも劣らない燃費性能を実現している。BSG(ベルト駆動スターター兼オルタネーター)やISG(一体型スターターオルタネーター)の採用により、発進加速性能を向上するとともに低速でのモーター走行を可能とし、減速時にはエネルギーを回収してリチウムイオン電池に充電する。
Daimlerは2016年の直列4気筒ディーゼル(呼称OM654)を皮切りに、2017年に入り、 下記4機種を立ち上げている。
- 直列6気筒ガソリンエンジン (呼称M256)
- 直列4気筒ガソリンエンジン (呼称M264)
- V型8気筒ガソリンエンジン (呼称M176)
- 直列6気筒ディーゼルエンジン (呼称OM656)
M256を始めとするモジュラーファミリーエンジンは、ドイツシュツットガルト(Stuttgart)のUntertürkheim工場で組み立てられている。シリンダーブロック、シリンダーヘッド、クランクシャフト、コンロッド、排気マニホールド、ターボチャージャーのタービンハウジングなど主要鋳鍛造部品はこの工場で内製されている。
新型モジュラーエンジンファミリーの主要諸元
エンジン型式 | M264 | OM654 | M256 | OM656 | M176 |
---|---|---|---|---|---|
気筒配列 | 直列4気筒 | ← | 直列6気筒 | ← | 90°V型8気筒 |
排気量 (cc) | 1,991 | 1,949 | 2,986 | 2,927 | 3,982 |
B×S (mm) | 83×92 | 82×92.3 | 83×92 | 82×92.4 | 83×92 |
圧縮比 | 10 | 15.5 | 10.5 | 15.5 | 10.5 |
ボアピッチ (mm) | 90 | ← | ← | ← | ← |
動弁系式 | DOHC4V | ← | ← | ← | ← |
エンジン重量DIN (kg) | 145.1 | 168.4 | - | 215.7 | - |
使用燃料 | ガソリン | ディーゼル | ガソリン | ディーゼル | ガソリン |
最高出力 (kW/rpm) | 220/5800-6100 | 143/3800 | 320/5900-6100 | 250 | 345 |
最大トルク (Nm/rpm) | 400/3000-4000 | 400/1600-2400 | 520/1800-5500 | 700 | 700 |
過給器 | ツインスクロール シングルターボ |
可変容量 シングルターボ |
ツインスクロール シングルターボ+e-AC |
2ステージ | ツインターボ (Vバンク内) |
排気後処理装置 | GPF+3元触媒 | DOC+SCRフィルター | GPF+3元触媒 | DOC+SCRフィルター | GPF+3元触媒×2 |
排気規制対応 | 欧州排気規制Euro6-2 | ← | ← | ← | ← |
マイルドハイブリッド対応 | 対応 | 対応なし | 対応 | 対応なし | ← |
48V対応部品 | BSG、LIB、 電動水ポンプ |
- | ISG、e-AC、LIB、 電動水ポンプ、 電動ACコンプレッサー |
- | - |
搭載車種 | Eクラス | ← | Sクラス | ← | S560 |
量産立ち上がり時期(年) | 2017 | 2016 | 2017 | 2017 | 2017 |
GPF:Gasoline Particulate Filter
BSG:Belt-driven Starter-Generator
LIB:Lithium Ion Battery
e-AC:Electric Auxiliary Charger
ISG:Integrated Starter-Generator
DOC:酸化触媒
SCRフィルター:DPF (Diesel Particulate Filter)+尿素SCR (Selective Catalytic Reduction)(一体化)
直列6気筒へ回帰
なぜ過去に直列6気筒からV型6気筒に変更し、今また直列6気筒に戻るのか。
Daimlerは1997年にそれまで採用していた直列6気筒のM104を廃止してV型6気筒M112を新規に投入した。一般に、当時自動車メーカーが直列6気筒からV型6気筒に変更する理由として下記の2つがあった。
- 北米や欧州を中心に、エンジンを横置きにFF搭載した車両が多くなり、FR縦置き搭載の直列6気筒とFF横置き搭載のV型6気筒の2本立ては生産量から見ても合理的ではなかった。V型6気筒をFR縦置き搭載とFF横置き搭載に使えればエンジンの種類を減らすことができる。
- 当時衝突時の乗員保護が安全対策として重要になりつつあった。エンジン全長の長い直列6気筒がエンジンルームにあるとクラッシャブルゾーンが狭く、衝突時にエンジン+変速機が車室内にずれ込んできて乗員が死傷する恐れがあった。これを全長の短いV型6気筒エンジンに変更することで、エンジンルーム内にクラッシャブルゾーンを確保して乗員保護に充てることができる。
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FR搭載直列6気筒エンジン | FR搭載V型6気筒エンジン |
当時、DaimlerはFF横置き車両を作っていなかったので、上記2の理由で直列6気筒を廃止してV型6気筒にしたのである。これに加えて、DaimlerはV型8気筒エンジンを作っており、バンク角を90°にすることで、V型6気筒をこれと同一の組立ラインで生産できるという理由もあった。
それでは、なぜ今再びV型6気筒から直列6気筒に回帰するのか。積極的に直列6気筒を選択する理由が次の3点である。
- 直列4気筒と6気筒エンジンをモジュラー化する場合、V型よりも直列6気筒の方が開発、製造ともにやりやすい。直列6気筒であれば縦に2気筒増やすだけであるが、V型にすると部品種類や点数(シリンダーヘッド、カムシャフトなど)が増えて開発工数や部品のコストが高くなる。
- V型6気筒ではエンジン全長が短すぎて、ますます増えているエンジンに搭載する補機類や排気後処理装置を配置するスペースが足りない。
- 特にディーゼルの場合、V型6気筒にすると排気後処理装置が左右バンクに分割されてコスト上昇が大きい。
過去に直列6気筒からV型6気筒にしなければならなかった問題は、以下に示す技術のイノベーションで解決された。
・従来の直列6気筒エンジンでは最高出力を得るためにショートストロークにして、冷却のためにボア間の水通路を確保していた。
・それが現在ではS/B(ストローク/ボア)比が、1.1程度が出力と燃費のバランスに優れていることがわかってきた。また、アルミシリンダーブロックのライナーレス化も実用化されている。このような理由で、同じ排気量のエンジンでも、ピストン径縮小とボアピッチ短縮により、全長ポテンシャルが50~80mm程度短くなっている。
・それに加えて補機の電動化やエンジン内駆動化により補機駆動ベルトの減少や廃止ができるようになり、50mm以上全長を短縮できるようになった。
このような理由により、直列6気筒エンジンをFR搭載しても衝突安全に支障がなくなったのである。
48Vマイルドハイブリッドシステム:BSGとISG、補機の電動化
Daimlerモジュラーファミリーのガソリンエンジン直列4気筒M264と直列6気筒M256には48V電源マイルドハイブリッドシステムが採用されており、システムの中心となるのがBSG/ISGとリチウムイオン電池(容量約1kWh)である。BSG/ISGの機能は同等であるが、M264に採用されたBSGは従来のオルタネータと同じような場所に搭載され、クランクシャフトと補機駆動ベルトにて駆動/被駆動されるのに対して、M256に採用されたISGはエンジンと変速機の間に組み込まれて、クランク軸と直接力を授受しているところが異なっている。直列4気筒のM264は全長が短いので、エンジンの前端に補機駆動ベルトのスペースを確保できたが、全長の長い直列6気筒のM256ではそのスペースがなく、上記のようにエンジンと変速機の間に組込まれた。
BSGではトルクアシストしているときとオルタネータで発電しているときではベルトに逆方向の張力が発生するので従来のベルトテンショナーではベルトのゆるみが発生してベルトが滑ってしまう。このBSGでは、ベルトの張りと緩み方向が逆転しても安定した張力を得られる新型のベルトテンショナーを採用して滑りを防止している。
M264では走行アシスト時は最大12.5kW、M256では最大16kWを出力し、充電/回生時は最大10kWを電池へ充電することが可能となっている。
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エンジン/変速機と一体化したISGシステム | パワートレインの配置 |
出典:Mercedes-Benz日本広報資料
ハイブリッドシステムの機能
アイドルストップ |
発進時補助(最大16kW) |
低速モーター走行 |
制動回生(最大10kW ) |
負荷点のシフト* |
コースト時エンジン停止 |
*負荷点のシフト:リチウムイオン電池の充電状態に応じてエンジンのアシスト量を変更し、適正な充電状態を維持する。
補機の電動化
M256エンジンでは48V電源によるマイルドハイブリッドシステムを採用すると同時に、高電圧化による電力効率を向上し、従来の12V電源ではできなかった補機の電動化を推進した。
48V電源コンポーネント
コンポーネント | エンジン | |
---|---|---|
M256 | M264 | |
ISG/BSG | ○ | ○ |
リチウムイオン電池 | ○ | ○ |
水ポンプ | ○ | ○ |
補助チャージャー | ○ | × |
エアコン・コンプレッサー | ○ | × |
ISG/BSGとリチウムイオン電池についてはすでに言及したので、ここでは説明を省く。
水ポンプ
従来のエンジンでは、水ポンプは補機駆動ベルトで機械的に駆動していた。この方法だと冷却の必要がない時でも常に水ポンプはエンジン回転速度に比例して駆動されているので駆動効率が悪く、また補機駆動ベルトの摩擦損失もあった。この水ポンプを電動化することで、冷機始動時は水ポンプを止めて暖機を速め、ヒーターの効きも向上できる。また、電動化によりエンジンの運転条件に最適な冷却水量を循環させることができる。
補助チャージャー
後述のターボチャージャーのところで説明するが、M256は排気量が大きく、高出力なのでシングルターボ仕様だとターボサイズが大型になり、低速低負荷からの加速レスポンスが悪くなる。それを補うためにタービン側を電動にした補助チャージャーを追加した。48V電源対応のため、出力5kW以上と強力になっている。
エアコン・コンプレッサー
アイドルストップ時やモーター走行時、コ―スティング時などではエンジンを停止させる。その場合、エアコンを使用していると、エンジン停止とともにエアコンも効かなくなってしまう。それに対応したのが電動コンプレッサーである。コンプレッサーを電動にしたことで、エンジン停止中もエアコンを作動させることができる。
エンジン本体:シリンダーブロック
アルミ合金製シリンダーブロックは剛性の高いクローズドデッキ+ディープスカートタイプで、同じくアルミ合金製のロアーブロックとともに箱構造を形成して、高い燃焼圧力によるシリンダーブロックの変形を抑え込んでいる。ボアピッチはシリーズエンジン共通の90mmでボア径が83mmなので6連サイアミーズ構造を取っている。ボア間の最小肉厚は7mmと鋳鉄ライナーを鋳込むスペースはない。このモジュラーエンジンでは、従来のような鋳鉄ライナーを鋳込まずに、アルミ製のボア表面に鉄を約0.2mmの厚さで溶射する技術を採用して、この問題を解決した。
Daimlerではこの技術をTWASコーティング(Twin Wire Arc Spraying:ツインアーク溶射)と呼んでいる。このTWASコーティングは、鉄と炭素の合金でできたワイヤーをボア内で電気によるアークを発生させて溶融する。融けた合金をガス流を使ってボア表面に吹き付け、薄層(超微細なナノ・クリスタル薄層)として定着させる。ナノ・クリスタル鉄層として残る超微細仕上げは、微細な気孔のあるほぼ鏡面を形成する。微細な気孔に潤滑油が入り込んで、ボアとピストンを潤滑する役目を果たす。
TWASコーティングにより鋳鉄ライナーをなくすことでボア周りの冷却性が良くなり、燃焼室で発生した多量の熱を、素早くピストンリングを通じて冷却水に伝達できる。
鋳鉄製シリンダーボアの場合、鋳鉄の熱膨張係数に対してアルミ合金製ピストンの熱膨張係数は、約2倍なので冷間組立時(約20℃前後)に対して運転時のボアとピストン間の隙間は小さくなってしまう。しかし、冷間時のボアとピストンの隙間があまり大きいとスラップ音が発生するのであまり大きくできず、したがって運転時の隙間は狭くなり、フリクションが大きめになってしまう。
TWASコーティングの技術を採用することでアルミ製ボアとアルミ製ピストンの組み合わせになり、両者間の冷間時と運転時の隙間の変化がなくなる。それにより、冷間時のスラップ音防止と運転時のピストンやピストンリングとシリンダーボア間を適正隙間に維持することが可能になり、摩耗の低減、フリクション低減とNVHを両立することができた。なお、ディーゼルエンジンのOM654、OM656ではスチール製ピストンを使っており、運転時はアルミ製ボアとの隙間が大きくなるので、ガソリンエンジン以上のフリクション低減(従来比‐40~50%)を達成している。
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TWASコーティング(Mercedes-Benz日本広報資料) | 従来の鋳鉄ライナーとTWASコーティング比較(日産広報資料を参照) |
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オフセットクランク(ホンダ広報資料を参照) |
このモジュラーファミリーの直列エンジンではオフセットクランクを採用している。ピストンは圧縮行程(ピストンは上昇)ではコンロッドが傾くので側圧を受ける。同様に膨張行程(ピストンは下降)時も側圧を受ける。この側圧によりピストンはシリンダー壁に押し付けられるので摺動抵抗になる。ピストン冠面にかかる圧力は、圧縮行程時は小さく、燃焼圧力がかかる膨張行程時は大きくなる。従って膨張行程時のコンロッドの傾きを小さくして、その代わりに圧縮行程時の傾きを大きくすると、トータルのピストン側圧による摺動抵抗を小さくできる。この原理を取り入れたのがオフセットクランク機構である。Daimlerの場合、シリンダー軸に対してクランク軸を、エンジンの右(スラスト)側へ12mmオフセットさせている。尚、V型8気筒のM176ではオフセットクランクは採用されていない。
エンジン本体:シリンダーヘッド及び動弁系
シリンダーヘッドはアルミ合金製で生産性向上と軽量化のためカムホルダーは別体構造としている。バルブ駆動は外支点によるスイングアーム式で、ピボット部に油圧アジャスターを組み込んで、メンテナンスフリーとしている。また、カムローブとの接触部にはローラーを組み込んで低速時のフリクションを減少させている。燃焼室は4バルブペントルーフ型で、排気バルブ傘径を小型化して、ネジサイズをM10と通常より小型化した点火プラグのスペースを与えている。燃焼室の中央付近には噴射圧200barピエゾインジェクターが配置されている。小型点火プラグや傘径の小さい排気バルブを採用することで、燃焼室周辺の冷却水の流れを良くして高負荷時の放熱性を確保している。排気バルブにナトリウム封入中空バルブの採用と合わせて、ノッキングしにくい燃焼室にすることで点火時期と混合比をLMBT(Leaner Side & Minimum Advance for the Best Torque)方向に調整して出力向上を図っている。
なお、バルブリフトが小さい時には吸気温度が低く、燃焼条件が悪い。これに対応するために、ピエゾインジェクターで数回に分けて燃料を噴射したり、点火を複数回行っている。
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上:旧型に採用したの排気弁(ステム部にNa封入) 下:M256採用Na弁(傘部、ステム部にNa封入) (資料:Mahle製品カタログを参照) |
吸気バルブリフト量と発生乱流:左図リフト量小、右図リフト量大 (Mercedes-Benz日本広報資料) |
カムシャフトは吸気側を可変としたカムトロニックを採用した。カムトロニックは、カムシャフトの位相を広角度で変化させる可変バルブタイミング機構とバルブリフトを2段階に変化させる可変バルブリフト機構の2種類の可変化を行っている。
カムシャフトの位相制御は70deg(クランク角)と広範囲で、吸気バルブ早閉じを行い、ミラーサイクルによる燃費向上を図っている。位相変化はカムシャフト前端に配置されたカムシャフトアジャスターを油圧によりカムシャフトタイミングギアと相対的に回転させることで行っている。可変バルブリフト機構は、異なるバルブリフトのカムローブを前後に並行して配置し、カムシャフトをセンターアクチュエーターで油圧により、前後にスライドさせることでバルブリフトの切り替えを行っている。負荷が小さい時は低いバルブリフトのカムローブを使ってポンプ損失を低減し、高負荷時には高いバルブリフトのカムローブを使って高出力に必要な吸気を行っている。
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カムプロフィール(Mercedes-Benz日本広報資料) | カムトロニックシステム(Daimler広報資料を参照) |
主運動系
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スプレーガイド式燃焼室(Mercedes-Benz日本広報資料) |
ピストンはアルミ鋳造製で、冠面及びリング溝の冷却のために冷却口を設けて、シリンダーブロックロアデッキに配されたオイルジェットからオイルを噴きかけている。冠面形状は、基本的に従来のガソリンエンジンに採用していたスプレーガイド式燃焼室を踏襲している。スプレーガイドの改善と冷間始動時の触媒昇温安定化のために点火プラグ位置を排気バルブ側に移動し、ピエゾインジェクターの位置を3mm燃焼室の中心からずらして配置した。図で見るようにほぼ球形の火炎伝播を実現している。
クランクシャフトとコンロッドはモジュラーファミリー共通の高強度スチール鍛造製である。クランクシャフト後端には、ISGシステムのステーターが直接取り付けられている。
動弁駆動、補機駆動系
カムシャフトはクランクシャフトリア側に取り付けられたクランクスプロケットによりシングルチェーンで駆動されている。高圧燃料ポンプ駆動部とオイルポンプ駆動部もエンジン後端に内蔵されている。高圧燃料ポンプはチェーン駆動システムの専用シャフトで駆動される。オイルポンプはギア式で、オイルパン内に格納されており、カムシャフトを駆動しているスプロケットと同軸上のスプロケットを介してチェーン駆動される。このスプロケットと同軸で真空ポンプも駆動している。
吸排気系取り回し
吸気ポートはエンジンの左側に、排気ポートはエンジンの右側に配置されている。排気ポートを出た排気は#1~#3気筒と#4~#6気筒にまとめられて、排気マニホールド内からタービンハウジング内まで別通路で導入される。排気はタービンハウジングからリア側に導かれて、エンジン直近に配置された3元触媒に入り、床下に搭載しているGPF(Gasoline Particulate Filter)を通る。エンジンフロント左側の吸気ダクトから取り入れた吸気は、エアクリーナを通ってターボチャージャーのコンプレッサーに導入される。コンプレッサーを出た吸気はエンジンの左側リアサイドに搭載された電気補助チャージャー(e-AC)と並列に配置されたスライダー調整弁を通ってスロットルバルブの後流に配置されたインタークーラーに入り、最終的に各気筒の吸気ポートに導入される。
ターボチャージャー
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ターボチャージャーシステム(シングルターボ+補助チャージャー) (Mercedes-Benz日本広報資料) |
新モジュラーエンジンファミリーでは、エンジンルーム内の排気後処理装置の配置や、コンポーネントの共通化を図っており、エンジンルーム内のスペースが非常に限られている。そのためM256では当初考えていたツインではなく、シングルターボを選択するに至った。しかし、シングルでは目標出力を達成するためにターボチャージャーが大型化してしまい、低速でのレスポンス悪化は避けられない。この問題を解決するために48V電気システムに組み込んだ、電気補助チャージャー(e-AC)を採用した。e-ACは、タービン側がモーターで、同軸で回転させるコンプレッサーで過給を行い、300ms以内に回転速度最高7万rpm、圧力比最大1.45に達する。
M256のターボチャージャーは、エアギャップ隔離排気マニホールド(排気を#1~#3と#4~#6気筒の2系統に分けている)を備えるツインスクロールターボチャージャーである。
この方式を採用することで、排気効率を高め、充填効率を向上するので、排気流量が非常に小さくても優れたターボレスポンスが得られる。エアギャップ隔離排気マニホールドの採用により高負荷時の排気マニホールド表面温度が大きく低下し、ソーク時などにおけるエンジンルーム内の温度を低下させることができた。
エンジンの性能
エンジン単体の性能で見ると、M256は1800~5500rpmまで520Nmを保っており、非常にフラットなトルクカーブを有している。これには電動補助ターボの効果も一役かっている。
1000rpm以下の領域ではあるが、電動アシストトルクは最大で250Nmある。これはエンジン最大トルクの約50%にあたり、発進時などフルにモーターアシストしたときは、充分な力強さを感じることができる。
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出力性能 | ISGシステムのトルク |
出典:Mercedes-Benz日本広報資料
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キーワード
Daimler、ダイムラー、Mercedes-Benz、メルセデス・ベンツ、モジュラーエンジン、M256、電動化、HV、ハイブリッド車、マイルドハイブリッド、BSG、ISG、e-AC、TWAS
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