ホンダのFCV:水素社会の実現に向けた開発と展望

オートモーティブワールド2018、FC EXPO 2018の講演内容より

2018/03/16

要約

 本レポートは、東京ビッグサイトで開催された第10回オートモーティブワールド (2018年1月)および第14回FC EXPO (2018年2月)におけるFCV専門セッションの中から、ホンダの燃料電池車の普及拡大に向けた開発と展望に関する内容を報告する。講演内容の趣旨は以下の通り。

 将来のエネルギーセキュリティとCO2低減に向けて、電気・水素へのシフトが進み、車の電動化が加速する。水素は電気エネルギーに変換が容易で、燃やしてもCO2を排出しないことから、低CO2社会実現に向けて有効なエネルギーキャリアである。

 ホンダは「つくる」「つかう」「つながる」をコンセプトに、水素社会の実現に向けた技術開発に取り組んでいる。2016年3月には燃料電池車「CLARITY FUEL CELL」を発売した。

 燃料電池車の普及に向けては、コスト低減、品質技術の確立とインフラの整備が重要な課題である。水素社会実現に向けては、幅広い領域における産官学の参画が必要であり、お互いの協力関係で技術開発、規制緩和、インフラ整備等を加速していく取り組みも重要である。

Honda CLARITY FUEL CELL
(FC EXPO 2018)
ホンダ次世代クリーンカーの考え方
(ホンダ資料)
水素は持続可能な循環型エネルギー
(ホンダ資料)



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ホンダのFCV開発:環境・エネルギーの課題に対応

 株式会社 本田技術研究所 四輪R&Dセンター 第五技術開発室 上席研究員 守谷 隆史氏による講演の概要を紹介する。

 最近の世界の動きをみると、気候変動、エネルギー供給の不安定化、地球規模の環境問題、が問題視されている。

  • 大気環境 - 排出ガス低減
  • 地球温暖化 - CO2低減
  • エネルギー枯渇 - 再生可能燃料

 自動車が抱える環境・エネルギーの課題に向けた解決策として、自然エネルギーから生成した水素で走る燃料電池車があげられる。このほか、次世代自動車のCO2削減に向けた可能性は以下のとおり。 (ホンダによる試算)

  • 再生可能エネルギーで発電した電気で小型電気自動車 (BEV)を運転する:CO2排出ゼロ
  • 太陽光による水の電気分解で燃料電池車 (FCV) のFCX Clarityを運転する:CO2排出ゼロ

 ホンダは2030年を目途に、販売台数の2/3をプラグインハイブリッドとハイブリッド及びFCV、BEVなどのゼロエミッションビークルに置き換えることを目指す。

自動車が抱える環境/エネルギーの課題
(ホンダ シンポジウム資料*1)
ホンダ FCVの進化
(ホンダ シンポジウム資料*1)
ホンダの環境車への取り組み
(ホンダ プレゼン資料 *2)

*1 経済産業省関東経済産業局「広域関東圏水素・燃料電池連携体」シンポジウム資料「水素社会に向けたHondaの取り組み FCV, SHS」
*2 東京都環境局「羽田空港での水素利活用に向けた検討会」資料「水素社会に向けたHondaの取り組み」



水素を活用したスマートコミュニティ:水素をつくる、つかう、水素とつながる

 水素は石油、天然ガス、石炭、バイオマス、廃棄物、再生可能エネルギー、原子力など多様な1次エネルギーから製造される。再生可能エネルギーについては変動が大きく、ピークパワーのエネルギーを一時的に貯蔵し、コミュニティのエネルギー制御による平準化ができれば効果的である。水素を「つくる」「ためる」「はこぶ」「つかう」というコンセプトは、将来のスマートコミュニティにとって重要となる。

水素製造の多様性
(ホンダ シンポジウム資料 *1)
水素を活用したスマートコミュニティ
(ホンダ シンポジウム資料 *1)

*1 経済産業省関東経済産業局「広域関東圏水素・燃料電池連携体」シンポジウム資料「水素社会に向けたHondaの取り組み FCV, SHS」

 

 水素社会に向けた開発コンセプトとして、水素を使った究極のクリーン性能な燃料電池車(FCV)を中心に、パッケージ型水素ステーションSHS (Smart Hydrogen Station)と外部給電インバーターPower Exporter 9000をつなげて使う。ホンダは1996年より基礎研究を開始し、20年の歳月をかけてFCVのClarity、SHS、Power Exporter 9000などを完成した。

CLARITY FUEL CELL、SHS、Power Exporter 9000による水素のつながりを展示 (FC EXPO 2018) ホンダの考える水素エネルギー社会
(ホンダ資料)
ホンダにおける水素関連技術開発の歴史
(ホンダ プレゼン資料 *2)

*2 東京都環境局「羽田空港での水素利活用に向けた検討会」資料「水素社会に向けたHondaの取り組み」



水素をつくる:スマート水素ステーション SHS (Smart Hydrogen Station)

  • 簡便 (Simple) → 水と電気をつなぐだけで、設置工期約1日
  • 小型 (Small) → 小型パッケージ型 (10ftコンテナサイズ)
  • 持続可能 (Sustainable) → 再生可能エネルギーや廃棄物発電の電力により水素を製造。地域特性を生かした様々なエネルギーの地産地消を実現する。

 SHSでは、電解膜に電気を加えて水から水素を作り、分解した水素を効率良く高圧タンクに貯蔵する。差圧式高圧水分解スタックを採用することで、機械式コンプレッサーを使わずに高圧水素を製造できるようになり、機械式コンプレッサーによるロスを解消したことで、より少ないエネルギーで水素を作れるようになった。また、機械式コンプレッサーを省くことで、小型化や優れた静粛性を実現した。

 SHS配置状況について、35MPa SHSは自治体や公共施設を中心に全国17カ所、70MPa SHSは実証試験のため1カ所に配置されている。

パッケージ型SHS
(ホンダ資料)
差圧式高圧水分解モデル
(ホンダ プレゼン資料 *2)
差圧式高圧水分解スタックのメリット
(ホンダ資料)

*2 東京都環境局「羽田空港での水素利活用に向けた検討会」資料「水素社会に向けたHondaの取り組み」



水素とつながる:可搬型外部給電器 Power Exporter 9000

  • 燃料電池車と簡単に接続し、最大9kVAを出力する。
  • Hondaインバーター発電機で培った信頼性を受け継ぎ、高品質なAC出力を実現。
  • V2Lガイドラインに準拠した高い汎用性を持つ。
  • 平時でも非常時でも安定した電源として使用可能。

 Power Exporter 9000の用途は、①家庭用電源、②非常用電源、③蓄電設備給電。一般家電向け給電にはAC100V 3kVA、避難所等の大型暖房、大型エアコン、電磁調理器には単相三線100/200V 6kVA 。

Power Exporter 9000
(FC EXPO 2018)
Power Exporter 9000可搬型外部給電器
(ホンダ資料)


Honda CLARITY FUEL CELL:燃料電池スタックの小型化、高出力化を実現

  • 燃料電池パワートレインをフロントフード内に搭載する高効率パッケージ
  • バッテリーと水素タンクの最適配置によりセダンとして快適居住空間を実現
  • 燃料電池車最大の荷室を実現

 新型の燃料電池 (FC)スタックは、電流密度、出力とも従来スタックの1.5倍となった。容積出力密度は3.1kW/Lで、従来比で60%向上した。これによりセル数を30%削減でき、セル単体の薄型化と合わせて、容積比で33%の小型化を実現した。

CLARITY FUEL CELL
(ホンダ資料)
新型FCスタック
(ホンダ プレゼン資料 *2)
発電性能の向上
(ホンダ シンポジウム資料 *1)

*1 経済産業省関東経済産業局「広域関東圏水素・燃料電池連携体」シンポジウム資料「水素社会に向けたHondaの取り組み FCV, SHS」
*2 東京都環境局「羽田空港での水素利活用に向けた検討会」資料「水素社会に向けたHondaの取り組み」

 

 電圧コントロールユニットの小型高出力化により、燃料電池システム、ドライブユニットの小型化を実現。V6パワートレイン相当サイズの燃料電池パワートレインを実現した。

 さらに、駆動モーターの高さを34%下げて、駆動ユニット上の空間にFCスタックとVCU (Vehicle Control Unit、車両制御ユニット)を配置。PCU (パワーコントロールユニット)を90度回転して全高を抑えることで、フロントフード内に搭載するレイアウトを実現した (下図)。また、モーター出力を30%向上して走りの性能をアップ、さらにスポーツモードを採用して運転の楽しさを演出した。

燃料電池システムの小型化
(ホンダ プレゼン資料 *2)
フロントフード内パッケージ
(ホンダ資料)
30%出力が向上した駆動モーター
(ホンダ資料)

*2 東京都環境局「羽田空港での水素利活用に向けた検討会」資料「水素社会に向けたHondaの取り組み」

 

 FCスタックの開発では、燃料電池の使われ方と劣化の関係を調査し、内部環境計測や特性把握により耐久性を大幅に改善した。スタックを小型化し、締結バーを追加した耐衝撃セル保持構造により、耐衝撃性を従来比で4倍に向上した。

 セル構造では3枚のセパレータと2枚のMEA  (Membrane Electrode Assembly、膜/電極接合体)で構成される滞留水の削減により、セルの厚さ1mmを達成した。発電システムは、加湿器と加湿器バイパスバルブが並列に搭載されている。加湿器バイパスバルブは、CCM (Catalyst Coated Membrane、燃料電池用電極膜)の水分量によって個別に制御される。

耐衝撃セル保持構造 セル構造 ガス流路幅の縮小化

資料:ホンダ

水素安全コンセプト

 燃料電池車としてバッテリーや水素タンクなど、エンジン車とは異なる構成要素を保護しながら衝突エネルギーを高効率に吸収するために、専用骨格を開発した。このストレート骨格構造はパワートレインを車体前方に、バッテリーを車体中央に搭載する。EVではモーターを車体前方に、バッテリーを車体中央に搭載することで、同じ骨格構造を使用することができ、今後の電動車へ同じレイアウトでの展開を可能にしている。
 また、保護性能と合わせて、FCV特有の電気安全性能、水素安全性能を全方位で確認した。

 

 ホンダは水素に対しての基本思想を設定し、クルマの安全性を確保している。

  • 水素を漏らさない
    水素を保有する部品はカバーの中に収納し、様々な環境ストレスから部品を保護。
  • 漏れたら検知して止める、漏れ出た水素は安全に排出
    万が一、水素が漏れた場合は、水素センサーで検知し、水素タンクの主止弁を閉じることで漏れ量を最小限に抑える。さらに漏れ出た水素はダクトを通じて安全に車両外へ拡散させる。
ストレート骨格構造による衝突安全性能 水素安全コンセプト

 資料:ホンダ

 ホンダは、高温乾燥地のデスバレー、急傾斜路のあるサンフランシスコ、連続登坂路のあるカリフォルニア、寒冷地のカナダなど、各地域でClarity Fuel Cellの環境テスト及び耐久テストを実施した。



燃料電池車の普及、水素社会の実現に向けて

 ホンダは、燃料電池車 (FCV)がユーザーのメリットとなるためには、FCVの車両価格低減、水素価格低減により、生涯ランニングコスト (FCV車両価格と生涯水素価格の合計)をガソリン車と同等以下にすることが必要だと考えている。

 クルマ側の開発として、航続距離、環境適合性、出力性能に関しては見通しを得た。将来に向けた取り組みとして、耐久信頼性、品質保証、コスト低減といった課題があげられる。これらは互いに影響する課題であり、バランスを最適にした設計、継続的な技術開発が必要である。

  • 耐久信頼性:コンタミ混入 (不純物が回路内に入った場合)の影響、電位変動Pt劣化 (燃料電池には水素酸化反応と酸素還元反応を効率よく進めるためにPt (白金)をベースとした電極触媒が使われている)
  • 品質保証:検査技術の進化、更なる品質改善
  • コスト低減:一般材の使用、生産時間短縮、貴金属削減

 

タクシー実証開始

 より多くの人々がFCVを見る機会や、乗車する機会を設けることで、FCVをより身近に感じてもらう。タクシーの特殊な使われ方での影響を確認し、今後の開発に反映する。導入状況は、日野交通 (神奈川県)1台、大宮自動車 (埼玉県)1台、帝都自動車交通 (東京都)2台、仙台タクシー (宮城県)2台。

 

水素・燃料電池戦略ロードマップ

 日本国内では、政府主導の水素・燃料電池戦略ロードマップに基づき、FCV導入、水素インフラの整備が進められている。2020年代後半までに水素ステーションを整備し、それ以降は自主的拡大を目指す。まず4大都市を中心に水素ステーションを集中整備し、その後に地方中核都市、全国展開を進める。2025年頃までは国が重点的に関与して、FCV普及に向けた社会基盤を構築する。
 水素の大量導入により、2050年までに水素利用はエネルギー消費量全体の18%を担うことが可能。これによりCO2排出量を現在比で年間約60億トン減らすことができ、地球温暖化を2℃までに抑えるのに必要なCO2削減量の約20%を担う。

フェーズ1 ・FCV導入支援 (2015~2020年頃)
・水素インフラ:水素ステーションコスト削減と整備拡大 (2015~2020年頃)
フェーズ2 ・水素発電:実証 (2015~2030年頃)、本格化 (2030年~)
・大規模水素供給:海外由来の水素製造、輸送実証 (2015~2025年頃)、本格化 (2030年~)
フェーズ3 ・CO2フリー水素:CCS (Carbon dioxide Capture and Storage、炭素回収・貯蔵)、再エネ由来の水素製造実証 (2015~2030年頃)、本格化 (2040年~)
FCV普及ロードマップ
(ホンダ シンポジウム資料 *1)
水素・燃料電池戦略ロードマップ
(ホンダ シンポジウム資料 *1)
水素ステーションの戦略的整備と規制改革
(第10回水素・燃料電池戦略協議会資料)

*1 経済産業省関東経済産業局「広域関東圏水素・燃料電池連携体」シンポジウム資料「水素社会に向けたHondaの取り組み FCV, SHS」

 

 2018年3月、トヨタ、日産、ホンダのほか、エネルギー会社など計11社は、FCV向け水素ステーションの本格整備を目的とした新会社「日本水素ステーションネットワーク合同会社」 (JHyM、ジェイハイム) を設立した。水素ステーションは高額な建設費や運用コストが障壁となり普及が遅れているが、自動車メーカー、インフラ事業者、金融投資家が連携して戦略的に取り組むことで、2021年度までの4年間で80カ所の水素ステーションを整備する計画。



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キーワード
ホンダ、FCV、燃料電池車、Clarity、Fuel Cell、燃料電池、水素、SHS、Power Exporter 9000

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