CFRP適用技術の欧州動向:人とくるまのテクノロジー展2016

RTM最新技術とCFRP/メタル複合化技術

2016/06/27

要約

(GVC搭載車と通常車両の比較)
CFRP製リムの製品化
(G-Vectoring Controlのコンセプト)
BMW7シリーズのフロアトンネルカバー

軽量化技術の最先端と言われるCFRP。以前は少量生産車に限られていたが、欧州では少しずつ採用例が増えてきている。今回のレポートでは、人とくるまのテクノロジー展2016横浜での展示とワークショップでの講演内容を中心にCFRPの最新情報について紹介する。

CFRPの成形方法は、いろいろな種類が開発されており、進化の途中でもある。現在の成形方法の中で、自動車向けに製品化が進んでいるRTM(樹脂トランスファー成形)の代表例として、HP-RTM、Compression-RTM、Wet-RPMの3つの成形方法とその製品について解説する。また、CFRPとスチールやアルミの金属素材を組み合わせる複合化技術を紹介する。そして、Mubea社のテーラードロールドブランクのBピラーをCFRPステフナーで補強する製品例とKRAIBURG社の新しい複合素材KRAIBONを紹介する。

関連レポート:
人とくるまのテクノロジー展2015:マツダデミオの最新車体技術
クルマの軽量化技術展2015: 熱可塑性炭素強化繊維樹脂等
CFRPの新量産技術、CF/GF強化繊維、ホットランナーシステムなど
BMW:Efficient Dynamicsを新たな方向へ進化させる4つの先進技術



HP-RTM(High Pressure Resin Transfer Molding)成形

CFRP素材のRTM成形の実施例


RTM(Resin Transfer Molding)成形プロセス  資料: Krauss Maffei
RTM(Resin Transfer Molding)成形プロセス 資料: Krauss Maffei


BMW i3のカーボンモノコックボディの13部品がHP-RTMで作られる   資料: Krauss Maffei
BMW i3のカーボンモノコックボディの13部品がHP-RTMで作られる 資料: Krauss Maffei

まず、最初に紹介するのは、BMW i3とi8のカーボンコンモノコックボディに採用されているHP-RTM工法である。 HP-RTMの製造工程を、上図のドイツ樹脂成形機メーカーのKrauss Maffei社の工程解説図で解説する。まずCFRPの織物素材をロールから切り出して(1~3)、プレス成形でプリフォームする(4)。その後、RTM成形機にセットして(5)、内部を真空にしてから(6)、樹脂を高圧で注入する(7)。型の中で熱硬化させて、製品が出来上がる(8)。レーシングカーや少量生産のスーパースポーツカーで採用しているオートクレープが、1回の成形に数時間を要していたのが、数分単位となり、大幅な時間短縮となる。BMW i3には13部品がHP-RTMで作られている。

複雑で大型の製品を一体成型することが可能で、中空構造の製品も作ることができる。



CFRP製リムのロードホイールを量産化(HP-RTMの製品例:Mubea)

CFRP製リムとアルミ鍛造製スポークを組み合わせたムベア製ホイール(人とクルマのテクノロジー展)
CFRP製リムとアルミ鍛造製スポークを組み合わせたMubea製ホイール
(人とくるまのテクノロジー展2016横浜)
CFRP製リム(人とクルマのテクノロジー展)
CFRP製リム(人とくるまのテクノロジー展2016横浜)
リムとスポークの結合構造  資料:ムベア
リムとスポークの結合構造 資料:Mubea
BMW M4 GTS用ムベア製CFRPリムのロードホイール
資料:BMW
BMW M4 GTS用CFRP製リムのロードホイール(Mubea製)  資料:BMW

Mubeaは、HP-RTMの製品例として、CFRP製のリムに鍛造アルミ製のスポークを組み合わせたロードホイールを、人とくるまのテクノロジー展2016横浜に展示していた。このロードホイールは、リムの内側からチタンボルトで、スポークに結合している。この構造によって、ロードホイールの意匠面には、ボルトを見せずに済む構造となっている。そして、同じ構造のCFRP製リムのロードホイールが、BMW M4 GTSのオプション設定で採用されている。

HP-RTMによるリム部の成形工程は、キュア時間(樹脂を注入して熱硬化させるまで)として約20分程度である。


                       ロードホイール重量比較 資料:Mubea

上図は車両の1輪当たりの荷重が500kgの場合に、7.5Jx20"サイズのロードホイールで検討した場合のロードホイールの重量比較である。CFRP製リムと鍛造アルミ製スポークを組み合わせたロードホイールは、鍛造アルミホイールに比べて23%の軽量化が可能だという。まだ、開発段階であるが、スポークまで含め全てCFRP化した場合は、30%軽量化が可能だという。



VW XL-1モノコックボディ(HP-RTMの製品例:Mubea)

VW XL-1のCFRPモノコックボディ
VW XL-1のCFRPモノコックボディ
VW XL-1(実車)  写真:レスポンス
VW XL-1(実車) 写真:レスポンス

VW XL-1は2013年にVWが超低燃費車として開発したコンセプトカーを市販化し、約1000台前後を生産販売した。このキャビン周りのモノコックボディをMubeaが製作した。型に素材をセットし、エポキシ系樹脂を注入し、加圧加熱し熱硬化させて出来上がるまで、約2時間(キュア時間は20~30分)を要した。

ボディにおけるCFRPの軽量化硬化 資料:Mubea
ボディにおけるCFRPの軽量化効果 資料:Mubea

ボディ全体をCFRP化し軽量化を行うと、上図のように、350kgのスチールボディをアルミ化すると200kgとなり、そのアルミボディに対して、アルミとCFRPのハイブリッドで-20%、フルにCFRP化することで-50%の軽量化が可能という。Mubeaでは、VW XL-1の他に、マクラーレンMP4-12Cやポルシェ918のCFRPボディの生産実績がある。



Compression RTM(Resin Transfer Molding)成形

Compression RTM 資料:Krauss Maffei
Compression RTM 資料:Krauss Maffei
Compression RTMの開発例(Alpex and Rodingとの共同開発)資料:Krauss Maffei
Compression RTMの開発例 (Alpex and Rodingとの共同開発) 資料:Krauss Maffei

この成形法は3次元の立体形状ではなく、平面に近い形状の製品向けの工法である。上図は、Krauss Maffei社の工程解説図で、樹脂注入時に型を完全に閉じず(0.3mmの隙間)、樹脂を高速充填する。樹脂の注入は型の中央部から注入し、化学反応で、樹脂を高速硬化させる。成形に要する時間はHP-RTMの20~30分に比べて、5分以内となり大幅に短縮される。

Compression RTMの開発例として、Alpex and RodingとKrauss Maffeiでの共同開発で、ヒュンダイのコンセプトカーのルーフパネルの製品例が上の写真である。



Wet-RTM(Resin Transfer Molding)成形

Wet-RTM成形プロセス 資料:Krauss Maffei
Wet-RTM成形プロセス 資料:Krauss Maffei

Wet-RTMはWet Moldingとも呼ばれており、HP-RTMの進化型として、サイクル時間の短縮が図られている。ロール材から素材を切り出すところまでは、HP-RTMと同じであるが、素材のプリフォーム工程がない。また、樹脂の注入は、素材を型にセットする前に素材の上面にのせられる。CFRP素材の上面に樹脂がのせられた状態で、RTMステーションに移動し、型を閉じて加圧して樹脂を繊維に浸透させる。さらに熱硬化させて製品が完成する。工程を減らして、時間短縮することで、サイクルタイムは120秒から180秒となる。

Wet-RTM採用例BMW 7シリーズ フロアトンネル部補強材資料:Krauss Maffei
Wet-RTM採用例
BMW 7シリーズ フロアトンネル部補強材
資料:Krauss Maffei
Wet-RTM採用例BMW 7シリーズ フロアトンネル部補強材(車体取り付け状態)資料:BMW
Wet-RTM採用例
BMW 7シリーズ フロアトンネル部補強材(車体取り付け状態)
資料:BMW
Wet-RTM採用例BMW 7シリーズ ルーフビーム 資料:Krauss Maffei
Wet-RTM採用例
BMW 7シリーズ ルーフビーム
資料:Krauss Maffei
Wet-RTM採用例BMW 7シリーズ ルーフビーム(車体取り付け状態) 資料:BMW資料を元にマークラインズが作成
Wet-RTM採用例
BMW 7シリーズ ルーフビーム(車体取り付け状態)
資料:BMW資料を元にマークラインズが作成

昨年発表発売されたBMW7シリーズは、CFRP製部品が数多く採用されている。センターコンソール補強材、ルーフビーム等がWet-RTM成形で製品化されている。

Wet-RTMの設備レイアウト例 資料:Krauss Maffei
Wet-RTMの自動化設備レイアウト例
資料:Krauss Maffei




















Wet-RTMの成形工程は完全な自動化が可能となっている。



CFRPとスチールの複合化による新構造

Bピラーのように、側面衝突の際に、乗員のスペースを確保するために、変形が許されない部位については、様々な検討が行われている。ムベアの提案は、テーラードロールドブランクのスチール製Bピラーを基本にCFRP製の箱型断面構造を組み合わせることで、強固な剛性と強度を持ちながら軽量化を行う構造を考えている。上図の例では左側から、テーラーロールドブランク材のBピラーの本体パネルに、CFRP製スティフナー、そして一定肉厚のロール成形またはホットスタンプ材を使ったロッキングプレートを組み合わせることで、高剛性、高強度構造部材の軽量化を図っている。現在、ホットスタンプ材やテーラードロールドブランク材の採用が進んでいるBピラーは、今後さらに様々な、高剛性、高強度の構造が検討されていくと思われる。



KRAIBON:ソフトマテリアルを使った新しい複合材料

KRAIBONとCFRPのサンドイッチ構造 資料:KRAIBURG
KRAIBONとCFRPのサンドイッチ構造 資料:KRAIBURG
KRAIBONの構成材料  資料:KRAIBURG
KRAIBONの構成材料 資料:KRAIBURG

KRAIBONは複合繊維にダンピング特性が良いゴムを一体化した新材料の製品で、上右図のように、KRAIBONをCFRPで挟んだサンドイッチ構造にすることで、優れた振動減衰特性を持っている。

図1 KRAIBONの振動減衰効果  資料:KRAIBURG
図1 KRAIBONの振動減衰効果 資料:KRAIBURG
図2 CFRP単体の損失係数(減衰係数)資料:KRAIBURG
図2 CFRP単体の損失係数(減衰係数) 資料:KRAIBURG
図3 CFRP+アルミの損失係数(減衰係数)資料:KRAIBURG
図3 CFRP+アルミの損失係数(減衰係数) 資料:KRAIBURG
図4 KAIBONの損失係数(減衰係数)  資料:KRAIBURG
図4 KAIBONの損失係数(減衰係数) 資料:KRAIBURG

図1は、KRAIBONの有無での振動レベルを比較した結果で、KRAIBONを使った場合の振動レベル(青色)は、使っていない場合(赤色)に比べて、振動レベルが明らかに小さくなっており、振動の減衰の大幅な効果が明確である.

図2~図4は、各素材の損失係数(振動減衰の効果を示す係数)を横軸に振動の周波数、縦軸に環境温度ごとに示しており、損失係数小(減衰効果が小さい)の青色から、損失係数大(減衰効果が大きい)黄色、赤色へと表示色の変化で、減衰効果の大きさを示している。図2はCFRP単品の場合の損失係数で、全域が青色で剛性が高く、減衰効果が小さい。素材の面積当たりの重量は 3.5kg/m2と最も御軽い。図3はCFRP+アルミの場合の損失係数で、CFRP単品より損失係数が大きいが、さほど大きくない。重量も5.9kg/m2と重い。図4は、KRAIBONを使った場合の例で、損失係数が大きく、減衰効果が大きい。また、重量はCFRP単品よい重いが、CFRP+アルミに比べて軽い。

ALUBUTYL(アルミ複合材)に比べ、KRAIBON複合材は大幅に軽い
ALUBUTYL(アルミ複合材)に比べ、KRAIBON複合材は大幅に軽い
金属、KRAIBON、CFRPの複合材の特徴
金属、KRAIBON、CFRPの複合材の特徴

KRAIBONの重量はアルミ複合材に比べて大幅に軽く、性能(重量当たりの損失係数)は375%向上する。 このKRAIBONをスチール、アルミ等の金属とCFRPとの複合材として使うことで、優れた振動減衰特性となること、衝撃吸収でも高エネルギー吸収が可能となることが特徴である。最近の車体構造では、路面からの振動と音、エンジン・パワートレーンの振動と音を遮断するために、部品剛性の向上や、制振材の使用などで、重量とコストが膨らむ一方となっている。今後は、このような振動減衰の大きい部品の採用が軽量化を進めるうえでの大きな鍵となっていくと思われる。

                     <自動車産業ポータル、マークラインズ>