人とくるまのテクノロジー展2015:トヨタとホンダが直噴ターボエンジンを出展

トヨタは高熱効率・低燃費、ホンダは低燃費と実用域での高トルクを訴求

2015/06/12

要 約

Lexus RX200t
2.0L直噴ターボエンジンを搭載するLexus RX200tを、
2015年4月開催の上海モーターショーで発表した。
日本では2015年秋以降に発売予定。 (写真:トヨタ)

 本レポートは、「人とくるまのテクノロジー展2015」でトヨタが出展した新ガソリンエンジン3機種と、ホンダが出展した新エンジン1機種について報告する。

 トヨタは、1.2Lと2.0L直噴ターボと、1.5L自然吸気エンジンを出展した。トヨタは2014年4月に、2015年末までに合計14機種の高熱効率・低燃費エンジン群を投入すると発表したが、2015年5月末までにこの3機種を含め9機種のエンジンを投入した。

 ホンダは、2.0L、1.5L、1.0Lの3つの直噴ターボエンジンを開発した。うち、1.5Lエンジンを、2015年4月に新型STEP WGNに搭載し、本展示会に出展した。低燃費と2.4Lエンジン並みの実用域トルク実現を両立させた。

 両社とも、デュアルVVT、高タンブルによる燃焼改善をはじめ、多くの先進技術を導入し、低燃費と高性能を両立させたエンジンを開発した。


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トヨタ:2014~2015年の2年間に、合計14機種の低燃費エンジンを投入

 トヨタは2014年4月に、2015年までに合計14機種の低燃費エンジン群を新たに開発し、順次投入すると発表した。2015年5月末までに、本展示会で発表した3機種を含め、14機種のうち9機種を投入した。

 これまでハイブリッド専用エンジンの開発で培ってきた燃焼改善と損失低減により、世界トップレベルの高熱効率を実現する低燃費エンジン群を開発する。従来型比で10%以上 (JC08モード)の燃費向上を実現していく計画。

 燃焼改善には、急速燃焼と高圧縮比がキー技術だとしている。急速燃焼のために、高タンブル (縦渦)を実現し、4-2-1排気管により掃気効率を高め、高圧縮比を実現している。さらに、ウォータージャケットスペーサーは、シリンダーボアの壁温をコントロールし、ノッキングを改善するなど、様々な技術を導入した。

 ターボエンジンにもアトキンソンサイクルを採用、VVT-iW (可変角を拡大したVVT)を導入し、最適な制御を行う。またNAエンジンには、大量クールドEGRを採用した。

 

低燃費エンジン群 低燃費エンジン群
高タンブルにより、急速燃焼を実現する (写真:トヨタ) 高圧縮比化しても、掃気効率を高めることで、 ノッキングを回避する (写真:トヨタ)

 

トヨタ:新エンジン群で実現を目指す燃焼改善と損失低減のキー技術

これまでの取組み 新エンジン
HV用エンジン の技術 従来エンジン の技術 NAエンジン 過給エンジン
燃焼改善 急速燃焼
高圧縮比
損失低減 ポンピング ロス低減 アトキンソンサイクル
大量クールドEGR
過給
低フリクション

 

2014年からグローバル展開中の新エンジンラインアップ

NA (自然吸気)エンジン  ターボ装着エンジン
排気量 1.0 liter 1.3 liter 1.5 liter 2.0 liter 2.0 & 2.7 liter 1.2 liter 2.0 liter
型式 1KR-FKE 1NR-FKE 2NR-FKE 6AR-FSE 1TR-FE, 2TR-FE 8NR-FTS 8AR-FTS
搭載車例 Passo Vitz Corolla 海外向けCamry Hiace Auris Lexus NX
(注) 1. 太字が、本展示会で発表した3機種のエンジン。
2. 2015年5月21日に、1GDディーゼルエンジン (2755cc)を搭載する新型ハイラックスをタイで発売した。新エンジンラインアップは、9機種に拡大した。

 

 



トヨタ:直列4気筒1.2L過給直噴ガソリンエンジン (8NR-FTS)

8NR-FTS
トヨタの1.2L直噴ターボエンジン「8NR-FTS」

 VWのTSIエンジン (VWが2006年から採用した、「直噴 + 過給器 + 小排気量」エンジンの商標)に対抗する、ダウンサイジングターボエンジン。もともと欧州をメインの市場に想定して開発したが、日本市場においても、環境に優しいハイブリッドとは別に、燃費も良く、さらに加速フィーリングが良く楽しい走りを実現することから導入を決定し、2015年4月にマイナーチェンジしたAurisに設定した。

 エキゾーストマニホールドは、シリンダーヘッドと一体化し、シングルスクロールターボチャージャーとの組み合わせにより、優れた過給効率を実現。また、ターボを小型化することによってタービンの慣性を少なくし、低速からターボの効きを高めた。

 インタークーラー採用によって、吸気を冷却し、可変角を広く取れるVVT-iW (吸気側)により、アトキンソンサイクルを可能にした。

 Aurisの燃費は、アイドリングストップ機構を標準装備し、JC08モードで19.4km/L (CVT車)を達成。燃焼効率と損失改善を追求することで、量産過給エンジンとしては世界トップレベルの最大熱効率36%を達成した。1.8Lの走りを1.5LクラスNAエンジンの燃費で実現するとしている。

 

直列4気筒1.2L過給直噴ガソリンエンジン (8NR-FTS)

主な採用技術・性能
・アトキンソンサイクル(注1)
・高効率、高タンブルポート
・VVT-iW (吸気バルブの可変角を拡大)(注2)
・D-4T (直噴ターボエンジン)
・シングルスクロールターボチャージャー
・エキゾーストマニホールド一体シリンダーヘッド
・水冷式インタークーラー(注3)
主要諸元
排気量 (cc) 1,196
内径×行程 (mm) 71.5×74.5
圧縮比 10.0
燃料噴射システム D-4T
インタークーラー 水冷式
最高出力 (kW/rpm) 85/5,200 to 5,600
最大トルク (N・m/rpm) 185/1,500 to 4,000
燃料 無鉛プレミアム
排気ガス規制対応 Euro 6, J-SULEV
(注) 1. アトキンソンサイクルは、圧縮比よりも膨張比を大きくして熱効率を改善し、燃費を向上させる燃焼サイクル。高い出力が必要な場合は、バルブタイミングで調整する。
2. VVT-iWは、Variable Valve Timing-intelligent Wideの略で、吸気バルブの可変角を広く取れるようにしたVVT。
3. インタークーラーは、ターボチャージャーで加圧し温度が上昇した空気を冷却するクーラー。

 

 



トヨタ:直列4気筒2.0L過給直噴ガソリンエンジン (8AR-FTS)

8AR-FTS
トヨタの2.0L直噴ターボエンジン「8AR-FTS」

 4-2集合エキゾーストマニホールド一体シリンンダーヘッドとツインスクロールターボチャージャーを組み合わせ、排気干渉を低減し、ターボ効率の最大化を実現した。

 吸気バルブの可変角を拡大し、バルブ開閉タイミングを最適に制御するVVT-iWを採用。また筒内直噴と吸気ポート噴射の2つのインジェクターを持つD-4STを搭載することで、低回転域から強大なトルクを発生させ、滑らかで爽快な加速フィーリングを生み出したとしている。

 8AR-FTSエンジンを初搭載したLexus NXは、ターボエンジンに合わせて新開発した6速AT、アイドリングストップ機構の搭載によりJC08モード燃費は12.8km/L、また1,650 rpmから4,000 rpmの幅広い回転域で350N・mの最大トルクを生み出した。

 トヨタはLexus NXに続き、新型RXの2.0L直噴ターボエンジン搭載モデルLexus RX200tを、2015年4月開催の上海Motor Showで発表した。RX200tの日本での発売は、2015年秋以降を予定している。

 

直列4気筒2L過給直噴ガソリンエンジン (8AR-FTS)

主な採用技術・性能
・アトキンソンサイクル
・高効率、高タンブルポート
・VVT-iW (吸気バルブの可変角を拡大)
・D-4ST(注1)
・ツインスクロールターボチャージャー(注2)
・4-2集合エキゾーストマニホールド一体シリンダーヘッド(注3)
・水冷式インタークーラー
主要諸元
排気量 (cc) 1,998
内径×行程 (mm) 86.0×86.0
圧縮比 10.0
燃料噴射システム D-4ST
インタークーラー 水冷式
最高出力 (kW/rpm) 175/4,100 to 5,600
最大トルク (N・m/rpm) 350/1,650 to 4,000
燃料 無鉛プレミアム
排気ガス規制対応 LEV Ⅲ、Euro 6, China 5 and J-SULEV
(注) 1. D-4STは、Direct-injection 4 stroke gasoline engine Super version with Turboの略。 直噴とポート噴射の2つのインジェクターを使い分け、燃焼効率を高める。2つのインジェクターを同時に使うモードもあるとのこと。
2. ツインスクロールターボチャージャーは、エキゾーストマニホールドからタービンハウジングへの流路が2つに分割されたタイプを指す。低回転時のレスポンスと高回転域でのパワーを両立させる。
3. 4-2集合エキゾーストマニホールド一体シリンダーヘッドを採用。エキゾーストマニホールドは、第1気筒と第4気筒、第2気筒と第3気筒の配管を合流させる。排気干渉を低減し、ツインスクロールターボチャージャーと組み合わせてターボ効率の最大化を図った。

 

 



トヨタ:直列4気筒1.5L自然吸気ガソリンエンジン (2NR-FKE)

 2015年3月にマイナーチェンジしたCorolla Axio/Fielderに搭載した自然吸気 (NA)エンジン、2NR-FKEを出展した。13.5という高圧縮比・アトキンソンサイクル、大量クールドEGR、吸気側にVVT-iE (電動VVT、排気側は通常の油圧式VVTを搭載する)などにより、クラストップレベルの低燃費、動力性能を実現。

 トヨタは、展示パネルで、Expad付ウォータージャケットスペーサーによるシリンダーボアの壁温コントロール効果を強調していた。通常、燃焼室に近いシリンダー上部は温度が上がり、下部は過度に冷却される。スペーサーを入れることで、上部の温度を下げてノッキングを改善し、下部の温度を上げてシリンダー内の温度差を小さくしフリクションを低減した。

 2NR-FKE型エンジンは、内燃エンジン車用エンジンだが、HVエンジン並みの38%の熱効率を実現、またCorolla Axio (2WD、CVT車、アイドリングストップ機構搭載)でJC08モード走行23.4km/L、Corolla Fielderで23.0km/Lの低燃費を実現した。

 

2NR-FKE ジャケットスペーサー
トヨタの1.5L自然吸気4気筒エンジン「2NR-FKE」 ウォータージャケットスペーサーで、 シリンダー壁温をコントロールし、ノッキングを回避

 

直列4気筒1.5Lガソリンエンジン (2NR-FKE)

主な採用技術・性能
・高圧縮比、アトキンソンサイクル
・高効率、高タンブルポート
・VVT-iE (電動VVT)(注1)
・Expad付ウォータージャケットスペーサー(注2)
・4-2-1 エキゾーストマニホールド(注3)
・大量クールドEGR(注4)
・高応答EGRバルブ
主要諸元
排気量 (cc) 1,496
内径×行程 (mm) 72.5×90.6
圧縮比 13.5
燃料噴射システム ポート噴射
最大熱効率 38%
最高出力 (kW/rpm) 80/6000
最大トルク (N・m/rpm) 136/4000
燃料 無鉛レギュラー
排気ガス規制対応 J-SULEV
(注) 1. VVT-iEは、Variable Valve Timing-intelligent by Electric motorの略語で、電動VVT。吸気側に設定 (排気側は、通常の油圧によるVVTを搭載する)。電動VVTは、コストは上昇するが、可変角が広く、冷間時でも瞬時の作動が可能、作動速度も油圧式より速いなどのメリットがある。
2-1. ウォータージャケットスペーサーは、ウォータージャケット内に、樹脂製の、ウォータージャケットの約半分の高さのスペーサーをはめ込み、シリンダー下部の冷却水流量を抑えて壁面温度の上昇を図り、燃焼室に近い上部の水量を増やして冷却効率を高め、上下での温度差を小さくする。トヨタは、2003年に3GR-FSEエンジンに世界で初めて採用した。
2-2. 2NR-FKEエンジンが搭載するExpad付ウォータージャケットスペーサーは、ステンレス板に感熱膨張シートExpadを張付けたスペーサーで、感熱膨張シートはエンジン始動後水温の上昇でおよそ4倍の厚さに膨張し、ウォータージャケット部の隙間を充填する機能を持つ。
3. 4-2-1エキゾーストマニホールドは、4本のエキゾーストマニホールドをまず2本にまとめ、次に1本にまとめる。これにより排気干渉をなくし、掃気効率を高める。
4. クールドEGRは、EGR (Exhaust Gas Recirculation)で再循環させる排出ガスをEGRクーラーで冷却し、大量のEGRを実現する。排気ガス中のNOxを減らし、ポンピングロス低減やノッキングの抑制に貢献する。

 

 



ホンダ:1.5L直噴ターボエンジンVTEC TURBOを新型STEP WGNに搭載

 ホンダは、「Earth Dreams Technology」のひとつとして、直噴ターボガソリンエンジン「VTEC TURBO」を開発した。2.0L、1.5L、1.0Lの3機種を設定し、2015年4月に日本で発売した新型STEP WGNに1.5Lエンジンを搭載し、本展示会に出展した。

 今回出展した1.5Lエンジンは、直噴ターボシステム、吸排気デュアルVTC (VTCはホンダの商品名でVVTと同じ意)等を採用することで、低回転から豊かなトルクを発生させるターボエンジンの強みを最大限に活用。さらに効率のよい燃焼を維持し続けることで、クラストップの低燃費 (STEP WGNで、JC08モード走行燃費17.0km/L)を実現しながら、多人数乗車時でもストレスの少ない力強い走りをもたらした。

 ターボチャージャーについては、小径タービンを採用。エンジン回転が低く、排気流量が少ないときでもタービンを駆動させることができるので、低回転からの過給も可能。またターボの過給圧を任意の設定に調整できるよう、ウェイストゲートを電動制御化。これにより、過給領域での排気ロスを低減することで、低燃費に寄与する。

 さらに、直噴システムは、燃料をシリンダー内に噴射し気化させるので、燃焼室内の温度が下がり、ノッキングを起こりにくくする。またこれにより燃焼が安定するので、デュアルVTCによるバルブオーバーラップ (吸気バルブと排気バルブの両方が開いている状態)制御の自由度を高め、走行状況に応じた最適なバルブ制御に貢献する。

 走行状況に応じたオーバーラップ量の最適制御については、 (以下、下の2枚のうち右側の写真を参照ください)①始動・アイドル時は、オーバーラップを最小化し、エンジン回転を安定させる、②は最も広い実用領域で、オーバーラップを、燃費・エミッションが最適な運転になるよう調整する、③は低回転から急加速する場合などで、オーバーラップを大きくし、スムーズに掃気してレスポンスを高め、ポンピングロスを低減する、④高回転領域では、オーバーラップを小さくし、高出力を実現する。

 

ホンダの1.5L直噴VTEC TURBOエンジン 吸排気デュアルVTC
ホンダの1.5L直噴VTEC TURBOエンジン 吸排気デュアルVTCによりバルブオーバーラップを制御 (資料:ホンダ)

 

ホンダ:新開発1.5L VTEC TURBOエンジン

主な採用技術・性能

●直噴システム ・筒内燃料噴射によるシリンダ内冷却 ・急速燃焼化諸元の採用 -高タンブルポート -タンブル保持ピストン -小径ボア&ロングストローク

●吸排気デュアルVTCによるバルブオーバーラップ制御 ・燃費改善:内部EGR量拡大効果 (内部EGRは、バルブオーバーラップを利用して、燃焼室内で排気ガスを還流させ、ポンピングロスを低減する) ・過給効率向上:オーバーラップ量拡大による掃気効果 (低回転から急加速する場合など) ・出力向上:オーバーラップ量縮小による残留ガス低減効果 (高回転時)

●電動ウェイストゲート付きターボチャージャー ・応答性に優れた小径のターボチャージャー ・電動ウェイストゲートにて過給領域での排気損失を低減し、低燃費に寄与

主要諸元
エンジン形式 直列4気筒
動弁機構 DOHC
圧縮比 10.6
燃料噴射方式 直噴
最大出力 110kW (150PS)/5500rpm
最大トルク 203Nm (20.7kgf・m)/1600-5000rpm
JC08モード走行燃料消費率 17.0km/L (新型ステップワゴン)

 

ホンダ:2.0Lターボエンジンを、Civic TYPE Rに搭載

 (本展示会への出展ではないが) ホンダは2015年3月開催のGeneva Motor Showに、初めて2.0Lターボエンジンを搭載するCivic TYPE-Rを出展した。既に英国工場で量産を開始しており、2015年夏に欧州各国で販売を開始する。最高出力310PS、最大トルク400N・mという、歴代TYPE Rモデルで最高の性能を発揮する。また6速MTとの組み合わせにより、0-100km/hの加速は5.7秒、最高速度270km/hの走行性能を実現した。

                     <自動車産業ポータル、マークラインズ>