Car HMI Europe 2021:ユーザーインターフェイスの最新テクノロジー

Boschのドライバーモニタリングシステム、AmazonのAlexa音声認識システム、AR-HUD

2021/09/13

要約

Event logo
イベントロゴ (Car HMI Europe 2021、we.CONECT Global Leaders GmbH主催 / ロゴ:we.CONECT Global Leaders GmbH)

  第10回Car HMI Europe(欧州自動車ヒューマン・マシン・インターフェイス展)は、2021年6月27日から29日までベルリンでハイブリッド形式のイベントとして開催された。自動車業界全体からHMI(ヒューマン・マシン・インターフェイス)の専門家約150名が参加し、現地参加とリモート参加の割合はほぼ半々だった。講演発表のほとんどは会場で行われ、移動制限を受けたごく一部の発表者がリモート発表を行った。


  Car HMIは、新型コロナウイルス流行で長らくデジタルイベントが続いた後、久しぶりにライブで開催された会議の1つとなった。現地参加者は皆、再び対面で意見交換できるようになったことを喜んだ。

 

  イベントは日曜の晩に、いわゆるアイスブレークセッションで始まり、参加者には飲食を交えた非公式な交流機会が提供された。

  参加者は翌日以降のメインイベントで、講演発表の聴講、ワークショップでの意見交換、展示エリアのブース見学を行った。

Welcome by the event organizer and event sponsors Welcome by the event organizer and event sponsors
主催者とスポンサーによる歓迎 (Car HMI Europe 2021、we.CONECT Global Leaders GmbH主催 / 画像:MarkLines Europe GmbH撮影)

 

Community Wall
交流掲示板 (Car HMI Europe 2021、we.CONECT Global Leaders GmbH主催 / 画像:MarkLines Europe GmbH撮影)

  登録が済んだ参加者はポラロイド写真を撮影され、その写真は「Car HMI Europe交流掲示板」に貼られた。写真には名刺が添えられ、お互いの交流が促された。


  初日はbeyond HMI/////の創立者兼オーナーPeter Rössger博士が司会を務めた。同社はHMIの設計、使い勝手、ユーザー体験に関するコンサルタント企業で、特に自動車業界に強い関心を向けている。

  2日目はAltiaの欧州・中東・アフリカ地域販売責任者Armin Kölker氏が司会を務めた。Altiaは米国のソフトウェア企業でGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェイス)開発ツールを提供している。

  来年のイベントは同じくベルリンで2022年6月19日から21日に開催される。

  本イベントのレポートは3回に分けて紹介する。
  1回目は展示会場に出展されていた企業とその製品を紹介。
  2回目の本稿では、最新のユーザーインターフェイス技術を扱う。
  3回目では現在の全般的なHMIコンセプトのアプローチに焦点を当て、将来の自動運転に向けたユーザーエクスペリエンス強化設計の見通しを示す。

関連レポート:
Car HMI Europe 2021:V2XおよびUX戦略のためのデバイスとソフトウェア (2021年9月)
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ドライバーモニタリングシステム:今日の自動運転機能に不可欠となった経緯(Bosch)

Prof. Dr. Dietrich Manstetten, Chief Expert Human-Machine Interaction, Robert Bosch GmbH

  Boschはこの講演で、ステアリングの動きに基づいて眠気を検知する第1世代のドライバーモニタリングシステムと、レベル2及びレベル3の自動運転車に使われるカメラ式の高度な注意喚起システムを区別した。最後に乗員監視システムも紹介した。

 

ドライバーモニタリングシステムの開発

  Manstetten教授は、Boschが約15年前に最初のドライバーモニタリングシステムを開発した経緯の説明から講演を始めた。

  同社は問題の範囲を明らかにすることから開発に着手した。そのために、事故統計を調べ、個々の事故を分析して注意力低下を検出する方法を研究した。

Development of Algorithms for Driver Drowsiness Detection
ドライバー眠気検出用アルゴリズムの開発
(Car HMI Europe 2021、we.CONECT Global Leaders GmbH主催 / 画像:Robert Bosch GmbH)


  その後、運転シミュレーター実験を行い、生理学的データと運転データを分析して、最終的に眠気を測定するアルゴリズムを設計した。ステアリング角度に現れる特有なパターンの繰り返しに着目することが、眠気を検出する有効なアプローチだと思われた。

  実際の条件でもアルゴリズムの有効性が示されたため、量産を始めることができた。

  このシステムは2010年にVWの「パサート(Passat)」に初めて導入された。ボルボとダイムラーも同時期にステアリング動作に基づく同様の方法を発表している。これは、ステアリングの設定に追加してその動きを測定する純粋なソフトウェア機能で、今日でも最先端の技術である。


  Manstetten教授は、より高度なドライバーモニタリングシステムの詳細に話を進め、そうしたシステムの開発は、主に消費者テスト(EuroNCAP)と法規制が牽引していると強調した。

  Euro NCAPでは、OEMは車両がドライバーの眠気検出・注意喚起システムを備えている場合にポイントを獲得できる。

  一般安全規則(EU2019/2144)によれば、新たに型式認証される車両は2022年中頃以降、眠気検出・注意喚起システムを備える必要がある。2024年以降は市販されるすべての車両に同じ規則が適用される。


  一方、多かれ少なかれドライバーモニタリングシステムの使用を義務化される自動運転レベル2と3の車が状況を大きく変える可能性がある。

  • レベル2の車両では、ドライバーは常時システムの監視作業を行う。この場合、ドライバーはステアリングから手を離しているため、動作データ(ステアリング)は分析できない。したがって、カメラ式システムなどで注意レベルを直接測定する必要がある
  • レベル3では、ドライバーは常に注意を払う必要はないが、システムが要求した場合に運転動作を引き次いで再開する能力が必要となる。注意レベルを監視する必要はないが、ドライバーの準備状況や対応能力を評価する必要がある

 

ドライバー監視と自動運転

  カメラ式のドライバーモニタリングシステムによりドライバーの不注意を検出できる。

  不注意には3種類ある:

  1. 動作の不注意:ステアリングから手を離す
  2. 視覚の不注意:道路から目を逸らす
  3. 認識の不注意:運転に集中していない

  車内で手持ちの携帯電話を使うことは、これら3つの不注意すべてに当てはまる、極めて危険な行為である。

Camera-based driver monitoring systems Camera-based driver monitoring systems
カメラ式ドライバーモニタリングシステム
(Car HMI Europe 2021、we.CONECT Global Leaders GmbH主催 / 画像:Robert Bosch GmbH)


  Boschのドライバーモニタリングシステムで現在使われているカメラセンサーは、ステアリングコラムに取り付けられた近赤外線カメラシステムで、頭の姿勢、目の状態、視線、顔の識別などの基本情報を提供する。

  これらの基本情報は次のアルゴリズムに送られる:

  • 視覚の不注意は、視線の方向を古典的な視線追跡や深層学習で分析して判定する。
  • 認識の不注意は、視野が狭まっている様子などを機械学習で分析して判定する。

  ドライバーの状態を示すこの情報は、続いて、何らかの外部システムやアクチュエータに送られる

 

室内監視:安全性と快適性の向上

Interior Monitoring
室内監視 - 安全性と快適性の向上
(Car HMI Europe 2021、we.CONECT Global Leaders GmbH主催 / 画像:Robert Bosch GmbH)


  Manstetten教授は最後に、室内監視手段が安全性だけでなく快適性も改善できることを指摘した。視線制御、手のジェスチャー、気分に合わせた制御といった新しいHMI快適性機能を付加できる。さらに、車載機能の設定を顔認証などでパーソナライズすることで、ユーザー体験を向上することもできる。

Interior Monitoring as Key Enabler for new Use Cases
新しい用途を提供する室内監視
(Car HMI Europe 2021、we.CONECT Global Leaders GmbH主催 / 画像:Robert Bosch GmbH)

 

Q&A:

  発表後、司会のPeter Rössger博士が、2024年にドライバーモニタリングシステムに求められる法的規制を、どのように決定するのかを質問した。

  Manstetten教授は、規制はかなり緩やかなものになると答えた。教授によれば、測定が重要視され、なんらかの間接的もしくは直接的な測定が求められるが、未解決の問題も残されている。自動化されていない2024年型車の場合、依然として間接的な行動測定システムが機能し、規制を満たすことになる。

 



車内の音声利用の将来(Amazon Germany)

Mr. Christian Bauer, Alexa Automotive Business Development, Amazon Germany

  Amazonは、OEMのHMI戦略を強化する車載インフォテインメントシステムを、従来にも増して直感的に利用する上で、同社とAlexaがどのように役立つかを説明した。

  また、いわゆるAlexa Custom Assistantも紹介した。これによりAlexaの技術スタックがOEMブランドの音声アシスタントで利用できる。

 

音声認識システム:利用状況と不満

  Bauer氏は、Amazonが音声が様々な場面、特に車内で有用な手段だと考える理由から話し始めた。同氏によれば、車内には作業を音声で処理したいという強いニーズがあるという。その発言を裏付けるために以下の調査結果を引用した。

  • 人が1分間に入力できる語数は、言語や人にもよるが、タッチスクリーンでは35語から40語程度なのに対し、音声では120語から150語となる。同じ単位時間に伝達できる情報密度は、タッチするより話す方が3倍から4倍高いことを示している(数年前のFinancial Timesより)
  • 消費者の約半数(49%)が車内で音声を利用している(Capgemini Research Institute、2019年)
  • 2028年までに全車両の90%が音声アシスタントを搭載する(Navigant Research、2019年)


  こうした結果とは対照的に、JD Powerの初期品質調査は、消費者が車載音声認識に長年大きな不満を抱いてきたことを示している。Bauer氏は以下のような不満理由をあげた。

  • 従来の車載音声認識システムは、顧客の音声を正確に理解する上で問題を抱えていた。人々の話し方や言葉遣いはさまざまだが、従来のシステムではシステムがサポートしている文法や語彙に合わせる必要があった。これは、多くのドライバーや消費者にとって困難である。
  • 従来のシステムでも一部の機能を制御できるが、消費者が期待しているほどではない。消費者は音声でもっと多くのことを制御したいと考えている。
  • 従来のシステムは最新状態に保つのが難しい場合がある。Amazonでは完全なクラウド型ソリューションが望ましいと考えている。クラウドを利用すれば、音声認識システムが学習によって進化し、システムが改善されて常に新鮮なコンテンツを提供できる。

 

JD PowerによるAlexa車載音声コネクティビティ調査

  続けてBauer氏は、JD Powerが2020年に開始した「Alexa車載音声認識コネクティビティ調査」の結果をいくつか紹介した。

  JD Powerはこの調査を米国(N=5,000)とドイツ(N=780)で実施し、自宅で使用するのと同じ音声アシスタントを車に搭載したいかどうかを回答者に尋ねた。

  米国でもドイツでも回答者のほぼ80%がそうしたいと答えた。

  回答者は家庭用音声サービスを車両に導入する主なメリットとして以下の3点を挙げた。

  1. 一貫性:「家で始めたポッドキャストを車内でも続けられる」
  2. 利便性:「家の音声サービス機能に慣れていれば、車ごとに新しく覚える必要がない」
  3. パーソナライズ性:「自分の好みを家から車に引き継げる」

  また、家と同じ音声アシスタントを車に備えることが、購入の決め手の1つになると答えた回答者が3分の2以上いた。音声アシスタントのために車を買うわけではないが、車購入の意思決定にあたって、音声アシスタントを考慮に入れる人はますます増えている。

Interest in same brand Most popular in-vehicle voice services
家庭用と車載用の音声サービスを同一ブランドで揃えることに対する関心 人気の高い車載音声サービス

(Car HMI Europe 2021、we.CONECT Global Leaders GmbH主催 / 画像:Amazon Alexa Auto)

 

Alexa auto SDK:個人ニーズに対応する音声操作

  この調査によれば、人々はナビ操作や音楽選択の他にも、車内でさまざまなことに音声アシスタントを使いたいと思っている。ドイツの消費者にとって、駐車場、ガソリンスタンドやEV充電ステーションを見つけるとか、燃料価格を調べるといった自動車サービスは非常に重要である。また、スマートホーム機能を使って車内からガレージのドアを開けるような、個人的ニーズに対応する音声操作もますます一般的になっている。

  Alexa Automotive Business Developmentを使えば、Alexaの中核機能を包含するAuto SDKを用いて、こうした機能を車両に組み込む作業を簡略化できる。また、「Alexa、流行曲をかけて」、「Alexa、電話会議につないで」、「Alexa、ガソリンスタンドを見つけて」、「Alexa、窓の霜を取って」といったさまざまな機能は消費者に多くの価値をもたらす。

  Auto SDKには、ドライバーが家から車の機能を制御できる新機能も付属している。ドライバーは家にいたまま「Alexa、窓の霜を取って」、「Alexa、車をロックして」と言うだけで車を操作できる。自動車メーカーが使っている動作の名称をその通り言う必要はなく、買ってすぐ使用でき、ドライバーにシームレスな体験を提供できる。

  技術の詳細はこのリンク(Alexa-auto-sdk)を参照のこと。

Control functions enabled by Alexa auto SDK Examples of skills
Alexa Auto SDKが実現する制御機能 自動車専用に設計された動作の例

(Car HMI Europe 2021、we.CONECT Global Leaders GmbH主催 / 画像:Amazon Alexa Auto)


  また、自動車サービスの他に、ゲーム、ショッピングなど、さまざまなサービスもサポートされている。自動運転が普及すれば、こうしたサービスは消費者にとって一層魅力的になるだろう。

 

Alexa Custom Assistant:Amazon AlexaとOEMブランドの音声アシスタントの相互運用性

  既に多くのOEMが、Amazonと協力してAlexaを組み込んでおり、今後数年間で数百万台の車両にAlexaが組み込まれ、欧州以外の地域へも徐々に広がっていくだろう。例えばBMWはブラジル市場に、GMはメキシコ市場にAlexaを展開しようとしている。

  Bauer氏は最後に、Amazonの最新技術であるAlexa Custom Assistantを紹介した。これによりOEMは、ブランドの個性や顧客のニーズに合わせたインテリジェントアシスタントを構築できる。つまり、自動音声認識や自然言語理解のような優位性を備えたAlexaの技術スタックを、AlexaだけでなくOEMブランドのアシスタントでも利用可能になる。どちらのシステムも同じ技術に基づいているためシームレスに共存でき、お互いに連携、強化できる。すなわち、AmazonのAlexaとOEMブランドの音声アシスタントが、車内で相互交流できることになる。

  両システムの相互運用を可能にするために、AmazonはVoice Interperability Initiative(音声相互運用推進機構)を設立した。この戦略により、さまざまな企業や機関が集まって、音声式スマートデバイスを相互運用可能な形で作成できる。

Brands integrating with Alexa Alexa Custom Assistant
Alexaを組み込んでいるブランド Alexa Custom Assistant

(Car HMI Europe 2021、we.CONECT Global Leaders GmbH主催 / 画像:Amazon Alexa Auto)


  Alexa Custom Assistantはどのように機能するのか?

  AlexaやOEMブランドのアシスタントは、さまざまな起動語(wake word)を理解する起動語エンジンを搭載している。Alexaもブランドのアシスタントも、天気を知りたいというような質問に、その意図を察して回答できる。また、他のアシスタントも接続できる。

  顧客が車内のAlexaに駐車スペースを見つけるように頼むと、AlexaはOEMブランドのシステムに支援を求め、一方、顧客がOEMブランドの音声アシスタントにオーディオブックを読むように頼むと、その作業はAlexaに引き渡される。

  Bauer氏は、Alexa Custom Assistantの利点を要約して講演を締めくくった:

  • インテリジェントアシスタントを自動車に組み込むコストと煩雑さの軽減
  • シームレスなユーザー体験の強化

 



拡張現実ヘッドアップディスプレイ(AR-HUD):課題、解決策とHMI(プフォルツハイム大学)

Prof. Dr. Karlheinz Blankenbach, Academic Head of Display Lab, University of Pforzheim

  Blankenbach教授は簡単な自己紹介から講演を始めた。

  同氏はプフォルツハイム大学(Pforzheim University)の正教授である。

  教授は応用ディスプレイの研究開発、特に光学測定、画像処理アルゴリズム、試作とディスプレイ評価に焦点を当てたDisplay Labを大学内に設立した。また、Society for Information Display(SID)、German Flat Panel Display Forum、ISELED(Intelligent Smart Embedded LED)など、さまざまな電子ディスプレイ関連組織で活動している。活動のほとんどは自動車に関わるものである。


  教授の技術講演は、今日のヘッドアップディスプレイ(HUD)が真の自動車用の拡張現実ヘッドアップディスプレイ(AR-HUD)へ進化するための知見を提供した。講演では、広視野角、及び眩光下の視認性というHUDの2つの主要課題を取り上げた。

  また、拡張現実の作成と評価に特別な注意が必要な点も強調した。

 

自動車用HUDの進化

The Evolution of the automotive HUD
自動車用HUDの進化 (Car HMI Europe 2021、we.CONECT Global Leaders GmbH主催 / 画像:Prof. Dr. Karlheinz Blankenbach, Hochschule Pforzheim)


  Blanenbach教授によれば、HUDの歴史は100年以上前に遡る。1913年製スタッツ ベアキャット(Stutz Bearcat)には冷却液温度表示用に一種のHUD(Boyce MotoMeter)が搭載されている。もっとも、自動車業界におけるHUDの真の革新は2000年頃に始まった。当初、HUDの虚像サイズはかなり小さかったが、年々改善が進み、2020年には10メートル先で70インチ程度にまで拡大された。

 

HUDの基礎

HUD fundamentals
HUDの基礎 (Car HMI Europe 2021、we.CONECT Global Leaders GmbH主催 / 画像:Prof. Dr. Karlheinz Blankenbach, Hochschule Pforzheim)


  Blankenbach教授は、フロントガラス型HUDシステムの技術的な詳細と、その複雑さに関する課題について講演を続けた。HUDは、自動車の前方に虚像を形成する、反射ミラーを備えた投影システムである。

  このシステムには、原理上、次のような課題がある。

  • 画像サイズ(垂直方向、水平方向の視野角で表される):大型化が難しい
  • 輝度:背景より明るくする必要がある
  • 不自然さ:スクリーンはフロントガラス上の透明な反射板であり、投影による不自然さを解消する必要がある。
  • 熱負荷:ディスプレイの大消費電力や直射日光によりHUDに熱負荷がかかる
  • 小型化:拡大画像を生成する画像生成ユニット(投影機とミラー)の小型化が必要
  • 設置スペース:画像生成ユニットの筐体がかさばりインパネに大きなスペースが必要

 

AR-HUD:視野角(FOV)と投影画像(Augmentation)

  続いて、教授は視野角(FOV)と投影画像(Augmentation)の問題に触れた。

AR-HUD
AR-HUD:視野角(FOV)と投影画像(Augmentation)
(Car HMI Europe 2021、we.CONECT Global Leaders GmbH主催 / 画像:Prof. Dr. Karlheinz Blankenbach, Hochschule Pforzheim)


  現在、メルセデスの最新モデルに搭載された、水平10º、垂直5ºのFOVを持つHUDが最先端の優れたARだと考えられている。このFOVを実現するには、インパネに筐体用の広いスペースが必要でコストが高くなる。

  しかし垂直方向のFOVは、車線の投影画像や、店舗やレストランの案内を表示するには最低でも20º、交通標識を表示するには40ºが必要となる。

  また、水平方向のFOVに関して言えば、現在の10º程度では高速道路の車線のマークしかできない。ADAS機能や追い越し経路の画像を投影するには、少なくとも20°の水平FOVが必要となる。

Reasonable FOVs for AR-HUDs
AR-HUDに適したFOV
(Car HMI Europe 2021、we.CONECT Global Leaders GmbH主催 / 画像:Prof. Dr. Karlheinz Blankenbach, Hochschule Pforzheim)


  Blankenbach教授は、AR HUDがドライバーに不可欠な情報を伝えるために、以下のFOVが適切だと考えている:

 1)高速道路用ADAS:水平20º x 垂直10º

 2)都市部経路案内用:水平40º x 垂直20º

  都市部の経路案内では水平、垂直のFOVをいずれも高速道路用のほぼ2倍にする必要がある。水平FOVは左折や右折に対応するためで、垂直FOVは道路用に10º、交通標識やレストラン等の案内表示に10ºが必要となる。

Challenges for AR-HUDs
AR-HUDの課題
(Car HMI Europe 2021、we.CONECT Global Leaders GmbH主催 / 画像:Prof. Dr. Karlheinz Blankenbach, Hochschule Pforzheim)

 

AR-HUDの光学系における課題と解決策

   Blankenbach教授は、AR-HUDで検討すべき、さらなる課題を次のように要約した:

 1) 解像度(Resolution):ディスプレイの高解像度表示には膨大な計算能力と伝送速度が要求される。また、適切なタイミングでコンテンツを提供するためには、視線追跡、コンテンツの生成、車線や道路標識の取り込みが必要となる。40º x 20ºのFOVが生成する投影画像は12メガピクセルに相当し、8Kテレビ並みの解像度が必要となる。なお、フロントガラス全面サイズの投影画像は100メガピクセルに相当する。また、40º x 20ºのFOVに必要な伝送速度は20ギガバイト/秒となる。

 2) 視認性(Readability):投影する背面はスクリーンではなく道路、建物や自然風景となるため、一定のコントラスト比が求められる。ISO15008によれば、この比率は2:1より大きい必要がある。つまり、HUDの輝度を、少なくとも背景の輝度と同等の1万カンデラ/平方メートルにしなければならない。画像サイズを10倍にすれば10倍の電力が必要となり、熱に関する大きな課題が生じる。

 3) 画像の重なり(Occlusion):HUDの表示が増えるほど、路上の物体が隠されるリスクが高まり、交通安全に逆行する。例えば、道路の穴が経路案内用の青い拡張矢印に隠されてしまう。

Solutions for AR-HUD optical systems
AR-HUD光学系の課題への対策
(Car HMI Europe 2021、we.CONECT Global Leaders GmbH主催 / 画像:Prof. Dr. Karlheinz Blankenbach, Hochschule Pforzheim)


  Blankenbach教授は、FOVを40º x 20º、運転データの投影距離を2メートル、投影映像の投影距離を最大20mにすることで、適切なARを実現できることを再度強調した。

  教授によれば、現在の広角FOV AR HUDの課題は以下のようなホログラム技術で解決できるという。

  1. ダッシュボードに格納された小型プロジェクターを備え、フロントガラスに組み込まれたホログラフィック拡散板。
  2. プロジェクターの画像を拡大するホログラフィック導波管(Continental製)


  教授は、発光材料と紫外線保護技術を利用してフロントガラスに投影する第3の技術にも触れた。もっとも、このソリューションは輝度が低すぎるため、夜間運転には利用できるかもしれないが、あまり筋が良いとは言えない。

 

注訳付き現実(Annotated Reality)と拡張現実

  教授はAR HUDの課題と解決策について説明した後、AR HUD技術の典型的な使用例に言及した。さらに、注釈付き現実(Annotated Reality)と拡張現実の違い、一般的なAR HUDと3次元AR HUDの違い、フロントガラスに情報を表示する方法について説明を続けた。

  マニュアル運転の場合、AR HUDは周囲状況に対する注意力を改善できる。今後、ADASシステムの普及に伴うドライバーの運転技能の低下が予測されるため、これは特に大きな利点となる。

  一方、自動運転の場合、AR HUDは自動運転による動作を監視することで、ADASや自動運転機能に対する信頼の構築に役立つ可能性がある

Annotated Reality versus Augmented Reality Annotated Reality versus Augmented Reality
注釈付き現実(Annotated Reality)と拡張現実(Augmented Reality)
(Car HMI Europe 2021、we.CONECT Global Leaders GmbH主催 / 画像:Prof. Dr. Karlheinz Blankenbach, Hochschule Pforzheim)

 

注釈付き現実と拡張現実の相違点

  注釈付き現実(Annotated Reality)を利用すると、道路沿いのレストラン、店舗、面白そうな建物などに関する付加情報を取得できる。

  拡張現実(Augmented Reality)では、仮想コンテンツが現実の上に重ねられる。拡張現実の主なアプリケーションは、ナビゲーション、景観の強調、暗視、アダプティブクルーズコントロール(ACC)監視、車線逸脱警告などである。現在や近い将来の自動運転レベルで、拡張現実は自動運転に対する信頼感を高めるのに役立つ。

 

拡張現実やその他の情報の表示方法

  画像重ねモード(World-fixed):直感的でドライバーに認識の負荷がかからない標準ビューだが、画像の重なり(occlusion)が生じる可能性があり検討が必要である。例えば路面の穴が経路案内の青い矢印で隠されるおそれがある。この問題は、投影画像を半透明にすることで解決できると思われる。

  視界優先モード(Perspective):このビューは景色を遮ったり、路上の重要な物体を覆い隠すことはないが、直感的ではない。また、情報がフロントガラス上面に投影されるため、雲や日光の影響に対処する必要がある。

  ハイブリッドモード(Hybrid view):経路案内と全体的な地図情報を組み合わせたビューで、重なりが最小限に抑えられ、非常に直感的だが、情報過多になりやすい。

 

拡張現実と3次元HUD

Augmented Reality versus 3D-HUD
拡張現実と3次元HUD
(Car HMI Europe 2021、we.CONECT Global Leaders GmbH主催 / 画像:Prof. Dr. Karlheinz Blankenbach, Hochschule Pforzheim)

 

AR HUDと3次元AR HUDの違い

  情報が投影される距離は、AR HUDでは固定だが、3次元AR HUDでは変化する。また、3次元の場合は視線追跡が必要となり、濃色サングラスや偏光サングラスが着用できないなど課題が多い。

  Blankenbach教授は、AR HUDの利点と課題を次のように要約して講演を終えた。

AR HUD Benefits versus AR HUD challenges
AR HUDの利点と課題
(Car HMI Europe 2021、we.CONECT Global Leaders GmbH主催 / 画像:Prof. Dr. Karlheinz Blankenbach, Hochschule Pforzheim)


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キーワード
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