SAE China 2020 (2):商用車の電動化
商用車のハイブリッド技術ロードマップ分析及び水素燃料電池技術と商業化への挑戦
2020/11/26
要約
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SAECCEの「商用車の電動化」セミナー |
2020年10月27日から29日まで、年に一度の中国汽車工程学会年会展覧会(SAECCE)が上海汽車会展センター(Shanghai Jiading Automobile Exhibition Center)で盛大に開催された。同展覧会は自動車業界で広く認知された技術交流と展示プラットフォーム。過去26回が成功裏に開催された。
汚染物質とCO2の排出規制が日増しに厳しくなるにつれ、道路輸送に重要な役割を果たしている商用車の省エネルギーや排出ガス低減に対する関心は益々高くなっている。「新エネルギー車技術-商用車の電動化」はこの目標を達成するための有効な道筋である。本レポートでは、商用車の電動化に触れたいくつかの講演のうち、東風汽車集団とCumminsの関係者の見解を整理して紹介する。
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東風汽車集団:ハイブリッド技術ロードマップ分析
組織名 | 組織概要 | 講演者 | 部門/職位 |
---|---|---|---|
東風汽車集団有限公司 | 中国大手OEM | 蒋学鋒 | 東風汽車集団有限公司 副主席エンジニア、中国汽車工程学会会員 |
東風汽車集団有限公司の蒋学鋒 副主席エンジニアは商用車は無から有、有から大の時代へと発展の道をたどって来て、現在は強の時代へと向かっていると述べた。また、ディーゼル化の時代、電動化の時代をたどり、電子制御化の時代になり、我々の性能は急激に向上している。そして今、伝統から新技術への転換の道のりとなる。この新しい時代を我々は多様化の時代と称している。多様化の時代には、電動化、知能化、コネクテッド化技術に伝統的な技術との融合が生まれる。具体的に以下の方面から述べた。
商用車の技術推進要因
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蒋学鋒 副主席エンジニアの講演 |
蒋学鋒 副主席エンジニアは商用車の推進要因として以下の4点を挙げた。
① 政策/法規/標準:新エネルギー車(以下、NEV)の補助金政策、ダブルクレジット政策、コネクテッドカーの標準及び政策、排ガス規制の強化、燃費規制のアップグレード、安全性関連法規のアップグレード、ADAS(国家標準)。
② 市場環境:
1 | 経済転換 | 輸送効率アップ、マルチモーダル輸送 |
2 | 物流運用システム | チャネルネットワーク、輸送距離の変化と電動化、車両構造(消費意欲の向上、一般消費の構成比アップで車両構造へのニーズが変化)など |
3 | 物流 | 集約化、高効率化、専業化など |
③ 顧客要求:
1 | 総合性能 | 要求の多様化 |
2 | 労働強度と技能 | 安全、高効率、快適 |
3 | 車の購入 | サービス、TCO(Total Cost of Ownership)、アフターマーケット |
4 | 顧客エクスペリエンス | ハイエンド傾向(例:成功体験及びエモーショナルニーズ) |
5 | 新ビジネスモデル | 例:物流業界と自動運転の結合など |
④技術発展 1. バッテリー価格と性能の最適化、2.電動化:省エネと排ガス規制強化、3.知能化:自動運転の安全/効率、4.コネクテッド化: 4G/5Gを基にしたアフターマーケット及び自動運転支援、5. 商用車の三化(電動化、知能化、コネクテッド化)のシーンと実現の道筋
商用車の動向
市場動向から見ると、過去の中国商用車市場は未熟で、または発展途上の市場であった。その後徐々に成熟に向かうとともに、増車市場から保有市場へと向かった。競争の動向から見ると、関税及び政策による刺激を受け、中国国内の消費レベルは絶えず向上し、総合的な体験への関心がより高まり、今後数年内に競争の国際化が進むことは明らかである。技術動向から見ると、伝統的な技術から多様性のある新技術、及び伝統的技術と新技術の融合へと転換している。サプライヤーの動向から見ると、単純な購買関係からサプライヤーとの共同開発へと転換し、国内外の主要OEMはみなサプライヤーと提携関係を結ぶようになった。企業動向から見ると、製造業を主とした新しいビジネスとサービス、新しいエコシステム、バリューチェーンとの連携に発展している。顧客動向から見ると、今後顧客が求めるのは総合的な性能であり、単一的な性能ではない。顧客はハイエンドのドライビングエクスペリエンスとエモーションを求めるようになる。
商用車の技術転換
将来の技術転換は自動運転、コネクテッド技術などを通じ、商用車が直面する課題を解決する。商用車は将来3つのゼロを目指す。即ちゼロエミッション(更なる省エネ、排ガス低減は主にエネルギー動力技術による)、事故ゼロ(更なる安全は主にインテリジェントコントロール技術による)、待ちゼロ(更なる効率化は主に情報/データ技術による)である。
商用車の技術戦略
① 戦略的機会と転換期の核心的問題(安全、省エネ、効率)
② 技術トレンド:伝統的な技術の急速なレベルアップと新技術の発展的融合
③ 対策:大きな視野(自動車-交通システム、ライフサイクルコスト)
商用車のハイブリッド技術ロードマップ分析
活用シーン① 高速物流--パラレル方式ハイブリッド技術 (P1/P2 ハイブリッド)で対応。課題は、省エネ、長距離、充電回数の少なさ、輸送力、動力性、適時性、長距離向き、高効率、走行モードが単一、減速、下り坂などの回生ブレーキエネルギー、燃費、電費が良い。
活用シーン② 高地エリア--ハイブリッド技術で対応。課題は、高地ではエンジン特性が下がるため、エンジンが中程度の負荷を保ち、モーターでエンジンの動力不足を補うこと。
活用シーン③ 都市、都市間物流--ハイブリッド技術で対応。課題は、実際の使用条件での燃費テスト、異なる技術ロードマップにおける実際の使用条件でのテスト対比。
活用シーン④ 工事現場--ハイブリッド技術(シリーズ方式/P2ハイブリッド)で対応。課題は、工事用車両の低燃費を改善し、低速での動力性能を改善する。特殊なシーンで可能な限り排出ガスを抑える。工事用車両のエンジンの課題は、重負荷時の低速運転、超高燃費、排出ガス。
ハイブリッド技術の次の段階
事前に予測できる勾配に対するハイブリッド動力の制御:登坂前にあらかじめ充電し、降坂前にあらかじめ放電することで、最大限にハイブリッドの長所を生かす。
蒋学鋒 副主席エンジニアはテスト結果を見て、将来ハイブリッド技術の方向性は以下のようになると予測した。
- 道路、車、人のコネクテッド技術を基にしたエンジンコンディションの最適化、高精度地図を基にした予測運転技術、V2X通信技術を基にした交通状態、クラウドプラットフォーム技術を基にした運転行為の最適化
- ハイブリッド専用エンジンの推進
- より多くのコネクテッドシーン、ハイブリッド動力制御とコネクテッド制御の融合
- ハイブリッド動力下でのエンジン、オートマチックトランスミッションなどの最適な制御、ハイブリッドパワートレインの一体化制御
- ハイブリッド動力制御の自律と知能化、ビッグデータ分析の最適化
- ハイブリッド動力制御のOTA利用
Cummins:水素燃料電池技術の条件と商業化への挑戦
組織名 | 組織概要 | 講演者 | 部門/職位 |
---|---|---|---|
康明斯(中国)投資有限公司新能源動力事業部 | グローバルパワーリーダー、パワーソリューションの設計、製作、流通、サービスを展開するメーカー | 紀光霽 | チーフエンジニア |
Cumminsは100年余りのディーゼルエンジン製造の歴史がある。今回の講演では同社NEV動力事業部のチーフエンジニア紀光霽 氏が水素燃料電池の面から、Cumminsの見解と考え方を紹介した。Cumminsは、水素燃料電池は将来的に商用車新エネルギー動力のベストな選択であると考えている。水素燃料電池技術自体とエコ燃料であるグリーン水素ガスは互いを補完するものであり、どちらも欠けてはならない。水素燃料電池技術は通常のバッテリー技術と比べ、充電と水素補給時間の観点で最初から有利である。
水素燃料電池の活用シーン:商用車領域
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講演中の紀光霽チーフエンジニア |
2018年より燃料電池のエンジン出力は異なる使用状況によって求められる等級に多様性が見られるようになった。2019年に水素燃料電池重型トラックの市場への投入が始まり、水素燃料電池重型トラックへの扉が開かれた。水素燃料電池の商用車への活用(2020-2025年)としては、都市の公共バス、郊外のバス及び観光バス、市町村の環境衛生車、都市物流配送車(保冷車を含む)、都市間物流車、都市の残土用ダンプトラック、トレーラーキャブなどがある。この他に、商用車用の燃料電池は乗用車用とは異なる要件がある。商用車は生産(モノ/金を生み出す)ツールとして乗用車とは動力システムに求めるものが違う。特にイニシャルコスト、燃費、運用の信頼性、耐用年数などへの期待は乗用車を上回る。
グリーン水素:再生可能エネルギー発展のボトルネック打破と市場への期待
水素エネルギーはエネルギーとして、交通運輸、発電発熱、ケミカル冶金など各領域に活用されている。
グリーン水素エネルギーは、産業チェーン全体のゼロエミッションを保証し、水素燃料電池車の発展の鍵となる要素である。水電解法による水素製造技術により、水素燃料電池技術の発展は再生可能エネルギーの急速な発展を一歩進ませ「電源、送電網、負荷、貯蔵の一体化」の重要な手段になる。グリーン水素(水電解技術+再生可能エネルギー)は送電網の変動負荷となり、ピークエネルギーを吸収/貯蔵し、ランダムに末端の電力使用を調整できる。再生可能エネルギーの発展はまたグリーン水素の水素製造コストの低減、その産業化の推進につながるだろう。
商用車における水素燃料電池技術の商業化への挑戦
① 耐久性向上への道のり:定格出力選択の最適化、動力システムの組み合わせの最適化、金属プレート表面塗装技術の改善、応用エンジニアリングの改革、システムのスタート・ストップ・コントロールの最適化、効率的な電池水分量の管理。
② 体積/重量の低減:重型商用車は250-300kWの燃料電池エンジンが必要。いかに今ある完成車の設計条件で車両統合を行い、軽量化を実現するかが商用車用燃料電池のもう一つの大きな挑戦である。シングルセルのソリューションを通じて、MEA(Membrane Electrode Assemblies)の最大電流密度を上げ、システム体積エネルギー密度を更に改善しシステムの重量を減らす。
③ 熱管理の強化:ディーゼルエンジンと比べ、燃料電池動力はより大きな車両冷却システム(>50%の燃料エネルギーは冷却水に奪われる)が必要。バッテリー動力に比べ、燃料電池動力は安価な車両補助熱源を提供する。このため、いかに燃料電池動力の特徴を十分に生かし、車両統合するかがより重要になってくる。
この他にCumminsは、水素燃料電池の成功には量産能力の保証が必要であると考えている。政府の補助金や奨励策は当然必要であるが、産業界/OEMによる積極的な製品の導入/成熟期間(2025-2030年を目処とする)の準備をする必要がある。水素燃料電池を供給するエンジンサプライヤーの量産能力は、製品の導入期或いは成熟期の成功を決定するものとした。
商用車の電動化に関するディスカッション
組織名 | 組織概要 | 講演者 | 部門/職位 |
---|---|---|---|
東風汽車集団有限公司 | 中国大手OEM | 蒋学鋒 | 東風汽車集団有限公司 副主席エンジニア、中国汽車工程学会会員 中国汽車工程学会会士 |
蘇州緑控伝動科技股份有限公司 | ドライブトレイン及び関連部品、自動車用電子制御システム及び関連部品メーカー | 李磊 | 董事長 |
清華大学 | 中国トップクラスの大学 | 李建秋 | 車両・運載学院 (School of Vehicle and Mobility, Tsinghua University) 院長 |
商用車の電動化に関する講演をめぐりディスカッション展開された。以下に注目点をいくつか挙げる。
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モデレーターと来賓によるディスカッション |
Q1:現在、企業各社は第14次5カ年計画(2021〜2025年)の策定に取り組んでいる。今後5年間に中国の商用車保有台数は落ち込む傾向と予測されている。しかし、各社は第14次5カ年計画策定の際に、経営目標を織り込む必要がある。そこで、商用車は今後3年間、5年間、何を突破口として台数増を実現するのか。特に東風汽車集団は自動車業界の中でリーディング企業のポジションをどのように保つのかお伺いしたい。
蒋学鋒:第14次5カ年計画期間は、商用車市場全体は横ばいへと向かうと予測する。今年のような爆発的な市場にはならない。これはトレンドである。もちろん第14次5カ年計画は各社の総量を足し上げるため、我々の予測をはるかに上回る総量になるだろう。各企業とも意欲的で更に高い目標に挑戦するが、これは極めて正常な現象である。第14次5カ年計画期間中、各社が採択する路線と策略は必ずしも同じではない。東風汽車集団で言えば、協調、改善、ビジネス転換を含めた転換、デジタル化への転換、これらすべてが第14次5カ年計画の戦略の一つである。
Q2:商用車電動化の電気駆動システムについて。また、重負荷のシーンではAMTかATかは大きな次元での問題だが、国外で主流となっているのは、例えば34トン車にはどの様な駆動システムを採用するか。国外ではAMTという選択はなくATだが、中国国内ではAMTを採用している。全体的に見て、将来はAMTとATどちらが主流となるか解説、予測してほしい。燃費面、システム統合最適化の面から緑控公司(蘇州緑控伝動科技股份有限公司)はどのように考えるか。
李磊:電動化については、国内の商用車は国外よりも早く進んでいる。中国国内は何年か前に行われた国の大々的な補助金政策によりバスに関して言えば部品の基礎が確立した。欧州の顧客との交流の中で分かったことは、国外の産業化は中国よりも遅れていることだ。そのため欧州は中国から部品を調達している。AMTかATかについて、国外のダンプトラック及び中国のダンプトラックは現在どちらもAMTを採用していない。AMTには2つ大きな問題がある。先ずクラッチの摩耗問題、第2に登坂時におけるギア切り替え問題である。中国国内の鉱業用はMTまたはATであるが、しかしながら、ATの問題は依然として十分に解決していない。現行の量産の車型は高価であり燃費が悪い。我々はもしハイブリッドにより動力の中断問題、スターティングクラッチの摩耗問題が解決し、同時に燃費が良いのであれば、鉱業の領域でATに替わり電気駆動システムを用いることができると考える。二つのコストは大差がなく、ハイブリット動力システムが向上すれば効率は更に上がる。我々は今後鉱業領域ではATが電気駆動システムへ代替えとなる自信を持っている。
Q3:ハブモーターの産業化に必要な条件と注意すべき問題点は何か。
李建秋:ハブモーターはおおよそ4つの型番が作られており、すでに専業の会社も設立されている。第1段階として1,300万元の資金を調達し、まさに現在モーターの生産ラインを建設中である。本年末から来年にかけニーズに合ったサンプルを企業に提供できると思う。構造は我々独自の発明のため、全ての知財権は国内のものであり、使用部品も国内で自分達で製造したものである。数量が増えるかは将来量産状態になった際のコストで決まる。なぜなら、分散配置型駆動モーターは比較的数が多く、コストも高すぎるからだ。調査したところ、現在100トン以上のトラックはSiemensの航空機翼の電動駆動ホイールを搭載していた。重負荷の登坂走行領域では我々の電動駆動ホイールの活用が期待できる。一段駆動で速さは30-40km/hに達し、駆動効率は95-97、良ければ98から99まで達する。このためギアの切り替えで動力が中断することはなく、効率も比較的高い。アクスル13本の長距離トラックが20-30%の勾配を上ることも基本的に問題ない。なぜなら我々の電動駆動ホイール単体の最大トルクは2万Nmまで可能だからだ。必要があればもっと大きくできる。低速で高回転率の急勾配と高速で120kWを持続させる動作状況の両方を兼ね備えることができる。
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キーワード:
中国汽車工程学会、SAE、SAECCE、ハイブリッド、水素燃料電池、電動化、商用車、東風汽車、Cummins、変速機
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