【ものづくり】SURTECH 2020 表面技術要素展:自動車部品の表面処理技術
高耐食亜鉛めっき、高潤滑りん酸マンガン、低コスト硬質アルマイト、生分解ドアトリム、フラットシャッター
2020/02/10
要約
SURTECH 2020 表面技術要素展(会期:2020年1月29日(水)~1月31日(金)、会場:東京ビッグサイト)は、一般社団法人表面技術協会、日本鍍金材料協同組合、株式会社JTBコミュニケーションデザインの主催。SURTECHとは、めっき、塗装、熱処理、表面硬化などの「ものづくり」の基盤技術である表面処理技術を総称する造語。エンジニアが多く参加する専門展示会として開催され、今年は82社が出展した。
本稿では、同時開催された新機能性材料展2020、3次元表面加飾技術展2020での出展を含めて、自動車部品の表面処理技術と高機能性樹脂などを取材した。
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SURTECH 2020 表面技術要素展 入場口 | SURTECH 2020 表面技術要素展 会場風景 |
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高耐食表面処理:亜鉛ニッケルめっき、亜鉛めっきクロメート剤、亜鉛アルミ塗装
自動車部品の表面処理では高耐食性の亜鉛めっきが多く使用される。近年の車両の長寿命化に伴い、足回り部品のめっきには融雪剤の塩害に対応する耐久性向上の要求がある。今回は亜鉛めっきに関する展示がめっき薬品会社3社からあり取材した。
(出展会社概要)
会社名 | 展示品 | 特徴 |
---|---|---|
PAVCO (米国ノースカロライナ州) |
量産:亜鉛ニッケル合金めっき ブレーキキャリパー 量産剤:NiClipsen C-NB 高ニッケル合金比率12~16% |
耐塩水噴霧性向上品 1,000~3,000時間(赤錆発生まで) |
ユケン工業㈱ (愛知県刈谷市) |
試作:亜鉛ニッケル合金めっき ブレーキキャリパー 量産剤:メタス ANK 高ニッケル合金比率12~18% |
耐塩水噴霧性向上品 2000時間以上(赤錆発生まで) |
量産:亜鉛アルミ複合防錆塗装ボルト 量産剤:メタス YC |
耐塩水噴霧性向上品 2500時間以上(赤錆発生まで) |
|
日本表面化学㈱ (東京都新宿区) |
試作:亜鉛めっきブレーキキャリパー 量産剤:クロメート剤TR-175CW +光沢トップコート剤CR |
耐塩水噴霧性向上品 840時間(白錆発生まで) 従来品は192時間 |
ブレーキキャリパー・亜鉛ニッケル合金めっき(PAVCO)
PAVCO社は1948年創業の米国ノースカロライナ州のめっき薬品会社。生産販売拠点は米国内に11拠点、海外は16拠点に展開している。今回の出展は米国PAVCO社の直接出展だが、日本での販売代理店はメルテックス㈱となっている。
展示品は亜鉛ニッケルめっきを施し耐食性を向上させたブレーキキャリパー。融雪剤による塩害のある北米向け自動車などで、すでに量産採用されている。めっき薬は米国PAVCO社製。通常、ブレーキキャリパーは、素材は球状黒鉛鋳鉄FCDで製造され、鋳肌に直接、電気亜鉛めっき8μmをのせているが、展示品は膜厚10μmとのこと。
めっきの耐食性を向上させるメカニズムは犠牲防食作用と保護被膜作用の2つに大別される。亜鉛めっきは素材よりも先にめっき被膜が腐食される犠牲防食タイプ。ニッケルめっきは保護被膜タイプであり、防錆のメカニズムが異なる。これら2つの効果を合わせた合金めっきとすることで、従来の亜鉛めっきよりも高い耐食性を実現している。
ブレーキキャリパー・亜鉛ニッケル合金めっき(ユケン工業)
ユケン工業は1937年創業の愛知県刈谷市の表面処理薬品メーカー。販売代理店での生産をふくめて、生産拠点は14拠点(国内3、海外11)で、国内は愛知県刈谷市、安城市、富山県小矢部市、海外は米国2、メキシコ、ブラジル、ドイツ、イタリア、中国、台湾、タイ、韓国、インドに展開している。
展示品は亜鉛ニッケルめっきを施し、耐食性を向上させたブレーキキャリパーの試作品。さらに光沢仕様となっている。日本車のブレーキキャリパーのめっきは亜鉛めっきが主流だが、北米など一部の地域では耐食性を向上させた亜鉛ニッケルめっきの採用が始まっている。日本国内では融雪剤による塩害は少ないが、北米向け輸出仕様等では必要になると見込んでいる。
<JIS塩水噴霧試験結果> 1200~2000時間でも赤錆の発生はない。
銘柄 | ニッケル析出 | 赤錆発生 |
---|---|---|
ANK | 高Ni 12~18% | 1200時間以上 |
ANT | 高Ni 12~18% | 2000時間以上 |
ANC | 中Ni 6~10% | 1200時間以上 |
もう1つの展示は高防錆の亜鉛アルミ複合塗装ボルト。めっきでなくコーティングでめっきと同等の耐食性が確保できる。めっき設備がない小規模な事業所でも安価な焼き付け塗装設備があれば製造できるのが長所。
試作:亜鉛ニッケル合金めっきブレーキキャリパー | 量産:亜鉛アルミ複合・焼き付け塗装ボルト |
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高耐食性めっき メタス ANK 亜鉛ニッケル合金めっきの光沢仕上げ 高ニッケル合金比率12~18% 展示パネル:亜鉛ニッケルめっき光沢剤 メタス ANK/ANT |
高防錆塗料 メタス YC 塩水噴霧試験JISZ2371 2500時間クリア 展示パネル:亜鉛アルミ複合剤 メタス YC |
ブレーキキャリパー亜鉛めっき用・高耐食クロメート剤&光沢剤(日本表面化学)
日本表面化学は1968年創業の東京都新宿区の表面処理用の薬品メーカー。生産拠点は神奈川県茅ケ崎市の国内1拠点で、R&Dセンターを併設している。
亜鉛めっきは酸化しやすいため、防錆効果と外観向上を目的に、後処理として化成処理であるクロメート処理が行われる。展示品はブレーキキャリパーの亜鉛めっきの耐食性を向上させたクロメート剤(化成皮膜処理剤)TR-175CWと光沢トップコート材CR。亜鉛めっきの耐食性を向上させたり、光沢を与えたりできる。近年はホイールのデザイン性が増しブレーキキャリパーも目立つようになってきているが、光沢仕様が採用されるかどうかは車両の商品企画による。
展示品:亜鉛めっきブレーキキャリパー | 展示パネル:ブレーキキャリパー向け製品紹介 |
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高耐食クロメート処理+光沢処理 薬品:三価クロム化成皮膜トライナー TR-175CW + 光沢トップコートCR |
耐食性が大幅に改善された |
塩水噴霧試験では白錆、赤錆の順で発生する。亜鉛の腐食が始まるのが白錆で、母材の鋼材が腐食すると赤錆になる。自動車会社では赤錆発生までの時間でNG評価を行うが、展示パネルはトップコート剤の評価のため、白錆発生までの時間で表示していた。高耐食クロメート剤TR-175CWS + トップコート剤TR-108 の塩水噴霧試験JISZ2371結果は下表のとおりで、耐食性が向上していることが解る。
トライナー | 白錆 |
---|---|
従来品 | 192時間 |
TR-175CWS/CR | 480時間 |
TR-175CWS+TR108/CR | 840時間 |
高機能硬化処理:高潤滑りん酸マンガン皮膜「パプロスライドプロセス」、低コスト硬質アルマイト「ハードコート」
自動車部品で多用される鋼材へのりん酸マンガン皮膜やアルミへの硬質アルマイトも改善仕様が展示されていたので取材した。
(出展会社概要)
会社名 | 展示品 | 表面処理 |
---|---|---|
パーカー加工㈱ (東京都中央区) |
熱処理ギア部品 材質:炭素鋼、合金鋼 |
パプロスライドプロセス (高潤滑リン酸マンガン皮膜) |
㈱ハードコート (埼玉県志木市) |
アルミダイカスト部品 材質:アルミ合金ADC12材 |
ハードコート「H-DX-Ⅰ処理」 (低コスト硬質アルマイト) |
高潤滑りん酸マンガン皮膜「パプロスライドプロセス」(パーカー加工)
パーカー加工は1948年創業の東京都中央区の表面処理受託加工メーカー。表面処理剤最大手の日本パーカーライジング㈱グループの主要企業として受託加工事業を担当している。国内14事業所、海外1事業所(ベトナム)の拠点がある。得意とするのは化成処理。自動車部品が50%を占めており信頼性が高い。自動車業界では「パーカー」といえば、りん酸塩皮膜の化成処理のことを指している。
展示品は熱処理をした高硬度な歯車などへの高潤滑りん酸マンガン皮膜「パプロスライドプロセス」。潤滑油の低粘度化によって焼き付きなどの不具合が多くなっていることへの対応として開発されている。一般のりん酸マンガン皮膜に比べて、低い摩擦係数と高い油膜保持力が特長で、歯車潤滑性、摩擦熱の抑制、鋼硬度の軟化抑制に効果があり、ローラーピッチング試験では疲労強度が向上するという。
量産:高潤滑りん酸マンガン皮膜「パプロスライドプロセス」 | 展示パネル:「パプロスライドプロセス」の特長 |
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母材:熱処理をした高硬度な歯車など 効果:低い摩擦係数と高い油膜保持力 |
特長:低摩擦係数、歯車潤滑性、摩擦熱の抑制、鋼硬度の軟化抑制 用途:エンジン関連部品、ファイナルギア関連部品、ディファレンシャル関連部品 |
アルミADC12用ハードコートR「H-DX-Ⅰ処理」(ハードコート)
ハードコートは1957年創業の埼玉県志木市のアルミ合金へのアルマイト工場。自動車向けが多く、生産拠点は4拠点(国内3、海外1)。国内は埼玉県志木市、東松山市、長野県千曲市、海外はベトナムに展開している。得意とするのは硬質アルマイトで、硬く厚い酸化膜を短時間で生成する高速ハードコート法で特許を取得している。
展示品はアルミダイカストADC12材用ハードコート「H-DX-Ⅰ処理」で製作した各種自動車部品。母材のアルミ合金ダイカスト品はアルミ棒材などに比べて多孔質なため、膜厚均一性、面粗さ、耐食性などが劣る欠点があった。対策として、従来のハードコート「H-GS-Ⅰ処理」に比べて硬度が高く、面粗さが良好、膜厚バラツキが少ない処理を実現している。その結果、耐食性、耐摩耗性を大幅に向上させている。
量産:ハードコート「H-DX-Ⅰ処理」 | 展示パネル:ADC12材向けの新技術「H-DX-Ⅰ処理」 |
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材質:アルミ合金ダイカスト鋳造ADC12 |
ADC12材用ハードコート
従来品 | 開発品 | ||
---|---|---|---|
ハードコート | H-GS-Ⅰ | H-DX-Ⅰ | |
面粗さ | Ra-0.952 | Ra-0.378 | 〇 |
耐食性 (s/μm) (アルカリ滴下試験) |
9 | 48 | 〇 |
耐摩耗性 (s/μm) (往復運動平面摩耗試験) |
1 | 5.5 | 〇 |
高機能プラスチック:生分解ドアトリム、2色成形部分めっき、フラットシャッター
同時開催された新機能性材料展2020、3次元表面加飾技術展2020から自動車部品で活用できる高機能性プラスチックや表面加飾技術を取材した。
(出展会社概要)
会社名 | 展示品 | 材質・工法 |
---|---|---|
㈱宮城化成 (宮城県栗原市) |
生分解ドアトリム | フラックス繊維強化リグニン樹脂FRP (フラックス繊維:亜麻の茎の繊維、リグニン樹脂:スギの木由来) |
柿原工業㈱ (広島県福山市) |
アウトドアハンドル フロントグリル |
樹脂2色成形(ABS+PC)後に装飾クロムめっき |
㈱ニフコ (神奈川県横須賀市) |
フラットシャッターカップホルダー | シャッターなど、曲がる部分へのフィルム加飾成形 |
生分解ドアトリム・フラックス繊維強化リグニン樹脂(宮城化成)
宮城化成は1987年創業の宮城県栗原市の繊維強化プラスチック(FRP)の製造販売メーカー。得意とするのは大型品で、トラックのエアディフレクターなど特装品を取り扱う。そのほか鉄道用、遊具用、建築用など多岐にわたっている。
展示品は木製素材を用いた航空機のコンセプトモデル。産業技術総合研究所が宮城県などの企業9社と協力して完成させた。宮城化成では主翼と尾翼のFRPを担当している。材質は生分解性で、天然の亜麻からとれるフラックス繊維とスギの木由来のリグニン樹脂からFRP成形している。自動車用途の展示品はドアトリムで、航空機主翼と同じフラックス繊維強化リグニン樹脂FRPで成形している。次世代モビリティの内外装への応用を今後の展望として見据えている。
展示品:エコ材料の航空機コンセプトモデル | 試作: 生分解ドアトリム |
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産業技術総合研究所の展示 主翼と尾翼:宮城化成製フラックス繊維強化リグニン樹脂製FRP |
フラックス繊維強化リグニン樹脂製FRP (フラックス繊維:亜麻の茎の繊維、リグニン樹脂:スギの木由来) |
展示パネル: 繊維強化リグニン樹脂材による自動車部材 | 展示パネル:フラックス繊維とは |
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樹脂はスギの木から抽出したリグニンを使用 | フラックス繊維とは亜麻の茎から取り出した100%天然由来の高強度繊維。ガラスやカーボン繊維の代替として検討している。 |
樹脂・加飾クロムめっき(柿原工業)
柿原工業は1962年創業の広島県福山市のプラスチック成形一貫工場。自動車向けが多く、75%を占めている。生産拠点はグループで5拠点(国内4、海外1)で国内は広島県福山市内に4工場あり、海外はタイに展開している。得意とするのは、金型製作から成形、表面処理、組み立てまでの一貫生産。
展示品はセンターコンソールのめっきトリム。2色成形部分めっき技術で製造されている。プラスチックへの装飾クロムめっきはABS以外の材料は強酸で化学エッジングしてもめっきが付きづらい。その点を逆手にとってABSとPCの2色成形を行い、ABS側にのみめっきをのせている。2部品が1部品になるのでコストダウンになるほか、びびり振動による低級ノイズ発生の心配がなくなるという2つのメリットがある。
量産:センターコンソール組み立て | 量産: 2色成形めっき ギアシフトトリム |
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展示パネル: 2色成形部分めっき技術 | 左:めっき前、右:めっき後 ABS樹脂とPC樹脂の2色成形を行った後、クロムめっきを施すと、難めっきPC材にはめっきがのらず、ABSのみにめっきがのる。 |
フラットシャッターカップホルダー(ニフコ)
ニフコは1967年創業の神奈川県横須賀市のエンジニアリングプラスチック製のファスナー部品メーカー。生産拠点は37拠点(国内4、海外33)、国内は神奈川県相模原市、山形県山形市、愛知県豊田市、熊本県山鹿市、海外は北米5、メキシコ、欧州6、韓国3、中国10、台湾、他アジア7拠点となっている。労働集約型の製品が多いため、多数の工場がある。
展示品はフラットシャッターカップホルダー。従来品は蛇腹形状だったが、埃がつまりやすいため、今回は蛇腹をなくし、柔軟な巻取りシャッター構造を考案した。さらに曲がる部位へのフィルム加飾技術を確立している。
量産:カップホルダー(フラットシャッター) | 量産:カップホルダー(蛇腹シャッター) |
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ホンダ「インスパイア」中国仕様 モデルチェンジ後 工法:被覆成形 展示パネル:フィルム加飾技術 |
ホンダ「インスパイア」中国仕様 モデルチェンジ前 |
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キーワード
ものづくり、樹脂成形、鋳造、ダイカスト、表面処理、めっき、プラスチック、ブレーキキャリパー、ファスナー、ギア、ドアトリム、コンソール、PAVCO、ユケン工業、日本表面化学、パーカー加工、ハードコート、宮城化成、柿原工業、ニフコ
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