【ものづくり】オートモーティブワールド2018:異種材料の接合、高機能プラスチックの展示
マルチマテリアル化への対応、EVや自動運転に対応する樹脂成形加工
2018/02/05
要約
オートモーティブ ワールド 2018 (会期:2018年1月17日~19日、会場:東京ビッグサイト)では、材料メーカー、加工メーカー、加工機械メーカー、部品メーカー、商社などがバラエティーに富んだ製品・技術を展示し、電動化や自動運転に関連する内容も多く見られた。
電動車が増えると、動力源に使用する二次電池の重量が大きいことなどから、軽量化に対する要請が益々高まってくる。また、電動化や自動運転が進むと電力を多く消費する部品が増え、省エネ対策としての軽量化も要求される。これらの需要に対応するため、低比重であるプラスチックや軽金属の採用が増加しており、最近では異種材料の接合によるマルチマテリアル化も軽量化対策の1つとして注目されている。今回の展示会には「クルマの軽量化技術展」において、異種材料接合・接着ゾーンが設けられ、プラスチックの加工性と金属の強度を合わせ持つ軽量化材料などが展示されていた。
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前稿で紹介したCFRP部品・プラスチック成形加工技術の展示に続いて、本稿でも安田ポリマーリサーチ研究所の安田武夫所長の協力を得て、異種材料の接合技術や、電動化、自動運転に対応するプラスチック、様々な用途の高機能性プラスチックなどの展示内容を紹介する。
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異種材料の接合:構造接着剤、樹脂/金属接合技術など
自動車の軽量化において、最近では異種材料の接合によるマルチマテリアル化がその対策の1つとして採用されている。特にプラスチックと金属の接合は、プラスチックの軽量性、加工性などの特長と金属の強度、熱伝導性などの特長を合わせ持つ部材の提供が可能になるとして注目されている。
今回の展示会では多くのメーカーが様々な接合・接着技術の展示を行っていた。その中から数点を取り上げ、最近の接合技術について紹介する。
構造接着剤
ダイセルエボニックは異種材接合によるフロントエンドモジュールをブース正面に展示していた。製品の特長は下記のとおり。
- 金属/樹脂から成る複合部品にPA系接着剤を使用することにより大幅な強度アップ
- 材料使用量を25%以上低減可能で軽量化ができる
- これまでの複合部品にありがちな反りの低減ができる
- 複合部品にありがちな収縮率の相違による接着力の低下という欠点を補える
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フロントエンドモジュール (ダイセルエボニック) 脱脂処理した金属(Alなど)に特殊な接着剤を塗装し、他の樹脂材料(GF強化PA6、PA66、PPA、PPなど)をオーバーモールドして作成する。 *GF: Glass fiber ガラス繊維、PA: Polyamide ポリアミド、PPA: Polyphthalamide ポリフタルアミド 架橋型共重合ナイロン VESTAMELT(資料) |
三菱Outlander PHEVの車体後部 (JFEスチール) 構造用接着剤の塗布位置設計手法「トポロジー最適化技術」を紹介。設計空間内で車体のスポット溶接およびアーク溶接、接着剤、ボルト締結などによる接合位置の最適化を行い、薄鋼板でできた車体の剛性向上や接着剤使用量の削減を図る。 展示パネル:トポロジー最適化技術 |
樹脂/金属接合技術
山下電気が紹介した樹脂/金属接合技術はダイセルポリマーのDLAMPを使用、成形時に自社のヒート&クールシステムを使用している。金属の表面にレーザー照射による特殊形状を形成し、これを金型内に配置して熱可塑性樹脂を射出成形(インサート成形)することで接合する技術。これにより、特殊形状内部に樹脂が入り込み、ステッチアンカーと呼ぶ樹脂部分を形成するため、金属と樹脂を高い強度で接合する。ステンレス、アルミニウム(Al)をはじめ、様々な金属部材に適用が可能。また金属に近い線膨張係数を持つ長繊維強化樹脂と組み合わせることで、より高い接合強度と、耐久性に優れた接合が可能となる。
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ダイセルポリマーのDLAMPを使用した接合技術 (山下電気) 樹脂/金属の接合技術について、アルミと各種樹脂の接合サンプルを紹介。引張せん断接着強さ、引張強さを示し、十分な接合強度を持つことを示している。 DLAMPの特長
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AMALPHA接合 (メック) リチウムイオン電池(LiB)の封口板と電極を一体化した成形品。金属はふたがAl、電極がAl・Cuで、樹脂はPPS。樹脂・金属の直接接合により、缶型LiBの薄型化・耐久性向上・部品点数削減・コストダウンを実現。 *PPS: Polyphenylenesulfide ポリフェニレンスルファイド AMALPHA(アマルファ)接合のしくみ
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異種材接合を使用する自動車部品
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ブレーキペダル (エフテック) 金属(Al)とヒート&クールCFRTP(PA)をプレス成形と射出成形による異種接合で製作したブレーキペダル。まだ正式に採用されていないが、強度試験等で良好な結果が得られたという。 *CFRTP: Carbon fiber reinforced thermo plastics 炭素繊維強化熱可塑性樹脂、PA: Polyamide ポリアミド 展示パネル |
軽量複合ビーム (浅野) アルミとCFRTPを接着剤工法で製作した複合ビーム。軽量化と強度向上が可能になる。 展示パネル |
エアダクト (東洋紡) PBTと耐熱性TPCを接着した成形品。この2つの材料は相溶性が良く、両方の良接着性を利用して接合した例。 *PBT: Polybutylene terephthalate ポリブチレンテレフタレート、TPC: Thermoplastic copolyester 熱可塑性ポリエステル |
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ホンダAccordのフロントサブフレーム (エフテック) 鉄とアルミの複合構造で高剛性と軽量化を両立。異種材料の接合技術、FSW (Friction-Stir Welding、摩擦撹拌接合) を採用。アルミ製のフレームは今後、EVの非接触給電システムなど磁界対応も期待されるという。 展示パネル |
電磁パルス加工技術 (IHI) 電磁力による成形、接合を紹介。材料を高速で衝突させて加工する技術。原子レベルでの接合となり、高い接合強度が得られる。 リアドアパネルの成形(画像) Magnetic Pulse Technology 成形 / 接合 展示パネル |
異種材料の接着 (EJOT) ファスニング技術を専門とするドイツメーカーで、摩擦溶接で複合材料を接合する技術を紹介。金属、CFRPほか、様々な厚みの材料や新しい材料の組み合わせに対応する。Audi TTのトノカバー(ラゲッジルームカバー)にこの接合技術が採用されている。 EJOT TSSD接合 / EJOWELD接合技術 |
EV対応のプラスチック成形品・材料
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リチウムイオン電池へ適用した変性PPE (旭化成) リチウムイオン電池(LiB)のフレーム、バスバー、スペーサーに変性PPEを採用。 *PPE: Polyphenyleneether ポリフェニレンエーテル |
EV関連デバイス部品への提案 (積水化学) ECU、電池パック、モーター&インバーター、DC-DCコンバーター、電池モジュールの各種部品に、どのような製品が使用可能かを提案している。 |
旭化成は、低比重・非ハロゲン難燃化変性PPEをコンパウンドし、難燃で優れた流動性を持つ、複雑な形状の製品が成形可能なグレードを開発した。この材料の特長は以下のとおり。
- 非ハロゲン系難燃剤を使用、射出成形UL94 V0を達成している
- 薄肉流動性に優れる
- 低比重で製品の軽量化に貢献する
HMIシステム、センシング用途などに対応するプラスチック
高機能プラスチック:小型・軽量化、高強度・高弾性、耐熱・放熱、機械特性など
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燃料チューブ (宇部興産) PA12、PA6、PA9Tなどの各種PA、EVOH、ETFE、PP、接着性樹脂を積層した各種チューブの様々な用途(燃料チューブ、冷却配管など)を紹介。積層チューブの材料の構成は使用環境・要求特性により異なる。 *PA: Polyamide ポリアミド、EVOH: Ethylene-vinylalcohol copolymer エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂、ETFE: Ethylene tetrafluoro ethylene エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、PP: Polypropylene ポリプロピレン PA12系材料を使用した各種チューブ(資料) |
パワースライドドアドライブユニット (三井金属アクト) ECU一体型、小型・軽量の電動スライドドア駆動ユニット。機構部品の高性能に加え、高度な制御で利便性と安全性を両立。機械特性、電気特性等のバランスに優れたPBTが使用されている。 サイドドアラッチ、スライドドア部品、トランクラッチなど、展示されていた高機能な機構部品の多くに、POM、PBTなどのエンプラが使用されている。 *PBT: Polybutylene terephthalate ポリブチレンテレフタレート、POM: Polyoxymethylene ポリアセタール (polyacetal) |
高摺動性&高強度PF製プーリ (住友ベークライト) 金属を代替したフェノール樹脂(PF)製プーリで、軽量化とともに耐摩耗性にも優れる。炭素繊維を主基材とする高強度・高弾性に加え、PFの不溶・不融の特性から高速下においても優れた摺動性を示す。主な特長は以下のとおり。 ・摺動面で摩擦熱による凝着が起こりにくい ・摩擦係数が低く、摺動性に優れる *PF: Polyfluorene ポリフルオレン |
多彩な自動車向けプラスチック材料・成形品:内装材・加飾など
オートモーティブ ワールド 2018では、上記で紹介した以外にも注目されるプラスチック関連の展示が非常に多く見られた。
- ソマールの各種エポキシ系絶縁樹脂、接着剤、高機能フィルムなど
- DNPの自動車向け曲面樹脂ガラス、加飾フィルムなど
- デンカの各種放熱材、放熱シート、自動車分野の応用例など
- 日立化成のケースモールディング用高耐熱封止材など
- 富士高分子工業の各種放熱材料、熱伝導性絶縁接着シートなど
- 三菱製紙のセルロース繊維配合複合材料
- 寺岡製作所の車載用高耐熱絶縁テープ、各種粘着テープと自動車分野への適用例など
- ケーヒンの電動車向けパワーコントロールユニット、空調ユニットなどに採用している樹脂材料など
- フルヤ工業のDSI成形品等のユニークな各種成形技術
- ミノグループなどの3次元加飾製品
- 中国、韓国企業によるプラスチック系各種自動車部品の展示
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放熱ソリューション (デンカ) 自動車向けの放熱材、放熱シートを紹介。 展示パネル 1 / 2 |
パワーコントロールユニット (ケーヒン) 耐熱性が良好なPPSが使用されていると思われる。 *PPS: Polyphenylenesulfide ポリフェニレンスルファイド |
ターボチャージャー インレットTジョイント (SEJI) SPE (Society of Plastics Engineers) イノベーション・アワードを受賞した韓国メーカーの樹脂成形品。 搭載モデル:現代 Genesis G70、起亜Stinger 展示パネル |
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キーワード
軽量化、マルチマテリアル、異種材、樹脂、プラスチック、接合、接着、成形加工
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