【ものづくり】オートモーティブワールド2018:CFRP部品・プラスチック成形加工技術の展示

軽量化を推進するCFRP成形品やユニークな樹脂加工技術を紹介

2018/01/29

要約

  アジア最大級のクルマの先端技術展、オートモーティブ ワールド2018*は1,063社が出展し、2018年1月17日~19日に東京国際展示場で開催された。同時開催の他の展示会を含めて、会期中の来場者数は約114,380名となり、大盛況裡に閉会した。
  *第10回 [国際]カーエレクトロニクス技術展、第9回 EV・HEV駆動システム技術展、第8回 クルマの軽量化技術展、第6回 コネクテッド・カーEXPO、第4回 自動車部品&加工EXPO、第1回 自動運転EXPO の各展示会が含まれる。

  今回の展示会では「クルマの軽量化技術展」をはじめ、他の技術展においても自動車向けプラスチック関連の多彩な展示内容が見ることができた。

 

クルマの軽量化技術展 CFRP共催ブース
クルマの軽量化技術展 CFRP共催ブース

 

  本稿では安田ポリマーリサーチ研究所の安田武夫所長の協力を得て、自動車用途での採用が拡大している炭素繊維強化樹脂(CFR(T)P*)関連の展示内容や、注目されるプラスチック成形加工技術を紹介する。続報では、様々な接合技術や、材料・部品メーカーの主な展示内容を取り上げる。
 *CFR(T)P: Carbon fiber reinforced (thermo) plastics 炭素繊維強化(熱可塑性)樹脂

 

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CFRP技術展示の多様化:ハイブリッド成形、ヒート&クール成形、CFRTPシート加工など

  今年のオートモーティブワールドでは、特に「クルマの軽量化技術展」において、CFR(T)P関連の展示が数多く見られた。その中から注目すべき展示内容を紹介する。
 *CFRTP: Carbon fiber reinforced thermo plastics 炭素繊維強化熱可塑性樹脂

 

CFRTPハイブリッド成形品 (サンワトレーディング)

  連続繊維熱可塑材料のTEPEX(PA系)と長繊維強化PAのハイブリッド成形で得られた高強度・高剛性のブレーキペダル成形品。
 *PA: Polyamide ポリアミド

  ブレーキペダルは重要保安部品であり、これまで樹脂化が非常に困難な部品の1つであったが、この技術により、2014年に初めて製品化に成功したのこと。今回展示された成形品は製品化の第2弾で、Porscheに搭載されている。その後さらに採用が進んでいるという。

  同社ブースには、ホンダのFCVに搭載されたリアバンパービームなども展示されていた。なお、ブレーキレバーについては続報レポートで紹介する。

CFRTP製ブレーキペダル
CFRTP製ブレーキペダル

 

CFRTPヒート&クール成形 (浅野)

  CFRTP製のシフトレバーは、ヒート&クール金型による型内同時成形により、高付加価値化を実現した製品。

  同社はCFRTPの優れた成形技術などを開発、自動車分野への適用を図っている。

  • CFRTPのハイブリッド成形技術 (プレス成形技術 + 射出成形技術 + 金型設計技術を融合)
  • CFRTP + 金属の一体成形技術
  • CFRTPの高強度・低コスト接合技術 など
CFRTP製シフトレバー
CFRTP製シフトレバー

 

CFRTPシート成形品 (ラピート)

  東洋紡のQuickForm(ランダムシート)で成形したCFRTP製タイヤホイール。このシートは連続強化繊維に東洋紡独自の方法で熱可塑性樹脂を含浸した高機能熱可塑性樹脂のスタンパブルシート。極めて優れた耐衝撃性、高強度・高弾性、高流動が特長。成形品の形状に応じて最適な強化形態、成形法の選択が可能。 CFRTP製タイヤホイール
CFRTP製タイヤホイール

 

CFRP+SunForce複合コンポジット (旭化成)

  CFRP単体では成形品の厚みを増しにくいという課題を克服するため、変性PPEの発泡体SunForceをCFRPのコア材として使用し、更なる軽量化と高剛性を両立した(CFRP単体より25%軽量化)。
 *PPE: Polyphenyleneether ポリフェニレンエーテル


製品の特長:

  • 優れた難燃性(非ハロゲン難燃UL94 V0)、軽量性、設計の自由度、寸法精度、断熱性
  • 高温剛性・強度・設計自由度はCFRPコア材に適し、複合した素材は金属やCFRP単体と比較して軽量化が可能
CFRP+SunForce複合コンポジット
CFRP+SunForce複合コンポジット

  同様の複合コンポジット製品として、積水化成品が高機能性発泡体をコア材とした軽量・高強度なCFRP複合発泡成形体(ST-LAYER)の成形品を展示していた。

 

CFRP関連素材・成形加工の展示

 CFRP関連の展示には他にも様々な素材や成形加工システムなどが紹介されていた。

CFRP成形加工
  • CFR(T)P成形システムなど (IHI物流産業システム)
  • C(G)FRTP ハイブリッド成形システム (佐藤鉄工所)
  • CFRP成形活用可能な金型誘導加熱システム (ロックツール)

 *C(G)FRTP: Carbon (glass) fiber reinforced thermo plastics 炭素(ガラス)繊維強化熱可塑性樹脂

CFRP関連素材
  • CFRP用熱硬化性樹脂CBZ (日本ユピカ)
  • 長繊維強化C(G)FRTP (中央化成品)
  • PAマトリックスのCFRTPシート (宇部興産)
  • PEEKマトリックスのCF強化UDテープ (ダイセルエボニック)
  • CFRP用熱硬化性樹脂の靱性改良材のコアシェルゴム(カネエースMX) (カネカ)

 *PA: Polyamide ポリアミド
  PEEK: Polyetheretherketone ポリエーテルエーテルケトン


  佐藤鉄工所の複合材ハイブリッド成形は、ホンダClarity Fuel Cellのリアバンパービーム(右画像)に採用されている。
 展示パネル: ハイブリッド成形 / システムエンジニアリング

  同社では自動車の電動化に伴って軽量化ニーズが高まり、CFRPの車載用途が拡大すると見ているが、未だ急速に採用が増える動きは見られず、今後の進展に期待しているという。

リアバンパービーム
リアバンパービーム
複合材ハイブリッド成形品



CFRP関連企業の共催ブース:複合材、熱可塑性樹脂など

  NCC次世代複合材料研究会(*1)とコンポジットハイウェイコンソーシアム(*2)による共催ブースには、CFRP関連企業が約20社出展し、新たな材料や工法等を展示していた。

(*1) 複合材料に関する有志の企業、研究機関等を対象とした研究会
(*2) 東海北陸地域のCFR(T)Pの研究開発・人材育成等を目的とした各種研究機関による組織


  CFRP共催ブースの中で注目された展示をいくつか紹介する。

CFRP共催ブース
CFRP共催ブース

 

熱可塑性ランダムシートFlexcarbon (サンコロナ小田)

  熱可塑性ランダムシートFlexcarbonは、量産可能なプレス成形用CFRTPプリプレグシート。CFを極薄に開繊し、熱可塑性エポキシ樹脂を完全含浸させた薄肉テープ片の散布・積層を装置化した。等方性でボイドレスな高品質シートでありながら、生産効率が高い。
  *CF: Carbon fiber 炭素繊維

  自動車やスポーツ・産業分野での製品化に取り組んでいる。

熱可塑性ランダムシートFlexcarbonと成形品
熱可塑性ランダムシートFlexcarbonと成形品
展示パネル

 

コミングルヤーンDUALON (カジレーネ)

  コミングルヤーンDUALONは、熱可塑CFRP(CFRTP)のためのプリプレグヤーン(炭素繊維:PAN系、樹脂繊維:芳香族PA)に相当する繊維。
 *PAN: polyacrylonitrile ポリアクリロニトリル
  PA: Polyamide ポリアミド

 DUALONの特徴:
・高い含浸特性とテキスタイル加工性を実現
・任意の炭素繊維含有率に作成可能
・任意の樹脂繊維をマトリックスとして使用可能
・炭素繊維の繊度も特に選ばない
・炭素繊維と樹脂繊維の高次元での分散によってCFRTPの高サイクル成形を実現

コミングルヤーンDUALON
コミングルヤーンDUALON

 

TAM成形法 (キャップ)

  TAM (Thermo Assisted Molding)成形法は、キャップが独自に開発した金型のヒート&クール成形技術。

  金型の温度を樹脂の融点よりも高い最高400℃にするのが特徴。短時間で金型温度を上下できるため、金型で素材を賦形*するだけでなく、炭素繊維に樹脂を含浸させる工程も同時に行うことができる。高価な熱可塑性プリプレグが不要になり、材料コストを大幅に引き下げられる。
 *賦形(ふけい):素材を削らずに変形させて製品を成形する方法。


  キャップは、熱可塑性樹脂と炭素繊維織布のホットスタンピング成形、連続繊維CFRPと長繊維強化熱可塑性樹脂とのハイブリッド成形も行い、各種CFRTP製自動車部品も展示していた。

TAM成形品
TAM成形品

 

CF強化熱可塑性樹脂シートCF-SS (一村産業)

  CF-SS (Carbon Fiber Stampable Sheet)は、マトリックス樹脂にPMMA、PA6、PA12、PCなどを使用し、各種CFを補強した熱可塑性樹脂で、分単位の高速プレス成形が可能。
 *PMMA: Polymethyl methacrylate ポリメチルメタアクリレート
  PA: Polyamide ポリアミド
  PC: Polycarbonate ポリカーボネート
  CF: Carbon fiber 炭素繊維

 成形法としては、スタンパブル成形、ヒート&クール成形、インサート成形が可能で、自動車の内装、外板等の用途に使用されている。

CF-SS成形品
CF-SS成形品
展示パネル

 

  上記以外にも様々なCFR(T)P関連製品・技術が共催ブース内に展示されていた。

  • 熱可塑性CFRPのロールフォーミングにより成形した長尺部品 (大同工業)
  • CFRTPシートの予備加熱に適した赤外線ヒータ&温調システム (浅野研究所)
  • 炭素繊維シート (日本グラスファイバー工業)
  • 連続炭素繊維フィラメントによる3Dプリントで製作した造形品 (フドーテクノ)
  • CFRP高速量産技術 (タツミ化成)
  • TFP (Tailored fiber placement)工法によるCFR(T)Pの成形品 (タジマ工業)

 



ユニークなプラスチック成形加工技術:サクションブロー成形、ホットメルトモールディングなど

  ブロー成形で最もポピュラーな自動車向け製品は燃料タンクであり、多層のダイレクトブロー成形が採用されている。最近では、各種耐熱ダクト、EGRパイプなどの金属代替製品向けに、サクションブロー、3次元ブロー、エクスチェンジブローなどのブロー成形技術が採用されている。これら用途の多くは耐熱性が要求されることから、エンジニアリングプラスチック系材料が使用されている。

 

サクションブロー成形(アルテック)

  サクションブロー成形は、2次元ブローや射出成形といった従来の成形法では対応できなかった「長く、複雑な形状のダクト」をワンプロセスで成形可能な成形法である。


  サクションブロー成形法のメリット:

  • バリが発生しない
  • 製品に溶着部分が発生しないため耐圧強度が高い
  • 長尺物の成形が可能
  • サイクルタイムが短い
  • 外観が良い
  • 肉厚を均一にできる(パリソン肉厚制御機構)
樹脂製ダクト
樹脂製ダクト
展示パネル: サクションブロー成形機

  自動車の軽量化、エンジンの小型化などに伴う車載部品の樹脂化への対応・開発が進む中、サクションブロー成形は自動車用ダクト成形分野において革新を起こすとされている。

 

サクションブロー成形法

サクションブロー成形法
(出典:伊藤忠システック資料より引用)

① 押出機でアキュムレーターに樹脂を充填し、パリソン*を成形する。
② パリソン*が金型上部に入り、反対出口からエア吸引を行う(サクション工程)ことで、パリソン*が金型内の形状に沿うようにして金型下部まで届く。
③ その後膨らます(ブロー工程)ことでダクトを成形する。
 *ブロー成形をする際は、まずペレット状のプラスチック原料をブロー成形機にて溶かしてパイプ状にする。これを通称パリソンと呼ぶ。

 

3次元イクスチェンジブロー成形 (東洋紡)

  3次元形状で材料(高耐熱TPCとPBT)を置換しながらブロー成形したエンジンルーム内の耐熱エアダクト。

  軟質のTPCと硬質のPBTを置換しながら成形し、高耐熱で柔軟性を持つ複雑な性質を兼ね備えたダクトが得られる。PBTとTPCは相溶性が良好なため、両材料の組成を変えながら成形ができる。
 *TPC: Thermoplastic copolyester 熱可塑性ポリエステル
  PBT: Polybutylene terephthalate ポリブチレンテレフタレート

耐熱エアダクト
耐熱エアダクト

 

USS工法による連続プレス成形 (ユニプレス)

  発泡成形材を用いて、軽さに加え、空力、耐熱、吸音の複合性能を備えた世界最軽量のPP製フロアアンダーカバー。
 *PP: Polypropylene ポリプロピレン

  ユニプレスが独自に考案したUSS工法は、材料を溶かしてシート状に伸ばし、連続プレス成形を行う一貫生産システム。射出成形の2~3倍速のスピードで成形でき、大型製品を薄肉、軽量、低コストで生産できる。トリミングして残った断片は工程内リサイクルが可能。
 *USS: UNIPRES sheet stamping

PP製フロアーアンダーカバー
PP製フロアアンダーカバー

 

ホットメルトモールディング(HMM) (松本加工)

  ホットメルトモールディング(HMM)は熱可塑性接着剤を電子部品に直接射出成形する成形法で、優れた封止性能を発揮する。自動車用途においては比較的新しい成形法といえる。

  使用される材料は、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系のホットメルト接着剤である。右画像のオートマチックトランスミッション部品にはポリアミド系接着剤を使用。

AT部品にHMM成形を採用
AT部品にHMM成形を採用
展示パネル: 自動車部品における採用事例

 

HMMの特長:

① 成形部にケース、ハウジングなどの筐体機能を持たせるため、ポッティングで必要なケースが省略でき、部品点数、生産工程数の削減が可能
② インサート成形する部品に沿った形状で成形するため、使用する樹脂量の削減、小型化、軽量化が可能
③ ポッティング法*に比べ、化学反応が無く、即固化するため、加工時間の大幅な短縮が可能
 *2液熱硬化型ポッティング剤を注入する工法
④ 低圧、低温で成形可能なため、デリケートな電子部品(センサー、スイッチ、プリント基板など)にダメージを与えることなくインサート成形が可能

 

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キーワード

軽量化、樹脂、プラスチック、CFRP、CFRTP、炭素繊維、高剛性、熱可塑性、成形加工、ハイブリッド成形、ブロー成形

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