自動運転の2つのトレンド:レベル3の高速道路型とレベル4の生活道路型

Autonomous Vehicle & ADAS Japan 2017から

2017/07/07

要約

高速道路型と生活道路型の自動運転が拡大する
高速道路型と生活道路型の自動運転が近く実現する

 2017年5月に、”Autonomous Vehicle & ADAS Japan 2017”が東京で開催された。本レポートは、同講演会での、インテル 政策・事業開発ディレクター兼名古屋大学客員准教授 野辺 継男氏による「自動運転車の将来の大変革を巻き起こす2大海外動向」と題した講演の概要を報告する。

 野辺氏によると、今後の自動運転の進展については、二つの大きな動向がある。まず2020年頃に、高速道路でのレベル3の自動運転が導入されるが、これは①既存自動車産業による、ADAS延長線上での継続的イノベーションの成果である。

 一方、生活道路型(郊外型)レベル4の自動運転に必要な技術がここ2~3年で急速に進展して、同じ2020年頃に導入される見込み。ここにはラストワンマイル需要への対応や、ライドシェアやカーシェアが含まれる。高速道路走行に比べはるかに多様な障害物への対応が必要になるが、ディープラーニングの進化により、AIが車の走り方を指令して走行することが可能になりつつある。また3次元地図も限定された地域について作成するので投資額が小さくて済む。これは上記①とは異なり、②Web系企業による破壊的なイノベーションをもたらすものである、と野辺氏は強調している。

 将来、自動車業界のモノづくり産業のピラミッド構造とデータドリブン産業のピラミッド構造が合体すると予測されるが、そのときにはサービス・プロバイダーやIT技術を提供する企業がOEMの上にくることもありうるとされる。欧米のOEMは、自らがサービス・プロバイダーになろうとする動きを加速させている。

関連レポート:
米国NHTSA:自動運転車へのガイダンスを発表(2016年11月)
Ford:2021年にドライバーレス車を量産し、ライドシェアリングに投入(2016年12月)



NHTSAの”Federal Automated Vehicle Policy”:自動運転車の生産・販売に道筋

 講演の初めに、野辺氏は、NHTSAが2016年9月に発表した”Federal Automated Vehicle Policy”を理解することの重要性を強調した。米国の担当官庁であるだけでなく、世界の自動運転の状況を十分把握したガイダンスになっている。特に二つの点に注目すべきだとしている。

 一つ目は、生産・販売にも触れていることで、NHTSAが2013年5月に発表した”Preliminary Statement of Policy Concerning Automated Vehicles”では、公道での走行テストまでしか触れていなかった。今回は、FMVSS(Federal Motor Vehicle Safety Standards)に適合すれば、コンピューターが運転する車を生産・販売することができると明確にした。しかし、自動運転車は現行FMVSSにそのままでは適合しないので、自動運転車の生産・販売を計画する自動車メーカーは、NHTSAにFMVSS条文の解釈の変更または除外等を申請(petition)し、NHTSAの承認を得なければならない。

 NHTSAは、同ガイダンスを毎年改定すると発表している。



NHTSAのレベル3の定義の変化

 同ガイダンスで注目すべき二つ目の項目は、自動運転の状態とドライバーの運転が共存するレベル3の定義を変更したことである。

 2013年5月の”Preliminary Statement”では、レベル3では「自動運転モードが機能限界になった場合にのみ、システムは十分余裕をもって運転をドライバーに戻す」としていた。しかし、2016年9月のガイダンスでは、主語がシステムからドライバーに変わり、「ドライバーは自動システムの要求があれば、運転に戻る用意がなければならない」と変わった。

 また、同ガイダンスでは、レベル3自動運転車の緊急時の対応について、「ドライバーが法規の要求に反して注意散漫になっている可能性も考慮しなければならない。また、ドライバーが車のコントロールを取り戻す過程、またはその後に引き起こす状況認識や意思決定でのエラーを、最小化するよう配慮しなければならない。」としている。

 結局、レベル3の自動運転では、運転と周囲の監視をシステムに委ねることができるが、ドライバーは完全にリラックスできる訳ではなく、すぐに運転に戻れる範囲で休息してよいということになる。



レベル3の自動運転への取組みは、OEMにより分かれる

 レベル3の自動運転に関する方針は、自動車メーカーにより分かれている。FordやVolvoは、レベル3を省略してレベル4~5に進むとしている。

  • Fordは、ドライバーは一旦自動システムに運転を委ねると、その後も注意力を維持することは困難だとして、レベル3を省略し、2021年にペダルもステアリングホイールも持たないレベル4の自動運転車を開発し、ライドシェアリングに投入する方針。
  • Volvoも、レベル3では安全性が保てないとの考え方。しかし完全自動運転(レベル4~5)では、自動運転が適正に使用されている限り製造者として全責任を持つと発表している。

 一方、Audi、BMW、Daimlerや日本のトヨタ、ホンダは、レベル3の自動運転を計画している。

  • Audiは、2017年7月に発表する新型A8の欧州仕様車に、”Traffic Jam Control”を搭載する。これは、高速道路で一定の条件を満たした場合、60km/h以下の渋滞時に、ドライバーが監視義務のない同一車線内の自動運転を行う。世界初のレベル3の自動運転車となるが、60km/h以下、同一車線内と慎重な設定にしている。またドイツ国内の交通法規の整備に時間がかかっており、A8発売時にはレベル3の自動運転車は投入されないとも報道されている。
  • トヨタは、人とクルマの協調・信頼関係を築いてレベル3の自動運転を実現し、その上でレベル4の完全自動運転を目指すとしている。
  • ホンダは、2017年6月に、「2020年にも、高速道路で、自動レーンチェンジを含み渋滞時にドライバーが周辺監視を行う必要の無い自動運転システムを導入する」と発表した。レベル3を目指すものと思われる。


生活道路型レベル4の自動運転に必要な技術が急速に進展

 NHTSAは先のガイダンスにおいて、レベル3~5の自動運転車をHighly Automated Vehicle (HAV)と呼び、HAVを生産・販売しようとする自動車メーカーに、HAVが機能する範囲を、”Operational Design Domain (ODD)”として明示するよう求めている(具体的には、1)地理的な条件、2)道路のタイプ、3)車速、4)昼夜、5)天候、など)。

 野辺氏は、ODDの考え方を応用して、下記の左図を提示した。X軸に車速、Y軸に周囲拘束条件の予測困難性(自動運転の困難性)をとった。2020年頃に、各社が高速道路でのレベル3の自動運転車を投入する。

 一方、生活道路型(郊外型)でのレベル4の自動運転については、2014年頃までは、必要な技術が整うのはまだまだ先のことと思われていた(Googleだけは早くからこの分野に注力していた)。しかしここ2~3年の間に必要な技術が急速に進展した。欧米メーカーは、特に2016年5月にTesla MotorsのModel Sで発生した死亡事故の後、レベル3よりも生活道路型レベル4の開発に集中しているように見える。(注)事故を起こしたTesla MotorsのModel Sはレベル2だが、ドライバーが自動運転システムを過信すると問題が起こり得るという構造は、レベル2と3に共通する。

 下右図は、「生活道路型(郊外型)レベル4」自動運転の典型的なイメージの一つを示す。太線は鉄道網で、鉄道の各駅(赤い丸)から自宅までをドライバーレス・タクシー/マイクロバスで結ぶ(いわゆるラストワンマイルの交通手段)。通勤客だけでなく、交通弱者への対応、カーシェア・ライドシェアへの利用など市場ニーズが先行している。

 NHTSAも先のガイダンスにおいて、自動運転はパーソナルモビリティの在り方を変え、自動運転車のカーシェアやライドシェアは、経済的に車を持てない人や高齢者など交通弱者に便益をもたらすことが期待できるので、普及させたいとしている。

 「郊外型レベル4」では、対象とする地域が限定されるので、3次元地図の作成の範囲も狭くなり、初期投資も小さくて済む。車速も最高時速を40km/hなどに抑えることが可能になり発生するリスクを軽減できる。

 なお、高速道路での自動運転は、これまでOEMが構築してきたADAS技術の延長線上に実現を目指している、①継続的なイノベーションの努力になる。一方、生活道路型(郊外型)の自動運転では、はるかに多様な障害物(歩行者、自転車、バイク他)に対応することが求められるが、三次元地図とディープラーニングにより進化したAIの指令によって走行することの実現性が見えてきている。①とは異質の、Web系企業による②破壊的イノベーションをもたらすと野辺氏は強調している。



自動運転を拘束条件と速度、道路種別で分類 郊外型レベル4-5のイメージ
高速道路型と生活道路型は2020年頃に導入され、
主要幹線道路型導入は2025年以降となる見込み
鉄道の駅(写真の赤丸)からラストワンマイルの便益を提供するイメージ


生活道路型レベル4の展開例:nuTonomyとDeNA

<nuTonomy>

 自動運転のソフトウエア開発企業であるnuTonomyは、MITの研究者により2013年に米国で設立された。2016年8月に、シンガポールにおいて担当官庁と共同で自動運転タクシーの公道走行実験を開始した。シンガポールにおいて、2018年に商業ベースでの自動運転車提供を開始する計画。

 nuTonomyは、シンガポールに加えて、米ミシガン州、英国でも自動運転車の走行実験を開始。2016年11月には、マサチューセッツ州ボストンの公道において自動運転車の走行実験を開始した。

 2017年5月には、PSAと提携した。Peugeot 3008にnuTonomyの自動運転ソフトウエアを搭載し、同年9月からシンガポールで公道での走行実験を開始する。両社は、世界中の都市に、自動運転技術を搭載するPeugeot車を走行させることを目指す。

 また、2017年6月に、ライドシェア大手のLyftと提携した。米ボストンにおいて、自動運転車により顧客の最終目的地まで到達するための方途を共同で開発する。

nuTonomyの自動運転車(車両はRenaultのEV Zoeベース車)
nuTonomyの自動運転車(車両はRenaultのEV Zoeベース車)



<DeNA>

 日本では、DeNAが2016年8月に、千葉市においてイオンモール(株)と共同で、フランスのEasyMile社が開発した12人乗りEV自動運転ミニバス「EZ10」(Robot Shuttleと呼ぶ)の運用を開始した(現在公道は走行できないので、千葉市所有の敷地内を走行する)。ステアリングホイールの無い完全自動運転車で、最高時速は40km/hだが安全性確保のため、10~20km/hで走行する。

 DeNAは、同様のプロジェクトを、秋田県仙北市の田沢湖畔、九州大学伊都キャンパスにおいても実施。2017年4月27~28日に、横浜市の金沢動物園で試乗イベントを行った。

 日産はDeNAと組んで、無人運転車の開発を目的とした実証実験を開始する。その第一フェーズとして、2017年内に日本の国家戦略特区にて無人運転技術の開発に集中的に取組む。2020年までにそのスコープを拡大して、首都圏においてモビリティ・サービスでの技術活用を含んだ実証実験を行うと発表した(2017年1月米CESで発表)。

Denaが運用するフランスのEasyMile社製自動運転ミニバスRobot Shuttle
DeNAが運用するフランスのEasyMile社製自動運転ミニバスRobot Shuttle


ディープラーニング活用の進展

 例えば、右の写真のような道路を通過するプログラムを従来型のアルゴリズムで組もうとすると、「直近の信号を確認し、赤なら止まる判断→停止線を探す、緑なら、云々」と場合分けしながら複雑な構造をつくることになり難しい。しかし、三次元地図と連動し、またディープラーニングで進化したAIを利用することにより、「どのように走ればいいのか」をコンピューターが自分で判断し走行することが可能になってきた。

 自動運転は、AIがクルマを運転することで実現されるという認識が拡大してきた。またそのソフトウエアは、クルマの発売後もOTA(over-the-air)でアップデートされ、クルマの機能が更新される。データセンター上でのディープラーニングによる3Dオブジェクト認識学習(例えば10m先に車がある場合、システムに、人間と同じように立体的に認識させるAIの技術)、走行アルゴリズム生成、最適配車システム等の開発が成功の鍵になる。

人間はどの様に環境を認識し運転しているのか
進化したAIと三次元地図により、こうした道路での自動運転が可能になる


Web Service企業が業界の頂点に立つ可能性

 野辺氏によると、今後の自動運転の発展の鍵は、クルマがどう走るかを指令するソフトウエアの開発にある。今後、自動車産業において、モノづくり産業のピラミッド構造とデータドリブン産業のピラミッド構造が合体していくと思われる。合体した自動車産業では、必要なモビリティをいかにタイムリーに提供していくかの競争になるので、ライドシェアなどを提供するサービス・プロバイダーや自動運転技術を提供する企業が、モノづくり産業の頂点にいるOEMに替わり上位にくる可能性があるとしている。

 欧米の自動車メーカーの間では、自らがサービス・プロバイダーになろうとする動きが相次いでいる。

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キーワード

自動運転、レベル3、レベル4、NHTSA、ADAS、高速道路型、生活道路型

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