モビリティの進歩がもたらす自動車産業の変化:TU-Automotive Detroit 2016より

若者のモビリティに対する考え方と、カーシェアリング会社 Zipcar/パナソニック/Fordの考える世界

2016/07/14

要約

TU-Automotive Detroit 2016 exhibition floor
TU-Automotive Detroit 2016 の展示会場

 TU-Automotive Detroit 2016カンファレンスは、2016年6月8日・6月9日に米国ミシガン州Noviで開催された。今年の展示会のテーマは、「Collaborate to put Auto in the IoT (Internet of Things) Driving Seat(自動車を走るIoT (モノのインターネット) にするための連携)」である。

 IoTを推進するためには、モノ/サービス/ヒトが移動できるモビリティが必須となってくる。そして、走行する車両が増えるにつれて起きる、混雑や交差点での交通渋滞のような問題を回避するためには、モビリティの改善も不可欠となってくる。

 本レポートでは、TU-Automotive Detroitで行われたモビリティに関連するプレゼンテーションを中心に取り上げる。アメリカのミレニアル世代(1980年代、1990年代生まれの世代)のモビリティに関する考え方、サービスとしてのモビリティ、モビリティをビジネスモデルと技術の両面での活用した企業の事例(Zipcarとパナソニック)、モビリティ動向の変化に対するFordの対応を、お伝えする。

 本レポートは、TU-Automotive Detroit 2016の討論セッションについて報告する3本のレポートの第2弾である。前回のレポートでは、自動運転車の開発に関する展望および技術を中心に取り上げた。3本目のレポートは車両のコネクティビティおよびユーザー体験に焦点を当てる。このレポートは近日公開予定。

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モビリティ環境の進化:ミレニアル世代の考え方と、サービスとしてのモビリティ

モビリティの将来に対するミレニアル世代の考え方

セッション: ミレニアル世代とモビリティの将来
企業名 講演者 役職名
Strategy Analytics Chris Schreiner Director – UX Innovation Practice
Sam Schwartz Transportation Consultants Sam Schwartz President, CEO

ミレニアル世代のフォーカス・グループに関する背景情報出典: ストラテジー・アナリティックス
グループインタビューに参加したミレニアル世代に関する背景情報
出典: ストラテジー・アナリティックス

 本プレゼンテーションで、Chris Schreiner氏とSam Schwartz氏は、モビリティおよび交通機関に関して、シアトル市内のミレニアム世代(1980年代から1990年代生まれの世代)のグループインタビューから示された、様々な意見について論じた。

 このグループインタビューに共通するテーマは、クルマを所有しないというものであった。特に、参加者の1人は、クルマを持っていると、駐車場所を見つけて、駐車場所から離れた職場まで歩かなければならず、しかもその距離が1マイルにも及ぶことが度々あるという「面倒さ」から、クルマの代わりにスクーターを買ったと説明している。Sam Schwartz氏は自身の研究で、ミレニアル世代がこのような「面倒さ」に遭遇したときに、それを避けようとすることは珍しくないと述べている。

 このことは、車両走行距離(VMT)にも現れている。1900年代では、一般的にVMTは年々増加すると思われていた。しかし、VMTは2003年から2014年にかけて、10年連続で減少。この減少の理由は、ミレニアル世代の走行距離が20~25%も少ないためで、これは他の世代と比較しても劇的な変化であった。

 その一方で、日々の通勤とは対照的な、より長い移動を取り上げた場合、今回の参加者達は鉄道やバスなどの他の移動手段ではなく、クルマを利用している。この理由は、他の移動手段と比較して、クルマは安く時間もかからないことにある。この傾向は、米国の公共輸送機関がモビリティの問題の解決するほど盤石ではないという問題点を例証している。Sam Schwartz氏は、ロサンゼルス市が路面電車などの公共交通機関を廃止する一方で、幹線通路やハイウェーを延長することによって、クルマ都市に変貌した例を挙げた。それにもかかわらず、同市内のモビリティ(交通量)は増加しなかった。そのため、ロサンゼルス市は公共交通機関がモビリティを提供することにおいて重要な要素であることを市民に説明して、公共交通システムに再投資した。

 また参加者達は、自動運転車の概念について尋ねられると、目的地までお雇い運転手が運転してくれるタクシーに例えて、その概念に興味を示している。このことは自動運転車がミレニアム世代に概ね好意的に受け止められていることを示している。しかし、Sam Schwartz氏は自動運転車によって混雑が助長され、モビリティ(移動しやすさ)が減少するという問題を提起した。同氏は、自動運転車によって、高齢者や障がい者のような通常では自動車を利用しない人々も、個人的に車両を利用できるようになることを示唆。このため、道路上の車両が増加する可能性があり、他の何らかの要因が変化しなければ、道路を使った移動しやすさが減少してしまう。これはモビリティにおける公共交通システムの重要性を改めて示すものである。

 

サービスとしてモビリティの概念

セッション: サービスとしてのアーバンモビリティ
企業名 講演者 役職名
ABI Research Moderator: Dominique Bonte Managing Director & Vice President, B2B
University of Michigan Susan Zielinski Managing Director – SMART
INRIX Nathan Potance Vice President, Business Development
Covisint Tim Evavold Executive Director, Automotive

 「サービスとしてのアーバンモビリティ」と題したセッションでは、パネリストがサービスとしてのモビリティ(MaaS; Mobility as a Service)の概念について討議した。このMaaSについては、フランスボルドーで2015年に開催されたITS 世界会議でも激しい議論が交わされた。ミシガン大学のSusan Zielinski氏は、MaaSについて、現在の個人所有の輸送形態から、カーシェアリング、ライドシェアリングおよび公共交通システムを通して多様な異なるノードを接続する顧客中心の形態へ移行するものであると述べた。MaaSは輸送手段をより有効に活用できるうえに、既存の仕組みを使って構築できると期待されている。(交通データを取り扱う)INRIX社のNathan Potance氏はMaaSについて、消費者へ車両を販売し/移動を可能にするという従来のシステムから、幅広い選択肢を持ったマルチモーダル交通輸送システムへの進化であると述べている。MaaSが発展するにつれて、より多くの輸送手段がこのシステムに統合されるであろうとしている。

 また、MaaSは人間向けのシステムと考えられることが多いが、他にも応用できる可能性がある。Nathan Potance氏は商品輸送の例としてウォルマートを紹介した。その理由は同社の成功が配送システムおよび車両追跡に基礎があるからであり、MaaSが利用する情報の収集および集約における小規模の応用である。Covisint社のTim Evavold氏は車両のディーラーなどへの配車の例と可視化の必要性について言及した。例えば、車両を貨物ターミナルに送る際に、その個々の車両の目的地と経由する路線を詳しく示した通知を送ることができる。Susan Zielinski氏はまた、MaaSをスマートシティのインフラに統合するための設備の整備が進めば、スマートシティでMaaSが普及すると説明している。スマートシティでは、MaaSは、短距離をより効率的に移動することによって、より多くのアクセシビリティの機会が生まれる。この事象の例として、都市における農業が挙げられ、農業ではMaaSを都市内の輸送食品に活用できる。

 パネリストはまた、MaaSをより利用しやすく、アクセスしやすくするために何が必要かについても意見を述べた。Susan Zielinski氏は、データを公開すること、MaaSの枠組みとアーキテクチャへの投資を増やすこと、厳密に行政主導でもビジネス主導でもない柔軟な管理構造を備えること、MaaSを地域の具体的なニーズと強みに合わせることなど、多数の提案を行った。Tim Evavold氏はMaaSのパラダイムに焦点を当てて、MaaSはもっと人とユーザーに焦点を当てる必要があると述べている。MaaSでは所有の役割が小さくなり、共有の役割が増えるため、今までは車両という資産と個人を結び付けていたのに対して、今後は利用状況とデータを個人に結びつける必要がある。Nathan Potance氏もまた、MaaSから生成されたデータを管理する組織がどのセクターを基盤とするか不明確だが、このような組織が必要になる可能性があると指摘している。



モビリティの使用と応用:カーシェアリング Zipcarとパナソニックの例

Zipcar:モビリティ推進の使用事例として

セッション: 未来の自動モビリティに向けたジッピング
企業名 講演者 役職名
Zipcar Kaye Ceille President

ボストンにおけるZipcarの普及出典: Zipcar
ボストンにおけるZipcarの普及
出典: Zipcar
Zipcar活用のメリットを詳細に示すインフォグラフィック出典: Zipcar
Zipcar活用のメリットを詳細に示すインフォグラフィック
出典: Zipcar

 「オートモビリティの未来に向けたジッピング」と題したZipcar社長Kaye Ceille氏のプレゼンテーションでは、モビリティを世界全体で推進させるために、いかにZipcarが活用されているかに重点が置かれた。Zipcarの使命は、「簡素で、責任感ある都市生活を可能にする」である。同社は、車の所有に伴う煩わしさと費用に悩まされることなく自動車を自由に保有できるように、カーシェアリングプログラムを提供することによって、この使命を達成している。

 Zipcarは、百万人を超える会員を擁した世界最大級のカーシェアリングネットワークとして、8ヶ国、500都市、約600の大学に進出している。Zipcarはまた、ここ2年間で67の空港にも進出している。ボストンでは、Zipcarの車両がどの会員からも徒歩で5分以内の距離にあり、このシステムが普及し、利用しやすいことを実証している。

 Kaye Ceille氏は、以下のような、ZipCarを利用することによって得られる社会的メリットと個人的メリットの両方を詳しく示すインフォグラフィックを紹介した。

  • 共有車両1台で最大13台の個人所有車が置き換えられるため、混雑が緩和され、車両に必要なスペースが減少する。
  • Zipcarの会員は、車両を所有する場合と比較して1ヶ月あたり約600米ドル節約できる。
  • Zipcarの各会員はカーボン・フットプリントを約1トン削減できる。
  • Zipcarの会員は、自転車での移動回数が13%、徒歩による移動回数が19%それぞれ増加したと報告している。

 Kaye Ceille氏は自動運転車の持つ(自動車産業にとっての)破壊的性質と、Zipcarおよびその運営に対する影響について言及した。具体的には、会員が運転を終えると、自動運転車が別のユーザーに自力で回送することができるため、駐車スペースの必要性が減り、その結果、空いた空間を他の目的に利用できる。

 同社は、自動運転車の開発を支援する共同プロジェクトであるミシガン大学のモビリティ・トランスフォーメーション・センターに参画している。また、Zipcarは自動運転技術における共同研究開発部門であるZiplabsも開設。

 そして、最近のZipcar社は、Zipcarスマートフォンアプリから素早く登録して車両へのアクセスを可能にするソフトウェアの更新や、会員が別の会員のために特定の駐車場を予約して車両を拾えるようにするワンウェイサービスなどを開発した。



パナソニック:モビリティエクスペリエンスで生じるギャップとその解決策

セッション: モビリティエクスペリエンスで生じるギャップを埋める
企業名 講演者 役職名
Panasonic Automotive Systems Company of America Tom Gebhardt President

高品質のモビリティエクスペリエンスに必要な特性
高品質のモビリティエクスペリエンスに必要な特性
出典: パナソニック

 このプレゼンテーションで、パナソニックのTom Gebhard氏は、車両に搭載される技術が増えるほど、ドライバーがそれに気を取られて、ドライバーの認知負荷が増える可能性があると指摘した。ドライバーは車両を制御するという作業で手一杯になるため、センターコンソールのような車両の他の要素にあまり注意を払うことができない。これは、スマートフォンの基本的な使用方法とは逆である。その理由は、スマートフォンでは、すべてでないとしても、ユーザーの注意力の大部分がスマートフォンに向けられるからである。そのため車内のモビリティエクスペリエンスは、スマートフォンのようなものにならないようにし、さまざまなエクスペリエンスを簡単で直観的で、かつ迅速に提供できるように調整する必要がある。

 Tom Gebhardt氏は、パーソナルモビリティエクスペリエンスにおける3つの主なギャップを挙げている。

  1. このエクスペリエンスはシームレスで、連続したものでなければならない。このことは、サービスが一体化したエクスペリエンスとしてユーザーに一貫して確実に届けることによって達成できる。
  2. 車両システムの複雑さを軽減する必要がある。これは、ユーザーに情報を伝えようとする技術が多すぎるために生じる。この問題は複数の異なるソースおよびアプリケーションからの情報を1つのアプリケーションに統合することで解決できる。
  3. ユーザーのエクスペリエンスを管理するシステムは、同じようなパターンでドライバーが認識し利用できなければならない。これはシステムに予測的思考を実装することによって行うことができる可能性がある。

 2016年の初頭に発売されたパナソニックのOneConnectシステムは、モビリティエクスペリエンスのギャップを排除する解決策である。OneConnectはナビゲーション、情報、天気、娯楽および、ドライバーが好みそうな場所を音声で提供できる。このシステムは予測的技術も実装しているため、ユーザーの習慣を学習させることができる。例えば、OneConnectは、1日のうちの時間とユーザーの走行パターンに基づいてユーザーが通勤で走行していることを検知し、ユーザーが平日の通勤中にニュースを聞くことを好むことを認識すると、その日のニュースを提供することができる。このプラットフォームでは、ソフトウェアの更新や車両のリコールなどの問題に関する自動車メーカーからの通知も直接提供できる。OneConnectシステムは、どんな瞬間でもユーザーに最適なコンテンツを受け取る方法を提示する。

OneConnectによって配信されたサンプルメッセージのスクリーンショット
出典: Panasonic
OneConnectによって配信されたサンプルメッセージのスクリーンショット
OneConnectシステムの表示例
OneConnectシステムの表示例


モビリティの展望およびOEMの反応:Ford

Ford:モビリティ環境の変化に適応

セッション: Fordとの対談
企業名 講演者 役職名
Strategy Analytics モデレーター: Roger Lanctot Associate Director, Global Automotive Practice
Ford Don Butler Executive Director, Connected Vehicle & Services

 TU-Automotive Detroitでは、FordのDon Butler氏が社会における新しいモビリティ動向に関して、Fordの現在の立ち位置および活動について概要を述べた。Don Butler氏は、Fordが現在「転換点」にあると述べ、同社が自動車会社からモビリティ会社に移行しつつあるという2016年年初のデトロイトショーで行われた発表に言及した。同氏は、Fordの主力事業である車両開発と販売は順調であると語る一方、新技術およびモビリティイノベーションのマネジメントを扱う新規事業部門は技術の進歩に適応させる必要があると述べている。特に、Fordの新規事業はチャンスを活かせるように迅速に行動できるようになる必要があり、この事業の迅速化のため、Fordは製品開発、IT、およびマーケティングを含む複数の部門間で報告が行えるように、新規事業部門の組織を整理した。

駐車場の検索に使用されるFord Passの表示例出典: Ford
駐車場の検索に使用されるFord Passの表示例
出典: Ford

 Fordは新規事業を支援するために、Ford Smart Mobility LLCという法人を設立して、潜在的なビジネスチャンスをフルに活用できるようにしている。Don Butler氏はFordの(同じく非主力事業である)自動車金融事業と比較しながら、Ford Smart Mobilityは新興サービスの速度に対応するために、主力事業とは異なる方法で運営する必要があると述べている。

 Fordは最近、その基幹事業と新規事業の両方に対してサービスを提供する手段として、FordPassプラットフォームを構築した。例えば、ユーザーは携帯アプリケーションからFordPassにアクセスして、ディーラーの予約を行ったり、駐車場を探して料金を支払ったり、ラスト・ワン・マイル交通サービスを管理したりできる。

 同プレゼンテーションで簡単に触れられた他の論点に、FordのSYNCプラットフォームの開発を前提とした場合に、クルマにApple CarPlayとAndroid Autoが存在することに関するDon Butler氏の考え方があった。同氏は、Apple CarPlayとAndroid Autoを提供することは選択の幅が拡がるため、顧客にとってメリットになると述べた。しかし、同氏はまた、Fordはクルマとドライバーの「対話」の分野でAppleやGoogleなどのサードパーティに主導権を譲りたくないとも述べた。Don Butler氏はまた、混雑のような特定の問題を解決するために、幾つかの市政府とFordが対話することについて、将来発表がなされるであろうと述べた。

Ford SYNCとApple CarPlayのサンプル画像
出典: Ford
Ford SYNCとApple CarPlayのサンプル画像
出典: Ford
Ford SYNCとAndroid Autoのサンプル画像
出典: Ford
Ford SYNCとAndroid Autoのサンプル画像
出典: Ford

                     <自動車産業ポータル、マークラインズ>