人とくるまのテクノロジー展2016:トヨタ、日産、ホンダの出展

トヨタは新型プリウス、ホンダはクラリティFCVのカットボディーを出展、日産は60kWh電池を出展

2016/06/07

要 約

3日間盛況であった「人とくるまのテクノロジー展2016横浜」の会場風景

3日間盛況であった「人とくるまのテクノロジー展2016横浜」の会場風景

 本レポートは、2016年5月25~27日に開催された「人とくるまのテクノロジー展2016横浜」における、トヨタ、日産とホンダの出展を報告する。3社は、それぞれの最新の環境対応車と、それらを支える新技術を紹介した。

 トヨタは、JC08モード燃費40.8km/Lを達成した新型プリウスのカットボディーを出展した。プリウスはTNGA適用第一号車で、プリウスのDNAとTNGAを融合させて誕生した低燃費パワートレインや低重心パッケージなどの特徴を紹介した。

 日産は、EVリーフの電動パワートレインと、2015年12月に投入した容量30kWhのリチウムイオン電池を出展。開発中の60kWhリチウムイオン電池試作品も参考出品した。また2016年、2018年、2020年と段階を追って導入を予定する自動運転技術を紹介した。

 ホンダは、クラリティ フューエルセルのカットボディーを出展。合わせて、世界最軽量のアルミ中空ダイキャスト・フロントサブフレームと、外部給電器 “Power Exporter 9000”を出展した。


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トヨタ: 新型プリウスは、プリウスのDNAとTNGAを融合して誕生

 トヨタは、新型プリウスのカットモデルを出展した。新型プリウスは、「TNGA」適用第1号モデルで、プリウスのDNAとTNGAを融合させることで誕生した。

 TNGA(Toyota New Global Architecture)は、トヨタが全社をあげて取り組む「もっといいクルマづくり」の構造改革。パワートレイン、プラットフォームを刷新し一体的に新開発することにより、クルマの基本性能や商品力の飛躍的な向上を目指す。

 低重心パッケージなど新型プリウスの特徴は、今後順次投入されるTNGAベースのモデルにも引き継がれていく計画。「低重心」は、「走り」と、「走りのよさを訴求するスタイル」の両面に貢献する。またプリウスのDNAを継承するトライアングルシルエットと相まって、Cd値(空気抵抗係数)0.24の空力性能を実現した。

 トヨタは、こうして生まれた新型プリウスの特徴として、「ドライバーの意図に応える気持ちのいい走りの実現」、「優れた燃費性能」や「E-Four(電気式四輪駆動方式)の新設定」などを挙げている。

新型プリウスのエンジンルーム。最前面に、走行状態や暖機状態にあわせてシャッターを自動開閉し、暖機を促進するとともに空力抵抗を低減する「グリルシャッター」を搭載している。
新型プリウスのエンジンルーム。最前面に、走行状態や暖機状態にあわせてシャッターを自動開閉し、暖機を促進するとともに空力抵抗を低減する「グリルシャッター」を搭載している。
斜め後ろから見たところ、リヤシートの下に駆動用電池を搭載
斜め後ろから見たところ、リヤシートの下に駆動用電池を搭載

ドライバーの意図に応える気持のいい走り

 全高を3代目プリウスの1,490mmから20mm下げるなどの低重心化、
環状骨格構造(写真参照)とLSW(Laser screw welding:レーザー照射によるボディー接合技術)でねじり剛性を約60%向上させたことなどが「気持のいい走り」に貢献した。

キャビン環状骨格(写真:トヨタ)
キャビン環状骨格
(写真:トヨタ)
リヤボディ環状骨格(写真:トヨタ)
リヤボディ環状骨格
(写真:トヨタ)

燃費40.8km/Lを実現したガソリンエンジンとトランスアクスル

 新型プリウスは、車両重量1,310kgのEグレードで、JC08モード走行燃費40.8km/Lを実現した。

 「改良型1.8L 2ZR-FXE」ガソリンエンジンは、吸気ポートの形状変更により燃焼室内の気流を強化したこと、大容量クールドEGR、またウォータージャケットスペーサーの採用でシリンダーボア壁温の最適化を図るなど改良を重ね、世界トップレベルの最大熱効率40%を達成した。

 また、ハイブリッドトランスアクスル(モーター/ジェネレーター、動力分割機構とモーターのリダクション機構)は、リダクションギヤの平行軸歯車化やモーター/ジェネレーターの複軸配置などで、小型化・軽量化&高効率化を図った。

最大熱効率40%を実現した1.8L直列4気筒ガソリンエンジン(改良型2ZR-FXE)、写真で説明がついている「トーナメント式EGR分配通路」「高タンブル吸気ポート」「ウォータージャケットスペーサー」が最大熱効率40%の実現に貢献
最大熱効率40%を実現した1.8L直列4気筒ガソリンエンジン(改良型2ZR-FXE)、写真で説明がついている「トーナメント式EGR分配通路」「高タンブル吸気ポート」「ウォータージャケットスペーサー」が最大熱効率40%の実現に貢献
約20%の損失低減を実現したトランスアクスル、ジェネレーターの上に見えるのが駆動用モーター(複軸配置にした)。
約20%の損失低減を実現したトランスアクスル、ジェネレーターの上に見えるのが駆動用モーター(複軸配置にした)。
新巻き線方式を用いた小型・高出力密度のモーターステーター、小型化によりモーターの複軸配置を可能にした(東京モーターショー2015でのデンソーの出展)
新巻き線方式を用いた小型・高出力密度のモーターステーター、小型化によりモーターの複軸配置を可能にした(東京モーターショー2015でのデンソーの出展)



最大熱効率40%を達成したガソリンエンジン「改良型2ZR-FXE」

高タンブル
吸気ポート
 吸気ポートの形状を変更することで、タンブル方向の気流(縦渦)を直線化、タンブル比(ピストンが一往復する間にタンブル流が回転する回数)を前代プリウスの0.8から2.8に高めた。これにより燃焼速度を上げ、大量のEGR(排気再循環)ガス導入を可能にして燃焼効率を向上(ポンピングロスの低減と燃焼温度の低下)させたことが、低燃費に大きく貢献した。
大量クールドEGR  上記により、EGR(排気再循環)率の限界を、3代目プリウスの21%から28%に高めた。EGRガスが各気筒により多くかつ均等に分配されるように、インテークマニホールドのEGR分配通路の構造をトーナメント式に変更した(分配通路をまず2つに分け、その2つから各気筒に分配する)。
ウォータージャケット
スペーサー
 シリンダーボア壁温の最適化を図る仕組み。ウォータージャケットの下部に、EXPAD(発泡ゴム)製ウォータージャケットスペーサーを置き、高温になる上部を十分に冷却してノッキングを防ぎ、中下部は保温してフリクションを低減する。



ハイブリッドトランスアクスルの小型・軽量化&高効率化

小型・軽量化  3代目プリウスまでは、モーター/ジェネレーター、動力分割機構、モーターリダクション機構がクランクシャフト軸上に直列に配置されていたため、全長が長くなっていた。今回は、モーターとリダクションギヤを平行軸上に移し(複軸配置)、全長を409mmから362mmに47mm短縮し、約20%の損失低減を実現した。
モーターの小型化、
高出力密度化
 セグメントコイル巻と呼ぶ新巻線方式を用いたモーターの採用により、小型化、高出力密度化を実現。約20%の損失低減を実現するとともに小型化により搭載の自由度が高まり、モーターの複軸配置による省スペースを可能にした。



小型・低燃費車向けのE-Fourを設定

FF車と同等の室内空間を確保したE-Fourシステム

FF車と同等の室内空間を確保したE-Fourシステム

 4代目プリウスは、プリウスとして初めてE-Four(電気式四輪駆動方式)を設定した。加速時など走行状態に応じて後輪にトルクを配分する。

 主に雪道での走行を対象とし、「悪路」での走行は想定していないので、エスティマHVやアルファードHVなど大型車に設定されている高出力E-Fourシステムを、質量・サイズとも約75%小型化して搭載性を高め、またプリウスFF車とほぼ同等の室内空間を確保することができた

 新型プリウスのE-Fourは作動する時間が限定され、走行時間の多くで空転している状態になる。永久磁石を埋め込んだローターを使うと磁力による引き摺り抵抗によるエネルギーロスが発生するため、低燃費対策として磁石レスの誘導モーターを採用した。JC08モード走行燃費は34.0km/Lで、3代目プリウスの2WD車(32.6km/L)を超える低燃費を実現した。









新開発のリチウムイオン電池とニッケル水素電池を搭載

 駆動用電池は、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池ともに新開発し、高性能・小型化を図り、また燃費向上に貢献している。3代目プリウスでは、ワゴンタイプのプリウスα 3列シート7人乗り車のみリチウムイオン電池を搭載し、プリウスα5人乗りとプリウスはニッケル水素電池を搭載していた。4代目プリウスでは、仕様と2WD/E-Four別に両タイプの電池を使い分けている(E-Fourは、寒冷地での特性がよいニッケル水素電池を搭載する)。

 二つのタイプの電池パックは、一見してのサイズはほとんど変わらない(Li:30.5L、Ni:35.5L、重量は、Li:24.5kg、Ni:40.3kg)。パック化する際にシステム部品を追加することもあり、近い体積になるとのこと。

 リチウムイオン電池は、プリウスαが搭載している電池と比べ、容積を6%小型化した。ニッケル水素電池も進歩を続けていて、前代比10%小型化するとともに、単位時間当たりの充電量を28%向上させた。小型化したことで、電池の搭載する場所を後部荷室からリヤシート下に移動し、荷室の容積を502Lへ56L拡大した。

新型プリウスが搭載するリチウムイオン電池パック
新型プリウスが搭載する
リチウムイオン電池パック
同ニッケル水素電池パック
同ニッケル水素電池パック



日産:最新の「電動化」と「知能化」の取組みを紹介

 日産は、同社が目指すゼロ・エミッション、および、日産車がかかわる交通事故による死亡・重傷者ゼロの実現に向けた最新の「電動化」、「知能化」の取組みを紹介した。

日産の電動化技術~高効率な電動パワートレインと新開発のリチウムイオン電池

軽量・コンパクトで高効率な電動パワートレイン、構成は、上からPower Delivery Module(充電器、DC/DCコンバーター、ジャンクションボックスを融合)、インバータ、モーターと減速機

軽量・コンパクトで高効率な電動パワートレイン、構成は、上からPower Delivery Module(充電器、DC/DCコンバーター、ジャンクションボックスを融合)、インバータ、モーターと減速機

 ゼロ・エミッションについては、EVリーフの電動パワートレインを展示した。モーターはエンジンに比べ応答性がよく、電動パワートレインは発進時から一気に最大トルクを発揮し、スポーツカー並の加速感を実現した。また1/10,000秒の間隔でモーターの電流制御を行い、また1/500秒ごとに動力伝達機構のトルクを制御することで、振動を抑え滑らかな走りが持続する。なお、電動パワートレインは、24kWh電池搭載車、30kWh電池搭載車に共通で、電池の違いは航続距離に現れている。

 2015年12月に投入した30kWh電池の組成や構造を、電池モジュールやパネルで紹介した。

 また、開発中の容量60kWhのリチウムイオン電池を参考出品した。体積当たりの容量をより向上させた高エネルギー密度の電池を開発し、EVのさらなる性能向上を目指すとしている。









24kWh電池モジュールと30kWh電池モジュール
24kWh電池モジュールと30kWh電池モジュール
30kWh電池搭載車の航続距離延長と、それを可能にした正極材料の組成/構造の変更(資料:日産)
30kWh電池搭載車の航続距離延長と、それを可能にした正極材料の組成/構造の変更
容量60kWhの高エネルギー密度リチウムイオン電池試作品(参考出品)
容量60kWhの高エネルギー密度リチウムイオン電池試作品(参考出品)



30kWhの大容量リチウムイオン電池を開発

正極の電極材料  正極の電極材料を見直し(ニッケル、マンガンにコバルトを追加)、また正極主材料の構造を、従来のスピネル構造からリチウムイオンを高密度に蓄えられる「層状構造」に変更、安全性を損なうことなく約20%の容量向上を実現した(上の写真参照)。
体積効率向上  セルの厚みが多少増したため、1モジュールのセル数を4から8に増やして体積の増加を抑え(モジュール数は48から24に減少)、電池パックの外形サイズを24kWh電池とほぼ同じにして、車室空間を犠牲にすることなく高容量化を達成した。
寿命向上  30kWhの電池では、電池容量の低下を抑制する技術を開発し寿命が向上。保証期間(12段階のセグメントで測定し、電池容量計が9セグメントを割り込んだ(8セグメントになった)場合、無償で修理や部品交換を行い9セグメント以上に復帰させる)を5年10万kmから8年16万kmに延長した。
充電性能の向上  正極材料の変更によって、電池内部の抵抗も減少。急速充電では、24kWh電池と同様に約30分で80%までの充電が可能。



日産の「知能化」~走り始めた自動運転

Nissan Intelligent Drivingプロトタイプカー

Nissan Intelligent Drivingプロトタイプカー

 「日産リーフ」をベースとした自動運転実験車両「Nissan Intelligent Drivingプロトタイプカー」を展示した。

 日産は、2020年までに、日本、米国、欧州、中国向けの複数の主要車種に、2016年、2018年、2020年と段階を追って自動運転技術を搭載する予定。その第一段階となる高速道路上の単一レーンで安全な自動運転を可能にする技術を搭載した最初のモデルを、2016年に日本で発売する。搭載する車種は、ミニバン「セレナ」とされている。また欧州では、2017年にキャシュカイに同技術を搭載すると発表している。








日産の自動運転

人間から機械へ  交通事故の9割以上は、ドライバーのミスによって発生するとされている。クルマの知能化は、「認知」「判断」「操作」という運転の3要素を機械に置換えるもので、これにより、リスクをより早く検知し、回避できる可能性が高まる。
日産の自動運転技術  日産の自動運転車は、レーダー、カメラ、レーザースキャナーなどを用いた360度のセンシングを行っている。センシングの内容に基づき、車両の制御方法を決定し、電動アクチュエーターを制御する。
導入計画  2016年末までに混雑した高速道路上の単一レーンで安全な自動運転を可能にする技術(Pilot Drive 1.0)を、2018年に、高速道路上での複数レーンで危険回避や車線変更を自動的に行う技術(Pilot Drive 2.0)を導入する。2020年には、交差点を含む一般道でドライバーの操作介入なしに走行できる自動運転技術(Pilot Drive 3.0)を導入する予定。



ホンダ:クラリティ フューエルセルのカットボディーを出展

 ホンダは、クラリティ フューエルセルのカットボディーを出展した。

 燃料電池スタックや水素/空気供給システムといった発電機能と、FC昇圧コンバーターや駆動モーターなどの配電/駆動機能を、V6ガソリンエンジン並みにコンパクト化。それによりフロントフード下に集約してキャビン空間を拡大、大人5人が快適に乗車できる居住空間と、ロー&ワイドなセダンフォルムを実現した。

 クラリティ フューエルセルは、現在燃料電池スタックが大量生産できず手作りで生産しているため、発売後1年間で国内出荷は約200台の計画。しかも、リース販売で車の状況をホンダが確認しながら使用してもらうなど、ホンダはFCVという新技術導入を慎重に進めている。米国ではカリフォルニア州および同州に準じた環境規制を行っている7州に出荷する。日本より多くの台数を出荷する計画とのこと。

クラリティ フューエルセルのカットボディー(車両中央部)
クラリティ フューエルセルのカットボディー(車両中央部)
クラリティ フューエルセルのカットボディー(前方から見たところ)
クラリティ フューエルセルのカットボディー(前方から見たところ)



 クラリティ フューエルセルに関連して、アルミ中空ダイキャスト・フロントサブフレームと、外部給電器 ”Power Exporter 9000”を出展した。

世界最軽量のアルミ中空ダイキャスト・フロントサブフレーム、燃料電池スタックやモーターなどのパワートレインを支える
世界最軽量のアルミ中空ダイキャスト・フロントサブフレーム、燃料電池スタックやモーターなどのパワートレインを支える
外部給電器 “Power Exporter 9000”
外部給電器 “Power Exporter 9000”



世界最軽量のアルミ中空ダイキャスト・フロントサブフレーム

 従来は複数の部材を溶接によって接合していたサブフレームを、一体中空成形のアルミダイキャスト製とすることで、従来製法比20%の大幅な軽量化を達成、世界最軽量(ホンダ調べ)のアルミ製サブフレームを完成した。Honda二輪で培ってきたアルミダイキャスト製法の中空構造フレームの技術を初めて四輪に応用し、高剛性と軽量化を両立させた。



外部給電器 "Power Exporter 9000"

 クラリティ フューエルセルが発電した電力を利用し、一般家庭のおよそ7日分の電力供給が可能。災害時などの非常用電源として、また平常時でも屋外イベントなどの電源として活躍している。重量は50.8kgで、クラリティ フューセルセルのトランクに収納できる。
 車両からの直流電圧(DC)を、DC-DCコンバーターとDC-ACインバータを介して家庭用電気機器が使える交流電圧(AC)として出力。エンジン発電機で培ったノウハウと、独自の正弦波インバータ技術の採用により、一般的な家庭用電気機器の他、パソコンなどの精密機械にも対応できる商用電力並みの高品質な電気供給が可能。

                     <自動車産業ポータル、マークラインズ>