自動運転:どのようなテクノロジーがカギを握るか?

センサー、アクチュエーター、デジタルマップとテレマティクスの最新動向

2014/11/17

要 約

 自動運転技術のロードマップ:Telematics Japan 2014 で解説した、自動運転実用化の各社ロードマップと、メルセデス・ベンツ実証実験結果に続き、今回は自動運転に使われる要素技術について解説する。

 自動運転では、カメラやレーダーのセンサーから得られた情報と、高精度な3Dデジタルマップを照合し、まず現在の自車位置の特定と、道路の車線と周辺の障害物の有無を確認する。こうして周囲の状況を認知したら、走行する進路を判断し、その進路を走行するための運転操作をアクチュエーターに指示することで、自動運転が行われる。その運転操作の結果、自車が進んだ位置と周囲の変化は瞬時にセンシングされて、次の認知・判断へフィードバックされる。今回のレポートでは、各種センサー、加減速・操舵を行うアクチュエーター、3Dデジタルマップ、テレマティクス(クラウドとの通信)について解説する。


自動運転のシステム構成図


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センサー技術

高速での遠距離測定はミリ波レーダーが有利
各自動車メーカーの実証実験では、用途に応じて、ミリ波レーダー、レーザーレーダー、レーザースキャナー、カメラ、超音波ソナー等が使われている。ミリ波レーダーや各種カメラ等のセンサーは、これまで運転支援システムで実績があり、機能と性能の進化が進んでいる。運転支援システムでは先行車との距離を把握するために、レーザーレーダーやステレオカメラを使い性能向上が進められてきたが、高速での測定距離や悪天候での環境で精度を求めると、ミリ波レーダーの性能が必要と考えられている。
デジタル画像処理の進化で大きく性能向上するカメラ
最も大きく進化しているのがカメラの画像処理技術である。デジタル化により、標識や人を判別することが可能になり、カメラの存在は不可欠である。自動運転では周囲を3Dデータで把握し、3Dデジタルマップとの照合が重要な課題であるが、ステレオカメラでの画像処理による空間認識の精度向上が進められている。
空間認識はレーザースキャナーかステレオカメラのいずれかで
現時点、空間を3Dデジタル測定することについては、レーザースキャナーの認識精度が優れており実証実験での実績も多い。ただし現在は非常に高価であり、レーザースキャナーのコスト低減も進められている。レーザースキャナーの低コスト化とステレオカメラの画像認識、画像処理の性能向上の2案が検討されている。
複数のセンサーで得意分野を分担し総合的に判断
メルセデス・ベンツは、レーザースキャナーを使わずに、量産化の目途がたっているミリ波レーダーとカメラを、対象物ごとに得意分野を分けていくつものセンサー使って、公道での実証実験を行った。遠距離ミリ波レーダーは、前方4つ、後方2つ、近距離ミリ波レーダーは前方1つ、側方2つ、車体四隅に4つを搭載し、カメラは前方ステレオカメラ2つ、前後単眼カメラ各1つを搭載している。その結果の課題として、交差点で交差する道路を走行する車を確認するようなシーンで、自車をどこに停車すればよいかを正確に見極める必要があり、位置精度の確認はさらに精度向上が必要であることを報告している。また信号機の色をカメラで認識することの難しさも課題であると報告されている。

 

各センサー比較表

ミリ波レーダー レーザー
レーダー
スキャン
レーザー
カメラ 超音波
ソナー

77/79
GHz帯

24
GHz帯
ステレオ 単眼
物体有無検出(100m以上)
落下物
物体有無検出(近距離) ○5m以内
○5m以内
二輪車 ○5m以内
歩行者 ○5m以内
落下物 ○5m以内
天候の影響(雨、雪、霧)
夜間での物体検出
車線検知
路側検知
信号・標識判別
車両周囲地図照合

◎:優れている、○:適している、△:利用可能
(MarkLines作成)

 

ミリ波レーダー

ミリ波レーダー
ミリ波レーダー(BOSCH)
写真:MarkLines
ミリ波レーダーは77GHz、79GHz又は24GHz各帯域の高周波電波を対象物にむけて送信し、対象物からの反射波を受信し、その時間遅れや周波数の変化から、距離、相対速度を算出する。高周波帯の電波は、光のように直進性があり、光より波長が長いため、雨、雪、霧などの影響を受けにくいという利点ある。最大で250mまで測定できる遠距離用と、照射角を拡げた近距離用がある。また、歩行者を認識するものが最近開発されている。

 

レーザーレーダー

レーザーレーダー
レーザーレーダー(デンソー)
写真:MarkLines
レーザレーダーは、ミリ波レーダーと比べ波長が短い電磁波であるレーザー光を用い、対象物へ向けて発光し、反射して戻ってくるまでの時間を測定し、距離、相対速度を算出する。レーザーダイオードでレーザー光を発生させて、モーターで回転させたポリゴンミラーの各面の傾斜角度を変化させて、上下左右にスキャンする。デンソー製で100mまで測定できるものがあるが、距離はミリ波レーダーに及ばない。また、雨、雪、霧など天候の影響で性能が低下する。

 

単眼カメラ

単眼カメラ
単眼カメラ(デルファイ)
写真:MarkLines
カメラで撮影したデジタル画像をマイコンで画像処理し、画像として写っている物体をパターン認識などで検出・識別する。画像センサーのCMOSイメージセンサーの構成は、フォトダイオードで受光量に応じた電荷を発生し、転送用トランジスタで、蓄積用ダイオードに転送し、そこで電圧信号を読み出す。画素数の増加による解像度の向上、裏面照射技術による感度向上、その他ダイナミックレンジの向上などで、進化している。デジタル画像処理により、パターン認識で、人、標識等を判断できる点が、レーダーにはできないカメラの強みである。

 

ステレオカメラ

ステレオカメラ
ステレオカメラ(コンチネンタル)
写真:MarkLines
水平方向に距離をおいた2台のカメラによって、同時に撮影された画像を比較することで、空間認識を可能とする。距離も測定できるが、高速走行時の遠距離測定ではミリ波レーダーには劣る。また、雪、霧での性能低下があるため、ミリ波レーダーと併用して、単眼又はステレオカメラを使用するのが主流となる。単眼カメラの機能は包含できるが、メルセデス・ベンツの実証実験車では、用途に応じて画角と方角を変えて、単眼カメラと、ステレオカメラの両方を、複数搭載している。

 

レーザースキャナー

レーザースキャナー
レーザースキャナー(ベロダイン)
写真:Velodyne
全方位LIDAR(Laser Imaging Detection And Ranging)と一般的に呼ばれる。多点レーザー送受信センサーを内蔵し、ルーフ上に設置したセンサーユニットが回転しながら計測することで、全方位を高速でスキャンし、360°全周のリアルタイム3Dイメージデータを取得できる。高精度の3Dデータを作成し、前もって作成済の3Dマップデータと照合することで、正確な現在位置の把握と、走行可能な進路を高精度に把握、判断できる。グーグルの自動運転実験車や、大学等研究機関の実験車に採用されているが、現在は約800万円と非常に高価であり、また、ルーフ上の高い位置に設置する必要があるという制約がある。

 

超音波ソナー

超音波ソナー
超音波ソナー(BOSCH)
写真:MarkLines
車両前後のバンパーに埋め込まれたセンサーから、超音波を送波し、障害物に反射して戻ってきた音波を検出し、送波から戻ってくるまでの往復時間から、物体までの距離を算出する。5m以内の至近距離の測定に適しており、駐車時に壁や隣の車両との距離を把握するためのセンサーとして、現在プレミアムセグメントの乗用車では、ほぼ全メーカーで広く普及している。

 

 



加速・減速・操舵のアクチュエーター

運転支援システムのアクチュエーターがそのまま使える
ドライバーによるアクセル、ブレーキ、ステアリングの運転操作に代わって、自動運転ではそれらの操作を自動で制御する必要がある。ただし、そのアクチュエーターは、現在の運転支援システムでもう既に実用化しつつある。インテリジェントクルーズコントロールや緊急時のブレーキサポートシステムでは、先行車両との車間距離を一定になるよう加速、減速し、また障害物を検知してブレーキを作動させるように電子制御でアクチュエーターをコントロールしている。自動運転でも、これらの運転支援システムのアクセルとブレーキのアクチュエーターがほぼそのまま使うことができる。
電動パワーステアリングがブレークスルー
これまで油圧で制御していたパワーステアリングが、この数年間のモデルチェンジで多くの車が電動パワーステアリングに切り替わっている。油圧パワーステアリングに比べて、最新の電動パワーステアリングは様々な制御が可能となり、自動運転を可能にするアクチュエーターとしてのブレークスルーと言える。最新の日産スカイラインとメルセデス・ベンツSクラス / Eクラス / Cクラスに採用されている運転支援システムでは、走行する車線をカメラで認識して、車線に沿って走るようにステアリング操作をモーターでアシストする機能が搭載されている。これらのアクチュエーターは、状況を正確に把握して運転操作の指令ができれば、そのまま自動運転に適用できるシステムである。

 

ステアリングアクチュエータ:電動ステアリング

日産スカイラインに搭載されている「ダイレクトアダブティブステアリング」と「アクティブレーンコントロール」は、車線をカメラで認識して、車線内を走行するようにステアリングを操作したり、状況に応じてドライバーの期待に添うようにステアリングの操作量の制御を行うことが可能な運転支援システムである。ステアバイワイヤと呼ばれる新技術で、ドライバーのステアリング操作とは独立したステアリング操作が行える機構となっている。操作内容を制御指示するシステムが出来上がれば、自動運転にそのまま適応できるシステムである。 ステアリングアクチュエータ:電動ステアリング
スカイラインのダイレクトアダプティブステアリング
写真:MarkLines

 

ブレーキアクチュエーター:ESP

ブレーキのアクチュエーターは、ESPユニットが使われる。制御指示に従って、ブレーキ油圧をコントロールして、必要なブレーキ力を発生することができる。インテリジェントクルーズコントロール等、先行車との車間距離を保って走行する運転支援システムとして、プレミアムセグメントの車両では、すでに多くの車に採用されている技術である。 ブレーキアクチュエーター:ESP
BOSCH製ESP

 

アクセルのアクチュエーター:電動スロットルバルブ

アクセルのアクチュエーターは、エンジンの電動スロットルバルブが使われる。電動スロットルバルブは、一般的な車でも現在広く普及しており、ドライバーのアクセル開度や、運転走行状態に応じて、エンジンの性能を制御するECUの指示により、スロットルバルブを適切な開度にモーターで制御される仕組みで、変速機のギヤ選択も含めて総合的に制御される。インテリジェントクルーズコントロール等、先行車との車間距離を保って走行する運転支援システムとしても、使われている。 アクセルのアクチュエーター:電動スロットルバルブ
日立オートモーティブ製電動スロットルバルブ

 

 



自動運転用3Dマップデータ

高精度を要求される3Dデジタルマップ
3Dデジタルマップ
                                                                                                              資料:Daimler

自動運転には、自車位置の特定のために、従来のナビゲーションでGPSだけで判断していたものに比べ、はるかに高い精度が求められる。メルセデス・ベンツの実証実験の結果のプレゼンテーションでは、実際に車が走り止まる位置を指示するためには走行レーンや停止線の位置は+/- 5 ~10 cmの精度が要求されると説明している。道路上に障害物や路上駐車した車があっても、それをよけて残りのスペースを通り抜けられるかどうか判断する必要があるからである。

信号、停止線、標識情報などこれまでの地図にない情報が必要
マップデータには、道路配置の他、停止線、車線、ガードレール、信号の位置、交通標識の数や方向等これまでの地図にない情報が必要である。現在位置を確認するためには、周囲の建物等も必要である。地図情報大手のゼンリンはこうした自動運転用の3Dデジタルマップの開発に取り組んでいるという。この地図は精度の高さだけでなく、車線の変更等様々な変化に対し最新のデータであることも必要である。
自動運転を想定したデジタルマップ
自動運転を想定したデジタルマップ
資料:ゼンリン
求められるマップデータの標準化
現在メルセデス・ベンツなど実証実験を行っているカーメーカー等は、実証実験で走行する区間だけ、このような特別な地図を個別に作成して自動運転に使っている。しかし広い範囲でこのような高精度な地図を作成するとデータ量が膨大となり、車両のナビゲーションシステムに納められないボリュームとなる。その対応として、メガサーバーに格納してテレマティクスで通信して使う方法が考えられる。巨大なマップデータをクラウドサーバーに格納して使うとなると、各自動車メーカーが横断的に使えるものにする必要もでてくる。現在こういったマップデータの標準化をどのようにしていくか各国で議論が始まっている。そしてこの巨大なデータを作る費用は誰が負担し、誰から代金をもらうのか、どういった企業がイニシアチブを取っていくのか、今後の動きが注目される。

 

 



テレマティクス(クラウドデータとの通信)

自動運転にはテレマティクスが不可欠
高精度マップデータは膨大な情報量となり、クラウドに格納されると、車からはテレマティクス通信でアクセスする方法になる。クラウドサーバーからはマップデータ以外に、リアルタイムで交通情報、事故情報、落下物等の最新情報が自動運転車へ提供される。テレマティクスの通信機能を持った車両が増加すれば、実際に走行しているそれぞれの車両から、道路工事の様子や事故情報など、最新の道路情報がクラウドサーバーに集約される。そうして周辺を走る車両へ鮮度の高い情報が提供される仕組みができあがる。多くの情報、最新の情報が必要な自動運転にはテレマティクスが不可欠となる。
テレマティクス
資料:MarkLines
テレマティクスの通信方法は2種類の可能性
クラウドサーバーと車両との間の通信方法は、2つのやり方が考えられている。一つは自動車メーカーがあらかじめ車両に専用電話ユニットを搭載するやりかたである。もう一つはユーザー自身が契約しているスマートフォンを使うケースで、この2つの通信方法が考えられる。前者の例としてはレクサスのように自動車メーカーがサービスプログラムを作って、サービスを実施している例がすでにある。日産リーフのように、今後の開発のためにEVの走行データを集中管理センターへ送るための専用電話ユニットを、最初から車両に搭載されているケースもある。後者のスマートフォン例としては、走行状態や距離に応じて割引をする自動車保険のシステム等が欧米で実際に展開されている。現時点はそれぞれの可能性があると考えられるが、マップデータの標準化と合わせて、テレマティクスの具体的な通信方式やデータの形式について、標準化が必要になってくる。
巨大なビジネスモデルの行方はまだ不透明
このクラウドサービスは巨大な規模となるため、莫大な投資が必要であり、誰が費用を負担し、どのような形で利益があげられるのか、このビジネスモデルの成立性が課題となる。スマートフォン用のGoogle Mapのように、使用者が費用を直接支払わないで、広告収入でビジネスモデルが成立する可能性もあるが、現時点は不透明である。このようなビジネスモデルの枠組みをどう作るかが、今後の大きな鍵になると考えられる。

参考文献
吉田貴彦、安全システムの強化に貢献するセンサ技術、自動車技術Vol.68,No4,2014
稲葉敬之、桐本哲郎、車載用ミリ波レーダ、自動車技術Vol.64,02,2010

                     <自動車産業ポータル、マークラインズ>