【ものづくり】テクニカルショウ ヨコハマ2020:高機能自動車部品・コストダウン技術
表示機能付ダッシュボード、無塗装光沢ナビパネル、プレス鍛造VA、ライナーレスシリンダー、試作専業メーカー
2020/02/21
要約
テクニカルショウ ヨコハマ2020(会期:2020年2月5日(水)~2月7日(金)、会場:パシフィコ横浜)は、神奈川県産業振興センター、横浜市工業会連合会、神奈川県、横浜市の主催。今年で41回目となり、首都圏では最大級の工業専門展示会となっている。今年は806社が出展し、そのうち加工技術関連メーカーは360社。横浜のものづくりはやや空洞化しつつあり、代わりに近県の自治体の工業振興会から多く出展していた。今回は、横浜にこだわらず、自動車部品で実績のある近県からの企業の展示を中心に取材した。
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テクニカルショウヨコハマ2020 入場口風景 | テクニカルショウヨコハマ2020 会場風景 |
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樹脂成形技術:表示機能付ダッシュボード、無塗装光沢ナビパネル
自動車ビジネスで実績があり、コスト競争力がある成形メーカーを取材した。
(出展会社概要)
会社名 | 展示品 | 備考 |
---|---|---|
イオインダストリー㈱ (静岡県湖西市) |
試作:表示機能付ダッシュボード | 提案品 |
量産:無塗装光沢ナビパネル | ウエルドレス光沢加工 ヒート&クール射出成形 |
・ウエルドレス:プラスチックの流動痕模様(ウエルドライン)を目立たなくし、塗装を廃止し、そのまま外観商品に使用する手法。
・ヒート&クール射出成形:1回の成形サイクル内で金型を加熱・冷却する成形技術。金型温度を高温にすることで、樹脂の表面にアクリル層を形成し、コーティング加工やフィルム加工などを追加せずに射出成形のみで光沢成形を実現できる。金型代は高価になるが塗装工程を廃止でき、大量生産であればコストダウンになる。成形機は一般の設備で問題ない。
表示機能付ダッシュボード
イオインダストリーは1963年創業の静岡県湖西市のプラスチック成形から組み立てまでの一貫生産メーカー。
展示品は表示機能付ダッシュボード。助手席前のダッシュボードパネルに文字情報を表示することができる。表示しない場合には通常のダッシュボードと見分けがつかないように工夫されている。本展示品は提案商品で、ポリカーボネートPCの透明材と表面処理を組み合わせて作成されている。
試作:表示機能付ダッシュボード | |
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文字非表示時 | 文字表示時 |
無塗装光沢ナビパネル
もうひとつの展示品は塗装レスでコストダウンを達成したナビパネル。ウエルドレス光沢加工をヒート&クール射出成形で製作している。通常、最終充填部にあたる樹脂の結合部には、「ウエルド」と呼ばれる継ぎ目がどうしても発生するが、高温水を瞬時に流すことにより型温を上昇させ、スキン層を薄くすることでウエルドを目立ちにくくすることに成功している。
また、ヒート&クール射出成形では生産性が低下する場合が多いが、イオインダストリーでは独自の金型加熱冷却配管構造により成形サイクルタイムも短縮しているという。射出成形機も小型30トン~大型850トンまでの86台を有し、内装パネルなど大型部品にも対応できる。
量産:ナビパネル | 量産:ナビパネル |
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右:従来品、光沢加工 左:開発品、光沢ウエルドレス加工 |
光沢ウエルドレス加工品 展示パネル:ウエルドレス化 |
<ヒート&クール成形によるウエルドレス化の特徴>
・水媒体で最高200℃の超高温水と低温水を瞬時に入替可能
・独自の金型加熱冷却配管構造による成形サイクルの短縮
プレス鍛造技術:機械加工レスによるコストダウン事例
高度な加工技術を有するプレス加工メーカーが多く出展していた。その中から、神奈川県と近隣県のプレス成形メーカー4社を取材した。自動車産業の社内展示会で使われる、わかりやすい様式を使用したコストダウン事例も紹介する。
コストダウンは案件の発掘が重要で、展示品には参考となる事例が多かった。発掘に対する考え方は、①何を見ても高いと思え ②コストダウン目標値は高いほどよい ③効果の大きい順にやる ④1人の知恵には限りがある、などといわれ、具体的な問題点や分析データから考える。
(出展会社概要)
会社名 | 展示品 | 備考 |
---|---|---|
㈱テクノステート (神奈川県藤沢市) |
量産:エンジン用シーリングキャップ 量産:ターボチャージャ部品 |
※順送プレスによる深絞り加工など |
㈱産栄工業 (静岡県菊川市) |
量産: モーターヨーク A/Tピストン&キャンセラー センターサポート内環・外環 カーエアコン用ベアリング 電磁弁ケース |
※トランスファープレスによる深絞り加工など |
サトープレス工業㈱ (愛知県豊田市) |
量産: ローターウォーターポンプ ケース・OCVソレノイド ケース・ABSモーター ストッパー・マスターシリンダー ブラケット・パーキングロック |
※トランスファープレスによる増肉加工など |
三全精工㈱ (長野県塩尻市) |
量産: OCV部品切削レス一体プレス品 |
※順送プレスによる増肉加工など |
・順送プレス:順送り加工法。長いコイル材を少しずつ送るプレス加工法。ひとつの金型の中に、10~30の複数のキャビティ型(凹凸)があらかじめ作ってある。コイル材をプレス機にセットし材料を少しずつ順に送っていくだけで加工が完了する。長所はプレスサイクルが速く生産性がよいが、材料歩留まりが悪く、金型が高額なことが短所となる。
・トランスファープレス:近年、搬送装置の低価格化によって普及している順送り加工法。順送プレスで製造できない形状変化の大きな加工ができる。単工程型が順番に並んでおり、打ち抜かれたワークを搬送装置で同時に送るプレス加工法。プレスの1サイクルが終わると全工程の製品をグリップして、1つ後の工程へ自動トランスファー装置で移動させる。順送加工と比べると材料歩留まりが良いが、サイクルがやや遅く生産性が劣り装置が高価なことが短所になる。
順送プレス | トランスファープレス | ||
形状自由度 | △ | 〇 | |
製品代 | 加工費(生産サイクル) | ◎ | 〇 |
材料費 | x | 〇 | |
初期費用 | 金型費 | x | x |
設備投額 | 〇 | x |
エンドキャップ・高精度順送プレス(テクノステート)
テクノステートは1923年創業の神奈川県藤沢市のプレス加工メーカー。生産拠点は6拠点(国内3、海外3)、国内は藤沢市、福岡県豊前市、茨城県北茨城市、海外はタイ、台湾、メキシコに展開している。得意とするのは深絞り加工。主力のエンドキャップは米国Teslaにも採用されているという。
展示品はエンジンフュ―エルレール用エンドキャップ。圧入で使用される。圧入品の外径公差は厳しく1/100の公差要求があり一般に機械加工品になるが、テクノステートではプレスのみで成形している。また、ターボチャージャの電動可変容量化で6部品受注している。
量産: エンジン用エンドキャップ | 量産: ターボチャージャの6部品 |
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高精度圧入部品もプレスのみで成形している。 展示パネル:エンドキャップ 世界一高圧縮比を実現した次世代高効率エンジンに搭載されたフュ―エルレール(高圧)にエンドキャップとして使用。 |
もう1つの展示品はコストダウン事例。いずれも実際に提案から量産に持ち込んでいる。
コストダウン事例1 量産:ターボチャージャ部品 |
コストダウン事例2 量産:エキマニステー |
コストダウン事例3 量産:外角部ピン角加工 |
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従来:切削加工 提案:プレス加工 軽量化とコストダウンの両立 |
切り口:材料ロス低減 従来:2次元曲げ 提案:3次元曲げ コストダウン▲16%、軽量化▲30% |
切り口:工程数削減 従来:順送+プレス2工程 提案:順送工程内増肉加工 コストダウン▲15% |
モーターヨーク・トランスファープレスによる深絞り加工(産栄工業)
産栄工業は1970年創業の静岡県菊川市のプレス加工メーカー。中小企業庁ものづくり基盤技術の高度化「高張力鋼板深絞り加工・加工精度向上」認定企業。生産拠点は3拠点(国内2、海外1)、国内は菊川市、静岡県掛川市、海外は中国広東省東莞市に展開している。得意とするのはモーターヨークなどやや大きめの部品の深絞り加工。トランスファープレスを使用して製造する。
展示品は量産中の主力自動車部品で使用設備や工程内容が判る表示もあったが、いずれの製品も難易度が高く、同業者が展示を見てもまねができない自信作という。
量産:モーターヨーク | 量産:A/Tピストン&キャンセラー |
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材質:深絞り用冷間圧延鋼板SPCE 板厚:2.3㎜ 設備:200トントランスファープレス 工程:8工程+切削+単発プレス |
材質:高張力鋼板SPFH590 板厚:2.3㎜ 設備:1500トントランスファープレス 工程:10工程+切削 |
量産: センターサポート内環・外環 | 量産:カーエアコン用ベアリング |
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材質:冷間圧延鋼つや消し材SPCC-SD 板厚:1.6㎜ 設備:250トントランスファープレス |
材質:クロムモリブデン合金鋼SCM415 板厚:1.4㎜ 設備:300トントランスファープレス |
量産:電磁弁ケース | 展示パネル:産栄工業の製品群 |
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材質:深絞り冷間圧延鋼つや消し材 SPCE-SD 板厚:1.0㎜ 設備:110トントランスファープレス2台 連結工程:18工程 |
各種モーター部品、電磁弁・モーターケース等、テンションプーリー用部品、A/T部品、防振金具部品、電子制御ブレーキシステム部品 |
もうひとつの展示はコストダウン事例。いずれも実際に量産化されている。
ローターウォーターポンプ・トランスファープレス増肉加工(サトープレス工業)
サトープレスは1950年創業の愛知県豊田市のプレス加工メーカー。生産拠点2拠点(国内1、海外1)。国内は豊田市、海外はタイに展開している。得意とするのはローターウォーターポンプなどトランスファープレスによる増肉加工。
展示品はサトープレスの主力製品群で、トランスファープレスを主体とした製品が多い。トヨタ向けが多いことから、各部品ともシェアが非常に高い。
量産:主要製品 | 量産:タイ工場生産品 |
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<世界シェア> 上段 ケース・OCVソレノイド 8% ローターウォーターポンプ 18% 中段 ケース・ABSモーター 10% ストッパー・マスターシリンダー 国内80% 下段 ブラケット・パーキングロック 16% |
上右:ケース・ABSモーター 上中:ローターウォーターポンプ 下左:ブラケット・パーキングロック 下中:ストッパー・マスターシリンダー 駆動系、車体系部品に対応 |
OCV部品・順送プレス増肉加工(三全精工)
三全精工は1957年創業の長野県塩尻市のプレス加工メーカー。生産拠点は2拠点(国内1、海外1)、国内は塩尻市、海外は2005年からタイに展開している。得意とするのは精密順送プレス。カメラ部品で鍛えた精密金型の設計製作技術がコア技術で、順送プレスラインは30~300トンまで22ライン保有する。自動車向けは電機系のティア1向けが多く、ナビゲーション部品やLEDライト部品などが多いという。
展示品はレバーのプレス品とシャフトの切削品の溶接構成を順送プレス増肉技術でシャフト部も一体加工し、コストダウンを図っている。
コストダウン事例7 量産:オイルコントロールバルブOCV部品 |
展示パネル:コストダウン事例解説 |
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材質:冷間圧延鋼板SPCC 板厚:2.3㎜ 切り口:工法変更で2部品を1部品に 従来:プレス板金+切削=圧入カシメ 提案:順送内板鍛造プレスで一体化 コスト低減▲30% |
本社:長野県塩尻市 タイ工場:チョンブリ県 |
表面処理:ライナーレス軽量シリンダー、高硬度浸炭ミッションギア
表面処理は軽量化にも有効で重要な技術分野。近年はダイアモンドライクコーティングDLCなど、高価な表面処理も流行っているが、コストを抑えた従来技術の改良製品の展示があり取材した。
(出展会社概要)
会社名 | 展示品 | 特徴 |
---|---|---|
パーカー熱処理工業㈱ (東京都中央区) |
ライナーレス軽量シリンダー | 「PNTプロセス」 SiC入り高潤滑電解ニッケルめっき 研磨して使用する |
高硬度浸炭ミッションギア | ICBP全自動低圧浸炭・真空熱処理 |
ライナーレス軽量シリンダー
パーカー熱処理工業は1956年創業の東京都中央区の表面処理メーカー。生産拠点は国内5拠点。神奈川県川崎市2拠点、埼玉県比企郡滑川市、山梨県北杜市、茨城県水戸市に展開している。
展示品はロードレースでも使用されるシリンダーブロック。「PNTプロセス」と呼ばれる高潤滑電解ニッケルめっきをシリンダー内面に施している。一般にめっき後に研磨は行わないが研磨して使用するという。一般のシリンダーブロックは鋳鉄ライナーが組み込まれ重いが、シリンダーライナーを不要とし、軽量化と耐久性を両立している。
展示品:ライナーレス軽量シリンダー「PNTプロセス」 | 展示パネル:高潤滑電解ニッケルめっき「PNTプロセス」 |
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左:研磨前 右:研磨後 SiC入り高潤滑電解ニッケルめっき 研磨して使用する |
アルミニウム合金の摺動性能を飛躍的に向上させるために電解ニッケルめっきにSiCを分散させた複合被膜 硬度450~650 mHV |
高硬度浸炭ミッションギア
もうひとつの展示は「ICBP浸炭」という全自動低圧浸炭と真空熱処理加工したミッションギア類。一般の浸炭に比べて硬度が高い。有効硬化層1㎜で比較すると、一般ガス浸炭は硬度Hv400だが、ICBP処理では硬度Hv550と37%高い。
展示品:高硬度ミッションギア ICBP浸炭処理品 |
展示パネル:ICBP浸炭 |
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ICBP浸炭:硬度Hv550(有効硬化層1㎜) | 有効硬化層1㎜で比べるとICBPは硬度が37%高い ICBP浸炭:硬度Hv550 一般ガス浸炭:硬度Hv400 |
試作専業メーカー:無検査納入認定工場
自動車会社やティア1には試作部門があることが多い。試作部門では購買管轄の取引先に加えて、試作専業メーカーも管理する。今回、試作専業メーカーからの展示があり取材した。
自動車産業では量産品の場合、納入品に対して検査は行わない。サプライヤーの検査を信頼し、無検査納入認定制度が行われていることが多い。言い換えれば、検査をさせるような会社とは取引できないということになる。ここが電機業界との大きな違いともいえる。また、電機業界の抜き取り検査基準では、大ロットの場合、抜き取りでいくつか不良があっても合格となるが、自動車産業では目標は常にゼロで不合格となる。試作部門においても同様な制度があり、毎年更新があり、納入不良のワースト5に入ったり、重大不良を出すと認定を取り消されるという。
(出展会社概要)
会社名 | 展示品 | 特徴 |
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㈱三珠 (神奈川県川崎市) |
試作:トランスミッションケース 材質:アルミ合金 工法:削りだし加工 |
・試作専業メーカー ・日産自動車㈱実験試作部 無検査納入認定企業 |
試作アルミ合金製トランスミッションケース
三珠は1980年創業の神奈川県川崎市の試作専業の機械加工メーカー。試作専業で、日産自動車の実験試作部から無検査納入認定を受けている。
展示品は大物のアルミ合金のトランスミッションケース。量産はアルミダイカストになるが、初期の試作段階では機械加工による削り出し対応になる。年間5000点以上の試作部品を製作し、材料手配から表面処理までワンストップで対応する。実際の制作には指定公差の入った2D図面が必要だが、3DモデルのCAD情報も入手できると、CAMデータへの変換も容易になり、納期も短縮できるという。
試作:トランスミッションケース | 展示パネル:試作部品 |
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日産自動車㈱実験試作部 無検査納入認定基準証書 | 年間5000点以上の試作部品を製作し、材料手配から表面処理までワンストップ対応する。 |
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キーワード
ものづくり、コストダウン、軽量化、樹脂成形、鋳造、鍛造、プレス、表面処理、めっき
<自動車産業ポータル マークラインズ>