オートモーティブワールド2020:電動化関連技術(1)
第11回EV・HEV駆動システム技術展ほか:e-Axle、モーター、巻線技術など
2020/01/28
- 要約
- Dana:e-Drive Axle、e-Drive Unit
- BorgWarner:統合ドライブモジュール、P2ハイブリッドモジュール
- 日本電産:EV用50/70/100/150/200kW E-Axle
- 黒田精工:接着積層コア、マグネット樹脂固着
- 大同特殊鋼:円弧磁石多層IPM-SM、異方性ネオジムボンド磁石
- TOP、ADATA:モーター
- NITTOKU:カセット方式巻線工法
- ファインスティール:平角線自動巻コア、EV/HEV用コア
- ソマール:絶縁樹脂(平角線溶接部絶縁用)
- ティーエス プレシジョン、アサダ:コイルフォーミング成形
- 寧波沃伏龍機電:巻き取り式水冷ハウジング
- JST、兼松KGK:中空シャフト
要約
オートモーティブワールド2020(会期:2020年1月15日~1月17日、会場:東京ビッグサイト)の青海展示棟で開催された第11回EV・HEV駆動システム技術展および第12回カーエレクトロニクス技術展、西展示棟の第6回自動車部品&加工EXPO、第10回クルマの軽量化技術展における電動化関連の展示アイテムのうち、本稿では主に電動パワートレイン、モーター関連部品の内容を紹介する。
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E-Axleを並べた日本電産の展示ブース | 青海展示棟の会場風景 |
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Dana:e-Drive Axle、e-Drive Unit
Dana(デーナ)はドライブトレイン、アクスル部品サプライヤーとして知られている。近年はカナダのTM4やイタリアのSME Group を買収するなど電動化に力を入れており、今回もモータータイプのアクスルにシフトした展示が行われていた。
eS5700r e-Drive Axle
展示ブース正面に配置されていたトラック、バス用のe-Drive Axleで、最高出力130kWのモーターとインバーターに同軸減速機を含むドライブトレインを一体化した。TM4の中国工場で生産中とのこと。
eS4500i e-Drive Unit
Danaの「SPICER」ギアボックスを「TM4 MOTIVE」のモーター・インバーターと結合したもので、商用小型トラックをターゲットとしている。
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eS5700r e-Drive Axle | eS4500i e-Drive Unit |
eG3000i e-Gearbox System
EV用パワートレインを実現することが可能な1速減速機。最大トルク270Nm、最高出力120kW、入力回転数14,000rpmまでのモーターと組み合わせる。
48V eS1100i LSEV
低速で走行する電動車用の減速機。48VのSSGタイプの駆動モーターと組み合わせる。
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eG3000i e-Gearbox System | 48V eS1100i LSEV |
IPM 300 Motor Generator System
Danaが買収した英国Ashwoodsの製品で、建機で使う油圧ポンプにディーゼルエンジン(20kW)とモーター(10kW)と組み合わせたハイブリッドシステム。ポンプはエンジンで駆動することもモーターで駆動することも可能。
IPM 200 Motor
これもAshwoodsの製品で、最大トルク45Nm、最高出力5~15kWのモーター。電源電圧24~96Vの搬送装置や軽車両をターゲットとしている。
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IPM 300 Motor Generator System | IPM 200 Motor |
バッテリーパック・クーリング・プレート
バッテリーパックの中に組み込んでバッテリーを冷却するためのアルミ製の水冷冷却板。Danaのアルミブレージングの技術を活かして冷却均一性の確保および軽量化を実現したとのこと。
冷却機器としてはこの他にIGBTの両面を水冷するパワー半導体冷却器やADASコントロールユニット冷却器も展示していた。
FCスタック、金属セパレーター
燃料電池スタックとスタックを構成する金属セパレーターを展示。電気バスやハイドレール等の公共交通システム向け燃料電池用バイポーラプレートで、シール一体型セパレーターによる気密性向上、コストおよび部品点数低減に貢献するとのこと。
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バッテリーパック・クーリング・プレート | FCスタック、金属セパレーター |
BorgWarner:統合ドライブモジュール、P2ハイブリッドモジュール
BorgWarner(ボルグワーナー)は変速機などの動力伝達機構で知られている。同社ブースでは、2015年に買収したRemy(レミー、北米のモーター、電装品メーカー)、2017年に買収したSevcon(セブコン、英国の電動車両向けパワーエレクトロニクスメーカー)の技術を活かした電動パワートレインを多く展示していた。
P2ハイブリッドモジュール
エンジンとトランスミッションの間に配置されるP2モジュールで、トラクションモーター、エンジンディスコネクトクラッチ、ローンチデバイス、デュアルマスフライホイールを小型パッケージ内に統合している。展示品は開発品で量産は未定。
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P2ハイブリッドモジュール 展示パネル:P2ハイブリッドモジュール |
ハイブリッド用モーターのステーターとISG |
統合ドライブモジュール(iDM)
モーター、インバーター、トランスミッションから成るシステム。モーターはヘアピンタイプの巻線を使用した旧RemyのNVH250を搭載、最高出力は125kW@330VDCとなっている。
HVH410電気モーター
旧Remyの大型電動車用モーターで重量は140kg、最大トルク2,000Nm、最高出力270kW。量産品で、ハウジングに内蔵されたタイプと、ローター/ステーターアセンブリタイプがある。
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統合ドライブモジュール(iDM) 展示パネル:統合ドライブモジュール(iDM) |
HVH410電気モーター |
P3ハイブリッド向けチェーンとヒーター
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P3ハイブリッド向けチェーンとヒーター |
画像中央はスズキのソリオに搭載されているマイルドハイブリッドシステムのチェーンドライブで10kWのモーターと組み合わせている。右側は電動車のキャビン用のヒーター。
日本電産:EV用50/70/100/150/200kW E-Axle
日本電産では中国の工場で生産中/生産準備中のE-Axleと呼ぶモーター・インバーター・減速機一体の大小ユニットを5種類並べて展示していた。量産を開始しているのは広汽グループの「Aion S」「Aion LX」向けの150kWモデルのみであるが、小型化した出力100kW、70kWのユニットを2020~21年に、50kW、200kWのユニットを2022~23年に量産開始したい、としている。これらは浙江省の平湖工業圏に新設したモーター工場での生産を予定しているが、減速機は別途購入するとのこと。
E-Axleはモーター・インバーター・減速機を一体にしたEV用トラクションユニット。モーターのコイルは冷却油で直接冷却し、インバーターは水冷としている。今回の展示は外形サンプルのみで技術展示やカットモデルはなかった。
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E-Axle一覧 | 量産開始したNi150Ex:150kWクラス |
(拡大画像) Ni50Ex:50kWクラス / Ni70Ex:70kWクラス / Ni100Ex:100kWクラス / Ni200Ex:200kWクラス
黒田精工:接着積層コア、マグネット樹脂固着
黒田精工では同社が手がける、だぼ積層、レーザー溶接積層、接着積層という3つの積層工法を紹介。特にGlueFASTECと名付けた接着積層コア工法に重点を置いて展示していた。接着積層コアは、高精度、低鉄損、高抜熱性、高剛性、低振動、低風きり音、高剥離強度など、従来のカシメ積層より優れた点があるとし、電磁鋼板の薄板化が進む電動車用モーター用途の市場拡大に向けて期待が高かった。
接着積層コア以外では電動車に多い埋め込み磁石型同期モーターのローターコアに挿入される磁石を固定する手段として熱硬化性樹脂を用いたマグネット樹脂固定についても提案していた。
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黒田精工の展示ブース 展示パネル:接着積層コア「GlueFASTEC」 |
電動車用コアの展示 |
大同特殊鋼:円弧磁石多層IPM-SM、異方性ネオジムボンド磁石
大同特殊鋼(ダイドー電子)では、粉末微細化と粒界拡散技術によるPLP(Press Less Process)焼結Nd磁石(重希土類レス/フリー)や熱間押出加工Nd磁石(MQ3 NEOQUENCH-D)も展示していたが、本稿では新しい展示として、(1) 円弧磁石多層IPM-SM、(2) 異方性ネオジムボンド磁石を紹介する。
円弧磁石多層IPM-SM
リング形状が作りやすい熱間押出加工Nd磁石の活用を検討。複数の円弧磁石を使用してリラクタンストルクを向上しつつ、磁石トルクも大きく出来る。V型配置のHEV用モーター(トヨタ 第3世代プリウスのモーター)と比較して、最大トルクが11%、最高出力が21%向上する。使用する磁石はリング型を切断するのではなく、形状自由度が高いPLPの活用を推奨していた。
異方性ネオジムボンド磁石
主に補機用モーターに使用するボンド磁石の新たな取り組みとして、等方性ではなく異方性のネオジム磁石が展示されていた。これはボンド磁石の成形工程を磁場中で行ったもので、残留磁束密度、保磁力とも等方性ネオジム磁石に対して向上している。
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展示パネル:円弧磁石多層IPM-SM | 展示パネル:異方性ネオジムボンド磁石 |
TOP、ADATA:モーター
TOP:車載用モーター
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車載用モーター |
TOP(Takefu Original Production)は2003年に武生松下電器の清算後に設立されたモーターの開発・生産を行っている企業で、車載用としては電動パワーステアリング(EPS)用モーターの他、駆動用のモーターも手がけている。
展示されていたHEV駆動用モーターは現在量産中のスバルXVに搭載されている10kWの埋込み磁石型同期モーターで、12スロットの分割コア、丸線の集中巻で樹脂モールドされている。共同開発品(磁気回路設計はスバルが担当)でステーターAssy、ローターAssyの形で納入している。
ADATA:バイク、カート用モーター
ADATAはメモリーのメーカーとして知られる台湾の企業だが、パワートレイン部門があり、開発を含む50名の体制で2年前から取り組んでいる。電動バイク向け主体で電動パワートレインを手掛け、中国、台湾向けに生産している。
展示品は10~20kWの電動バイクやカート用のモーター、コントローラーで、ほとんどの製品は電源電圧がDC48~96V、効率91%以上としている。
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20kWモーター | バイク用モーター、コントローラー |
NITTOKU:カセット方式巻線工法
巻線機メーカーのNITTOKU(2019年8月に日特エンジニアリング株式会社から社名変更)ではカセット方式の巻線工法を新技術として前面に出して紹介していた。
従来のインサータ方式では、前工程の「巻線」から「コイル挿入」までに巻いたコイルがバラバラになって重なる部分が発生し、占積率の低下や、信頼性が低下するといった課題がある。カセット方式は、「巻線」工程で整列した巻線を装填したカセットを使って「コイル挿入」を行い、コイルを整列することで占積率の低下を防ぐ(45%→50%に向上)。
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カセット工法によるステーター | 展示パネル:高効率モーターの巻線方式 |
カセット方式はインサータ方式より占積率が高いだけでなく、エナメル線へのダメージが少なく、コイルエンドサイズも小さい。また、線径が細い巻線を使用するため、ヘアピンタイプのSC巻線より高回転での性能が優れると主張している。
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展示パネル:カセット方式の解説 | 展示パネル:カセット方式と他方式の比較 |
ファインスティール:平角線自動巻コア、EV/HEV用コア
ファインスティールエンジニアリングは「平角線自動巻コア」を前面に展示していたが、実物にはカバーがかけられ公開されていなかった。「平角線自動巻コア」は、ヘアピンのようなセグメントコイルを挿入して溶接する通常の工法ではなく、切らずに平角線をコアに巻く独自の工法とのことだが、詳細は不明。
同社は中国浙江省に工場があり、モーター用コアを各社に納入しているとのことで、EV、HEV用モーターコアが展示されていた。
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平角線巻線はカバーで隠されている | EV用モーターコア |
また、コアのスタンピング以外に、オルターネーターの巻線、誘導モーター用ローターのアルミ導体鋳造なども行っていて、融点が高く生産時は課題が多い銅鋳造ローターも展示していた。
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オルターネーターのステーター巻線Assy | 銅鋳造ローター |
ソマール:絶縁樹脂(平角線溶接部絶縁用)
電動車用モーターでは、ホンダの2モーターハイブリッドシステムであるi-MMD(アコード、インサイト等に搭載)のようにセグメントコイル(SC)式の巻線が増加している。平角線を用いたセグメントコイル巻線ではヘアピン形状に成形したエナメル線をステータのコアに挿入後に端部を溶接してコイルとしているが、溶接部分は絶縁皮膜がなくなるため絶縁樹脂を用いて絶縁を行う。
展示されていた耐熱性の端子封止用絶縁材の場合は、絶縁材の粉体に過熱した巻線後のステータAssyの端部を漬けて付着させた後、170℃の炉で20分程度で硬化させるのが一般的とのことであった。他にマグネット接着剤や接着積層コア用の接着剤も展示されていた。
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HEV/EV用絶縁樹脂の展示 | 展示パネル:端子封止用絶縁材料 |
ティーエス プレシジョン、アサダ:コイルフォーミング成形
ティーエス プレシジョン: 平角線を用いたSC巻線
平角線を用いてセグメントコイル(SC)巻線を行う場合に、平角線を1ターンコイルとなるヘアピン形状に成形するフォーミング成形機を紹介。ドイツ発祥の技術で、フォーミング、チャック、ベンディングスライドを組み合わせたマルチフォーミングが可能とのこと。
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ティーエス プレシジョンの展示 (第一実業のブースに出展) 展示パネル:会社案内 |
金型と成形したコイル |
アサダ:銅バスバーの成形
ばね材専門商社のアサダが取扱っている台湾製フォーミングマシーンによる成形を実演していた。銅バスバーの成形で複数の折り曲げを行ってタクトタイムは7.3秒。従来はバネメーカーの成形機として利用されてきたが、近年は電動車関連の巻線やバスバー成形の引き合いが増えているとのこと。
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台湾製のフォーミングマシーン 拡大画像:銅バスバーの成形 |
成形したバネとセグメントコイル、バスバー |
寧波沃伏龍機電:巻き取り式水冷ハウジング
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巻き取り式水冷ハウジング 拡大画像:左端はアルミ材を丸めて接合する前の加工品 |
寧波沃伏龍機電 (Ningbo Wolf Electro-Mechanical Co., Ltd.) は中国浙江省寧波市のアルミ製モーターハウジングのメーカーで、巻き取り式液冷モーターケースを展示していた。水冷のモーターハウジングは、高圧鋳造法(HPDC)、低圧鋳造法(LPDC)、砂型を用いた重力鋳造法等があるが、展示品はこれらと異なり、アルミ押し出し材を丸めて成形するものである。
水冷のウォータージャケットは押し出し材の中空部分がそのまま使われるので密閉性は良いが、丸めて1周した部分を溶接するので、その部分の管理が重要となる。展示品は接合後に加工しているため、接合面は確認出来なかった。
軸方向にずらしながら複数回巻いて長尺ハウジングとした回転式または循環式液冷モーターケースもある。
JST、兼松KGK:中空シャフト
JST:3部品を摩擦圧接で接合
EV用モーターの軽量化手段の1つである中空シャフトを紹介。中央のパイプと両端の鋳実部材の3部品を摩擦圧接で接合したもので、展示によると鋳実品3.25kg→中空シャフト1.55kgの軽量化を実現したが、コストは15~20%程度アップするとのこと。
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中空シャフトの展示(西展示棟) 中空シャフトの展示(青海展示棟) |
中空シャフトのカット品 |
兼松KGK:GFM製の中空シャフト鍛造機
オーストリアGFM製の中空シャフト鍛造機を紹介。都筑製作所が紹介していたラジアルフォージングの加工機は同社が納入したもので、日本には全部で4台程度が自動車部品の加工用に稼動している模様。
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中空シャフトの展示 | 展示パネル:GFM製の中空シャフト鍛造機 展示パネル:ラジアルフォージングの様子 |
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キーワード
オートモーティブワールド、電動化、軽量化、鍛造、鋳造、eAxle、モーター、インバーター、ジェネレーター、トランスミッション、減速機、ヒーター、Dana、BorgWarner、日本電産、黒田精工、大同特殊鋼、TOP、ADATA、NITTOKU、ファインスティール、ソマール、ティーエス プレシジョン、アサダ、寧波沃伏龍機電、JST、兼松KGK
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