NVIDIAの自動運転用AIプラットフォーム「DRIVE AGX」

トヨタ、いすゞ、スバル、Audi、Daimler/Boschなど450社が採用

2018/10/12

要約

NVIDIAのジェンスンCEO
コンピューターの性能を10年間で1,000倍高めたと発表するNVIDIAのジェンスン・フアンCEO(GTC Japan 2018で撮影)

  NVIDIA主催のGTC(GPU Technology Conference)Japan 2018が、2018年9月に東京で開催された。本レポートは、NVIDIAのジェンスン・フアンCEOの基調講演と同社技術顧問 馬路 徹氏の「自動運転車からクラウド・サポートまでのトータルシステム」と題した講演を中心に、同社が提供する自動運転用AIプラットフォーム「NVIDIA DRIVE AGX」システムの概要と、各社の採用状況を紹介する。

  DRIVE AGXは、自動運転車に「Xavier(エグゼビア)」と呼ぶ自律動作マシン向けプロセッサー、外部環境を認識し判断するAI、内部環境、ドライバーの状況を認識するAIを搭載する。

  一方、自動運転の実現には、データセンター、クラウド・サーバーのサポートが必要であり、ここでAIのディープラーニングのトレーニングやシミュレーションを行う。

  現在世界の450社以上の自動車メーカー、サプライヤー、センサー企業、地図会社などがNVIDIA DRIVE AGXを採用し、そのうち55社が日本に本社を置く企業とのこと。本レポートでは、最近発表されたトヨタ、スバル、いすゞ、Audi、DaimlerとBoschおよびヤマハ発動機の導入について報告する。


関連レポート:
NVIDIA:ディープラーニングの急速な進化と活用事例(2018年7月)



自動運転システムNVIDIA DRIVE AGXを発表

  GTC Japan 2018においてNVIDIAのジェンスン・フアンCEOは、冒頭に、アクセラレーティッドコンピューティングは、多くの重要な領域で、10年間で1,000倍の性能を達成したと発表した。NVIDIA GPUの導入によりディープラーニングが急速に発展し、AIの性能は飛躍的に向上した。さらに、コンピュータ・テクノロジーを研究し、アーキテクチャ、システム、データセンター、システムソフトウェア、アルゴリズムからアプリケーションまで革新している。それらが統合されて、オーケストラのように総合力を発揮する。NVIDIAではハードとソフトを同時にデザインしており、同社のエンジニアの半数はソフトウェア担当である。

Xavier
自動運転を制御する車載SOC「Xavier」(出典:NVIDIA、一部を除いて以下同様)

  次いで「Xavier」と、「NVIDIA DRIVE AGX」と呼ぶ新たなラインのシステムを紹介した。「Xavier」は世界で初めて自律動作マシン向けに開発されたプロセッサーで、これまでに生産された最も複雑なSOC(system-on-a-chip)とのこと。わずか30Wで毎秒100兆回以上のオペレーションを行う。8,000人年のエンジニアを投入して開発した。Dual Execution(冗長性)など機能安全にも万全を尽くしている。

「NVIDIA AGX」製品群は、既存のシステムを含めて、新たなブランドとして統一したもので、末端のAIに最大級の計算能力を必要とする自律マシンのための世界初のシステム群である。

  • 自動運転向けのNVIDIA DRIVE AGX
  • 各種ロボット向けのNVIDIA Jetson AGX
  • 医療画像用のNVIDIA Clara AGX、の3つのシステムがある。

    DRIVEとJetsonには、それぞれシミュレーターがセットされ、

  • 自動運転向けのDRIVE ConstellationとDRIVE Sim
  • 各種ロボット向けのJetson ISSAC

  が用意されている。



NVIDIA DRIVEの構成

DRIVE AGXの構成
DRIVE AGXの構成(NVIDIA資料から作成)

  NVIDIA DRIVEは、運輸交通産業に自律運転車をもたらすオープンプラットフォームである。最高レベルの機能安全技術や方法論が組み込まれている。適用する技術のレベル(スケーラビリティ)によるが、複数のディープラーニングモデルとアルゴリズムを並行して実行できる。

  右図はNVIDIA End to End DRIVE Platformの構成を示す。自動運転車にはDRIVE OSがあり、Xavier(SOC)に加えて、DRIVE AV(外部環境認識、認知・自己位置推定・経路作成などを判断するAI)/DRIVE IX(内部環境認識、ドライバーの状況を認識するAI)や顧客のアプリケーションが搭載される。

  データベース側には、ディープラーニング用スーパーコンピューター 「NVIDIA DGX/NGC(NVIDIA GPU Cloud)」、「Deep Learning Framework」や「AI TRAINING」、シミュレーションのために「Drive Sim & Constellation(次項参照方)」などが搭載されている。DGXスーパーコンピューターでディープラーニングのトレーニングを行った後、Drive Sim & Constellationでソフトウェアのテストと検証を実施する。

  DRIVEプラットフォームはEnd to Endプラットフォームと称しているように、AIのトレーニング、シミュレーションから実走行まで、また地図作成・自己位置確認、環境認識、経路設定まで、自動運転を一貫して支えることができる。さらに、レベル2からレベル5までの自動運転に適用できる。

NVIDIA DRIVE End to End Platform NVIDIA DRIVE End to End Platform
NVIDIA DRIVE End to End Platform


シミュレーションを担うNVIDIA DRIVE ConstellationとDRIVE Sim

  自動運転車の導入には、膨大な距離のテスト走行が必要とされる。しかし、「人間ドライバーの力量より20%向上した自動運転車の開発には110億マイルのテスト走行が必要で、そのためには、100台のテスト車両が365日、24時間、平均時速25マイルで走行して518年かかる」との試算結果もあり、実走行だけで必要なテスト走行をすることは不可能である。そこで、自動運転車の導入が現実になりつつある現在、シミュレーションの重要性が改めて認識されている。

  NVIDIA DRIVEでは、DRIVE SimとDRIVE Constellationの2つのシステムがシミュレーションを担う。

  DRIVE Simはソフトウェアで、フォトリアル(写真のように鮮明)なデータの流れを作成し、膨大な数の種々のテスト環境を作り出す。例えば、暴風雨や吹雪などの異常な天候、日中の様々な時間帯のまぶしい太陽光、夜間における限定された視界、あらゆる路面および地形、さらには通常ごく稀にしか遭遇しない条件を再現する。危険な状況はシミュレーション内に記述しておき、人間を危険にさらすことなく、自動運転車が反応する能力をテストできる。

  DRIVE Constellationは、自動運転車のシミュレーターで、DRIVE Simソフトウェアを稼働させ、バーチャルリアリティにおいて何十億マイルのテスト走行を行う。Constellationのスーパーコンピューターが、センサーのシミュレーションデータを、それらがあたかも実際に路上を走行する車のセンサーによるデータであるかのように処理し、アクセル・ブレーキやハンドルを操作してバーチャル走行する。

  次の瞬間には、新たなセンサー情報を受け取り、同じことを繰り返す。このサイクルは1秒間に30回行われ、「実行されているアルゴリズムとソフトウェアが、シミュレーション上の車両を正しく操作しているか」を検証する。このようなフィードバック ループを、「Hardware-in-the-loop(ループ内に指令を出すハードウェアを持ったループ)」と呼ぶ。

  シミュレーション結果によりソフトウェアを修正すると、修正したソフトウェアで再度シミュレーションを試み、この繰返しで自動運転車のAIはさらに賢くなっていく。

  現在自動運転開発が最も進んでいるとされるWaymoの試作車は、Googleの時代から約10年間で800万マイルのテスト走行を行ってきた。しかし、現在、毎日800万マイルのシミュレーション走行をしているとのこと(NVIDIA資料)。

 

SCENARIO/VEHICLE/WORLD MODEL
シミュレーションのためのSCENARIO/VEHICLE/WORLD MODEL

DRIVE Constellationをパートナー企業に公開、協業によりシステムを強化

  2018年9月、NVIDIAはDRIVE ConstellationとDRIVE Simをシミュレーション パートナー企業に公開すると発表した。公開し協業することで互いから学び、プラットフォームの奥行と柔軟性を向上させ、テストと検証の効果向上を目指す。

  その背景としては、以下のような認識がある。安全な自動運転の開発において、シミュレーションが有効なツールとなるには、変化に富む、予測不可能な現実世界の特性を正確に反映させる必要がある。

  仮想環境は、本物そっくりに見えるだけでなく、物理法則に基づいている必要がある。

  また、仮想車両は、現実世界の車両と同じ動きを再現できる必要がある。ブレーキを踏む、幹線道路に加速して進入する、でこぼこ道を走るなどの動作は、その車両に実際に起こる状況と同様の車両力学を再現したものでなければならない。

  事故が発生しそうな現実的状況を生み出す場合、まず現実世界の事例を観察して整理し、その後シミュレーターで天候や明るさ、路面などの状況を変更しながら様々なシナリオを作成する。テスト環境の地域の交通慣習も忠実に再現しなければならない。オープンプラットフォームにより、こうした現実世界の事例を数多く収集する。

  DRIVE Constellationの構築に関しては、これまでも環境モデルの専門家、車両およびセンサーモデル、交通およびシナリオモデルの専門家など、シミュレーションを手掛ける各社がNVIDIAと協業し、右上図のようなライブラリーを充実させてきた。



冗長性と多様性により自動運転車の安全を確保(ジェンスン・フアンCEO)

  ジェンスン・フアンCEOの基調講演の後に、プレス向けのQ&Aに時間がとられた。そこで、Uber車の死亡事故などがあるなか、自動運転が計画通りに進むと考えるかとの質問があり、ジェンスンCEOは、以下のように答えた。

  • 自動運転車の安全性は、最も重要かつ困難な課題である。しかし、考え方はシンプルで、「冗長性(Redundancy)」と「多様性(Diversity)」により安全性を確保することになる。コンピューターにおいて、どの部分も弱みにならないよう相互チェックが必要で、NVIDIAのシステムにおいても、全ての機能が他の全ての機能をチェックするようにしてある。また、何か異常を察知したら、減速する、車を止めるなどの手段もとれるようにする。
  • 輸送業界は巨大な産業であり、多くの企業が協力して安全性を高める努力をしている。力を結集すれば、大きな力になる。安全の問題は解決しなければならないし、実際日々向上している。
  • 今日のEVは、部分的にせよ既に優れた自動運転機能を持っている。今後発売されるEVも、進んだ自動運転機能を持つことになるだろう。また、2年以内に、世界の多くの地域でロボットタクシーが実現すると考える。長距離トラックも、3~4年の間に自動運転機能を搭載しドライバーを補助するようになるだろう。長距離輸送はドライバーにとって激務であり、労働力不足の問題もある。必ずしもドライバーレスでなくても、ドライバーの疲労軽減に貢献するシステムが実現すると思われる。


トヨタ、Audi、DaimlerなどがNVIDIA DRIVEを採用

  NVIDIA によると、大手自動車メーカーでは、Audi、VW、Daimler、Tesla、Volvoなどの各社と提携している。世界の450以上の乗用車/トラックメーカー、ティア1サプライヤー、地図業者、センサー・メーカーなどが採用し、そのうち55社が日本に本社を置く企業とのこと。

  日本メーカーでは、トヨタ、いすゞ、スバルなどの自動車メーカー、TIER Ⅳ、ZMPなどがNVIDIA DRIVEを採用している。

  現在、世界の先進的な自動運転プロジェクトのほぼ全てに、何らかのNVIDIA製品が使われているという。

日本の自動車メーカーやIT企業が採用 世界で幅広く採用されている
日本の自動車メーカーやIT企業が採用 世界で幅広く採用されている

トヨタ:NVIDIA DRIVEを2020年に発売する車に搭載

  トヨタとNVIDIAは、2017年5月に協業すると発表した。現在、トヨタは、NVIDIA DRIVE AGX Xavier を AI の頭脳として 2020 年から発売する車両に搭載する計画を進めている(高速道路など自動車専用道路での自動運転車となる見込み)。

  一般道での自動運転については、トヨタは移動サービスの自動運転とオーナーカー向けを並行して開発している。「e-Palette」のような移動サービス車はレベル4を目指し、オーナーカーは、レベル2、3と進化させ、将来は完全自動運転を目指すとしている。

スバル:NVIDIAの技術で先行開発

  スバルは、2020年にも高速道路等でのレベル2、2024年をめどに高速道路等でのレベル2以上を実現し、さらにそれを高速道路→自動車専用道→一般道向けにと高度化していく方針。

  そこで先行開発プラットフォームとして、NVIDIAの製品を導入している。自動運転における「周囲認識」「パスプランニング(PathPlanning)」「多重化」「ロバスト」「知能化」という部分にNVIDIAのAIを導入していく。

いすゞ:車線維持・ACCから始めて完全自律走行を目指す

  2018年9月、NVIDIAはいすゞが、NVIDIA DRIVE AGXプラットフォームの採用を進めていると発表した。いすゞは、DRIVE AGXの導入により、全方位の状況認識、車線維持およびアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)などの機能から始め、最終的には高度に自動化された車両を実現するとしている。

  いすゞは、2018~2020年度中期計画の重点開発領域に、AEBS(Advanced Emergency Braking System)の導入、隊列走行自動運転の開発などの課題を掲げている。

Audi:レベル3自動運転が可能な「Audi AI Traffic Jam」を開発

  NVIDIAとAudiは、10年以上にわたり提携してきた。AudiはNVIDIAの技術を活用し、2017~2018年に発表したAudi A8とAudi A6に「Audi AI Traffic Jam Pilot」を設定した。同Pilotは、世界で初めてレベル3の自動運転を可能にした(実際に路上で作動させるには法規上の問題をクリアすることが必要)。

  また、Audi A8、Audi A6およびパリモーターショー2018に出展したEV、Audi e-tron SUVでは、運転支援用やインフォテインメントのディスプレイに、NVIDIAのグラフィックス技術が採用されている。

DaimlerとBosch:NVIDIA AGX(Pegasus)を採用

  DaimlerとBoschは、市街地でレベル4およびレベル5の自動運転走行をする車両の開発で協力してきた。2018年7月に、NVIDIAのAIを採用すると発表した。NVIDIAは、自動運転に特化した高性能なAIプロセッサーを搭載したプラットフォーム「Drive AGX(Pegasus)」と、DaimlerとBoschが機械学習法を使用して作成した運転アルゴリズムを処理するシステムソフトウェアを提供する。DaimlerとBoschはまた、NVIDIAの専門知識をプラットフォームの開発にも活用していく。

ヤマハ:ラストマイルビークルを開発

  ヤマハ発動機とNVIDIAは、2018年9月のGTC Japanにおいて、ヤマハがNVIDIA Jetson AGX Xavierを幅広い製品群に採用すると発表した。「Jetson」は、自動運転向けの「DRIVE」とアーキテクチャを共有するロボット向けの製品で、日本では、デンソー(自動車部品)、コマツ(建機)、ファナック(FAロボット)、武蔵精密工業(工場自動化)など多くのメーカーが採用している。

  • ゴルフカートをベースとしたラストマイルビークルを開発する。自動運転技術の進化、MaaSとの親和性向上などを通じて、中山間部等の過疎地、観光地や都市部における新しい交通手段の社会実装を目指す。
  • UGV(無人農業用車両、Unmanned Ground Vehicle):農業用車両の自動化を進めることで、農業人口の減少、農作業の自動化、精密農業化の進行といった農業分野の課題解決に貢献する。2019年中には、AIを搭載した農業用無人車両の実証実験を開始する予定。
  • 産業用ロボット/産業用ドローン/マリン製品/その他の製品群にもNVIDIA Jetson AGX Xavierを導入する計画。

ヤマハが開発中のラストマイルビークル Jetson AGX Xavierを採用する日本メーカー
ヤマハが開発中のラストマイルビークル
(GTC Japan 2018で撮影)
Jetson AGX Xavierを採用する日本メーカー


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