【ものづくり】エヌプラス2018:一歩先行く自動車部品材料

アルミSiC複合材、耐熱Mg、CFRP複合発泡、超高強度CFRTP、シールドめっき、光反射防止処理など

2018/10/02

要約

 エヌプラス2018(会期:2018年9月26日(水)~9月28日(金)、会場:東京ビックサイト)は、プラスチック工業技術研究会が主催。エヌプラスとは新たな価値をプラスする機械・素材・技術の展示会で、ものづくりにおける「課題解決」をテーマにしている。来場者の75%が製造業で、エンジニアが多く参加する専門展示会として開催され、今年は240社が出展した。会場では来場したエンジニアが高機能化を提案する素材・加工メーカーに質問している光景が多く見られた。本稿では一歩先を行く自動車部品材料を中心に取材した。

入場登録所 会場風景
エヌプラス2018
入場登録所
エヌプラス2018
会場風景



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軽量化メタル:アルミセラミックス複合材、耐熱マグネシウム合金

 軽量化の素材は、ハイテン鋼板、アルミニウム合金、カーボン繊維強化樹脂CFRPのほかにも様々な研究がなされている。今回の展示会では、鍛造アルミセラミックス複合材、耐熱マグネシウム合金の展示があり取材した。アルミセラミックス複合材は、軍事分野では戦車の甲板に使用されている。そのため、セメントメーカーなどでは古くからアルミセラミックス複合材の生産設備が整っている。その設備を活かせないかと自動車部品への適用拡大として、エンジンピストンやブレーキローターなどで研究されてきた。しかし欧州のハイエンドスポーツカーに鋳造のブレーキローターが採用されている程度で採用事例は非常に少ない。今回の展示品は鍛造品であり、技術的ブレークスルーが見られる。現時点ではレース用ではあるが、適用範囲は広がっている。

 もうひとつの展示は耐熱マグネシウム合金。マグネシウム合金は比重1.7でアルミの2/3、鉄の1/4と軽く、射出成形が可能で、アルミニウムよりも安価なこともあり、欧州車ではインパネまわりに採用されている。今回の展示品は鍛造品で、耐熱性が向上されており、エンジン部材としても使用可能となった。

 

(出展会社概要)

会社名 展示品 特徴
マテリオンブラッシュジャパン㈱
本社:米国マテリオン
工場:英国
レース用:鍛造ピストン、ライナー
鍛造ブレーキキャリパ
スプリーメックス® アルミセラミックス複合材Al-SiC
鍛造可能粉末冶金
1) 温間鍛造できる
2) アルミ最強材A7075に比べて
 高剛性1.5~2倍、疲労強度1.5~2倍
不二ライトメタル㈱
(熊本県長州町)
耐熱マグネシウム合金 アルミ最強材A7075より
150℃以上で高強度

 

アルミセラミックス複合材Al-SiC鍛造ピストン(マテリオンブラッシュジャパン)

 マテリオン社が得意とするのはスプリーメックス®というアルミセラミックス複合Al-SiC。展示品は実際のレースでの使用されているアルミセラミックス複合材Al-SiCの鍛造ピストンや鍛造ブレーキキャリパ。鍛造前の元の素材は粉末冶金法で作成されている。通常、粉末冶金法でできた素材は衝撃に弱いため、鍛造はできないが、独自の粉末冶金法によって微細な粒子構造となり、鍛造が可能。鍛造温度は300℃、セラミックスの配合は25%まで可能。特性表を見ると種類はいくつかあるが、どれもアルミ最強材A7075に比べて、弾性変形域の伸びずらさを示すヤング率が高く、剛性は約1.5~2倍。引張強度は同等だが、疲労強度は1.5~2倍近い。また、摺動性が良く、ライナーではコーティングが不要という。

展示品 展示パネル
アルミセラミックス複合材(Al-SiC)製 Al-SiC特性表
レース用:Al-SiCピストン(鍛造) レース用:Al-SiCブレーキ(鍛造)
ブレンボ(イタリア)

 

耐熱マグネシウム合金(不二ライトメタル)

 不二ライトメタル社が得意としているのは「次世代耐熱マグネシウム合金」。マグネシウム合金は耐熱性に課題があったが、熊本大学が耐熱マグネシウム合金を開発した。不二ライトメタル社は熊本県と熊本大学が参画する「熊本マグネ事業推進会」のメンバー企業で、適用開発を担当している。

展示品 展示パネル
試作:鍛造ピストン
耐熱マグネシウム合金WZ75製
WZ75材 温度別引張強度
アルミ最強材7075と比較すると常温では劣るが150℃以上でWZ75が勝る


カーボン・熱硬化性CFRP:複合発泡成形体、高速熱プレス成形、30分オートクレープ成形機

 エポキシ樹脂を使用する従来型の熱硬化性CFRPは織布などの長繊維で構成され、カーボン繊維量も60%以上ある。強度の優位性は保たれているが、さらなる軽量化と生産性改善のためのハイサイクル化が研究されている。今回の展示会では、複合発泡成形体と、10分高速熱プレス成形、30分高速オートクレープ成形機の展示があり取材した。

 

(出展会社概要) 熱硬化性CFRP加工

会社名 展示品 特徴
㈱積水化成品ヤマキュウ
(東京都立川市)
試作:リアトランクリッド
CFRP複合発泡成形体
熱プレス20分
またはオートクレープ3時間
タツミ化成㈱
(愛知県大府市)
試作:軽量リアスポイラー
ドライカーボン・エポキシ樹脂
高速熱プレス成形(特許)
加工時間10分
㈱羽生田鉄工所
(長野県長野市)
高速小型オートクレープ機
金型ヒーター加熱式
加工時間1/3、最短30分

注:CFRP (Carbon Fiber Reinforced Plastics カーボン繊維強化・樹脂):ゴルフクラブのシャフトが代表例。炭素繊維を重ねて樹脂で固めた複合材料。軽量で鉄並みの強度がある。加熱すると硬化する熱硬化性樹脂と加熱すると溶ける熱可塑性樹脂がある。
CFRTP (Carbon Fiber Reinforced Thermo Plastics カーボン繊維強化・熱可塑樹脂):加熱すると溶ける熱可塑性樹脂を使用する場合の略称。

 

CFRP複合発泡成形体(積水化成品ヤマキュウ)

 積水化成品ヤマキュウが得意としているのは、従来型の熱硬化性CFRPに積水化学のコア技術であるアクリル発泡体を同時成形した「CFRP複合発泡成形体」。中空部分にアクリル発泡体が詰まっており、軽量、高強度、耐衝撃性を兼ね備える成形体となっている。やや厚みが必要な部品に適している。

展示品 展示パネル
試作:リアートランクリッド
材料:CFRP複合発泡成形体
工法:オートクレープ成形
材料:CFRP複合発泡成形体
工法:熱プレス成形
材料:複合成形(長炭素繊維織布、エポキシ系熱硬化樹脂、アクリル発泡)
工法:熱プレス成形(加工時間20分)またはオートクレープ成形(加工時間3時間)

 

CFRPドライカーボンの高速量産成形技術(タツミ化成)

 タツミ化成が得意としているのは「ドライカーボンの高速量産成形技術」。熱硬化性CFRPを材料にして、オートクレープ(高温高圧炉)を使用せず、熱プレスによって最短10分で高速成形できる。プラスチックの射出成形用金型技術をドライカーボン生産技術に応用した。従来のオートクレープ工法と比較して高精度ながらコストダウン&量産を可能にしたもので、2013年8月に製法特許を取得している。

展示品 展示パネル
試作:軽量リアスポイラー
工法:1500トン熱プレス
スポイラー拡大(裏側から)
厚さ0.2㎜と薄く成形できる。
材料:複合成形(長炭素繊維織布、エポキシ系熱硬化樹脂、アクリル発泡)
工法:熱プレス成形(加工時間20分)またはオートクレープ成形(加工時間3時間)

 

30分オートクレープ(羽生田鉄工所)

 羽生田鉄工所は熱硬化性CFRPで使用するオートクレープ成形機(高温高圧炉)の製造メーカー。展示品は高速小型オートクレープRAC-2210。従来のオートクレープは加熱→保持→冷却のサイクルで約3~4時間かかっていたが、RAC-2210機の成形時間は1/3、最短30分も可能にする。改良内容は、金型の昇温方法の変更(熱風→ヒーター式)で、加熱、保持、冷却3工程のうちの2工程、加熱時間、冷却時間を短縮しているが、肝心の保持時間は同等となっているので成形には影響ない。小型高速オートクレープ機の缶内寸法はφ400㎜×φ560㎜だが、受注生産のため缶内寸法は自由な大きさで注文できる。

展示品 展示パネル
小型高速オートクレープ機
缶内寸法φ400㎜×φ560㎜
金型の昇温方法の変更(熱風→ヒーター式)により、加熱、保持、冷却3工程のうちの2工程加熱時間、冷却時間を短縮した。肝心の保持時間は同等。


カーボン・熱可塑性CFRTP:リサイクル樹脂、超高強度樹脂

 熱可塑性CFRTPは比較的新しい材料で、材料、工法ともに未完成であり、さらに配合によって性能も変えられるため、ポリマーメーカー以外からも材質提案がある。その中から今回、ニッチ分野に特化している2社を取材した。

 射出成形で30秒で生産できる熱可塑性CFRTPは従来の熱硬化性CFRPの低生産性を改善できると期待されているが、熱に弱い樹脂を使用し、カーボン繊維が2㎜以下と短く、配合量も30%以下であり強度に劣る。そのため、自動車メーカーなどから提起された様々な課題を克服するために、テーマ別に適用開発が進んでいることが分かる。

 

(出展会社概要) 熱可塑性CFRTP材料

会社名 展示品 特徴

㈱中屋敷技研
(青森県三沢市)

試作:商用車ホイールハウスカバー
熱プレス成形品
リサイクル・熱可塑性CFRTP
ベース樹脂PP
リサイクル・熱可塑性CFRTP
<ベース樹脂> 汎用プラスチック(PP、PETのみ)
<カーボン> 海外調達
㈱ウエストワン
(東京都港区)
量産:マウンテンバイクフレーム
射出成形(成形時間30秒)
超高強度・熱可塑性CFRTP Olimunllim ®
超高強度・熱可塑性CFRTP Olimunllim ®
<ベース樹脂> エンプラ(PA66、PEI、PEEK)
<添加材> オリジナル 米国メーカー製

注:CFRTP (Carbon Fiber Reinforced Thermo Plastics カーボン繊維強化・熱可塑性樹脂):生産性を改善するために、加熱すると溶ける熱可塑性樹脂を使用する。炭素繊維は短繊維で2㎜以下となる。カーボン繊維の配合量は30%以下が多い。
PP(ポリプロピレン) 汎用プラスチック、低価格、軽量、バンパー材
PET(ポリエチレンテレフタレート) 汎用プラスチック、低価格
PA66(ポリアミド(ナイロン)) エンプラ 中価格
PEI(ポリエーテルアミド) スーパーエンプラ 高価格
PEEK(ポリエーテルエーテルケトン) スーパーエンプラ 最高級耐熱材 高価格

 

熱可塑性CFRTP(中屋敷技研)

 中屋敷技研が得意としているのは、熱可塑性CFRTPの材料技術。展示品はリサイクル(リペレット)化が可能な熱可塑性CFRTPでコスト低減効果が大きい。一般的なプラスチックの射出成形では、製品よりも多くランナーやバリが出ることがあるが、粉砕機で粉砕して新しい材料に混ぜて使用する。しかし熱可塑性CFRTPの多くは、性能保証上の理由で再使用ができないという。リサイクルできるかどうかでコストは大きく変わる。中屋敷技研ではリサイクル性、コスト、性能のバランスを考慮した独自の配合設計を行っている。ベース樹脂はポリプロピレンPP、ポリエチレンテレフタレートPET材の汎用プラスチック2材質に特化している。また高価なカーボン繊維は海外調達している。そのためコストは熱可塑性CFRTPとしては破格だという。

展示品 展示パネル
試作:商用車ホイールハウスカバー
材料:熱可塑性CFRTP PPベース
工法:プレス成形
物性表:熱可塑性CFRTP PETベース
カーボン量10%、20%、30%

 

超高強度・射出成形用コンパウンド樹脂 (ウエストワン)

 ウエストワンは創業以来一貫して、世界中の“ハイエンド”で“ニッチ”な分野で活躍する企業の製品を取り扱う。今回提案する「超高強度・射出成形用コンパウンド樹脂」製品は米国製。一般的な熱可塑性CFRTP より30%以上高い強度の製品を提案できる。ベース樹脂材料はエンプラPA66、PEI、PEEKなどの高級品を使用する。

展示品 展示パネル
マウンテンバイク(MTB)フレーム


ADAS対応表面処理:電磁波シールドめっき、光反射防止処理

 ADAS (Advanced Driver Assistance System 先進運転支援システム)では電子制御ECUがそれぞれの機能で追加され、ますます増えている。誤作動を誘発する電磁波ノイズ対策は十分に行う必要がある。電子制御ECUの筐体は低周波ノイズに強い高価な金属製が多いが、展示品のようにプラスチックに電磁波シールドめっきを施した仕様で性能を満足すればコストダウンが可能になる。また自動ブレーキにはカメラシステムが必須部品となっており、正確な画像処理のために光反射防止処理を実施する必要もでてきている。

(出展会社概要)

会社名 展示品 特徴

塚田理研工業㈱
(長野県駒ケ根市)

車載ECU筐体用
電磁波シールドめっき

プラスチック用
高周波10メガHz~1ギガHz
日本パーカーライジング㈱
(東京都中央区)

車載カメラ用
光反射防止表面処理

低光反射率0.1%以下

 

車載電子制御ECU筐体用・電磁波シールドメッキ(塚田理研工業)

 塚田理研工業が得意としているのはプラスチックへの「電磁波シールドめっき」。展示品は電磁波シールドめっきされた電子制御ECUプラスチック筐体。シールドめっきはパソコン等家電用で30年以上の実績のあるが、自動車ではあまり普及していない。今後は自動運転車の実用化に向けて電磁波障害に対応する必要性がますます高まってくるが、一方で電動化に伴う軽量化により、電磁シールド性のまったくないプラスチックの使用が増えている。自動車で要求される周波数帯は100キロHz~6ギガHzと低周波から高周波まで広範囲なシールド性が必要になる。展示品は高周波用シールドめっきで、モーターを駆動しないECU筐体には問題なく使用できるが、モーターを駆動するECU筐体には、低周波に強い電磁波シールドめっきが必要となる。

展示品

電磁シールドめっき
高周波10メガHz~1ギガHz
無電解銅2μ+無電解ニッケル0.25μ
(アルミ3㎜相当)

電磁波を透過するプラスチックを挟んで両面のめっきが作用するため、めっき厚は薄くてもシールド効果は非常に大きい。

プラスチック+電磁シールドめっき

 

車載カメラ用・光反射防止処理(日本パーカーライジング)

 表面処理大手の日本パーカーライジング社は今後需要が増えると予想されるイメージング&センシング関連技術に対応し、光反射防止処理を開発した。可視光から赤外線波長において0.1%以下と低い光反射率を持つ表面処理。プラスチックやマグネシウムなどの金属素材にも適用可能。冷熱サイクル下でも安定している。

展示品

展示パネル

85度に傾けても反射しない



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キーワード
ものづくり、エヌプラス、N+、軽量化、複合材、アルミ、マグネシウム、セラミックス、SiC、樹脂、プラスチック、カーボン、CFRP、CFRTP、成形、プレス、めっき、高強度、耐熱、熱可塑性、熱硬化性、発泡、電磁波シールド

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