炭素繊維強化樹脂の最新技術:オートモーティブワールド2017 

積水化成品工業と旭化成が発泡樹脂とCFRPの複合材を展示

2017/02/06

概要

テクフォーマー Fグレードを使った成形品
CFRPと発泡樹脂の複合材を利用したトラックリッド(積水化成品工業が出品)

  オートモーティブ ワールド 2017 が、東京ビッグサイトにて2017年1月に開催された。その一環として開催された、第7回 クルマの軽量化技術展を中心に、展示概要を報告する。

  今回の展示で目立ったのが、炭素繊維強化樹脂(CFRP=Carbon Fiber Reinforced Plastics) の技術展示で、各ブースとも非常に賑わっていた。

 積水化成品工業と旭化成は、それぞれ発泡樹脂をCFRPで挟み込んだ素材をそれぞれ出展。CFRP単体の素材よりも、厚さは増すが、より軽量になることを訴求。

 東レグループの一村産業はプレス加工が可能な、炭素繊維織物を使ったCFRTP(Carbon Fiber Reinforced Thermo Plastics:炭素繊維強化熱可塑樹脂)とその加工例を展示した。サンコロナ小田は、CFRTPランダム(非連続等方性)シートと呼ぶ、加工しやすいCFRTP素材を出展。その他にも、アークはCFRTPで作ったサスペンションアーム部品を、浅野はCFRTPとアルミを組み合わせた成形品を、宇部エクシモはCFRTP素材のラミネート製品を出展。

 各ブースの担当者のコメントを総合すると、CFR(T)Pを自動車部品の素材として使われていくには克服すべき課題が多いとのこと。量産に対応した加工技術の確立に向けた開発が行われる中で、素材のコスト、実績の少なさ、CFR(T)Pを素材とした部品設計/生産の技術者の育成などが、課題として上げられていた。

関連レポート:
CFRP適用技術の欧州動向:人とくるまのテクノロジー展2016(2016年6月)
CFRP最新技術動向:欧州で量産車への採用が加速 (2015年6月)
熱可塑性炭素繊維強化樹脂と、超高張力鋼板の加工技術(2015年2月)



積水化成品工業:CFRP複合発泡成形体 テクフォーマー

  積水化成品工業が開発した、発泡体をコア材としてCFRP素材で挟み込んだ素材テクフォーマーを出展。CFRPの持つ高弾性率、高剛性、熱安定性と言う特性と、コア材の発泡体の持つ形状自由度、軽量性、衝撃吸収性という特性を併せ持つとしている。さらに、CFRPと発泡体の複合素材としたことで、制振性、断熱性も高められたとアピール。

 例えば、CFRP10層(厚さ2mm)とテクフォーマーSグレード(CFRP2層+発泡シート+CFRP2層:厚さ3mm)を同サイズで比較すると、テクフォーマーは3倍以上の剛性を持ちつつ2割程度軽量となる。曲げ強度も、ほぼ同重量のアルミニウムと比べて3倍以上となるが、厚さはテクフォーマーFグレードで8.5倍、同Bグレードで3倍と厚くなる。サンプル出荷をしている段階。

テクフォーマーのグレード

  Fグレード Bグレード Sグレード
コア材 高強度アクリル系樹脂発泡体(フォーマック) 型内(ビーズ)発泡体 発泡シート
特性 ・グレード中で最高の強度。
・低密度/高強度の発泡コア材を利用したことで軽量。
・コア材の最大の厚みは50mm。高い剛性を得ることができる。
・X線透過性など、様々な機能を付与することができる。
・複雑な形状に対応可能。形状の自由度が高く、様々な設計/デザインが可能。
・強度と衝撃吸収性を両立。
・コア材は型内成形法で作るため、生産性が高い。
・厚さ3mm以下の薄い部位に適している。
・少ないCFRP層で高い剛性が得られる。
・制振性など様々な機能を付与することが出来る。
・プレス成形に対応。
対応肉厚
3~60㎜
10~100㎜
0.8~3㎜
複雑形状対応
強度
対応可能サイズ
約1,000×1,000㎜

資料:積水化成品工業資料より作成。

テクフォーマー Fグレードを使った成形品
素材別の重量比較
テクフォーマー Fグレードを使った成形品(トランクリッド)
Bグレードを使った成形品
Sグレードを使った成形品
素材別の重量比較
Sグレードを使った成形品

引き抜き成形したCFRP部品も展示。



旭化成:変性PPE発泡ビーズ「サンフォース」と炭素繊維強化プラスチック複合材

  旭化成は、変性PPE発泡ビーズ「サンフォース」をコア材としてCFRPで挟み込むように、複合させた素材を開発。展示していたのは、三光合成株式会社が成形したもので、トランスミッションのオイルパンをイメージした成形品。同強度のCFRP単体と比べて、中に発泡材を利用したことで厚みは約2倍になるが、25%の軽量化、CFRPの使用量は1/5となる。

旭化成:変性PPE発泡ビーズ「サンフォース」と炭素繊維強化プラスチック複合材
素材別の重量比較
旭化成:変性PPE発泡ビーズ「サンフォース」と炭素繊維強化プラスチック複合材

素材別の重量比較
(幅20mm、支点距離100mm、荷重50N、たわみ1mmとなる場合の素材重量を比較。)



一村産業:炭素繊維強化熱可塑性スタンバブルシート

 一村産業は、東レグループの一員で、炭素繊維織物・炭素繊維複合体の販売を行っている。今回の展示会では炭素繊維織物に各種熱可塑性樹脂を含浸させた、炭素繊維強化熱可塑性スタンバブルシート(CF-SS:Carbon Fiber Stampable Sheet)の、加工例を紹介。CF-SSは、赤外線などで加熱/溶解後、プレス成形/冷却を経て加工される。加工時間は約1分。展示品の加工は、協力関係にある装置メーカー、加工メーカーが行ったものである。(後述の浅野など)。CF-SSは、2014年よりサンプル出荷を行っている。

 同社によれば、炭素繊維強化熱可塑性樹脂(CFRTP)の熱硬化性樹脂に対する優位性は、他の樹脂と組み合わせたハイブリッド成形のしやすさ、リサイクル、保管のしやすさにあるとのこと。一方、課題は、熱硬化性樹脂に対して強度が劣ること、大量生産向けの加工技術の開発、車載向けの実績がないこと、CFRTPを使った部品の設計を行う技術者が少ないことがあるとしている。

シートブラケットを、CF-SSとペレット(リブ部分)のハイブリッド整形したもの。
シートブラケットを、CF-SSとペレット(リブ部分)のハイブリッド整形したもの。
シートブラケットを、CF-SSとペレット(リブ部分)でハイブリッド成形したもの。

CF-SSの一般特性

  PMA-3KP PCA-3KP PA6-3KP 【参考】 熱硬化
マトリックス樹脂 アクリル ポリカーボネイト ポリアミド6 エポキシ
CF構成
3K平織 CF目付 200(g/m2)
CF積層
1層~ (仕様オーダーメイド)
 
CF(Vol.%) 50 53 53 60
比重 1.50 1.51 1.50 1.55
曲げ強度(MPa)* 750 700 750 800
曲げ弾性率(GPa)* 50 53 53 65
加工推奨温度(℃) 250 270 270

資料:一村産業の説明用パネルから作成
*曲げ強度測定用試験片の加工条件(加熱・水冷プレス使用):素材を10分間加工推奨温度で予備加熱。加熱したまま5Mpaで1分間加圧。5Mpaで加圧したまま5分間で摂氏50度まで急冷、取出し。



サンコロナ小田:CFRTPランダム(非連続等方性)シート

 サンコロナ小田は、CFRTPランダム(非連続等方性)シートを出展。樹脂をあらかじめ含浸させた短いテープ状の炭素繊維テープを、様々な方向に散らばらせて積層(約20層)してシート状に成形。

 短い繊維が多方向に向いて積層されていることから、金型追従性と転写性が高く、炭素繊維の織物をベースとしたCFRTPシートに比べて、強度は同等であるが成形性は高い。一方で、CFRTPランダム(非連続等方)シートの生産工程は多工程となるため、価格は高くなるとのこと。

 2017年4月より販売を計画している。

 

CFRTPランダムシート
左のシートの原料となる厚さ50μmのプリプレグテープ
CFRTPランダムシート

左のシートの原料となる厚さ50μmのプリプレグテープ

CFRTPランダムシートを使った成形品
この写真の成形品のように複雑なリブも成形することが出来る。
CFRTPランダムシートを使った成形品。絞りの深さは約50mm。成形にかかるタクトタイムは1分。 この写真の成形品のように複雑なリブも成形することが出来る。
仕様 機械的性質
シート厚み 1.0-2.0mm 曲げ強度 506 MPa ASTM D-790
(L/D=32)
サイズ 600mmx600mm 曲げ弾性率 29 GPa
VF 40 Vol.% 引っ張り強度 259 MPa JIS K 7164
比重 1.4 引っ張り弾性率 30 GPa
樹脂 熱可塑エポキシ(Tg =100-125C) アイゾット衝撃値 83 kJ/m2 ISO 180/1U
推奨加工温度
(推奨脱型温度)
摂氏200度
(摂氏70度)
 

資料:サンコロナ小田の説明資料より作成



アーク:CFRTP製サスペンションアーム

アーク:CFRTP製サスペンションアーム

 自動車などの新製品開発の支援を行っているアーク社は、CFRTPを用いたサスペンションアームの試作品を展示。欧州現行車の鉄製(590MPa)のサスペンションアームをベースに同等の性能を発揮できるCFRTP製のサスペンションアームを作成。鉄製では2.4kgであったが、1.5kgまで約38%の軽量化を図った。

 同社の担当者によれば、38%の軽量化率であればアルミ製のサスペンションアームとそれほど重量は変わらないため、鉄に比べて50%の軽量化を目指すとしている。現状では肉厚が一定で過剰強度になる部分が多く、本来の複合材のメリットを生かしきれていないことが課題で、ひとつの方法としてリブつけることで肉厚を薄くすることを検討していく。
 









浅野:CFRTP+アルミの成形品

浅野:CFRTP+アルミの成形品
写真右の縦のビーム状の部品がCFRTPとアルミの成形品。
その左隣の部品は、ほぼ同形状をCFRTP単体で成形したもの。

  浅野は、CFRTPを上下にアルミ板を挟み込んだ複合材のビームを展示。展示されていたものはアルミ材プレス成形品とCFRTP成形品を接着したもの。アルミ部品に対して部分的にCFRTPを使うことによって、強度が必要な部分の強度向上と更なる軽量化が可能になるとのこと。

 















宇部エクシモ:CFRTP素材のラミネート製品

宇部エクシモ:CFRTP素材のラミネート製品

 宇部興産の完全子会社である宇部エクシモは、炭素繊維素材を熱可塑樹脂で挟み込んでラミネート状にした素材を開発中。今回の展示会ではそのサンプルを出展。強度が必要な箇所への採用提案を探る。長いシート状で連続生産が可能であることが特徴とのこと。











------------------
キーワード
CFRP、CFRTP、炭素繊維、強化樹脂

<自動車産業ポータル マークラインズ>