燃費向上/CO2低減のためのパワートレーン電動部品:人とくるまのテクノロジー展2016

IPTT社の一体型電動過給・始動発電機、Schaeffler社の電動可変バルブタイミング制御技術

2016/07/01

要約

「人とくるまのテクノロジー展2016横浜」(公益社団法人 自動車技術会主催)が、2016年5月に開催され、各社の最新技術を盛り込んだ多くの部品・材料が出展された。そのなかで、燃費向上/CO2排出量低減を主な目的としたパワートレーン部品のうちユニークな2つの電動化コンポーネントについて取り上げる。

1つめはカナダMagna International社と英国Integral Powertrain社の合弁企業である英国IPTT社(Integral Powertrain Technology)の“SuperGen”と称する「始動機/発電機/動力源と電動過給機(電動スーパーチャージャ)を一体化」した製品であり、2つめは独Schaeffler社の“ECP”と称する「電動バルブタイミング制御システム」である。 両製品とも展示とともに製品プレゼンテーションが実施された。



4つの機能が一体化した始動・発電・動力アシスト・電動過給機 – IPPT社”SuperGen”

“SuperGen”とは何か?

英IPPT社より発表された“SuperGen”は、“電動スーパーチャージャ”とISG(Integrated Starter Generator)の機能を併せ持つ、つまり“スタータ + ジェネレータ + 動力用電動機 + 電動スーパーチャージャ”が一体となった電装品である。 エンジンのストップ/スタート機能とともに、12V電圧駆動でありながらエンジンに対し4~6kW相当の出力アップを行いエンジンの燃費向上/CO2低減を可能とする。



写真1 “SuperGen”外観(IPPT社提供) 写真2 “SuperGen”内部
写真1 “SuperGen”外観(IPPT社提供) 写真2 “SuperGen”内部



何がユニークなのか? 他社従来品と何が違うのか?

比較しうる従来製品は、“電動アシスト動力 + スタータ + ジェネレータ”の一体製品であるハイブリッド用ISGである。各社仕様でいくらかの違いはあるものの以下の機能を有している。

  • 電動機でエンジン始動を行うスタータ機能
  • エンジン回転中に電動機を発電機として利用するオルタネータ機能
  • ブレーキ作動中に電動機を発電機として運動エネルギから電気エネルギを回収する回生ブレーキ機能
  • 動力源として電動機でエンジン回転をアシストするマイルドハイブリッド機能

ここで言うマイルドハイブリッド機能とは100V程度の駆動電圧の高いシステムではなく、部品点数が少なく安価な低電圧マイルドハイブリッドのことである。 以下のA)、B)とも制御方法などは異なるが基本構造は似たものである。

    A) 48Vマイルドハイブリッド、エンジンに対し10kW程度まで出力アップが可能
    B) 12Vマイルドハイブリッド(マイクロハイブリッド)、エンジンに対し2kW未満までの出力アップが可能

A)は欧州が先行してダウンサイジングターボエンジンのターボの補完システムとして拡大する傾向にある。
B)は日産やスズキが採用している低コストのマイルドハイブリッドである。

これに対して“SuperGen”は、B)と同じく12Vで駆動させながらA)とB)の中間レベルのエンジンアシスト性能を享受できる。 ユニークな点として、始動時動力アシストと運転時の過給圧ブーストという異なるエンジンアシスト機能を有している。

    ① 動力源としてB)と同様にエンジン始動時に電動機で直接エンジン回転運動をアシストするマイルドハイブリッド機能
    ② 電動スーパーチャージャ機能により、ターボが不得意とする低回転域での過給圧ブーストの補完が行える。

電動機はISGとは異なり小型のものを2基搭載し、お互いの電動機は遊星ギア機構によるカップリングを介している。エンジン始動時にはカップリングを結合して電動機の結合運転により始動性能を確保し、運転時にはカップリングを解放し個々の電動機にて発電機能と過給圧ブースト機能を独立させることができる。このような遊星ギアを用いた機能の使い分けによって、エンジン運転状態に最適化した作動が行える特徴がある。

既存の発電機(オルタネータ)との置換えを前提にしたシステムであり、既存車をベースに簡単にマイルドハイブリッド化が可能な有意なシステムと考えられる。



表1 SuperGenと他社従来品マイルドハイブリッド用ISGとの比較

SuperGen 12V-ISG 48V-ISG
定格電圧値 12V 12V 48V
電動モータ個数 2基 1基 1基
スタータ機能
オルタネータ機能
エンジンとの動力結合 ベルト
吸気管
ベルト ベルト
クランク・マウント
アシスト機構 動力ブースト
過給ブースト
動力ブースト 動力ブースト
アシスト領域 加速、巡航 停止~立ち上がり 加速、巡航
エンジン出力アシスト +4~6kW ~+2kW ~+10kW



メカニズム、機構はどうなっているのか?

上述のように“SuperGen”は動力源としての電動アシストと電動スーパーチャージャとの機能を2つの電動機をカップリングの結合/解放することで可能としている。このカップリングはクラッチ機構によりON/OFFを行っているのではなく、電動スーパーチャージャの無段階変速に用いる遊星ギア機構を利用している。 遊星ギア機構は一般的に大きな減速比が得られ、大きなトルクが伝達でき、入力軸と出力軸を同軸上に配置できる特徴がある。スーパーチャージャ・コンプレッサ軸の回転の無段階制御を行い、大きなトルクを必要とするエンジン始動時の電動機運転に、この遊星ギア機構は有用な機構である。

簡単に構造を説明すると、一方の電動機(E1)と他方の電動機(E2)の間に、遊星ギア機構が設けられている。 遊星ギア機構は、ベルトプーリと結合している電動機E1は外周ギア(内歯車)に、電動機E2は遊星ギアに、コンプレッサ軸は太陽ギア軸にそれぞれ直結している。

    ✔ 電動機E2をロックすると太陽ギア軸は回転せずコンプレッサは停止する
    ✔ 外周ギアをロックすると電動機E2の回転により遊星ギアが回転し太陽ギアも同方向に減速回転する



写真3 “SuperGen”の遊星ギア機構(IPPT社資料を基にMarkLinesが加工)

写真3 “SuperGen”の遊星ギア機構(IPPT社資料を基にMarkLinesが加工)



実車での効果はどうか?

実車に搭載して“SuperGen”非搭載車との比較で効果を確認している。

    供試車両: Dセグメント、2.0L-4気筒ディーゼルターボエンジン
    運転状態: ギア6速/エンジン回転1500rpm、スロットル開度を増大し段階的にフルロードへ到達
    計測期間: スタートより4.0秒間
    ✔ 燃費向上: 約7%
    ✔ 加速度向上: 約2倍、約1秒で最大加速度に到達
    ✔ 到達速度向上: 約8km/h増加 (約5mph)

図1 SuperGen搭載有無での車両速度・加速度比較

図1 SuperGen搭載有無での車両速度・加速度比較



低温始動からの作動を可能とする連続可変バルブタイミングの電動化– Schaeffler社”ECP”

“ECP”とは何か? 他社製品とは何が違うのか?

燃費向上/CO2低減とともに排出ガス炭化水素の低減、運転性・出力性能向上を両立させるための機能の一つに、エンジンの運転状態に応じてバルブ開閉動作を最適化する制御技術が不可欠なものとなっており、特に吸気バルブに関しては今日殆どのエンジンにバルブタイミング制御機構(カムフェーザ)が採用されている。1980年代初頭の可変バルブ機構登場時は段階的可変式であったが、1990年代半ばより連続可変バルブ制御の採用が拡大されてきている。

今回Schaeffler社にて開発された”ECP (Electric Cam Phaser)”は連続可変バルブタイミング機構を油圧制御ではなく電動制御としたものである。



写真5 電動式ECPと油圧式HCPの外観比較 写真6 ECPとギアボックスの搭載事例(Schaeffler社提供)
写真4 電動式ECPと油圧式HCPの外観比較 写真5 ECPとギアボックスの搭載事例(Schaeffler社提供)



何故、電動化が必要なのか?

可変バルブ制御は殆どが電子制御化されているが、バルブ可変機構のメカニカルな動作については、コントローラの指令に従いソレノイドバルブで制御された油圧によりヘリカルスプラインをカムシャフト軸方向に動かすことでタイミング(位相角度)を変化させるものが今日でも主流である。しかし油圧式の大きな欠点は、低温始動時や再始動時・低速回転時に安定した油圧値が得られないため、最適なバルブタイミング制御が難しいことである。 これを解消するために2001年に日鍛バルブにより電磁クラッチ式連続可変バルブタイミング機構が製品化され日産スカイラインV35型に搭載されたVQ30DDエンジンに採用された。しかし、電磁クラッチ式は構成部品が多く、コストが高いという欠点があり、近年、日産自動車より電磁式の欠点を解消すべく新しく電動式の連続可変バルブタイミング機構のニーズがあがっていた。

今回Schaefflerが開発した“ECP”が日産のニーズに合致し、製品プレゼンテータよりInfiniti Q50に搭載される新型VR30DDTTエンジンに採用されることが明言された。



表2 電動化ECPと従来品との比較

電動式 ECP 油圧式 HCP
低温始動時 (-30degC)
(圧縮比確保)
可能 不十分
低温始動時
(燃焼ガス中の低HC化)
可能 不十分
暖機始動時
(プレイグニッション抑止)
可能 可能
アイドルストップからの復帰
(スムーズな再始動性)
可能 不十分
バルブ閉時応答性
(ポンピングロス低減化)
可能 不十分



何がユニークなのか? 他社従来品と何が違うのか?

電動式連続可変バルブタイミング機構は今回のSchaeffler製“ECP”が世界初ではない。 2006年にデンソーにより電動可変バルブタイミングシステムが世界で初めて製品化に成功しており、Lexus LSを皮切りに順次採用が拡大されている。 デンソーは電動化製品に対してインテリジェント化/機電一体化を推進しており、この電動可変バルブタイミングシステムについてもEDU(電動ドライバユニット)がアクチュエータと一体化されているが、エンジンヘッドの側面に突出する筺体が大型化してしまう傾向にある。

今般Schaeffler社により開発された電動式連続可変バルブタイミング機構“ECP”は、前述のデンソー製と異なりあえてコントローラ(電動ドライバユニット)を別体として、ドライバ回路の高温化抑制と搭載性に助長を持たせている。 またギアボックスも小型化することにより、油圧式レベルの搭載性を確保している。 また、信号系カプラと電力系カプラを分離しており、電気雑音耐性やカプラ内短絡故障時の信号系回路保護にも配慮されている。



図2 ECPシステム図 – ECP (電動ドライバユニット) (Schaeffler社提供)



評価における電動化の効果はみられるのか?

低温始動時の評価結果は報告されていなかったが、図3の始動時波形からエンジン初爆前の始動キーON直後からバルブタイミング制御値通りのカム位相値に遷移しバルブが作動していることが確認できる。また図4から、エンジン回転数変化に対するカム位相移動速度の関係グラフにおいて、油圧式HCPは低回転域での油圧不足による速度低下がありエンジン回転上昇とともに速度低下が解消される状態があらわれている。 これに対し電動式ECPは500rpm程度のアイドル回転域から4000rpm以上の高回転域までカム位相移動速度が確保されているのがわかる。

図3 エンジン始動時のECPによるカム位相値遷移 図4 エンジン回転数に対するカム位相値遷移速度(Schaeffler社提供)
図3 エンジン始動時のECPによるカム位相値遷移 図4 エンジン回転数に対するカム位相値遷移速度(Schaeffler社提供)



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