多様化する電動化(下):日産は60kWh電池を開発しEV走行距離を延長

ホンダ:2モーターHVシステムは効率を最大化、新型NSXは「瞬時の反応」を訴求

2016/02/19

要 約

 本レポートは、2016年1月に開催されたオートモーティブワールドでの講演を中心に、日産とホンダの電動化戦略について報告する。

 日産は、「電気自動車がつくる未来社会」と題して講演し、電気自動車(EV)に搭載するバッテリー容量アップと、充電インフラの現況および今後の計画について講演した。60kWhの高容量バッテリーを開発中で、EVの航続距離を大幅に延長する。

 ホンダは、「ホンダの電動パワープラントの進化と最新テクノロジー」と題して講演し、Accordに搭載した2モーターハイブリッドシステム(i-MMD: Intelligent Multi-Mode Drive)と新型NSXの設計思想、およびそれらHVに盛り込んだ新技術を紹介した。i-MMDはパワートレイン効率の最大化を目指して開発した。新型NSXは、前進、停止、回転において瞬時に(ZERO DELAYで)反応する性能を実現した。


関連レポート:
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(2016年2月)
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日産:電気自動車がつくる未来社会

 日産は、ゼロエミッションと死亡事故ゼロの2つの「ゼロ」を目指している。ゼロエミッションには電動化で、死亡事故ゼロには車の知能化で対応する。2016年から段階的に導入する自動運転は、車の安全に大きく貢献するとしている。

日産のチャレンジ

問題 日産の課題 方策 備考
エネルギー ゼロエミッション 電動化 精緻な制御を伴う電動化技術は、自動運転 技術においても重要な役割を果たす。
地球温暖化
渋滞 死亡事故ゼロ 知能化
交通事故

資料:日産 (注)交通事故の9割以上は、ドライバーが原因で起っている。危険の認知、判断、反応速度において、機械の能力は人間の能力にはるかに勝る。それゆえ、自動運転は車の安全に大きく貢献する。

 

自動運転技術の投入スケジュール

2016年 2018年 2020年
Piloted Drive 1.0 Piloted Drive 2.0 Piloted Drive 3.0
渋滞時 高速道路 市街地
単一レーン走行 複数レーン走行 交差点を含む

 

 



EVの走行距離を伸ばす計画

LEAFのお客様の評価
LEAFのお客様の評価(航続距離には不満も) (資料:日産)

 さらに、電動化計画のうち、EVの航続距離を伸ばす確かな2つの方法として、「バッテリーの高容量化」による航続距離の延長と「充電インフラ拡充」について説明した。日産によるLEAF顧客調査では、75%が再購入する意向がある一方、25%は航続距離、充電時間などを理由に再購入の意思無しまたはどちらとも言えない、と答えている。

 日産のゴーンCEOは、2015年6月の株主総会で、「近い将来、EVの顧客に、内燃機関に匹敵する航続距離の『安心』を提供する」、また「2015年中に航続距離拡大に向けた最初のステップを紹介する」と発表した。








容量60kWhのバッテリーを開発、最初のステップとして30kWhを実用化

リーフの航続距離を延長
リーフの航続距離を延長(資料:日産)

 日産は、容量60kWhのバッテリーを開発中で、次期型LEAFに搭載し、航続距離500km程度を実現する見込み。

 また航続距離拡大の最初のステップとして、60kWhバッテリー革新技術の一部を取り入れて容量30kWhのバッテリーを開発し、2015年12月に発売した改良型LEAFに搭載した。JC08モードの航続距離を、228kmから280kmに拡大した(バッテリー容量24kWh、航続距離228kmのバージョンも併売する)。

 これで、リーフは発売当初から要望が強かった「実走行距離200km」を実現し、日産は、顧客がバッテリー残量を心配せずにリーフの走行性能を楽しんでいただけると期待している。





EVリーフ航続距離延長の計画

発売時期 2012年 2015年12月 将来型
バッテリー容量 24kWh 30kWh 60kWh
セル数とモジュール数 4セル×48モジュール=192 8セル×24モジュール=192 セル数 288
航続距離(JC08モード)(注1) 228km 280km 500km程度
100km走行に必要 な充電時間 (充電器電力) (50kW) (50kW) (100kW)
充電時間 30分弱 15分程度 10分弱
バッテリー容量保証期間(注2) 5年間10万km 8年間16万km 未発表
資料:日産
(注) 1. 将来型の「航続距離500km程度」は日産発表の図表から推測。
2. 12段階のセグメントで測定し、バッテリー容量計が9セグメントを割り込んだ(8セグメントになった)場合、無償で修理や部品交換を行い9セグメント以上に復帰させる。
3. なお、60kWhのバッテリーを搭載する次期型リーフには、自動運転バージョンを設定すると見られている。ちなみに、日産が東京モーターショー2015に出展した、将来の自動運転を示すIDSコンセプトは、60kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載するEVであった。

 

2つの構造革新により、高容量バッテリーを開発

 日産は、2つの構造革新により、60kWhの高容量バッテリーを開発した。30kWhバッテリーにも、その技術の一部が実用化されている。

 まずバッテリーセルの化学的構造については、24kWhバッテリーが使用するマンガンとニッケルの正極にコバルトを追加し、また負極のグラファイトのリチウムイオン受容性を高めた。

 次にバッテリーパック構造の革新として、24kWhと30kWhのバッテリーは192のセルでバッテリーパックを形成しているが、実装技術の革新により、60kWhバッテリーではより多くのセルを高密度スタックに収納する「多数セル積層構造」を採用し、288のセルを収容する。

 また電極材料の変更に合わせて電解液(劣化抑制材)を変更し、リチウム化合物の生成による劣化を防止し、耐久性を改善した。

 

バッテリーの高容量化へ2つの技術革新
バッテリーの高容量化へ2つの技術革新(資料:日産)
リチウム消費反応を抑制し、耐久性を改善
リチウム消費反応を抑制し、耐久性を改善(資料:日産)

 

 



2015年末の充電スポット数は約17,000基、さらに整備を進める計画

 2015年末時点で、日本国内での充電スポットは、急速充電器が約6,000基、普通充電器が約11,000基、合計約17,000基。日産は、日本国内では、今すぐにでもEV LEAFのメリットを感じていただける環境が整っているとしている。

 日産資料によると、都道府県別日産リーフの累計販売台数と急速充電器設置数はかなり相関している。急速充電器を設置箇所数上位の都道府県は、神奈川県、埼玉県、愛知県の順。場所別の利用状況はかなりのバラツキがあり、足柄、海老名、談合坂など利用回数の多い充電スポットでは充電待ちが発生している。こうしたスポットでは複数基設置が進む見込み。

 今後は、クルマの進化、ユーザーの充電行動、さらにインフラビジネスを成立させる条件を加味しながら、充電網整備を進めていく。



ホンダ:ハイブリッドは電動車両の基幹技術

 ホンダを含む世界の自動車メーカーが、燃費向上・CO2排出量削減対策としてEVやFCV(水素電池車)を実用化しているが、航続距離、インフラの不足やコストの面に課題があり、早急な普及は困難である。ホンダは、当面ハイブリッド車を中心に、燃費向上・CO2削減を進めていく。また、ハイブリッドは全ての次世代電動車両の基本技術であり、同社のハイブリッド技術のさらなる効率向上を基本に、車両の電動化を加速するとしている。

 ホンダは、ここ2~3年の間に、Fitなどに搭載するi-DCD (Intelligent Dual-Clutch Drive)、AccordやOdyssey(2016年2月発売)に搭載するi-MMD (Intelligent Multi-Mode Drive)、同plug-inタイプ、および新型Legendや新型NSXに搭載するSport Hybrid SH-AWD (Super Handling All-Wheel-Drive)のハイブリッドシステムを開発してきた。オートモーティブワールド2016の講演では、2モーターのi-MMDと3モーターのSport Hybrid SH-AWDの設計方針を解説した。

 



2モーターハイブリッド「i-MMD」の基本コンセプト

ホンダは、2モーターのハイブリッドシステム「i-MMD」を開発するに際して、パワートレイン効率の最大化を目指し、まず現行の代表的な3タイプのハイブリッドシステムの効率を比較検討した。

各ハイブリッドシステムの特徴比較

シリーズ ・エンジンで発電した電力を用いて、モーターが駆動する。エンジンは専ら発電用に使用するので、走行条件に拘わらず、高効率な領域でのみ稼働させることが可能。
・電気的なエネルギー伝達が中心(英文表記はElectric transmission)。モーターの回転数により変速する。
・比較的大きな電池が必要で、バスや商用バンなど大型車でないと実現が難しい。
パラレル
(ホンダIMAなど)
・エンジンとモーターが協力して、車を駆動する。
・機械的な伝達(AT、CVTなどを使う、英文表記はMechanical transmission)により駆動エネルギーを伝える。
シリーズ・パラレル
(トヨタTHSなど)
・エンジンの動力は、2系列に分割される。1系列は直接ドライブシャフトにつながり(Mechanical transmission)、もう1系列は発電機・モーターを通して車を駆動、またはエンジンをアシストする(Electric transmission)。
・Electric transmissionとMechanical transmissionの使用割合は、走行状況に合わせて制御される。

資料:Efficiency Enhancement of a New Two-Motor Hybrid System (EVS27 International Battery, Hybrid and Fuel Cell Electric Vehicle Symposium)

Electric transmissionの比率を高めたシステムを構築

ホンダによると、モーター、発電機、インバーターの効率が一定レベルを超えれば、Electric transmissionの割合を高めれば高めるほど、ハイブリッド車全体の効率が向上する。この原理に基づき、Electric transmissionの比率を高めたシステムを構築した。

ただし、高速かつ一定速度で走行する場合はMechanical transmissionの効率がElectric transmissionの効率を上回るので、Mechanical transmissionを採用する。この場合エンジン走行は通常のトップギヤに相当する固定ギヤでの走行だけとし、通常のAT、MT、CVTなどに相当する変速機構は省いた。

まとめると、シリーズハイブリッドシステムを取り入れることと、高速走行ではガソリンエンジンとドライブシャフトを直結させること、の2点をi-MMDシステムの基本とした。

3つの走行モードを設定

これらの検討結果を踏まえ、EVドライブモード、ハイブリッドドライブモード、エンジンドライブモードの3つの走行モードを設定し、効率を最大化するように切り替えながら走行するシステムとして完成させた。

変速機構を廃したシンプルでコンパクトな構造
変速機構を廃したシンプルでコンパクトな構造(資料:ホンダ)
3つの走行モード
3つの走行モード(資料:ホンダ)

エンジンとモーターのさらなる効率化

i-MMDでは、エンジンとモーターそれぞれが、走行状況に応じて、高効率で運転できる領域「スイートスポット」を使い続けられるような制御を導入した。

エンジンについては、モーターアシストや、逆に発電量を増やすことでエンジンの負荷を調整し、エンジンが最適な効率で回転するよう調整する。

モーターに関しては、昇圧器VCU (Voltage Control unit)の導入や、リラクタンストルクの活用により高トルク化、高効率化した。

エンジンとモーターのさらなる効率向上

エンジン ドライバーの要求出力に対応するエンジン回転数が「スイートスポット」を下回る場合は、エンジン回転を効率のよい回転域まで上げて発電量を増やし、余剰の電力を電池に蓄える。逆に要求出力に対応する回転数が「スイートスポット」を上回る場合は、エンジン回転を効率のよい領域まで下げて、不足する出力はモーターアシストにより補う。
モーター 昇圧器 VCU(Battery voltage amplifier)を配置し、最大700Vまで駆動電圧の昇圧を可能にすることで、コンパクトで高出力のモーターを実現。
モーターは、駆動電圧が高い場合は高回転・高トルクの領域で効率が高く、駆動電圧が低い場合は低回転・低トルクの領域で効率が高くなる。VCUを活用し、常に高効率領域でモーターを稼働させる。
ステーター(固定子)と磁石が吸引・反発することで発生する「マグネットトルク」に加えて、ステーターが鉄芯を引き付けることで発生する「リラクタンストルク」を最大限に利用できる磁気回路と独自の磁石配置を開発し、高トルクを実現した。(リラクタンストルクは、2013年インサイトの最大92Nmから、i-MMDでは307Nmに拡大した。)

資料:Efficiency Enhancement of a New Two-Motor Hybrid System (EVS27 International Battery, Hybrid and Fuel Cell Electric Vehicle Symposium)。



新型NSX:前進、停止、回転での「瞬時の反応(ZERO DELAY)」を訴求

新型NSX
新型NSX(東京モーターショー2015で撮影)

 ホンダの新型NSXは、Sport Hybrid SH-AWD (Super Handling All-Wheel-Drive)を搭載し、走行の3側面である、前進(Go/acceleration)・停止(Stop/braking)・回転(Turn/cornering)において「瞬時の反応」"ZERO DELAY"を標榜するスーパースポーツカー。

 新開発の直噴V型6気筒ツインターボエンジンと、高効率モーターを内蔵した9速デュアル・クラッチ・トランスミッションを組み合わせる。また前輪の左右を独立した2つのモーターにより駆動する電動式の四輪駆動システムを搭載した。

 なおパワートレインに加えて、高強度・高剛性のボディーは、ステアリング、スロットルやブレーキを通して伝えられるドライバーの要求に、ZERO DELAYで反応するための基盤を提供する。NSXは多くの新製造技術を採用し、他車に比べ剛性を倍以上に高めた。

 米国で開発し、まず米国で、2016年春にAcura NSXとして発売予定。メーカー希望小売価格は、156,000~205,700ドル(メーカー・オプションを全て装着した場合)。

新型NSXの設計思想

項目 コンセプト 具体化例
Sport Hybrid SH-AWD 3モーターシステムにより、高い出力・トルク・レスポンスを実現  クランク直結モーターにより、高レスポンスと発進アシストを実現(後輪を駆動する)。
 前輪を駆動するツインモーターを左右独立で制御し、トルクベクタリングを実現。内輪側のモーターは、発電することでブレーキをかけ、外輪側のモーターに電力を供給することが可能(マイナスのトルク制御を行う)。
3.5L Twin-turbo DOHCエンジン スポーツカー専用エンジンとして、圧倒的な出力性能を実現  筒内直噴 + ポート噴射燃料システム、高応答ツインターボチャージャー、デュアルVTC、高圧縮比燃焼室などで高出力を実現。
低重心・コンパクト  75°Vバンクのエンジン、コンパクトシリンダーヘッド、エンジン下部にオイルパンを持たないドライサンプ方式の採用などで低重心化。
9速デュアル・クラッチ ・トランスミッション 様々なシュチュエーションに応じた走りを実現  クロス&ワイドレシオのギヤ比を持つ。1~8速はクロスレシオで途切れない加速を実現、トップギヤはCruise gearで、高速走行時の燃費と静粛性アップに貢献する。
高強度・高剛性 ボディー アルミとスチールの複合構造と新生産技術の導入  世界初のアルミ アブレーション鋳造、やはり世界初の超ハイテン三次元熱間曲げ焼き入れ(注)を採用。フロアは、カーボンファイバーを使用。剛性を他車比で倍以上に向上させた。
(注) 1. アブレーション鋳造は、「砂型にアルミ溶湯を流し込む」、「砂型を水シャワーに通す」、「砂型が崩れ、部品を急速冷却する」の工程。
2. 三次元熱間曲げ焼き入れ(3DQ)は、鋼管部材を局部的に加熱してロボットで曲げ加工し、直後に水で急冷して焼き入れを行う工法。従来加工が困難であった複雑な形状の超ハイテン鋼管部材を、高効率で製造できる技術。新型NSXでは、Aピラー製造に適用し前方視界とボディーの安全性を両立させた。

 

                     <自動車産業ポータル、マークラインズ>