自動運転の実現に向けた最新技術動向 (下)

ボッシュ・コンチネンタルが考えるロードマップと技術課題、将来展望など

2015/12/07

要 約

 自動車メーカー各社の積極的なデモやアナウンスに加え、政府からも自動運転車の実現について前向きな発言が行われるようになっているが、その実現手段を担うサプライヤ各社は状況をどのように見ているのだろうか?

 このレポートは、TU-Automotive Japanが主催するTU-Automotive Japan 2015(The Westin Tokyo 10/20-21; 昨年までのTelematics Japan)の自動運転に関するセッションにおける、ボッシュ・コンチネンタルなどのサプライヤ各社の講演内容を中心にまとめたレポートの後編 (上編はこちら)。

・ボッシュ:自動運転は高速度域と駐車支援の2領域よりスタートして段階的に高度化していくとの展望の元に、その実現に必要となる5つの要素技術への取り組みを紹介した。

・コンチネンタル:自動運転時代のHMIへの提案として、IoTなどを使ったインフラ提携などを含む“Holistic (包括的) HMI”、ドライバーモニターシステムなどを例示。

・QNX、WINDRIVER(ともに組み込みOSベンダー):自動運転時代には、システム全体をカバーするソフトウェアプラットフォームが必要。

・まとめ(パネルディスカッションでの論議):自動運転に対する社会の受容性はあると見るが、商品化は検証を重ねながら慎重に進めるべき。また要素技術や規格は標準化することが重要。

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ボッシュ:自動運転を実現するための5つの要素技術とその開発ロードマップ

千葉 久氏(ボッシュ株式会社 シャシーシステム コントロール事業部、アドバンスト ドライバー アシスタンス技術部 部長)

自動運転の実現に向けたボッシュのロードマップ

 ボッシュの千葉氏は、自動運転は高速度域と駐車支援の2領域からスタートするとし、同社が想定するロードマップを提示した上で、そこに必要となる要素技術について同社の取り組み状況を紹介した。

 図7は自動運転の実現に向けて同社が想定しているステップである。  

自動運転に向けたステップ 図7)自動運転に向けたステップ(ボッシュ社の資料による)

 技術的にも、社会的受容度の観点からも、ステップを踏んで段階的に進化させていくスタンスである。さらに同氏は「高速度域」と「駐車支援」の2領域についてより具体的なロードマップを示した(図8、図9)

 

高速度域の自動運転機能のロードマップ 図8)高速度域の自動運転機能のロードマップ(ボッシュ社の資料による)

 こちらを見ると、ボッシュでは2017年から2018年には高速道路におけるレベル2の部分的な自動運転を、そして2020年には高速道路でのレベル3の高度な自動運転の実現を想定している模様である。ちなみにレベル1はすでに商品化されている。

 

駐車支援機能のロードマップ 図9)駐車支援機能のロードマップ(ボッシュ社の資料による)

  駐車支援機能のレベル定義は多少難しいところがあるが、ボッシュではステアリングとブレーキの制御、すなわちレベル2相当の駐車支援までは実現済み、さらにリモート駐車も近々に実現すると見ており、2019年にはドライバー監視不要、すなわちレベル3相当以上の自動駐車の実現を想定していると見られる。

 

自動運転の実現に必要となる要素技術

 上記の実現に向けて同社が必須とする要素技術は下記5領域である。

① Surround Sensing

② Safety and Security

③ Legislation

④ Map Data

⑤ System Architecture

 同氏によればボッシュはこれら全領域に取り組んでおり、すべてを顧客に提供できることが同社の強みである。

 

Surround Sensing(あらゆる状況で求められる信頼性)

 図10は同社のSurrounding Sensingの全体像と構成要素である。各種センサーを組み合わせることにより、360°センシングを可能とする。

 ただ、同氏によれば、レベル3以上を実現するためにはあらゆる状況で高い信頼性が必要となるが、現状では各センサーには苦手な領域があり、まだ改善が必要という。

 また、この図は外界のセンシングをまとめたものだが、システムがいつでもドライバーに運転の主導権を渡す(ハンドオーバー)ことができるためには、ドライバーのモニタリングも必須とのコメントがあった。

 

サラウンドセンシングの概念 図10)サラウンドセンシングの概念(ボッシュ社の資料による)

 

Safety and Security(技術的なミスやサイバー攻撃からの防御)

 SafetyおよびSecurityに関しては、図11に示すようにシステム全体をその役割により階層に分け、レイヤー毎に最適な対策を組み込む構想を示した。

 

レイヤー構成による、車載システムのセキュリティー確保 図11)レイヤー構成による、車載システムのセキュリティー確保(ボッシュ社の資料による)

 

Map Data(高精度で常に最新のデータ)

 同氏は、そもそも自動運転に高精度地図データが必要な理由として、

① 自動運転のルート計画作成のため(ナビゲーション)

② 自車のより高精度な位置決めのため(ロケーション)

③ 意思決定のアルゴリズムのため

 と定義した。

 最後の意思決定のアルゴリズム、とは、あらかじめ走行方向先方の情報を入手しておくことで、センサーでは見えない領域の状況を加味した予測運転を行う、という趣旨である。これはインテルの野辺氏が解説した計画的自動運転とも通じる概念である。

 この予測運転に必要となる地図情報に関して、ボッシュでは Dynamic Layerとして、さらにそれを重要度、緊急度で階層構成とし、他車が提供した情報をクラウド経由で入手する"Dynamic Layer Approach" の構想を進めている。(図12)

 

ダイナミックレイヤーアプローチの概念 図12)ダイナミックレイヤーアプローチの概念(ボッシュ社の資料による)

 

Legislation(法整備の必要性)

 法整備に関しては、同氏はウィーン条約の改正を自動運転に向けた大きな一歩であるとし、同社として積極的に寄与して行く考えを示した(図13)。

 

法的な枠組み変更の必要性 図13)法的な枠組み変更の必要性(ボッシュ社の資料による)

 

 



コンチネンタル:自動運転時代のHMIのあるべき姿と課題

土井 忍氏(コンチネンタル・オートモティブ・ジャパン インテリア事業本部 計器およびドライバ HMI 事業部 インテリア・エレクトロニクス・ソリューションズ シニア マネージャ)

自動運転車のHMIに必要となる新たな要件

 コンチネンタルの土井氏は、HMI専門家の立場から、特に「レベル2」「レベル3」の自動運転においてHMIに必要となる要件を示し、同社の「Holistic HMI」の概念を提示した。

 同氏によれば、レベル2(Partially Automated)とレベル3(Highly Automated)では自動運転システムからドライバーへ(およびその逆)のテークオーバー(運転責任の交代)が発生するため、HMIは単にシステムの状態をドライバーに伝える一方通行ではなく、ドライバーの状態をモニターし、どの程度のリードタイムでテークオーバーが可能な状態か把握している必要がある(図14)。

 

自動運転のレベルに応じた、ドライバーの役割 図14)自動運転のレベルに応じた、ドライバーの役割(コンチネンタル社の資料による)

 レベル2では瞬時にドライバーが運転を取って代われることが前提だが、レベル3ではある程度のリードタイムを持った交代となる。それは数秒から数十秒単位かもしれない。だが、もしドライバーがテークオーバー困難な状態と判定されたらシステムはどのように対応すべきなのだろうか? 眠っていたら叩き起すのか? 車両を安全に停止させるようなfail operation動作が必要になるだろう。

 またこれとは逆に、ドライバーによる運転中に「まもなく自動運転が可能な状況となる」ことをシステムからドライバーに伝える必要も出てくる。

 このように自動運転を実現していく過程では、従来のHMIでは存在しなかったシーンが想定される。

 

コンチネンタル社の"Holistic HMI"

 同社では "Holistic HMI"(刺激的かつ余裕があるユーザー体験をもたらす、包括的なHMI)のコンセプトを定義し、これを実現すべく世界の各拠点で研究開発を進めている。その内容は自動運転対応に限ったものではなく多岐にわたるが、図15にその全体像を示す。

 同氏によれば、"Holistic HMI"は従来定義されてきた狭義のHMI技術の延長で実現できるものではなく、IoTによるインフラ連携や地図データの活用まで含めたより広範囲の概念である。

 

コンチネンタル社の"Holistic HMI" 図15)コンチネンタル社の"Holistic HMI"(コンチネンタル社の資料による)

 ここでは自動運転に特に関連するアイテムとして、インテリアカメラと画像認識技術によるドライバーのモニター技術(図16)、およびモニター結果の応用例としてドライバーの不注意状態を検知し警告する同社の技術開発事例(図17)を紹介しておく。

 図16は同社のインテリアカメラの構成と、そのユースケースである。ドライバーの顔に向けたカメラで、頭部の位置、目の開閉度と視線の方向、顔の生理的な特性を検出する。

 

インテリアカメラによる、ドライバー状態のモニター 図16)インテリアカメラによる、ドライバー状態のモニター (コンチネンタル社の資料による)

 図17は、ドライバー状態モニターの応用例のひとつで、ADASシステムが認識している「危険」情報と、ドライバーの視線方向が一致していない場合にドライバーが前方に存在する「危険」を見ていないとシステムが判断し、表示、音などでドライバーに警告する。

 

ドライバーの不注意警告 図17)ドライバーの不注意警告(コンチネンタル社の資料による)

 

 



自動運転時代のソフトウェアプラットフォームの要件

中鉢 善樹氏(QNXソフトウェアシステムズ㈱ ビジネスデベロップメント(アジア太平洋地区自動車分野担当)マネージャ) マルケス マキャモン氏(WIND RIVER, Sr. Director, Automotive Product Management)

ソフトウェアプラットフォームの必要性と、その要件

 QNX社およびWIND RIVER社はそれぞれ組込みOSベンダーの立場から講演し、両社とも、ソフトウェアの生産性と品質を確保するためには、個別ユニット毎ではなく、システム全体をカバーするソフトウェアプラットフォームが必要となることを強調した。

 さらにそのプラットフォームは、自動運転の時代にはVehicle IoTで車両と外界と繋がることを前提に考えると、セキュアとセキュリティーの双方を確保できるものでなくてはならない。両社はそのソリューションとして、それぞれのソフトウェアプラットフォームの将来像を提示した。

・セキュア:システム動作の信頼性、確実性、失陥時のリカバリー性など。

・セキュリティー:外界からの悪意のある侵入、攻撃などへの防御。

 

QNX社が提唱するADASプラットフォーム 図18:QNX社が提唱するADASプラットフォーム

 

WIND RIVER社の提唱する車両ソフトウェアアーキテクチャーの将来像 図19:WIND RIVER社の提唱する車両ソフトウェアアーキテクチャーの将来像。

 

 



まとめ‥サプライヤから見た、自動運転の社会的受容性と実現性

 各社の講演の後、講演者各位が参加したパネルディスカッションが行われた。そこでの論調を総合すると下記のようになる。

① 自動運転に対する社会の受容性はあると見る。また、今後の高齢化や安全性向上への要求を考えれば受け入れられていくだろう。

② ただしそのための必要条件として、従来の車と同等以上の信頼性、安全性が担保されていること、およびそれを顧客に信じてもらえていなくてはならない。従って自動運転の商品化は検証を重ねながら慎重に進めるべきである。

③ 技術課題の量とレベル、膨大な開発ボリュームなどを勘案すると、2020年の完全自動運転実現はハードルが高い。

④ 自動運転の実現に必要となる基本概念や技術については業界で共通化、標準化すべきである。各自動車会社、あるいは各国でバラバラでは普及の障害になる。

                     <自動車産業ポータル、マークラインズ>