メキシコ・ブラジルの日系部品メーカー:生産能力増強、新品目の生産
デンソー、豊田合成、愛三工業、ケーヒン、テイ・エス テック、東プレ、東レ、ユニプレスなどの動向
2015/07/01
要 約
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本レポートは、中南米における日系部品メーカーの動向レポートの後編。メキシコにおける生産能力向上などと、ブラジルにおける動向の動向についてまとめた(収録対象は、2015年5月中旬までの約8カ月間)。メキシコにおける新規進出の動向についてまとめた前編はこちら。
自動車生産の増加が続いているメキシコでは、日産、マツダ、ホンダが2013年11月~2014年2月にかけて相次いで新工場を稼働させた。また、トヨタはグアナファト州に年産能力20万台の乗用車工場を建設し、2019年に稼働させることを2015年4月に発表した。この他に、アウディおよび起亜自が2016年に、ルノー・日産アライアンスとダイムラーが合弁で2017年に、BMWが2019年に工場を稼働させる計画。
日系部品メーカーでは、メキシコへの新規進出のみならず、既存工場への生産能力の上乗せが行われている。また、生産品目の追加のための新たな生産拠点構築もみられる。
一方、ブラジルでは2013年から市場の低迷が続いており、2015年1-5月も、自動車生産台数が109.2万台(前年同期比19.1%減)、新車登録台数が110.6万台(同20.9%減)と落ち込みが止まらない。需要の低迷から在庫台数が2015年4月時点で37万台近くに積み上がっており、メーカー各社では一時解雇や集団休暇による生産調整が続いている。
日系部品メーカーによる新規進出はそれほど多くない。中期的な視点から生産能力増強やテクニカルセンター強化の動きが一部のメーカーで見られる。また、隣国のパラグアイで労働集約型製品の工場稼働が見られる。
メキシコでの生産能力拡充 ( )は生産品目など
既存工場の設備・生産ライン増設、新品目の生産 | サンショー(ウインドレギュレーター部品)、積水化学(合わせガラス用中間膜)、東プレ(プレス部品)、東レ(ラージトウ炭素繊維)、三井化学(PPコンパウンド)、ヨロズ(サスペンション部品)、テイ・エス テック(シートの組立ラインを追加)、ユニプレス(プレス機増設、切削ラインを追加)、三桜工業(エアシャッターガイドを新たに生産) |
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建屋・工場の増設 | 建屋拡張:愛三工業(エンジン部品)、原田工業(車載アンテナ) 新建屋:ケーヒン(空調用コンデンサー生産ライン追加)、西川ゴム(ゴムシール)、住江織物(新工場に移転、カーペット生産をライン追加) 第2工場:臼井国際産業(燃料噴射装置部品など)、広島アルミ(変速機ケース) 新品目の生産拠点:トピー工業(工業用ファスナー)、豊田合成(内外装部品)、豊田通商(鋼管加工)、三菱電機(オルタネーターなど) |
ブラジル、パラグアイでの事業展開 ( )は生産品目
新会社設立、新規工場稼働 | ブラジル:旭硝子(自動車用ガラス)、テイ・エス テック(シートのトリムカバー生産を分社化)、武蔵精密(デファレンシャル) パラグアイ:住友電装(ワイヤーハーネス) |
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生産能力増強、テクニカルセンター強化 | ブラジル:住友ゴム(ラジアルタイヤ)、デンソー(テクニカルセンター増員) |
日系部品メーカー動向関連レポート:
・ メキシコへの新規進出 (2015年6月)、
・ 東南アジア編 (2015年4月)、米国編(2015年3月)
・ 中国編(上):華南・華中・西南での動向 (2015年1月)
・ 中国編(下):華東・華北・東北地域・中国全体での動向 (2015年2月)
・ インド編 (2014年11月)
・ メキシコへの新規進出 (2014年10月)、メキシコでの工場拡充・ブラジルでの動向 (2014年10月)
・ タイ編 (2014年9月)
メキシコ Guanajuato州、Jalisco州、Morelos州、Queretaro州での生産能力増強など
会社名 | 活動内容 |
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臼井国際産業 |
燃料噴射装置向け部品などの第2工場が2015年10月稼働へ臼井国際産業は、Usui International Manufacturing Mexico, S.A. de C.V. (Guanajuato州)の敷地内に第2工場を建設し、2015年10月に稼働予定。投資額は15億円。既存工場では手掛けていなかった防錆用のメッキ加工や部品同士を銅で接着するロウ付けの設備を導入し、高付加価値の燃料噴射装置部品、エンジン回り部品を生産する。2018年の売上高は50億円を目指す。 |
サンショー |
ウインドレギュレーター部品の生産能力を増強サンショーは、SANSHO MEXICANA, S.A.de C.V.(Queretaro州)で窓の開閉に使用するウインドレギュレーターの部品を増産する。射出成型機を増設し、2017年度にも2014年度の30倍となる月産600万個まで拡大。ハイレックスなど現地の一次部品メーカーに供給する。2016年度は売上高20億円を目指す。受注が拡大すれば新棟建設も計画。 |
住江織物 |
敷地3倍の新工場に移転し、生産体制拡充住江織物は、Suminoe Textile de Mexico, S.A. de C.V.(Guanajuato州)の生産体制を拡充。従来の3倍強の敷地面積の新工場に移転。従来からのマットとシートファブリックに加え、新たにニードルパンチカーペットの製造ラインを新設し、2015年3月に生産開始。レンタル工場としたため、投資額を6億円に抑えた。売上高は、2015年5月期の6億円(見込み)から2018年5月期に24億円を目指す。 |
積水化学 |
合わせガラス用中間膜の生産ラインを増設積水化学は、SEKISUI S-LEC MEXICO S.A. de C.V.(Morelos州)に自動車用合わせガラス用中間膜の生産ラインを増設する。年産能力は新ラインが700万台分で、従来型の中間膜300万台分と合わせ、工場全体では1000万台分となる。増産分は、全て高機能な遮音中間膜で、2017年度下期の稼働予定。米州地域全体で需要増が見込まれる高機能ガラス向けに供給する。投資額は約40億円。 |
テイ・エス テック |
新工場にシート組立ラインを追加し、2017-18年に生産開始テイ・エス テックは、TST MANUFACTURING DE MEXICO, S. DE R.L. DE C.V.(Guanajuato州)が2014年10月に米州向けシート・ドア用部品工場として稼働した。また、2014年に新たにシートの新規受注が決まったため、同工場敷地内にシート組立のラインを設置し、2017-18年に生産を開始する予定。 |
東プレ |
プレス部品の新工場に追加設備投資計画東プレは、Topre Autoparts Mexico, S.A.de C.V. (Queretaro州)のプレス部品工場(投資額約40億円)が2014年に稼働したが、今後の供給量増大に対応し、建屋と大型・中型プレス機など生産設備の増強を決定。2017年4月の稼働を計画。投資額は約40億円。売上高を2014年度の100億円程度から200億円まで増加させる。 |
東レ |
ラージトウ炭素繊維の生産設備増強東レは、米子会社Zoltek Companies, Inc.(Missouri州)のメキシコ工場(Jalisco州)でラージトウ炭素繊維の生産設備を増強する。年産能力を現在の2,500トンから5,000トンに倍増し、2016年4月に生産開始予定。自動車構造体向けや風力発電関係用途で2016年初頭に生産能力が不足するのに備える。 |
豊田合成 |
内外装部品の生産会社を設立豊田合成は、Toyoda Gosei Irapuato Mexico, S.A. de C.V. (Guanajuato州)を2014年8月に設立。資本金は4,680万ドル。工場は2016年4月に稼働予定。ラジエーターグリル、コンソールボックスなどの内外装部品を米州地域で生産するトヨタをはじめとするメーカーに供給する。投資額は約6,700万ドル。2019年の売上高は約9,000万ドルを計画。メキシコで4つ目の拠点設立により、同社の4事業全てで生産体制を構築。他の3事業は、セーフティシステム製品、オートモーティブシーリング製品、機能部品。 |
豊田通商 |
自動車用鋼管加工会社を設立豊田通商は、自動車用鋼管の加工会社Toyota Tsusho Steel Pipe de Mexico S.A. de CV (Queretaro州)を2015年7月に設立予定。資本金は96.6万ドル。同年10月の操業開始を目指す。投資額は2億円。メキシコでの日系自動車メーカー、部品メーカーの需要増に対応する。 |
西川ゴム |
ドア回りのゴムシールの生産能力拡大のため新棟建設西川ゴムは、ドア回りのゴムシール製品を生産するNISHIKAWA SEALING SYSTEMS MEXICO S.A. de C.V. (Guanajuato州)の工場敷地内に新棟を建設し、2015年7月に稼働予定。納入先のマツダ、日産、ホンダの生産能力拡大に対応。2つの工場棟で生産工程を分けて、生産効率を高める。投資額は約6億円。売上高は、2016年度は稼働当初見込みの約30億円から約45億円へ引き上げ、2017年度は約60億円を見込む。 |
原田工業 |
車載アンテナの生産能力を拡充原田工業は、2015年8月をめどにHARADA INDUSTRIES (MEXICO), S.A. DE C.V.(Queretaro州)の車載アンテナの生産量を従来の2倍に引き上げる。数億円を投じて建屋を約1.5倍に拡張し、アンテナや付属部品の組み立て設備を導入。主要製品は、ルーフアンテナ、ルーフ搭載型低背アンテナなど。 |
広島アルミ |
アルミダイカスト部品の第2工場が2015年7月に稼働広島アルミは、HAL ALUMINUM MEXICO,S.A.DE C.V.(Guanajuato州)のアルミダイカスト部品の第2工場が2015年7月に稼働し、変速機ケースを日本とドイツの変速機メーカーの北米工場に供給する。大型変速機ケースの生産能力は、従来比6割弱拡大する。投資額は46億円。 |
三菱電機 |
自動車機器の新会社が2014年10月に営業開始三菱電機は、自動車機器の製造・販売会社Mitsubishi Electric Automotive de Mexico, S.A. de C.V.(Queretaro州)が2014年10月に営業開始。資本金は約30億円。オルタネーター、スターター、カーマルチメディア製品、カーメカトロニクス製品などを取り扱う。メキシコでの拠点設立により、米州での事業体制強化を図るもので、売上高は2017年度に300億円を目指す。 |
ヨロズ |
プレス機を増設し生産能力拡大、超ハイテン材にも対応ヨロズは、サスペンション部品などを生産するYorozu Automotive Guanajuato de Mexico, S.A. de C.V.(Guanajuato州)に大型プレス機を2016年度後半に1基増設し、生産能力を2倍以上に拡張する。主要取引先の日産やホンダなどの生産増や超ハイテン材の成形にも対応する。 |
メキシコ San Luis Potosi州での生産能力増強など
会社名 | 活動内容 |
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愛三工業 |
エンジン構成部品の新工場が2015年夏に稼働。さらに建屋を増設愛三工業はAisan Autoparts Mexico,S.A.de C.V.(San Luis Potosi州)の新工場が2015年夏に稼働予定で、日産向けにスロットルボディ、フュエールポンプモジュール、EGRバルブなどを供給する。さらに2015年中に新工場と同規模の建屋増設に着手し、2017年度までに増産体制を構築。投資額は10数億円。日産向け供給能力向上に加え、日系他社へのビジネスにも対応。 |
ケーヒン |
エアコン・コンデンサー、インジェクターの新ラインが生産開始ケーヒンは、Keihin de Mexico S.A. de C.V. (San Luis Potosi州)の工場敷地内の新建屋に空調用コンデサーのラインを設置し、2014年初にフォルクスワーゲン向けに出荷。年産能力は70万台分。また、直噴エンジン対応インジェクターの生産ラインでは2015年から中間製品を生産し、米国のインディアナ工場に送り、完成品に組み立てる。年産能力は400万本。 |
トピー工業 |
工業用ファスナーの新工場建設トピー工業は、子会社のトピーファスナー工業がTOPY FASTENERS MEXICO S.A. DE C.V.(San Luis Potosi州)を2015年7月に設立予定。資本金は500万ドル。工場は2017年1月の稼働予定で、ワッシャーなどの工業用ファスナー製品を最大で月800万個生産できる体制を整える。投資額は867万ドル。メキシコの日系、欧米系自動車メーカー、部品メーカーへの供給を想定。 |
メキシコ Aguascalientes州への生産能力増強など
会社名 | 活動内容 |
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三桜工業 |
ドイツメーカー向け樹脂部品を受注、既存工場で生産へ三桜工業は、Sanoh Industrial de Mexico S.A. de C.V.(Aguascalientes州)がドイツメーカーから樹脂部品のエアーシャッターガイドを2014年に受注。同部品は、2013年に買収したドイツの部品メーカーGeiger Automotive GmbHが持つ製品で、買収後初の受注。ドイツメーカーのメキシコ工場に納入する。 |
三井化学 |
PPコンパウンド生産能力拡張三井化学は、ADVANCED COMPOSITES MEXICANA S.A. DE C.V.(Aguascalientes州)のPPコンパウンドの年産能力を2015年3月までに従来比84.5%増の8.3万トンに拡大。米国工場でも同13.8%増の28.9万トンに拡大し、北中米での当面の増強を完了。 |
ユニプレス |
プレス機、切削ラインを導入し一貫生産体制構築ユニプレスの子会社Unipres Mexicana, S.A de C.V.(Aguascalientes州)の変速機部品工場は、2014年7月から組み立てラインが稼働していたが、2015年に入りプレス機や切削ラインを導入し一貫生産体制が整った。投資額は約50億円。無段変速機(CVT)向けの部品、車体プレス部品などを本格生産し、2016年度に67億円の売上高を見込む。 |
メキシコ 米国との国境沿いの州での生産変更
会社名 | 活動内容 |
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タカタ |
BMW向けエアバッグのインフレーター生産をドイツ工場に移す計画タカタは、BMW車用のエアバッグのインフレーターの生産をIndustrias Irvin de Mexico, S.A. de C.V.(Coahuila州)のMonclova Plantから、ドイツTAKATA Sachsen GmbHのFreiberg Plantに移す計画。BMWが米当局に提出した文書で明らかになった。 |
ブラジル、パラグアイ: 新生産拠点の構築、生産能力増強 など
会社名 | 活動内容 |
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旭硝子 |
自動車用ガラスの出荷を2014年初に開始旭硝子は、AGC Vidros do Brasil(Sao Paulo州)で自動車用ガラスの生産を2013年10月に、出荷を2014年初に開始。当初のスケジュールには遅れがあるものの、生産量は順調に拡大すると予想。 |
住友ゴム |
タイヤの生産能力を増強住友ゴムは、Sumitomo Rubber do Brasil Ltda.(Parana州)のラジアルタイヤ工場生産能力が2013年末の日量約2,000本から2014年末に同8000本に増加。2015年末には同1万5000本に拡大させる計画。 |
テイ・エス テック |
シートのトリムカバー製造の新会社設立テイ・エス テックは、子会社のTS TECH DO BRASIL LTDA.(Sao Paulo州)が内製していた自動車用シートのトリムカバー製造を分社化するため、TS Trim Brasil S/A (Minas Gerais州)を2014年5月に設立。資本金は約11.8億円。工場は2015年1月に稼働。投資額は約10億円。部品生産の集約化により競争力を強化。 |
デンソー |
テクニカルセンターの人員を増加デンソーは、2015年度までに新興国(中国、インド、タイ、ブラジル)のテクニカルセンターで技術者をそれぞれ現状比5割増加させ、合計600人規模に増員する。各国のテクニカルセンターでは、現地ニーズの吸い上げに重点を置いている。 |
武蔵精密 |
デファレンシャルをブラジルで生産開始へ武蔵精密工業は、デファレンシャルの世界販売を2019年度に2014年度比2.5倍の1000万個に拡大する計画。その一環として、2016年度までにブラジル、ハンガリーでも生産を開始する計画。現状の日本、北米、中国、インドネシア、インドに加えて世界供給体制を拡充する。自動車メーカーのみならず変速機メーカーにも拡販する。 |
住友電装 |
パラグアイにワイヤーハーネスの生産会社設立住友電装は、パラグアイにワイヤーハーネスを生産するSumidenso Paraguay S.R.L(Paraguay)を設立。ブラジル向けのワイヤーハーネス供給基地の位置付け。工場は2015年度初に稼働し、日系メーカーに供給。非日系メーカーの納入先開拓が課題。 |
<自動車産業ポータル、マークラインズ>