ダイハツムーヴ分解調査(中):独自技術で燃費と動力性能を競うエンジンパワートレーン

軽量化・小型化を追求したターボエンジンと3軸ギヤトレーンのCVT

2015/02/27

要 約

ダイハツムーヴ分解調査

 ダイハツムーヴ分解調査(上):コンパクトカーに匹敵する装備と部品仕様(2015.2.16 No.1378)に続き、ダイハツムーヴの分解調査(公益財団法人ひろしま産業振興機構主催ベンチマーク活動、2015年1月21日~27日)の内容をレポートする。今回はダイハツムーヴXターボVS仕様(5代目/2014年製:注)の、エンジンとトランスミッションについて解説する。

 ダイハツムーヴ(5代目)のターボエンジンはロングストロークのエンジンをベースに、IHI製の世界最小クラスのターボチャージャーを搭載し、レスポンスの良さ、低中速のトルク、燃費の良さを提供している。アルミブロックは入念に考え抜かれたリブ構造を持ち、高い剛性で騒音振動を低減しながら軽量化を追求している。また樹脂製のインテークマニホールドやスロットルボディの採用等でクラス最軽量を狙って開発された。2006年デビューから年月が経過しているが、熾烈な軽自動車市場での競争力を保持している。

 トランスミッションはダイハツ独自技術のCVTで、ベルトとプーリーの変速機構の前に前進後退の切り替えと減速機能を備えたプラネタリーギヤを配置している。この構造により、一般的なCVTでは4軸ある内部構造を3軸に減らすことができ、ユニットの軽量化と小型化を可能にしている。さらに、このプラネタリーギヤの減速機能でCVTのベルトとプーリーの回転数を下げることで摩擦損失を減らし、燃費を向上している。

 今回のレポートでは、このターボエンジンとCVTユニットの分解調査結果を報告する。

 (注):フルモデルチェンジした6代目ムーヴが2014年12月に発売されている。


過去の分解レポート:

ダイハツムーヴ (2015年2月掲載)
 (上):コンパクトカーに匹敵する装備と部品仕様

VW Polo (2014年11/12月掲載)
  (上):サプライヤーリストとエンジンルーム、運転席周りの分解
  (下):1.2TDIターボディーゼルエンジン、サスペンションの構造

日産 ノート (2014年9月掲載)
  (上):主要安全技術と先進運転支援システム
  (下):スーパーチャージャーを採用したドライブユニット

ホンダ アコードハイブリッド (2014年2月掲載)
  (上):PCUとシャシ関連部品
  (中):電池関連部品と電動サーボブレーキシステム
  (下):ドライブユニット

ホンダ フィットハイブリッド (2013年12月掲載)
  (1) 電池関連部品と電動サーボブレーキシステム
  (2) エンジンとモーター内蔵7速デュアルクラッチトランスミッション

トヨタ アクア (2012年11月掲載)
  (1) 主要部品サプライヤーと電池関連部品
  (2) 燃費35.4km/Lを達成したハイブリッドシステム

日産 リーフ
  (1) 分解調査(2012年2月掲載)
  (2) 主要部品の分解展示報告(2012年9月掲載)
  (3) カットボディーの展示取材報告(2012年11月掲載)

トヨタ プリウス (2010年3月掲載)
  プリウスの分解実験

ダイハツムーヴ(2014年モデル)の主な車両仕様

ダイハツムーヴ ダイハツムーヴ
車両仕様 車両/グレード ダイハツムーヴXターボVS (特別仕様車)+OptionスマートセレクションSA
車両価格 133万円+Option 6万円
車両サイズ 全長3,395mm X 全幅1,475mm X 全高1,620mm
車両重量 820kg
乗車定員 4名
エンジン KF型水冷直列3気筒インタークーラーターボ
トランスミッション トルクコンバーター+ロックアップ機構付きCVT
JC08モード燃費 25.20km/L


3気筒DOHC12バルブインタークーラー付きターボチャージャーエンジン

KF-DET型エンジン KF-DET型エンジン

 KF-DET型エンジンは、排気量660ccガソリン3気筒DOHC12バルブでインタークーラー付きターボチャージャーを装備し、出力47KW(64PS)/6400rpm、トルク92Nm(9.4kgm)/4200rpmを発する。リッター当たりの出力は71.2KW(97PS)という高性能エンジンである。ボア X ストロークは63mm X 70.4mmでボアストローク比1.12のロングストローク型エンジンであり、出力よりトルクを優先した基本骨格である。

 横置きエンジンの車両前側に排気系を配置し、エキゾーストマニホールド直後にターボチャージャーが取り付けられている。ターボチャージャーで過給された空気はエンジン上部の空冷インタークーラーで冷却された後、車両後ろ側の吸気系(スロットルボディ、インテークマニホールド)に送られる。

 

空冷インタークーラー

 エンジン本体の上部に空冷インタークーラー(ティラド製)を配置し、ボンネットに設置された空気導入口から取り入れた空気で、ターボチャージャーで熱せられた吸気温度を冷却する。インタークーラーをフロントグリル裏ではなく、エンジン本体の上部に配置したのは、吸気系の経路を短くすることで、吸気のレスポンスを向上するためである。フロントグリル裏にした場合には、冷却風を多く取り入れることが容易であり、吸入空気の温度を下げられることから、より大きな出力、トルクが期待できるが、この車では性能としてレスポンス向上を優先している。

空冷インタークーラー搭載位置 空冷インタークーラー
          空冷インタークーラー搭載位置   エンジンヘッドカバーの上部に設置されて、ボンネット   上部の外気導入ダクトからの冷風で冷却する 空冷インタークーラー (ティラド製)

 

ターボチャージャー

 ターボチャージャーはIHI製のRHF25タービンが搭載されている。このターボチャージャーは、2008年にIHIがダイハツ向けに開発した世界最小クラスのターボチャージャーで、軽量・コンパクト・高性能を売りにしている。排気タービン部の外径は約70mm、コンプレッサー部外径は約80mmと非常に小さい。内部のタービンブレード(タービンの羽)の直径を小さくすることで、低回転からレスポンスの良い過給性能を有利にし、トレードオフとなる高出力への対応に対しては、回転数を従来の25万rpmから20%アップの31万rpmとして、過給能力の確保を行っている。高速回転に対応するために、軸受部の改良やタービン、コンプレッサーの信頼性向上が行われている。

IHI製RHF25ターボチャージャー 排気タービン外径は約70mm コンプレッサー外径は約80mm
IHI製RHF25ターボチャージャー 排気タービン外径は約70mm コンプレッサー外径は約80mm

 

吸排気動弁系

 吸排気動弁系は、DOHC12バルブで、各気筒4バルブである。2014年にフルモデルチェンジしたコペンと6代目ムーヴには可変バルブタイミング機構(DVVT)がついているが、この5代目ムーヴのターボ仕様には付いていない。5代目ムーヴでもNAエンジン車には装備されていたため、関連部品の部品共用化のために、そのスペースだけは確保されていて、カムシャフトの前端部にはダミーウェイトが装着されている。

 エンジン組み立て後のバルブクリアランスのシム調整作業を不要とするために、シムレスバルブリフターを採用し、作業工程の短縮とコストダウンを図っている。シムでの寸法調整をせずに、組み立て時に25種類の細かく寸法の異なるバルブリフターが用意され、適正寸法に合致したバルブリフターを選択し組み込むことで、調整を不要としている。

排気系及び吸気系カムシャフト シムレスバルブリフターとバルブスプリング
排気系及び吸気系カムシャフト シムレスバルブリフターとバルブスプリング

 

インテークマニホールドとスロットルボディ

 インテークマニホールドは樹脂製で、電動スロットルボディが一体で組み込まれている。インテークポートは細く長い仕様になっており、スロットルボディから3/4回転の弧を描いてシリンダーヘッドに繋がれている。低回転域でのインテークポート内の流速を速め、低燃費と低中回転域のトルク向上を重視している。

樹脂製インテークマニホールド 樹脂製インテークマニホールド
樹脂製インテークマニホールド:中低速トルクを狙って長いポートがコンパクトに組み込まれている

 

エンジンブロック

 エンジンブロックはアルミ製で、全体としては小さく軽量コンパクトであるが、振動と静粛性のために充分な剛性を確保するため、ロングスカートで補強リブやオイルパンやCVTユニットとの結合部の形状など細かな配慮がほどこされている。

アルミ製エンジンブロック アルミ製エンジンブロック
アルミ製エンジンブロック:入念に考え抜かれたリブ形状で、強度剛性確保と軽量化を実現している

 エンジンブロックのシリンダー周囲のウォータージャケット部には、樹脂製のウォータージャケットスペーサーが組み込まれている。始動時の低水温時の暖気時間を短くするために、ライナー部周辺を囲うことで水温を早く温めている。

ロングスカートタイプ ウォータージャケットスペーサー
          ロングスカートタイプでクランクシャフト周りの           剛性を確保している        ウォータージャケットスペーサー(樹脂製)が       設定されている

 

シリンダーヘッドとピストン

 圧縮比は9.0で、ターボチャージャー付きエンジンの標準的な値である。シリンダーヘッド側にペントルーフ型燃焼室が形成されており、ピストン側にも凹部を設けている。

ペントルーフ型燃焼室のシリンダーヘッド シリンダー内の気流を考慮したピストン形状
ペントルーフ型燃焼室のシリンダーヘッド シリンダー内の気流を考慮したピストン形状

 

三元触媒

 三元触媒はターボチャージャーの直後に配置されており、エンジンアッセンブリーの中に含まれている。内部の触媒として使用しているパラジウムに自己再生機能を持たせることで、安定した触媒機能を長く持続させている。三元触媒及びエキゾーストマフラーアッセンブリーはフタバ産業製。

三元触媒 三元触媒内部
三元触媒(フタバ産業製) 三元触媒内部

 

エンジン関係電装部品

 以下に、エンジン関係の電装部品の写真を紹介する。

イグニッションコイル オルタネーター
イグニッションコイル (ダイヤモンド電機製) オルタネーター (デンソー製) 減速時エネルギー回生を行っている
カムシャフト回転角センサー ノッキングセンサー
カムシャフト回転角センサー (デンソー製) ノッキングセンサー (デンソー製)
エンジンECU内部回路 エンジンECU内部回路
エンジンECU内部回路 (デンソー製)

 

 



独自構造のトルクコンバーター+ロックアップ機構付きCVT

トランスミッション仕様 形式 トルクコンバーター+ロックアップ機構付きCVT
変速比 前進 3.327-0.628
最終減速比 4.8

 ダイハツの軽自動車用CVTの特徴は、ベルトとプーリーの変速機構の前に、前進後退の切り替えと減速機能を備えたプラネタリーギヤを配置していることである。これにより、一般的なCVTでは4軸ある内部構造を3軸に減らすことができている。以下にその構造を解説する。

CVTユニット外観 回転軸が3軸で構成
CVTユニット外観 回転軸が3軸で構成されている

 

CVT基本構造

 エンジンからの出力はドライブプレートを介し、まずトルクコンバーターに伝えられ、右図に示すように、以下の順の流れで伝達される。 ① トルクコンバーター ② インプットシャフト ③ プラネタリーギヤ ④ プライマリープーリー ⑤ 金属ベルト ⑥ セカンダリープーリー ⑦ デファレンシャルギヤ ⑧ ドライブシャフト CVT基本構造
資料:ダイハツ

 

3軸ギヤトレーンで小型軽量化

 一般的なCVTはユニットの構造は図の左側のように、4つの回転軸を用いている。CVTはベルトでプーリーを回転して変速するため、プライマリープーリーとセカンダリープーリーの回転方向が同方向となり、最後のデファレンシャルギヤで、エンジンの回転方向と同じ回転方向にするためには、逆転ギヤを介して伝達する必要があり、合計4軸となっている。エンジンの回転方向は他のトランスミッションとの組み合わせもあるため、CVT専用には変えられず、トランスミッションとして回転方向をそろえておく必要がある。

 ダイハツ独自のCVTは、トルクコンバーターの後のプラネタリーギヤ内部のサンギヤに回転が伝わると、前進状態ではキャリアを固定してリングギヤから出力することで、回転が逆回転になる。こうして、同軸上で逆回転化されるために、逆転専用の回転軸が不要となり3軸化が実現している。

CVTのしくみ
資料:ダイハツ

 

摩擦損失を低減して伝達効率向上

 CVTのベルトとプーリーの変速機構部では、プーリーの回転速度が速くなると、摩擦損失が増大し伝達効率が低下してしまう。このCVTは前述で説明した、プライマリープーリーへの入力の前段階で、プラネタリーギヤにより回転方向を逆転する際に、合わせて減速も行うようにギヤ比が設定されている。これにより、ベルトとプーリーの回転速度を下げることが可能となり、摩擦損失を低減し伝達効率を向上させている。 CVT プーリーとベルト
CVT プーリーとベルト CVT プーリーとベルト
CVT プーリーとベルト (本体ハウジング組み込み状態) CVT プーリーとベルト (単品)
リダクションギヤ リダクションギヤ
プラネタリーギヤ (リダクションギヤ) トルクコンバーターからの入力を逆転及減速して、プライマリープーリーへ伝達する
CVTユニット本体ハウジング デファレンシャルギヤ
CVTユニット本体ハウジング (左下がデファレンシャルギヤ取り付け部) デファレンシャルギヤ
本体ハウジング 本体ハウジング
本体ハウジング (左側がトルクコンバーターからの入力部) 本体ハウジング (CVTベルト&プーリー組み込み部)
本体ハウジング 本体ハウジング下側
                本体ハウジング     右側がプラネタリーギヤ(リダクションギヤ)組み込み部     左側がデファレンシャルギヤ組み込み部 本体ハウジング下側 バルブボディ組み込み部及びオイルパン開口部
組み込まれた状態 本体部分に取りつけるケース
     本体ハウジングにデファレンシャルギヤ及び      プラネタリーギヤが組み込まれた状態 左写真の本体部分に取りつけるケース
バルブボディ バルブボディ
バルブボディ

                     <自動車産業ポータル、マークラインズ>