ASEANの日系部品メーカー (2):インドネシア、ベトナム、マレーシア他

自動車市場が拡大するインドネシアで、部品メーカーの生産進出・能力拡充が増加

2011/06/30

要 約

 以下は、ASEAN諸国 (タイを除く) における日系自動車部品メーカーの最近動向である (収録対象は、2011年 6月中旬までの約 1年間)。

 インドネシアでは、自動車市場の拡大に対応し、完成車メーカーが増産計画を推進。日系部品メーカーは、拡大する国内市場向けの生産拠点およびASEAN諸国やインド等向けの輸出拠点として、新拠点構築や生産能力拡充を進めている。

 ベトナムでも、国内向けのほか、日本、米国、欧州およびASEAN諸国への輸出拠点として、部品メーカーの新工場建設・生産能力増強が増えている。

 その他の国々 (マレーシア、シンガポール、フィリピン等) では、タイヤの生産能力拡充およびタイヤ用合成ゴムの生産進出を除くと、日系部品メーカーの動きは少ない。

 なお、タイにおける日系自動車部品メーカーの動きは、2011年6月20日掲載の "ASEANの日系部品メーカー (1)" に収録する。



インドネシア:小糸製作所、ジェイテクト、タカタ、東海理化、ユニプレス等が新拠点構築

 インドネシアでは、2010年の新車販売台数が、過去最高だった2008年の60.8万台を上回る74.2万台となった。市場拡大に対応し、トヨタ、ダイハツ、日産、スズキ、日野、いすゞ、VW等の完成車メーカーが生産能力増強を計画。日系部品メーカーも、国内市場向けの生産拠点およびASEAN市場やインドへの輸出拠点として、インドネシアでの動きを加速させている。

 新拠点構築では、小糸製作所が前照灯、ジェイテクトが電動パワーステアリング、タカタがシートベルト、東海理化がスイッチ類やキーセット、ユニプレスが車体骨格部品の工場を新設する。

 生産能力拡充では、曙ブレーキ工業がディスクブレーキや摩擦材、大豊工業がエンジン用軸受、中央発條がコイルばねとスタビライザ、ブリヂストンがラジアルタイヤ、リケンがブレーキドラム等鋳造部品の生産増強を図る。

インドネシア:日系自動車部品メーカーの生産拠点の構築・増強

(2011年 6月中旬までの約 1年間の動向。配列は企業名 50音順)
愛三工業:トヨタがインドに投入した Etios 向け燃料ポンプモジュール部品を増産
 愛三工業は、2010年末までに、West Java州の PT. Aisan Nasmoco Industri に 1億 5,000万円を投じて加工設備を増設し、四輪車向け燃料ポンプモジュール部品の生産能力を増強した。同部品は、インド・Kanchipuram市の愛三工業の工場で組み立て、トヨタがインドに投入した新型小型車 Etios 向けに納品する。
曙ブレーキ工業:メッキ加工や四輪車部品の新工場建設、既存工場も設備増設
 曙ブレーキ工業は、Jakarta市でディスクブレーキや摩擦材を生産している PT. Akebono Brake Astra Indonesia の隣接地約 1万 2,000㎡ を、2010年10月に購入。外注していたメッキ加工や四輪車部品の新工場を建設し、2013年に稼働する計画。投資額は約 3億円。
 既存工場にも約 10億円を投資して、生産ラインのレイアウト変更や設備の増設を実施する。ダイハツ等の四輪車、いすゞ等の商用車、ヤマハ発動機等の二輪車メーカーが計画している、生産拡大に対応する。曙ブレーキは、インドネシアでの売上高を、2009年度の108億円から、2012年度には 20%増の 130億円に増やす見込み。
伊藤忠丸紅鉄鋼:車体の軽量化・高剛性化を両立する鋼材加工設備を導入
 伊藤忠丸紅鉄鋼は、現地の事業会社 PT. United Steel Center Indonesia が Jakarta市近郊に持つ工場に、Tailor Welded Blanking (TWB) の加工設備を導入する。同設備は、板厚・材質の異なる鋼板を溶接した鋼材を、切断して成型する。必要部分のみを厚くして強度を確保できるため、車体の軽量化と高剛性化の両立が可能。2012年 1月に稼働予定で、月産能力は 5万枚。(同社によると) 同設備はインドネシアでは初。
梅田工業:既存工場を増築し、電装部品の生産能力を1.5倍に増強
 梅田工業は、電装部品を生産する PT. Umeda Kogyo Indonesia (Jakarta市) を増築し、プレス加工機やマシニングセンターを約10台新規導入した。2011年 2月から従来機と合わせて 60台規模で本格稼働し、生産能力を約 1.5倍に増強した。総投資額は 5億円。インドネシア工場の売上高を、2010年度 15億円から、2011年度は20億円とする見込み。
小糸製作所:新会社を設立し、前照灯を年40万台分生産
 小糸製作所は、2010年 6月に PT. Indonesia Koito (West Java州)(小糸製作所が 90% 出資) を設立し、2011年 4月に新工場を稼働させた。投資額は約 30億円。2012年には、四輪車用前照灯を40万台分、二輪車用前照灯/標識灯を各120万台分生産し、インドネシアでの受注拡大に対応する。ASEAN地域での生産拠点はタイに次ぐ 2番目。
三光合成:新工場でインパネやドア周り部品を増産
 三光合成は、日系自動車メーカーへの供給力を高めるため、子会社の PT. Sanko Gosei Technologies Indonesia を通して West Java州に新工場を建設する。延べ床面積は4,000平方メートルで、2012年 2月の稼働を目指す。新工場では計器板 (インパネ) やドア周り等を生産する。投資額は、タイでの新製造棟建設と合わせ、約 23億円。
サンライズ工業:エアコン用ホース口金具の生産工場を建設
 サンライズ工業は、タイとインドネシアにエアコン用ホース口金具の生産工場を新設し、日系自動車メーカーへの供給能力を増強する。投資額は合計 25億円で、マレーシア子会社の Sunchirin Industries (Malaysia)(87年設立のニチリンとの合弁会社) が建設する。インドネシアでは、West Java州の 5万㎡ の用地に建設し、2012年夏に完成予定。工場の建屋面積は 9,000㎡。年間売上高 30億円を目指す。
GSユアサ:関連会社を持分法適用会社とし、鉛蓄電池の輸出戦略拠点へ
 GSユアサは、2010年10月、インドネシアで鉛蓄電池の製造販売を手掛ける関連会社 PT. Trimitra Baterai Prakasa (TBP) の出資比率を 25% から 50% に引き上げ、持分法適用会社とした。TBP社の増資約 4.3億円を引き受け、出資比率を高めた。同社を輸出戦略拠点と位置づけ、インドネシアだけでなく、欧州、ベトナム、マレーシア、豪州等への販売を強化する。2013年度の販売目標は 610万個 (2010年度は 420万個)。
ジェイテクト:新生産拠点で年35万台の電動パワーステアリングを生産
 ジェイテクトの子会社 PT. JTEKT INDONESIA は、West Java州に四輪車用電動パワーステアリング (年産 35万台) と二輪車用スタータクラッチ (同 460万個) を生産する新工場を建設する。敷地面積は10万㎡。2011年10月より、生産開始する予定。同社は軸受とスタータクラッチを販売しているが、生産拠点を持つのは初めて。投資額は約 30億円。2013年の売上高は約 60億円の見込み。今後、軸受の生産も検討する。
大豊工業:2015年度までにエンジン用軸受の月産能力を 2.5倍の 250万個へ
 大豊工業は、2015年度までに、日米欧、中国、インドネシアの各拠点に合計約 40億円を投じ、エンジン用軸受の月産能力を約 4割増の 4,000万個とする計画。インドネシアでは、トヨタ車の販売が好調であることを受け、West Java州の子会社の PT. Taiho Nusantara の月産能力を 2.5倍の 250万個に引き上げる。
タカタ:2012年初から新会社でシートベルト、エアバッグ等を生産
 タカタは、2010年10月、Jakarta市に PT. Takata Automotive Safety Systems Indonesia を設立。工場を新設して、2012年 1月からシートベルト、エアバッグ、ステアリングホイ-ルを生産し、トヨタ等のインドネシアで生産する自動車メーカー向けに供給する。敷地面積は約 6万㎡。インドネシアでは初の生産拠点。投資額は約 2,000万ドル。
タチエス:インドネシアでシート生産を検討
 タチエスは、インドネシアへの生産進出を検討する (2011年2月報道)。同国は、完成車メーカーの工場が集積しているため、複数メーカー向けのシートを一つの工場で生産することを視野に入れ、完成車メーカーには部品の共通化も提案する。設備投資や固定費を抑え、効率重視の生産体制を目指す。進出形態等の詳細は未定。
中央発條:新工場を建設し、コイルばねとスタビライザを増産
 中央発條は、インドネシアでの自動車生産台数増加に対応するため、子会社の PT. Chuhatsu Indonesia の新工場をWest Java州に建設する。2011年後半から、コイルばねとスタビライザを生産する計画。新工場の敷地面積は 3万㎡、建屋面積は 7,000㎡。投資額は約 9億円。
東海理化:新会社を設立して、スイッチ類やキーセットの生産開始
 東海理化は、2011年 5月、West Java州に PT. Tokai Rika Indonesia を設立した (出資比率は東海理化 90%、豊田通商の現地法人 10%)。豊田通商の現地拠点に約 1,000㎡ を賃借し、同年10月からスイッチ類やキーセット等のセキュリティ製品を製造する。トヨタやダイハツのインドネシアにおける生産拡大に対応する。2012年に売上高約 9億円を見込む。東海理化にとって、インドネシアでは初、ASEAN地域では 5番目の拠点。
豊田自動織機:新会社でエアコン用コンプレッサーを年 160万台生産
 豊田自動織機は、デンソー、豊田通商等と合弁で、カーエアコン用コンプレッサーを生産する PT. TD Automotive Compressor Indonesia (West Java州) を、2011年 1月に設立した(豊田自動織機が 50.1%出資)。デンソーが現地法人のコンプレッサー事業を分離した後、新会社が設備や従業員を引き継いで、2011年 6月より生産を継承する。初年度の年産能力は 100万台。2015年度までに約 20億円を投じて、同 160万台に増強し、ASEAN市場の拡大に対応する。トヨタ Etios 用コンプレッサーも生産し、インド向けに供給する計画。
豊田鉄工:プレス機を導入して、プレス部品の年産能力を 50-60%増の 40万台分へ
 豊田鉄工は、West Java州の PT. Nusa Toyotetsu に約 8億円を投資し、加圧能力 1,600トンのトランスファープレス機を 1台増設する (1,200トンの既存機と合わせて 2台体制とする)。2011年秋には、プレス部品 (センターピラー、ロアアーム、ブレーキペダル等) の年産能力を、50-60%増の約 40万台分に拡充し、トヨタやダイハツの生産拡大に対応する。2013年度のインドネシアでの売上高見込みは 130億円 (2010年度の約 30%増)。
南部化成:2013年までに射出成形機を増設し、樹脂部品を増産
 南部化成は、2011年 3月から2013年までに子会社の PT. Nanbu Plastics Indonesia (West Java州) で樹脂部品を増産し、日系メーカーからの受注増に対応する。2011年に第 1工場に型締め力 850トンの射出成形機 1台、同 650トンを 2台導入し、2013年までに第 2工場に中・小型の射出成形機を 40-60台導入する。インドネシアでの2013年売上高は 47億円の見込み (2010年比 4.7倍)。今後 3年間の投資額は、中国への増産投資と合わせて年間 5-10億円を計画。
ニチリン:2012年 6月から現地企業と合弁でホース類の生産を開始
 ニチリンは、2011年 6月に現地企業 PT. Mitrametal Perkasa (ミトラ社) と合弁契約を締結した。ミトラ社はニチリンの子会社 PT. Nichirin Indonesia (West Java州) の増資を引受け、同年 9月以降は両社の合弁事業 (ニチリンが 51%) として運営する。同子会社は、2012年 6月からホース類等配管部品を生産する計画。

(注) ニチリンは、従来、インドネシアではミトラ社に技術援助してきたが、顧客ニーズに的確かつ迅速に対応するため、合弁生産を開始する。事業計画のスケジュール上、2011年 4月に、まず、全額出資で PT. Nichirin Indonesia を設立していた。

日本精工:車載モーター向け軸受の部材加工能力を増強
 日本精工は、2011-2013年度の 3年間に、中国や東南アジア諸国等の新興国市場に最大 600億円 (08-10年度比 70%増) を投資し、現地生産・販売体制を整備する。インドネシアでは Jakarta市の PT. NSK Bearings Manufacturing Indonesia で、車載モーター等の需要拡大に応じ、軸受組み立て前の部材加工能力を高める。
日本ピストンリング:日本から設備を移管し、鋳鉄ピストンリングを月産 90万台から 120万台へ
 日本ピストンリングは、East Java州の子会社 PT. NPR Manufacturing Indonesia で、鋳鉄ピストンリングの月産能力を 90万本から 120万本に拡大する (2010年 6月報道)。日本国内の生産子会社、日ピス岩手の一関工場の既存設備をインドネシアに移管。移管費用は数千万円で、投資を抑えながら増産体制を整備する。
ハイレックス:コントロールケーブルの月産能力を 3割増の 380万本へ
 ハイレックス・コーポレーションは、コントロールケーブルの生産子会社 PT. HI-LEX Indonesia に約 2億 4,000万円を投資して、West Java州に第 2工場を新設し、2011年 6月に稼働開始した。新工場には第1工場から二輪用ケーブルの後工程を移管。第1工場では、二輪用前工程と四輪用ケーブルを手掛ける。2010年 8月時点の月産能力は、二輪用 195万本、四輪用 95万本だが、2013年には両工場で二輪用 255万本、四輪用 125万本とする計画。インドネシアおよび ASEAN諸国で生産拡大する日系自動車メーカーに供給する。
日立粉末冶金:新会社で2012年から粉末冶金製品を生産
 日立粉末冶金は、2010年11月に全額出資で West Java州に PT. Hitachi Powdered Metals Indonesia を設立した。新工場を建設し、2012年 4月からバルブガイド、スプロケット等のエンジン部品、軸受、補機部品等の粉末冶金製品を生産する。従来、インドネシア市場には、タイとシンガポールの拠点から供給していた。2015年度には、インドネシアでの四輪・二輪車用粉末冶金製品のシェア 40%以上を目指す。
ブリヂストン:ラジアルタイヤの日産能力を1割増の2万9,400本へ
 ブリヂストンは、子会社の PT. Bridgestone Tyre Indonesia に約 43億円投資し、West Java州の工場の生産能力を 、2012年 6月までに約 1割増強する。同工場は、2010年末までに乗用車用・小型トラック用ラジアルタイヤの日産能力を約 8,400本増強し、2万 6,400本に引き上げた。今回、さらに 3,000本を上積みし、2万 9,400本とする。同工場は、インドネシアのほか、北米や欧州にも供給しており、世界的な需要増に対応する。
プレス工業:2012年から初の生産拠点で建機キャビンを生産、将来は自動車部品も製造
 プレス工業は、2011年10月、伊藤忠丸紅鉄工と合弁で、West Java州に PT. PK Manufacturing Indonesia を設立する (プレス工業が 65% 出資)。2012年 9月から、まず建設機械用キャビンを年 3万台分生産し、インドネシアおよび周辺地域での需要増に対応する。将来は商用車用部品も生産する考え。総投資額は約 16億円。プレス工業がインドネシアに拠点を持つのは初めて。
古河電工:アルミ合金のワイヤーハーネスをインドネシアとベトナムで量産
 古河電工は、2011年度中にもアルミ合金のワイヤーハーネスをアジアの拠点で量産する。インドネシアにある古河電工、豊田通商、現地企業の合弁会社 Tembaga Mulia Semanan でアルミ合金から中間材を作り、ベトナムの拠点で電線に加工する。月産能力は 6トン。主に日本で販売する。アルミ製のワイヤーハーネスは銅製より約 4割軽く、車体軽量化を急ぐ自動車メーカーからの需要が見込まれる。
三ツ星ベルト:2011年初めから伝動ベルトを 3割増産
 三ツ星ベルトは、ASEAN地域における四輪・二輪車の生産拡大に対応し、2011年初頭からインドネシアとタイの計 3工場の能力を 3割程度増強した。総投資額は約 8億円。インドネシアでは、West Java州の PT. Seiwa Indonesia と Jakarta 近郊 Tangerang市の PT. Mitsuboshi Belting Indonesia に新設備を導入し、タイミングベルトや補器類用 Vベルト等を増産した。
安永:工場を増築し、コネクティングロッドの月産能力は 6万本増の 56万本
 安永は、West Java州にある子会社 PT. Yasunaga Indonesia の工場を増築し、エンジン部品のコネクティングロッドの生産ラインを 1本追加した (合計 9本)。投資額は約 2億円。2011年 4月から追加ラインを稼働し、月産能力を 50万本から 56万本に拡大。能力増強により、売上高は月間 4億円分増加する見通し。取引先のトヨタ、三菱、ダイハツ、UDトラックス等の生産拡大に対応する。
ユニバンス:マニュアルトランスミッション部品の生産工場で、2棟増設
 ユニバンスは、West Java州でマニュアルトランスミッション部品等を生産する PT. Univance Indonesia の工場を、2010年末までに拡張した。工場棟を 2棟増設し、建物面積をほぼ 2倍の 8,400㎡とした。需要拡大が見込まれるASEAN地域での拡販と、新興国への生産シフトによるコスト競争力向上を図る。
ユニプレス:新会社で日産向けに車体骨格部品を年 5万台分生産
 ユニプレスは、2011年 7月、West Java州に全額出資で PT. Unipres Indonesia を設立する。28億円を投じて新工場を建設し、2012年 6月から車体骨格部品を年 5万台規模 (車両ベース) で生産する。インドネシアで生産拡大する日産や他の自動車メーカーに供給する計画。2014年度のインドネシアでの売上高目標は 25億円。ユニプレスがインドネシアに生産拠点を置くのは初めて。
リケン:ブレーキドラム等の鋳造部品の月産能力を 7割増の 5,000トンへ
 リケンは、合弁会社の PT. Pakarti Riken Indonesia (東ジャワ州) に約 37億円を投資して、生産能力を増強する。2013年までにブレーキドラム等の鋳造部品の月産能力を、約 7割増の5,000トン規模とする。インドネシアおよび周辺国で生産拡大する日系完成車メーカーに対応。特に低価格車向け部品の取引拡大を目指す。

資料:各社広報資料, 各紙報道

 



ベトナム:ケーヒンとフコクが新拠点設立、秋葉ダイカストと住友電工が生産能力拡充

 ベトナムでは、国内事業向けに加え、日米欧およびASEAN諸国への輸出拠点として、日系部品メーカーの生産拠点構築や生産能力拡充が増加している。

 ケーヒンはキャブレター等の機械系機構部品、フコクはブレーキ部品やシール部品の生産工場を新設する。一方、秋葉ダイカストと日本電産トーソクはダイカスト部品、住友電工はワイヤーハーネスを増産する。

ベトナム:日系自動車部品メーカーの生産拠点の構築・増強

(2011年 6月中旬までの約 1年間の動向。配列は企業名 50音順)
秋葉ダイカスト:日本電産トーソクと合弁で、日産 March 向けダイカスト部品を生産
 秋葉ダイカスト工業所は、2010年 7月、日本電産トーソクとの合弁生産拠点 NIDEC Tosok Akiba (Vietnam) (Ho Chi Minh市) の稼働を開始した (出資比率は秋葉ダイカスト 15%、日本電産トーソク 85%)。アルミダイカスト製品を日本電産トーソクのベトナム工場に供給するほか、他社向けに亜鉛ダイカスト製品も生産する。
 秋葉ダイカスト工業所は2011年春までに NIDEC Tosok Akiba (Vietnam) でトランスミッション系部品の月産能力を 4倍の 8万台に引き上げた。主な搭載先である日産 March の生産がタイ、インド、中国、メキシコ、インドネシアで立ち上がるのに呼応。設備投資額は数億円の見込み。
黒田電気:ベトナムの部品メーカーを買収し、東南アジア・インド事業を拡大
 黒田電気は、ベトナムの部品メーカー Boramtek (Dong Nai省) の経営権取得のため、同社の親会社 HiVAT Global (本社:韓国) の株式 51% を取得することで合意した (2011年 5月発表)。取得金額は 600万ドル。Boramtek はキーセットやスイッチ類等の車載用部品や産業用モーターを生産し、ベトナム、欧州、日本、韓国の企業と取引する。Boramtek の買収により、ベトナム国内向けおよび東南アジアやインド向けの生産拠点として事業を拡大する。
ケーヒン:2012年から新工場で二輪車・四輪車用部品を生産
 ケーヒンは、2011年 6月、Hanoi近郊に Keihin Vietnam を設立 (アジア統括会社 Keihin Asia Bangkok が100%出資)。新工場を建設し、キャブレター等、二輪車・四輪車用の機械系機構部品を生産する。新工場は2012年中に稼働予定。ホンダを中心とする取引先からの需要増に対応する。ケーヒンにとって、ベトナムでの生産拠点は初。これまでタイから供給していたベトナム向け部品を、現地生産する。
住友電工:新工場棟を建設して、ワイヤーハーネスを増産
 住友電工は、ベトナム北部の Hai Duong省にある子会社 Sumidenso Vietnam に第 4工場を建設する。投資額は 20億円程度。2011年 7月までに稼働させ、ワイヤーハーネスを生産する。日本からの生産移管に加え、拡大する東南アジア・北米向け受注に対応する。
住友電工と住友電装:コネクタを月 5,000万個生産する子会社を設立
 住友電工と住友電装は、2010年10月、ワイヤーハーネスの構成部品、コネクタの製造子会社 SEWS-Components Vietnam を Hung Yen省に設立した。住友電装 (住友電工の連結子会社) が全額出資。両社にとって、ベトナムでのコネクタ生産拠点は初。新工場を建設し、2011年10月に稼働させる。2013年度の月産能力は5,000万個。2012年度の売上高目標は 1,400万ドル。ワイヤーハーネスを製造するグループ会社への安定供給、製造コスト低減、為替変動リスクの回避等の観点から、コネクタの現地生産を進める。
大日精化工業:高機能樹脂の生産ラインを 1系列増設し、年産能力は 13%増の 2万 7,000トン
 大日精化工業は、中国、タイ、ベトナムの既存 4工場に 3億~4億円を投資して、2011年夏までに内外装部品に使用する高機能樹脂の生産能力を増強する。ベトナムでは、Bac Ninh県の Dainichi Color Vietnam の工場のラインを 1系列増設。年産能力は 13%増の 2万 7,000トンになる。
豊田技研:照明の付属部品を一貫生産し、月産能力を 5倍の10万台へ
 豊田技研は、Hanoi市の生産拠点 Toyoda Giken Vietnam で、2010年 9月に照明の付属部品の一貫生産を開始した。従来は前工程を日本で、後工程をベトナムで加工していたが、ベトナム工場に 45-180トンのプレス機 3台と周辺装置を導入し、前工程の順送プレス加工ラインを追加した。日本で中古品を購入したため、投資額は600万円程度。2011年に、月産能力を2010年 9月時の 5倍の10万台に引き上げる。
日本電産トーソク:開発人員を 3倍の 100人に増員
 日本電産トーソクは、Ho Chi Minh市の NIDEC TOSOK (Vietnam) に常駐する開発人員を、新興国需要への対応力強化のため、2011年度中に現状の約 3倍の 100人に増員する (2011年 5月報道)。今後同社は、日本ではEV用モーター、インバーター等新製品の開発、海外拠点では CVT用コントロールバルブや空気・油圧制御弁等、従来製品のコスト削減といった開発を担当し、設計開発業務のコスト低減を図る。
フコク:新会社を設立し、ブレーキ部品・シール部品を生産
 フコクは、2011年3月、全額出資で Hanoi市に Fukoku Vietnam を設立した。新工場を建設し、2011年中にブレーキ部品やシール部品を生産する。日米市場向けに生産している中国拠点の生産能力不足を補完すると共に、ベトナムに進出した取引先からの現地生産化の要望に応えるため。敷地面積は 1万 578㎡、延べ床面積は 6,075㎡。2011年度売上高は約 1億 2,900万円、2015年度は約 6億 4,700万円の見込み。
 Fukoku Vietnam は2011年 5月、増資して 1億 4,500万円の資金を調達。既存工場の隣接用地の使用権を取得し、敷地面積を約 80% 拡大した。今後のブレーキ部品の増産に備える。
古河電工:アルミ合金のワイヤーハーネスをインドネシアとベトナムで量産
 古河電工は、2011年度中にもアルミ合金のワイヤーハーネスをアジアの拠点で量産する。インドネシアの拠点でアルミ合金から中間材を作り、ベトナムの Furukawa Automotive Parts (子会社である古河AS の全額出資子会社) で電線に加工する。月産能力は 6トンで、大半を日本へ輸出する。アルミ製のワイヤーハーネスは銅製より約 4割軽く、車体軽量化を急ぐ自動車メーカーからの需要が見込まれる。
ヨコオ:2012年から新生産拠点でワイヤーハーネスを生産、中国に次ぐ第 2の旗艦工場へ
 ヨコオは、2011年 7月、Hanoi近郊の Ha Nam省に全額出資で Yokowo Vietnam を設立する。新工場を建設し、2012年 8月に稼働予定。敷地面積は 3万 6,000㎡、建屋面積は 1万㎡。これまで中国工場で生産していたワイヤーハーネス製品の生産を担当するほか、順次、生産品目を拡大し、ASEAN諸国をはじめ、米国、欧州、日本に供給する計画。投資額は 8億~10億円。ヨコオは、ベトナム工場を、中国工場に匹敵する第 2の旗艦工場とする方針。

資料:各社広報資料, 各紙報道

 



マレーシア/シンガポール/フィリピン:東洋ゴム、横浜ゴムが生産能力を増強

 その他のASEAN諸国では、タイヤおよびタイヤ用合成ゴムメーカーの動きが見られる。マレーシアでは東洋ゴム工業、フィリピンでは横浜ゴムがタイヤの生産能力を増強する。シンガポールでは、省燃費タイヤ用合成ゴムを手掛ける旭化成ケミカルズと住友化学が新工場を建設する。

マレーシア/シンガポール/フィリピンでの日系自動車部品メーカーの動向

(2011年 6月中旬までの約1年間の動向。配列は企業名 50音順)

マレーシア

大阪真空化学:新会社を設立し、自動車部品用めっき工場を新設
 大阪真空化学は、2010年4月、Kualalumpur郊外のShah Alam市に全額出資で Osaka Vacuum Chemical (Malaysia) を設立。自動車部品用めっきの新工場を建設し、2010年10月から稼働を開始した。延べ床面積は約 3,000㎡。供給先の日系部品メーカーが東南アジアで生産拡大する動きに対応する。投資総額は 3億~4億円。2013年にマレーシアで 15億~20億円の売上高を目指す。 同社の海外生産は初。
カルソニックカンセイ:小型車のエアコン用コンプレッサーの生産を拡大
 カルソニックカンセイは、アジアで小型車のエアコン用コンプレッサー (固定容量タイプ) の生産を拡大する。 2011年 5月時点の年産能力は、日本が 100万台、マレーシアとタイ拠点を合わせて 150万台で、計 250万台。これを、2013年度には 1.6倍の 400万台に引き上げる計画。マレーシア拠点の Calsonic Kansei (Malaysia) (Johor州) でも、生産設備を増強して年産能力を拡大する。
東洋ゴム工業:買収した現地メーカーで、年産能力 5割増しの 450万本体制
 東洋ゴム工業は、2010年12月、マレーシアの第 2位タイヤメーカー Silverstone Berhad の全株式を約 125億円で取得し、子会社とした。同社の工場 (Taiping市) に日本の仙台、桑名両工場の設備を移管し、東洋ゴムの TOYO、NITTO ブランドの生産を開始する。Silverstone ブランドのタイヤも継続生産する。
 2011年 5月に発表した 5カ年中期経営計画に基づき、Taiping工場の年産能力を、当初 1、2年で現状比約 5割増の 450万本に引き上げる。将来的には、工場新設か合併・買収により、 800万本体制まで整備する計画。
日本精工:車載モーター向け軸受の部材加工能力を増強
 日本精工は、2011-2013年度の 3年間に、中国や東南アジア諸国等の新興国市場に最大 600億円 (08-10年度比 70%増) を投資し、現地生産・販売体制を整備する。マレーシアでは Selangor州の NSK Micro Precision (Malaysia) で、車載モーター等の需要拡大に応じ、軸受を組み立てる前の部材加工能力を高める。

シンガポール

旭化成ケミカルズ:年産能力 5万トンの省燃費タイヤ用合成ゴムの新工場を建設
 旭化成ケミカルズは、シンガポール・Jurong島に高性能省燃費タイヤ用合成ゴムの新工場を建設する (2010年 10月発表)。2013年 6月に稼働予定で、溶液重合法スチレンブタジエンゴムを年間 5万トン生産する。さらに2015年前半には、第 2期工事として同 5万トンのプラントを立ち上げる。アジアにおける自動車およびタイヤ生産の増加に対応する。同社のタイヤ用合成ゴムの海外生産は初。
住友化学:年産能力 4万トンの省燃費タイヤ用合成ゴムの新工場を建設
 住友化学は、シンガポール・Jurong島に省燃費タイヤ用の溶液重合法スチレンブタジエンゴム (S-SBR) 製造プラントを新設する (2010年11月発表)。2013年第 4四半期から商業運転を開始する予定。年産能力は 4万トン。世界的な燃費規制強化の中で、高性能省燃費タイヤ用の原料としてS-SBRの需要は急速に拡大。特にアジアでは、タイヤメーカーの増設計画が進んでおり、高まる S-SBR の供給能力の拡大要求に応える。

フィリピン

ファルテック:日産向けシートカバー生産工場を閉鎖
 ファルテックは、2011年 3月、フィリピン・セブ島でシートカバーを生産していた Fas Cebu Corporation を閉鎖した。主に日産車向けレース製シートカバーを生産し、ほぼ全量を日本に、一部を北米拠点に輸出していたが、シートの仕様変更等に伴い、カバー自体の需要が減退した。工場の閉鎖に伴い、Fas Cebu社を清算する。
横浜ゴム:新工場棟を増設し、2017年に年産能力を 2.4倍の 1700万本へ
 横浜ゴムは、Yokohama Tire Philippines の隣接地 30万㎡を借り、新工場を建設するとして、2011年 5月に鍬入れ式を開催した。現在の年産能力は 700万本だが、2013年に 1,000万本、2014年に 1,300万本、2017年に 1,700万本まで引き上げる。総投資額は 500億円。工場敷地面積は現在比 2.8倍の 46万㎡ となる。既存工場では乗用車・SUV用タイヤを生産し、大半を欧州、北米、ASEAN諸国に輸出している。新たに生産するタイヤは、主に北米市場に輸出する計画。

資料:各社広報資料, 各紙報道

                     <自動車産業ポータル、マークラインズ>