【ものづくり】第2回名古屋オートモーティブワールド2019:ターボ部品、電動車部品、欧州車ゴム部品
ターボインペラー、クーリングパイプ、電子基板EMS、PEEKコートボルト、欧州車コード補強カップリング
2019/09/30
要約
第2回名古屋オートモーティブワールド(会期:2019年9月18日(水)~9月20日(金)、会場:ポートメッセなごや)は、リードエグジビジョンジャパン株式会社主催で開催された。本展示会は毎年、東京有明で1月に開催され12回を数えているが、名古屋でも第2回が開催され370社の参加となった。部品、材料、設備の各社が最新技術を披露する場となっており、専門家向けの展示会である。本稿では自動車産業の課題に応える、実際に自動車で採用されている部品や活用できる技術を取材した。
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第2回名古屋オートモーティブワールド2019開会式風景 | 第2回名古屋オートモーティブワールド2019会場風景 |
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ターボインペラー:PIM一貫生産、ローコストベトナム生産
欧州車のエンジンの省エネ技術はターボ搭載によるエンジンのダウンサイジングがキーテクノロジーになっている。日本車でもこの流行が顕著になり、ターボ搭載車が増えている。ターボは3次元形状で超高回転のため高精度加工が必要になる。また高温条件下での使用になるため、ニッケル基超合金の使用される。
PIM工法は粉末冶金の一種で、金属やセラミックス粉末などの微粉末と有機バインダーの混合物をペレット化し射出成形機に投入して射出成形後、高温焼成する製法。アルミダイカストやチクソモールディングに代表される低融点金属を熔融させて射出成形する工法とは異なり、チタンなどの融点の極めて高い金属を高い精度で成形・焼結することが可能となる。
(出展会社概要)
会社名 | 展示品 | 特徴 |
---|---|---|
㈱アテクト (滋賀県東近江市) |
量産:ターボローター 量産:ターボベーン |
材質:インコネル713 工法:PIM+機械加工 |
㈱TANOI (栃木県鹿沼市) |
量産:ターボローター 量産:ターボベーン |
ベトナム工場加工受託 |
PIM:Powder Injection Molding 粉末射出成形 MIMと CIMがある
MIM:Metal Injection Molding 金属射出成形
CIM:Ceramics Injection Molding セラミックス射出成形
インコネル(Inconel):クロム、鉄等を添加したニッケル合金。 耐熱性、耐蝕性が高く、高温下での状況に長時間晒されても高い強度を維持する。
ターボインペラー・PIM一貫生産(アテクト)
アテクトは1959年創業の滋賀県東近江市のPIM加工メーカーで、MIM金属射出成形とCIMセラミックス射出成形の双方に対応する。材料開発・金型製造・成形・脱脂焼結の一貫生産を行っている。工場は国内1拠点(東近江市)、海外1拠点(韓国)に展開している。
国内は滋賀県東近江市に20億円を投じて2017年に新工場を設立した。PIM専門工場で、自動車部品ではターボチャージャー部品、薄肉ヒートシンク、セラミックスボールなどを生産している。
展示品はターボローター及びVG(Variable Geometry)可変容量ターボのベーン。いずれもPIM加工から機械加工までアテクト社で一貫生産したもの。
VGターボとは、可変容量ターボの一種で、排気側だけでなくコンプレッサー側の吸気の流量も制御できるターボ機構で、今後生産が増えると予測されている。
ターボチャージャーは当面、欧州の省エネルギーのキー技術のため、部品は小型化、高温化、軽量化が進む。アテクトのPIM粉末射出成形のキーテクノロジーはバインダー技術。この技術を進化させ、従来工法では不可能であった新材質や、新形状を提案していくという。
量産:ターボローター | 展示品:VG可変容量ターボベーン |
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材質:インコネル713C 工法:PIM+機械加工 |
材質:インコネル713C 工法:PIM+機械加工 |
展示パネル:アテクトのPIM工法 | 展示パネル:アテクトのPIM要素技術 |
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<特徴> 1 形状自由度が高い 2 薄肉・高精度な成形が可能 3 材料自由度が高い 4 大量生産に最適 |
<特徴> 1 バインダー設計技術 2 精密射出成形技術 |
ターボインペラー・ローコスト機械加工(TANOI)
TANOIは1953年創業の栃木県鹿沼市の精密加工メーカーで、創業時より歯科治療用超高速回転機器を主力としている。工場は国内1拠点(鹿沼市)と海外1拠点(ベトナム)に展開している。日本のマザー工場で加工技術を構築し、標準化してベトナムで生産するビジネスモデルとなっている。
TANOIの微細加工技術は歯科医療器で鍛えた65年の実績があり、どこにも負けないと自負している。小物、細物が得意で、最新のNC旋盤や5軸MCマシニングセンター加工がコア技術という。
その技術と設備を活かして2009年から自動車ビジネスへの新規参入を果たした。ターボチャージャーを生産するティア1メーカーには精密加工の既存取引先は存在したが、ターボチャージャーのインペラ加工において品質コスト競争で信頼を得たという。
展示品は排気側インペラー及びディーゼルVG(Variable Geometry)ターボ用のベーンノズル。いずれも素材供給を受け、TANOI社で受託機械加工したもの。
量産:ターボ・排気側インペラー | 量産:ディーゼルVGターボ・ベーンノズル |
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上段白色:丸鋼インゴットからの削り出し 下段茶色:ロストワックス鋳造品(支給品)をTANOIベトナムで機械加工 |
軸部は専用機による機械加工 素材:MIM射出成形品 |
展示パネル:ターボ部品の価格クラッシャー | 展示パネル:最新加工技術 |
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微細加工品は輸送費も安価なため、ベトナムから日本やタイに輸出する。 | ターボ加工:ミクロン単位の工程能力 ベトナム量産:日本のマザー工場から全面サポート(自動車品質規格TS16949取得工場) |
電動車冷却部品:HV用クーリングパイプ、アルミ冷却水管
自動車の電動化に伴い、駆動モーターやインバーターなどが水冷で冷却されることもあり、新たな配管や冷却機構が必要になっている。特に駆動モーターは熱による磁気特性の変化で性能が落ちるため、新たな水冷システムを採用することで安定したパフォーマンスを発揮することができる。
(出展会社概要)
会社名 | 展示品 | 特徴 |
---|---|---|
豊盛工業㈱ (埼玉県坂戸市) |
量産:HV用クーリングパイプ 電動モーター冷却装置用 |
<機械加工レスで対応> バリレスのピアス加工φ1㎜ 圧入部外径公差レンジ15μm |
量産:極小R曲げジョイント 搭載性向上用途 |
中心R=0.75D 圧入部外径公差レンジ15μm |
|
江崎工業㈱ (東京都大田区) |
量産:電動車アルミ冷却水管 | 軽量化 |
試作:フィルター付き排気管 | 新工法(パイプ内径固定の特許6371493) |
HVクーリングパイプ・極小R曲げジョイント(豊盛工業)
豊盛工業は1935年創業の埼玉県坂戸市のパイプとねじの自動車部品メーカー。1950年からホンダと取引を開始し、自動車部品経験は70年、自動車部品依存度は90%。工場は国内2拠点、埼玉県坂戸市と福島県西白川群西郷村、海外には展開していない。
展示品はHV用クーリングパイプ。駆動モーターの冷却装置に使用する。ホンダNSXのハイブリッドシステムで採用されている。もうひとつの展示は「極小R曲げジョイント」。パイプ中心曲げは通常R=1.5D(D=パイプ外径)だが、豊盛工業ではR=0.75Dでの加工でも、断面減少率13%以下を実現し、省スペース化に寄与している。
量産:電動車クーリングパイプφ8㎜ | 拡大画像 |
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左端:つば別部品かしめ加工 シビアな外径公差に機械加工レスで対応 |
右端:拡管、先端R加工、 バリレスのプレスピアス加工φ1㎜ |
量産:パイプ加工工順 外径φ14×板厚1.2 | 展示パネル:極小R曲げジョイント |
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工程① 切断・面取 工程② 曲げ(中心R=0.75D) 工程③ ホース止めフランジ・プレス 工程④ バルジ・フランジ・圧入絞り 圧入部寸法公差レンジ15μm(±7.5μm) |
極小R曲げ+シビアな外径公差に対応 材質:鉄/ステンレス/アルミ パイプ外径:φ6~φ25.4 ㎜ |
アルミニウム合金製の冷却水管・パイプ内径固定新工法(江崎工業)
江崎工業は1948年創業の東京都大田区のパイプ特殊加工の自動車部品メーカーで、自動車部品依存度は90%。工場は国内1拠点(栃木県栃木市岩舟町)、海外1拠点(タイ)に展開している。
展示品は電動車用のアルミニウム合金製の冷却水管。展示品を見ると、曲げ内Rはパイプ径よりも大きく、中心R=2D(D=パイプ径)以上ある。アルミは曲げづらくクラックが入らないように細心の注意が必要という。
もうひとつの展示品はフィルター付き排気管。新工法のパイプ内径固定の特許技術で製作している。特徴はフィルターの固定が、バイプに絞りを入れるかしめ工法でパイプ外径よりコンパクトにできる。また余分な部品がないため、コストも安価にできる。
量産:電動車アルミ冷却水管 | 試作:フィルター付き排気管 新工法(パイプ内径固定の特許6371493) |
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特徴:軽量化、曲げRは鋼管より緩い | 上段:外観、左下:内径、右下:断面 |
電子基板生産:EMS(Electronics Manufacturing Service)
EMS(電子機器受託製造サービス)は電器業界で発達した仕組みだが、自動車の電動化の急進展に伴い、自動車部品メーカー向けのEMSが急拡大している。EMSは電器業界では自社ラインの生産調整用で活用され、組み立て工程だけを外注するが、自動車部品メーカー向けでは、電子基板の設計、製作が不得意なメーカーも多く、自社に生産ラインを持たない完全外注生産の場合もある。
設備面では 1990年代後半の電子パーツの小型化の技術革新に伴い、電子基板の組み立ては手組みが不可能になり、SMT(表面実装機)など自動化した高価な設備が必須となった。SMT導入は設備投資額が大きく、中堅自動車部品メーカーでは対応できないこともある。また、購買面では電子パーツはSMTに投入するためにリール状で部品毎の最低発注単位は数千個~数万個と大きくなり、中途半端な量では無駄が出たりして安価に購入できないため、専門のEMSメーカーに委託せざるを得ない現状がある。
さらに設計面では、回路設計図ができても、実装設計図も重要で、配線パターンの太さ、実装部品の配置、トランジスタの銘柄の選定などでも性能が変わる。そのため、実装設計図やパーツリストは経験とノウハウが必要になる。自動車部品メーカー側で設計が出来ない場合に備えて、EMS側で、回路設計図、実装設計図、パーツリスト、電波障害解析、工程設計など設計技術サービスを充実させている。
(出展会社概要)
会社名 | 展示品 | 特徴 |
---|---|---|
ユー・エム・シー・エレクトロニクス㈱ | ・EMS生産体制 ・車載部品生産実績 ・設計技術サービス内容 ・低コスト自動ライン |
日本型EMS 設計段階からデザインインしトータルソリューションを目指す |
EMS (Electronics Manufacturing Service): 電子機器受託製造サービス
EMS電子機器受託製造サービス(ユー・エム・シー・エレクトロニクス)
ユー・エム・シー・エレクトロニクスは1968年創業の埼玉県上尾市のEMS電子機器受託製造サービスメーカー。電子基板の実装ひとすじで業態を拡大してきている。現在、自動車の電動化の進展に伴い自動車部品ビジネスが急増し、年商は1,400億円、自動車部品依存度は45%となっている。
工場は国内5拠点、埼玉県上尾市、宮崎県都城市、佐賀県神埼市、福島県郡山市、神奈川県秦野市のほか、海外は4カ国5拠点あり、中国2拠点、ベトナム、タイ、メキシコに展開している。表面実装機SMT(Surface Mount Technology)は193ライン保有している。また、電子基板以外でも、射出成形機も92台保有し、関連する樹脂部品も製作できる。
展示品は走行用、操舵用、制動用などの電子基板。重要保安部品を任せられているのは品質の証といえる。展示パネルでは、生産体制、車載部品生産実績、設計技術サービス内容、低コスト自動ラインが紹介されていた。
展示パネル:生産体制 | 展示パネル:車載部品生産実績 |
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工場: 国内5拠点:埼玉、宮崎、佐賀、神奈川 海外5拠点:中国2、タイ、ベトナム、メキシコ |
電子基板生産実績 全45種類 EVパワートレイン11、パワーエレクトロニクス6、ハーネススイッチ5、ドライビングコントロール7、ボデイコントロール7、インテリア6、エクステリア3 |
展示パネル:技術サービス内容 | 展示パネル:低コスト自動ライン |
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製品設計:回路設計、実装設計、パーツリスト、電波障害解析など 工程設計:自動化ライン 生産:実装組立、樹脂成形 |
自動化設備を設計から製作まで内製化 <メリット> ① 品質の安定化 ② 設備投資の低減 ③ 保守メンテナンスの容易さ |
低コスト絶縁部品:PEEK材コーティング絶縁塗装
熱可塑性樹脂では最強材のスーパーエンプラPEEK樹脂(ポリエーテルエーテルケトン)は、絶縁部品などに使用されるが、材料価格はABS樹脂の100倍以上する。そのため考案されたのが、PEEK材のコーティング。アイデア商品だが、電動化の中で活用可能なため取材した。
(出展会社概要)
会社名 | 展示品 | 特徴 |
---|---|---|
オキツモ㈱ (三重県名張市) |
PEEK耐熱絶縁コーティングボルト | 低コスト、絶縁ボルト |
PEEK耐熱絶縁コーティングボルト(オキツモ)
オキツモは1934年創業の三重県名張市の特殊塗料メーカー。工場は国内1拠点(三重県名張市)、海外は展開していない。
主力製品はOA業界向けの放熱塗料。OA業界では有名な塗料メーカーでオキツモは放熱塗料の代名詞になっている。モノクロプリンターで使用される定着ローラーの内面に内部ヒーターの熱を拡散する目的で使用される塗料はほとんどオキツモが指定されている。
国内では塗料販売のほかクリーン環境での受託加工も行っており、設備を活かして自動車ビジネスでの展開を目指している。
展示品はPEEK耐熱絶縁コーティングのボルト。アイデア商品だが、電動化の中で活用できるかもしれない。その他の展示品は10μm超精密潤滑コーティング、バインダーレス100%フッ素コーティングの塗料の紹介があった。
展示品:PEEKコーティングボルト | 展示パネル:PEEKコーティング |
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PEEK樹脂成形品の代替として絶縁性、耐薬品性、摩耗耐久性、耐熱性などを付与する。 | <金属にPEEK樹脂の塗装> PEEK樹脂成形よりもコストダウン <PEEKコーティングの性能> 絶縁性10x16乗Ω、耐熱性300度 |
欧州車メタルゴム部品:コード補強カップリング、圧縮ゴムステアリングマウント、耐熱マフラーブラケット、センターベアリング
自動車で長年の販売実績のある部品でも、日系自動車部品メーカーから欧州車への販売は難しい。反対に欧州の自動車部品メーカーから日本車への販売も同様に難しい現状がある。ドイツのメタルゴムメーカーSGF社はタイへの新工場設立をきっかけに、日本を含む東南アジア地域への部品販売を強化している。
(出展会社概要)
会社名 | 展示品 | 特徴 |
---|---|---|
SGF Thailand Co.Ltd.(タイ) 本社:ドイツ |
・コード補強カップリング ・ステアリングダンパー ・耐熱マフラーブラケット ・センターベアリング |
メルセデスベンツ搭載品 |
コード補強カップリング他(SGF Thailand Co. Ltd. ドイツSGF社のタイ拠点)
SGFは1946年創業のドイツのメタルゴムメーカー。自動車依存度は低いが、特徴ある製品をDaimlerなどドイツ自動車メーカーに納入している。開発はドイツで行い、工場はドイツ3拠点のほか、2017年にタイに新工場SGF Thailand Co. Ltd.を設立した。3年前から日本でも営業活動を行っているという。
展示品はMercedes-Benzで使用されているメタルゴム部品群。コード補強カップリング、圧縮ゴムステアリングダンパー、耐熱マフラーブラケット、センターベアリングなど駆動系、足回り部品の品ぞろえがある。コード補強カップリングの特徴は、隣り合うボルト孔がコードでタスキ掛けに補強され、トルクを圧縮でなく、張力の原理で伝達するため、軽量コンパクト化が図れる。
展示品:コード補強カップリング 搭載車両:Mercedes-Benz |
量産品:メタルゴム部品群 搭載車両:Mercedes-Benz |
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<特徴> 隣り合うボルト孔がコードで強固に補強されているのが透けて見える。 ゴムは展示用クリアー色だが実際は黒色。 |
右下 コード補強カップリング 左下 圧縮ゴムステアリングダンパー 右上 耐熱マフラーブラケット 左上 センターベアリング ゴムは展示用カラーだが実際は黒色。 |
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キーワード
ものづくり、名古屋、軽量化、コストダウン、樹脂成形、プレス、鋳造
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