【ものづくり】自動車の軽量化を促進するプラスチック部品・材料
内燃機関、電動車のパワートレイン、ドアトリムなどの採用事例
2018/11/02
要約
自動車業界における重要なテーマの1つに軽量化があげられる。自動車の軽量化を促進している材料の1つがプラスチックであることは間違いない。本稿では、近年ますます重要性が高まっている自動車用プラスチックの技術動向について紹介する。最初に自動車に使用される各種プラスチックの特性や採用動向などを一覧表にまとめ、続いて最近の材料開発や加工技術の動向を紹介する。
プラスチックを使用した自動車部品は、非常に多くの車両部位に使用されているが、本稿では代表的なパワートレイン部品および内装部品のプラスチック用途例について、様々な展示会で撮影した画像を用いて解説する。ICE(内燃機関)ならびにEV、HV、FCVなど電動車のパワートレインに採用されているプラスチック部品・材料、ドアトリムの素材や各種内装部品に採用されているプラスチック材料などを紹介する。
![]() |
![]() |
![]() |
プラスチック材料はバッテリーの軽量化にも貢献 | 複雑な形状のインテークマニホールド | 耐衝撃性、デザイン性も求められるドアトリム |
本稿は安田ポリマーリサーチ研究所の安田武夫所長の協力により、同氏がシーエムシー・リサーチ「自動車用プラスチック部品の開発・採用の最新動向 2018」で紹介した資料をもとに、最近注目されているプラスチック関連技術の動向も加えて報告する。また次回レポートでは接合・接着などプラスチック加工技術の動向を取り上げる。
関連レポート:
エヌプラス2018:一歩先行く自動車部品材料 (2018年10月)
第1回 名古屋オートモーティブワールド2018 (2018年9月)
人とくるまのテクノロジー展 2018:軽量化加工技術と樹脂材料 (2018年5月)
TECHNO-FRONTIER 2018:自動車産業の課題に応える加工技術 (2018年4月)
オートモーティブワールド2018:異種材料の接合、高機能プラスチックの展示 (2018年2月)
オートモーティブワールド2018:CFRP部品・プラスチック成形加工技術の展示 (2018年1月)
自動車用プラスチックの特性と最近の動向
自動車用プラスチックを使用量の多い順にあげると、PP(ポリプロピレン)、PA(ポリアミド)、ABS樹脂、PUR(ポリウレタン)、PBT/PET(ポリブチレンテレフタレート/ポリエチレンテレフタレート)、POM(ポリアセタール)、PC(ポリカーボネート)、PE(ポリエチレン)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、m-PPE(変性ポリフェニレンエーテル)などとなっている。
表1では、特に重要と思われる自動車用プラスチックについて、各素材の特性を記号で示す。表2では、自動車用プラスチックの最近の動向について、使用部位を例示して紹介する。これらの一覧表は、各種プラスチックを自動車用途として検討する場合に材料選定の判断基準として参考になると思われる。
表1:自動車用プラスチックの特性(概要)
![]() |
出所:シーエムシー・リサーチ「自動車用プラスチック部品の開発・採用の最新動向 2018」ほか各種資料より作成
表2:主な自動車用プラスチックの最近の動向
材料名 | 主要プラスチックの動向 |
---|---|
ポリプロピレン (PP) | ①使用量が最も多いプラスチック (全プラスチックの約半分)。大型部品 (バンパー、インストルメントパネル)を中心に採用されている。 ②PP-LFT (長繊維強化PP)はモジュール化部品への採用が増加、一部CF (炭素繊維)強化品も使用。 |
ポリエチレン (PE) | HDPEの燃料タンクへの採用が増加。(バリア層はEVOHが主力) |
ABS樹脂 | 外観、二次加工性の特長から、高級車種の内装部品で需要が伸長。 |
ポリアミド (PA、ナイロン) | ①PA6、PA66が、パワートレイン系部品・モジュール化部品を中心に採用されている。 ②PA11、PA12の需要が燃料チューブ等で伸長。(フッ素樹脂との積層品が中心) ③耐熱性PAは、摺動部品、冷却系部品、燃料系部品への採用が増加。 |
ポリアセタール (POM) | ①耐エコガソリン性が良好のため、燃料系部品への採用増加が期待される。 ②車内空間を清浄化するため、低VOC (低揮発性有機化合物)グレードが標準的に採用されている。 |
ポリブチレンテレフタレート (PBT) | ①ECUのケース、センサ-等に電気的性質・耐薬品性に優れるPBTの採用が増加。 ②ワイヤーハーネスコネクタの部品点数が急増し、PBT需要が伸長。 |
ポリカーボネート (PC) | グレージングへの本格的な採用が注目される。耐候性、表面の耐擦傷性改良等が検討事項。 |
ポリフェニレンスルフィド (PPS) | 電動化関連部品 (PCU、インバータ等の筐体)に大量に採用され、需要が急伸。 |
その他 | ①変性PPEはリチウムイオン電池(LiB)関連部品、強化PETは電装品等、PF、PU、PMMA等も各種部品に使用。 ②CFR(T)Pは高機能性を活かし、高級車を中心に各種部品への採用が徐々に進捗。 ③バイオプラスチック、熱可塑性エラストマーはその特長を活かし、用途開発が進んでいる。 |
出所:シーエムシー・リサーチ「自動車用プラスチック部品の開発・採用の最新動向 2018」ほか各種資料より作成
注:
HDPE: High Density Polyethylene 高密度ポリエチレン
EVOH: Ethylene-vinylalcohol copolymer エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂
PET: Polyethylene terephthalate ポリエチレンテレフタレート
PF: Phenol Formaldehyde Resin フェノール樹脂
PU: Polyurethane ポリウレタン
PMMA: Polymethyl methacrylate ポリメチルメタアクリレート
CFR(T)P: Carbon fiber reinforced (thermo) plastics 炭素繊維強化(熱可塑性)樹脂
自動車用プラスチックの技術開発動向
自動車用途として注目されているプラスチックの技術開発は、材料開発、成形加工技術の開発、その他、と大きく3つに分類される。
材料開発
材料開発は、新規高分子の開発と、既存の材料の組み合わせによるものに分類される。前者は、新しい化学構造の高分子の開発、または同じ化学構造でも性質を変えた高分子の開発に分類される。後者は、高分子同士の組み合わせによる材料開発(ポリマーアロイ/ポリマーブレンド)、および高分子を主に無機材料(各種強化繊維、金属、金属酸化物など)と組み合わせる材料開発(複合材料:コンポジット)に分類される。
自動車分野に材料を供給する樹脂メーカーは、ユーザーからの要望に応じて高分子を選定し、上記の開発方法を用いて種々の新規グレードを開発している。表3は自動車用プラスチックの新規グレードを示している。
表3:主要自動車用プラスチックの新規グレード
材料 | 機能・用途など |
---|---|
各種材料共通の新規グレード | 導電性、高熱伝導性、炭素繊維強化、長繊維強化、ナノコンポジット、バイオマス系 等 |
PP固有の新規グレード | 高結晶性、高耐衝撃性(PP/PA11)、無塗装高外観、 PP接着性樹脂、 高流動性 等 |
PMMA固有の新規グレード | 超耐熱性、高硬度、外装用無塗装、高漆黒調、高流動性、ゼロ複屈折 等 |
ABS樹脂固有の新規グレード | きしみ音対策、無塗装加飾、塗装性、車輌内装用耐熱、持続型制電性 等 |
PC固有の新規グレード | 高硬度 、高透明性、耐薬品性、バイオ系、熱線吸収性、表面硬度改良、自動車レンズ用 等 |
PA固有の新規グレード | 無電解めっき対応、高熱伝導性、金属接着性、耐熱老化性向上、高摺動性PA、高剛性・良外観・易成形性強化、ダクト用ブロー成形用途、射出発泡 等 |
POM固有の新規グレード | 低VOC、メタリック外観、高性能・導電性、高性能GF強化、耐クリープ・高剛性、柔軟性 等 |
PBT固有の新規グレード | 耐加水分解性向上、長期特性改良、超高流動、レーザー溶着用、良外観・低そり、ダイレクト蒸着用、高靱性 等 |
変性PPE固有の新規グレード | リチウムイオン電池用、電線被覆用柔軟性、高誘電 等 |
PPS固有の新規グレード | 低燃料膨潤性、低ガス・耐ヒートショック、金属密着性、高伝熱、ブロー成形用、柔軟性 等 |
出所:シーエムシー・リサーチ「自動車用プラスチック部品の開発・採用の最新動向 2018」ほか各種資料より作成
成形加工技術の開発
自動車で使用されるプラスチックの大半は熱可塑性樹脂であり、自動車分野で最も使用されている成形法は射出成形法である。熱可塑性樹脂の成形加工技術として最近注目されているのは、ヒート&クール成形(成形品の表面改質やウエルドレス成形が可能)、フィルムインサート成形(加飾フィルムをインサート成形し成形品の性能を向上)、ハイブリッド成形(CFRTPを使用し、高強度・高剛性材料を提供)等である。
このほか、ダクト関連に使用されるサクションブロー成形も注目されている。また、シートプレス成形では、PPなどのシートをプレス成形することで大面積の成形が可能。射出成形で行うと超大型成形機が必要であるが、比較的小型のプレス成形機で大型部品が成形可能となり、省エネにも貢献する優れた成形法である。
その他の関連技術
CAE、各種二次加工、Rapid Prototyping、リサイクル関連技術は、自動車用途としてプラスチックを使用する際に重要な技術と言える。
中でも最近特に注目されているのは、接着・接合および加飾であろう。接着・接合は自動車の軽量化に向けたキーテクノロジーとして、加飾は内装部品の装飾手段として注目されている。接着・接合については次回レポートで別途紹介する。
表4:最近の注目すべきプラスチック関連技術
1. 材料開発 |
---|
1-1.新規ポリマーの開発 |
① ポリオレフィン系 ② ポリスチレン系 ③ ポリアミド系 ④ ポリエステル系 ⑤ ポリイミド系 ⑥ バイオマス原料系 ⑦ 特殊透明性ポリマー ⑧その他 |
1-2.ポリマーアロイ、ポリマーブレンド |
① ナノアロイ |
1-3.複合材料 (ハイブリッド材料) |
① ガラス長繊維強化熱可塑性樹脂 ② 複合強化熱可塑性樹脂 ③ ナノコンポジット ④ 成形性改良CFR(T)P ⑤ 高熱伝導複合材料 ⑥ 導電性複合材料 ⑦ 積層体・UDテープ ⑧その他 |
2. 成形加工技術 (熱可塑性樹脂) |
2-1.射出成形 |
① ガスアシスト成形 ② アウトサート成形 ③ 低圧成形 ④ DSI法 (Die Slide Injection molding)、DRI法 (Die Rotating Injection molding) ⑤ MID法 (Molded Interconnect Device) ⑥ 複数成形法の組合 (射出圧縮成形法等) ⑦ 多色・多材質成形 ⑧ ヒート&クール成形 ⑨ ホットメルトモールディング ⑩ コンパウンド同時成形 ⑪ フィルムインサート成形 ⑫ ハイブリッド成形 ⑬ 加飾成形 ⑭ その他 |
2-2.ブロー成形法 |
① 二重壁ブロー成形法 ② 多次元ブロー成形法 ③ サクションブロー成形 ④ その他 |
3. その他の技術 |
① CAE (Computer Aided Engineering) ② 二次加工 (切断・切削、接着・接合、溶着、塗装、印刷、メタライジング、アニーリング処理) ③ Rapid Prototyping (3Dプリンティング、簡易金型成形、切削加工など) ④リサイクルなどの環境対応技術 |
出所:シーエムシー・リサーチ「自動車用プラスチック部品の開発・採用の最新動向 2018」ほか各種資料より作成
ICE(内燃機関)向けのプラスチック部品
![]() エンジン冷却モジュール (東レ) |
![]() 吸気モジュール (ケーヒン) |
ラジエーター、インタークーラー等とは別形態の新方式の冷却系部品で、PPSの耐熱性、機械的強度、耐薬品性などを活用した用途である。 | インテークマニホールド、インジェクター、スロットルボディをモジュール化したもので、PPA(PA6T)が使用されている。耐熱性、耐薬品性、機械的性質などが優れている。 |
上記以外のICE(内燃機関)向けプラスチック部品を以下に列記する。
- インタークーラーエンドキャップ (PA)
- サーモスタットハウジング (PPS、PA6T、PA9T)
- チェーンレバーガイド (PA)
- ウォータージャケットスペーサー (PA6T)
- ターボチャージャーインペラ (PEEK)
- エンジンオイルポンプ・ロータ (PEEK)
- エンジンクーリングモジュール (PF)
- カムシャフトプ―リー (PF)
- ウォータージャケット (PA6T)
- 電動オイルポンプ (PA)
- EGRバルブ (PBT)
- スロットルボディ (PA)
- ターボアクチュエータ (PPS)
- 流路切替制御弁 (エンジン冷却水) (PPS) など
EV・HV・FCVなど電動車パワートレイン向けのプラスチック部品・素材
![]() フィルムコンデンサー (指月電機製作所) |
![]() HV用電源ボックス |
EV向けインバーターの機能を補助するフィルムコンデンサー。ハウジングにPPSを使用。PPSの優れた電気特性、耐熱性、耐薬品性などを活用した用途である。 | PBTの優れた電気特性、成形性、耐熱性、寸法特性、低吸湿性などが活かされた用途である。 |
上記以外の電動車パワートレイン向けプラスチック製品を以下に列記する。
- モーターコントローラー (PC)
- 水素インジェクター (PA)
- 水素燃料充填ノズル (PA)
- HV用ECU (PBT)
- HV用インバーターのバスバー (PBT)
- オルタネーター (PPS)
- HV用モーターステーター (PPS)
- HV用配線モジュール (PP)
- HV用IPU (Intelligent Power Unit) (PPS)
- インバーター冷却用電動ウォーターポンプ (PPS)
- HV用端子台 (SPS) など
ドアトリムのプラスチック素材
ドアトリムは自動車のインテリア空間を構成する重要な部品で、表皮材、クッション層、芯材の三層構造になっている。側面衝突に対する乗員安全性の確保に加え、軽量化など環境への配慮や、加飾などによるデザイン性の向上が求められる。
![]() PP製ドアトリム (河西工業) |
![]() ナノコンポジット使用ドアトリム (河西工業) |
成形性、軽量性などに優れたPPの特性を活用している。一部金属光沢を示す部位は表面装飾技術を施して付加価値を高めている。 | PPのナノコンポジットを使用して射出成形したドアトリム。世界で最も量産されている自動車向けナノコンポジットPPである。 |
内装向けプラスチック部品・素材
![]() スピーカーグリル (セラニーズ) |
![]() DURABIO製表示パネル (三菱ケミカル) |
乗客が触れるとキズ等が付き外観不良になるため、耐摩擦摩耗性の優れたPOMを使用している。 | DURABIOは三菱ケミカルが開発した植物由来のイソソルバイドを主原料としたバイオポリカーボネート。従来のPCと比較して、高い透明性、優れた光学特性等が特長。PCに匹敵する耐衝撃性を示す。 |
![]() 電子ミラー (日本精機) |
![]() バックドアインナープレート (三菱ケミカル) |
ミラーモードとカメラモニターモードの切り替えが可能な電子ミラー。PC/ABS系材料が使用されたと思われる。 | 金属代替用途のため、高剛性・高強度で軽量性に優れたLFT-PPを用いている。この材料による自動車用の準構造部材及びその他部品への適用を図っている。 |
その他のプラスチック製内装部品を以下に列記する。
- オーバーヘッドコンソール (PP)
- グローブボックス (PP)
- シートパン (PP-LFT)
- エアコンベンチレータ (ABS樹脂)
- 薄型レジスタ (PC/ABS樹脂)
- メーターパネル (PC)
- エアダクトコントロールビーム (POM)
- ベンチレーター (m-PPE)
- ヘッドライナーモジュール (PP)
- ステアリングスイッチ(ABS樹脂)
- レバーコンビネーションスイッチ (PA、POM、ABS樹脂)
- コンソールボックス (PP-LFT) など
------------------
キーワード
軽量化、電動化、樹脂、プラスチック、CFRP、炭素繊維、複合材、コンポジット、金属代替、高剛性、耐熱性、高強度、熱可塑性、熱硬化性、熱伝導、成形、射出成形、内装部品、ハウジング、インテークマニホールド、ドアトリム
<自動車産業ポータル マークラインズ>