自動運転実現のため、2018年までに高速・自動車専用道路の三次元地図を生成
ダイナミックマップ基盤企画株式会社にて、仕様の共通化、作成の効率化及び事業化に向けた企画を推進
2017/01/30
要約
![]() ダイナミックマップ社は、同社株主である三菱電機が開発した、モービルマッピングシステムMMS(移動式高精度三次元計測システム)を活用する。(資料提供:アイサンテクノロジー株式会社) |
オートモーティブ ワールド2017のカンファレンスが、2017年1月18~20日に東京ビッグサイトで開催された。本レポートは、ダイナミックマップ基盤企画株式会社(以下ダイナミックマップ社)副社長濱田満昌氏の、「自動運転に貢献する『ダイナミックマップ』の実現に向けて」と題した講演の概要を報告する。
ダイナミックマップとは、道路・建物など静的な情報に、渋滞・事故・周辺車両などの動的な情報を加味した三次元地図を指し、自動運転実現に必須である。ダイナミックマップ社は、自動運転向け三次元地図のデータ仕様等を検討する企画会社として設立された。現在も、細部の検討が進められている。 同社は、今後実際に三次元地図の生成を行うことも検討している。
ダイナミックマップ生成は、まずLiDARを搭載する車両が対象とする道路を走行しながら測量してレーザ点群情報を取得。同時に撮影するカメラの映像も活用して、より使いやすい「ベクトルデータ」を生成する。ベクトルデータをいかに効率的に生成するか、また三次元地図完成後も道路は日々変化していくので、いかに最新の状況にメンテナンスしていくかが大きな課題になっている。
日本政府も、内閣府主導の戦略的イノベーション創造プログラム(Strategic Innovation Promotion Program: SIP)の一環として後押しし、2018年までに高速・自動車専用道路のダイナミックマップ生成実現を目指している。
また、海外の類似システムとダブルスタンダードにならないよう共通化することも重要で、ダイナミックマップ社は既に海外の担当組織との協議も開始しているとのこと。
関連レポート:
自動運転向け三次元地図:標準化や更新のあり方の検討が進む(2016年9月)
ダイナミックマップ社が発足し、仕様標準化を目指す
ダイナミクマップ基盤企画株式会社は、2016年6月に、自動運転に必要なダイナミックマップの協調領域に関して、各自動車メーカーや地図会社が共通で使用するデータ仕様やメンテナンス手法等を企画するために設立された。モービルマッピングシステム(移動式高精度三次元測定システム)を開発した三菱電機、地図会社、測量会社、および自動車メーカー9社が出資している。
また、同社が中心となって実際の測量から三次元地図生成を行うことも検討している。
(注) 自動運転に向けた三次元地図を、地図会社やOEM各社が共通仕様化する協調領域と、各社がそれぞれ差別化を目指す競争領域に分け、ダイナミックマップ社は協調領域での仕様共通化を担当する。
ダイナミックマップが自動運転で果たす役割
自動走行システムには、高度な「自己位置推定」、「周辺環境認知」が必要である。自己位置推定は、通常GPSなどのGlobal Navigation Satellite System (GNSS)とセンサーを組み合わせて行うが、これらは精度の問題があり気候条件にも左右されるため、自動運転には高精度なデジタル地図が必要になる。
(注)Global Navigation Satellite System(GNSS) / 全球測位衛星システムは、GPS、GLONASS、Galileo、準天頂衛星(QZSS)等の衛星測位システムの総称。
LiDARによる点群データからベクトルデータを生成、仮想上のデータも追加
ダイナミックマップ社は、三菱電機が開発した、LiDAR(Light Detection and Ranging)測量機、カメラ、GPSを搭載するモービルマッピングシステム(MMS)を活用する。MMSは、最大LiDAR 4 基、カメラ6 基とGPSを搭載する。
ベクトルデータを生成
MMSにより点群データ(三次元の位置情報を持つ大量の点のデータ)(下図左と中央)を取得するが、そのままでは使いづらいので、点の座標とそれを結ぶ線などの数値データをもとに演算し、またMMSが同時に撮影するカメラ映像も使って「ベクトルデータ」(下図右)を生成する。ベクトルデータは、長さ、方向性、位置情報と属性情報(この線は道路である、このデータは車であるなどの情報)を持ち、車線、信号機、停止線などの地物(測量用語で地上にある全ての物を地物と呼ぶ)などを確認・認識する。ベクトルデータは、点群データよりデータ量が軽くなるという特性もある。
MMSの点群データでは特定が難しい地物の属性については、これまでの研究・調査において定義する手順を検討してきた。ダイナミックマップ社は、今後AIの活用により、さらに多くの地物の識別を目指すとしている。
仮想上のデータを追加
さらに、実際には存在しないが自動運転に役立つ仮想上のデータ(仮想地物と呼ぶ:車線の中心線、車線リンク(交差点で中心線を延長して繋いだ線))などを表示し、車線に関する情報を充実させる。
時間軸により4つの段階に分けた情報で、ダイナミックマップを構成
ダイナミックマップの協調領域と競争領域
日本政府は、内閣府が主導するStrategic Innovation Promotion Program(SIP)の一環として、ダイナミックマップの作成を後押ししている。2015年に、SIPプログラムの一環として、ダイナミックマップ社株主である三菱電機、アイサンテクノロジー社などが調査・研究を受託し、自動運転用三次元地図の仕様検討を重ねてきた。
協調領域と競争領域の区分け
そうした検討結果を整理したのが下図左で、通常ドライバーが行う認知・判断・操作の3つの段階のうち、「認知」に相当する部分の地図情報(赤色太線枠内の部分)を協調領域として、ダイナミックマップ社が仕様共通化を担当する。橙色の点線の部分も(ダイナミックマップ社の領域ではないが)協調領域として、内閣府SIPの取組み領域。「判断」と「操作」の空色の部分は、各地図会社やOEM各社が独自性を発揮する競争領域となる。
協調領域データに競争領域データを加えてダイナミックマップを完成
また、ダイナミックマップ作成の手順概要とダイナミックマップ社の検討領域を示したのが下図右。レーザ点群データとカメラ映像の測量結果から共通基盤データを「収集」、静的情報ベクトルデータを「生成」して「高精度三次元位置情報基盤」を構築する(ここまでの明るい茶色太線枠内がダイナミックマップ社の領域)。さらに公共情報、準静的情報、準動的情報、動的情報を加味して地図を完成させていく予定だが、具体的な手順等については、現在早急に議論し詰めているとのこと。
この協調領域データをベースに、地図会社・測量会社が独自競争領域のデータを加えて完成し自動車メーカーに提供する。また自動運転以外の、公共事業等にも用途を拡大していく方針。
![]() ダイナミックマップの協調領域と競争領域、赤色太線枠内がダイナミックマップ社の領域。(資料提供:ダイナミックマップ社) |
![]() ダイナミックマップの情報収集から提供までの流れ、明るい茶色の枠内がダイナミックマップ社の領域。(資料提供:ダイナミックマップ社) |
今後の課題:早期整備の実現、メンテナンスの効率化など
![]() メンテナンスの効率化で進めていること。(画像提供:三菱電機株式会社) |
ダイナミックマップ社は、今後の課題として、
- 早期整備の実現、
- メンテナンス効率化、
- グローバル対応、および
- 利用用途の拡大、 の4項目を挙げた。
(1)早期整備の実現については、2018年までに高速・自動車専用道路の三次元地図生成を目指している。ダイナミックマップ生成では、MMS搭載車両を走行して測量した後も、ベクトルデータの生成、仮想地物データを追加するなど多くの作業が必要なので、この部分の効率化を検討している。
(2)メンテナンスの効率化も急務。三次元地図が完成し自動運転が実現した後も、道路の状況は刻々と変化するので、小型のLiDARを搭載した車両が走行しながら測量し、従来のデータと異なる部分を発見した場合に修正していく手順が検討されている。
右の図はメンテナンス効率化を進めている事例。図内左の写真は差分抽出の事例で、左上部分に示す以前に生成したデータを、右下の新しいデータで修正する。また図内右の写真は点群処理の高速化を示す。メンテナンス車両が走行しながら、赤色で示す人、置かれている箱、矢印をリアルタイムに更新していく。
(3)グローバル対応では、競争領域も含めて、ダブルスタンダードとならないよう、海外類似システムにあわせて加工しやすいデータ仕様を検討している。海外の類似システム担当組織との協議も開始したとのこと。
(4)利用用途の拡大では、自動運転に限らず、災害に強い街づくりのための災害状況可視化・災害前後解析、また社会インフラ管理効率化の一環として道路、河川等の維持管理・老朽化対策など、多くの用途で貢献する可能性があるとしている。
キーワード
三次元地図、ダイナミックマップ、ダイナミックマップ基盤企画株式会社、LiDAR
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