※英GlobalData社 (旧LMC)のアナリストによるショートレポート (1月24日付) をマークラインズが翻訳したものです。
・中国NEV (新エネルギー車)市場の初期段階には、大半の自動車メーカーが電気自動車(EV)やプラグイン・ハイブリッド車(PHV)の開発に際し、内燃エンジン車(ICE)の既存プラットフォームをベースにNEVを開発した。
・しかし、このICEプラットフォームベースの開発は研究開発段階で多くの問題を生じたほか、性能や航続距離の点で最適でないことが示された。技術が進歩するにつれ、この移行期のコンセプトは次第にEV専用プラットフォームに取って代わられた。VWでいえば、同社はICEモデルをベースに、EVバージョンのコンパクトセダン「ラヴィダ (Lavida、朗逸)」、コンパクトセダン「ボーラ(Bora、宝来)」、コンパクトカー「ゴルフ(Golf、高爾夫)」を開発したあと、EV専用プラットフォームを導入すると共に、これらをラインアップから廃止した。今では、大部分でEV専用プラットフォームへの切替えが完了しているか、その過程にある。
・一方で、BMWはといえば、ICE車にも対応できるフレキシブルEVプラットフォームをベースとしたEVを導入し続けるという独自のポジションをとっている。さらに驚きなのは、同社の販売業績が非常に好調なことである。BMWは、どのようにこのような戦略を実現しているのだろうか?
・第一に、BMWは「究極のドライビング・エクスペリエンス(Ultimate Driving Experience)」とハイエンド・ブランドを売りにしている。BMWの最大の強みはいわゆる「駆けぬける歓び (Pure Driving Pleasure)」を提供するというブランドイメージにある。こうした長年のブランドの遺伝子が、NEV時代の到来とともに存分に発揮されるようになった。このようなスローガンに惹かれて、BMWを所有することは中国の多くの男性の夢となっている。
・次に賢い価格戦略が挙げられる。NEVが市場に投入される場合、大抵は同じクラスのICE車よりも価格が高く設定される。メルセデス・ベンツはその好例といえる。同社の電気SUV「EQC」は「GLC」のEVバージョンと見ることができるが、「EQC」の初期の小売価格は50万元(約1,040万円)近くで値引きもなかった。「GLC」も元々50万元と高額であるが、「EQC」より多くの機能が標準装備されており、値引きもあったことから、「EQC」との価格差は明らかだった。このような状況は「EQC」に限られないものの、最も顕著に出ている。対照的に、BMWのEVは同じクラスのICE車よりもはるかに安く、(中国のEVと同様に)購入税の免税措置の恩恵を受けているため、多くの消費者を惹きつけている。同時に、BMWのEVは「究極のドライビング・エクスペリエンス」の性能も維持している。
・BMWは、NEVの性能と耐久性に不可欠な電気モーターとバッテリーを中心に、NEVのコア部品開発を垂直統合してきた実績がある。Dセグメント電気セダン「i3」とPHV「i8」の開発での豊富な経験を経て、第5世代のeDriveシステムでバッテリー、電気モーター、電子制御システムを総合的に進化させた。出力密度、航続距離、軽量化、小型化、モジュール化などの多方面で技術革新を実現している。電気モーターでは永久磁石モーターをベースにしているが、永久磁石を励起モーターに置き換えており、電流と力率をより効率的に調整している。このモーターは他のメーカーのモーター2基分にも値するといわれており、コスト削減とパワーの最適化を同時に行うことを可能にしている。
・これと同時に、BMWはコストをコントロールすべく、中国を同社製品の輸出ハブとして位置付け、中国からの世界各国への出荷を行なっている。こうしたグローバルな販売チャネルを活用することで、BMWはNEV時代における新たなブランド・イメージを確立した。こうした賢い戦略により、GlobalDataとしてはBMWが中国でのeモビリティ目標を外資ブランドの中で最初に達成することができるとみている。