【ものづくり】NCV (Nano Cellulose Vehicle) プロジェクトの展示取材

セルロースナノファイバー(CNF)を活用した自動車の軽量化

2019/03/12

要約

NCVプロジェクトの展示ブース
NCVプロジェクトの展示ブース
(エコプロダクツ2018)

 セルロースナノファイバー (CNF: Cellulose Nanofiber) は木を構成する繊維をナノレベルまで細かくほぐすことで生まれる地球に優しいバイオマス原料で、日本国内に豊富にある資源として注目されている。国内外の各種研究機関、企業が研究開発を行っているが、本稿では環境省のNCV (Nano Cellulose Vehicle)プロジェクトについて、2018年12月に開催されたエコプロダクツ2018(会期:2018年12月6~8日、会場:東京ビッグサイト)における第3回ナノセルロース展の内容を紹介する。

 

NCVプロジェクトの共同実施機関

京都大学、一般社団法人産業環境管理協会、京都市産業技術研究所、金沢工業大学、名古屋工業大学、秋田県立大学、昭和丸筒/昭和プロダクツ、利昌工業、イノアックコーポレーション、キョーラク、三和化工、ダイキョーニシカワ、マクセル、デンソートヨタ紡繊アイシン精機、トヨタカスタマイジング&ディベロップメント、東京大学、産業技術総合研究所、トヨタ自動車東日本、宇部興産


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NCV(Nano Cellulose Vehicle)プロジェクト

  環境省は鋼鉄の5分の1の軽さで5倍以上の強度を有する次世代素材CNF (Cellulose Nanofiber)を活用し、2020年に自動車で10%程度の軽量化を目標とするNCV (Nano Cellulose Vehicle)プロジェクトを実施している。京都大学をはじめ22の大学、研究機関、企業等のサプライチェーンで構成される一気通貫のコンソーシアムを2016年10月26日に設立。CNFを活用した材料、部材、自動車部品等の製品開発及び各段階の性能評価、CO2削減効果の評価・検証に取り組んでいる。

  国内市場規模が大きく、CO2削減ポテンシャルの大きい自動車(内装、外装等)分野で、材料メーカーおよび製品メーカーのそれぞれと連携し、CNF軽量材料(複合樹脂)等の用途開発を実施するとともに、CNF軽量材料を実機に搭載することで軽量化によるCO2削減効果(例:自動車の燃費改善)等の性能評価および早期社会実装に向けた導入実証を行う。これにより、製品製造時や社会実装時における課題を解決し、そのノウハウを蓄積することで、地球温暖化対策に多大なる貢献が期待されるCNFの早期社会実装を実現することを目的とする。

  第3回ナノセルロース展では各社製品の展示とともに、多くの国家プロジェクト(農林水産省、文部科学省、環境省、経済産業省)についての講演も行われていた。京都大学生存圏研究所の臼杵特任教授によるNCVプロジェクトの講演では、業務推進体制の説明や各部品の検討状況、一次試作車(トヨタ車)の概要などが説明された。



NCV採用部品の展示

  環境省NCVプロジェクトのブース正面にはCNF強化プラスチックを使用した9つの部品*を搭載するスケルトンモデルとその紹介パネルが展示されていた。

* 9つの部品:エンジンフード、インテークマニホールド、エアコンケース、ドアトリム、ルーフサイドレール、Cピラー、ラッゲージボード、トランクリッドアッパー、バックドア・トランクリッド

NCVスケルトンモデル NCVスケルトンモデルの紹介
NCVスケルトンモデル NCVスケルトンモデルの紹介


  各部品には担当した機関・メーカーの説明パネルと成形品の部分展示があった。また、今回のスケルトンモデルには採用されていないが、プロジェクトに参加した他機関・メーカーの説明パネルと成形品も展示されていた。以下の項目では、CNF使用プラスチック部品の展示画像と展示パネルに記載された評価内容を紹介する。

 

エンジンフード (金沢工業大学、トヨタカスタマイジング&ディベロップメント)

エンジンフード
エンジンフード
(CNF紙/エポキシ樹脂、現行品はスチール)

目的:CNF大型軽量構造部品(エンジンフード以上)量産の可能性追求

目標:
①軽量化率:対スチール50%以上
②生産性:CFRP製品並
③品質:走行可能レベル

現状:
①期待効果:軽量化率50%以上、一体成形、見栄え・組付け性向上、断熱性・NVH向上等
②懸念事項:品質低下(耐衝撃性等)に伴う軽量化効果縮小、成形時間の短縮、専門製造設備要、塗装性、電磁波シールド性等

今後:
①更なる軽量化 
②成形性向上 
③防水塗装性評価 
④軽量化以外の利点(断熱、NVH等)の評価 
⑤懸念品質(吸水、燃焼性、EMI、安全性)の重要度確認 
⑥コスト調査・予測など

 

インテークマニホールド (アイシン精機)

インテークマニホールド
インテークマニホールド
(CNF/PA6、現行品はPA6-GF30)

目的:CNFエンジン部材量産の可能性追求

目標:
①軽量化率:対PA6-GF30 10%以上 
②生産性:現行射出材と同等 
③品質:製品要求品質(初期強度、耐衝撃性、耐吸水性、耐熱老化性、溶着強度)確保

現状:
①期待効果:軽量化率13%(前提条件あり)、吸気抵抗低減、現行品並みの成形性確保、溶着強度向上等 
②懸念事項:品質低下(吸水)に伴う軽量化効果の縮小、CNF凝集による材料強度のバラツキなど

今後:
①CNF材料に最適な成形条件、溶着方法、条件見極め 
②製品評価(初期、長期信頼性)による課題の抽出 
③製品性能の更なる向上 
④コスト調査

 

エアコンケース (デンソー)

エアコンケース
エアコンケース
(CNF/PP、現行品はPP-タルク材)

目的:CNF/ポリオレフィン(PO)材料を発泡成形し、必要な剛性を満足し軽量なエアコンケースの作成

目標:
①軽量化率:対PP-タルク材10%以上 
②生産性:現行同等レベル 
③品質:現行と同等の剛性を満足

現状:
①期待効果:軽量化率:10%以上、既存成形設備使用可、優れた剛性 
②懸念事項:軽量化と機械特性(剛性)の両立、高発泡化に伴う生産性の低下

今後:
①エアコンケース全構成部品で10%以上軽量化 
②後膨れ抑制とサイクルタイム短縮両立の成形条件・型構造検討 
③CNF-PO材料の剛性向上 
④試験片による信頼性評価 
⑤低コストCNF材料探索

 

ドアトリム (トヨタ紡織)

ドアトリム
ドアトリム
(CNF/PP、現行品はGF強化PP)

目的:CNF内装トリム(ドアトリム等)量産の可能性追求

目標:
①軽量化率:15%以上 
②生産性:現行同等 
③品質:現行品同等

現状:
①期待効果:軽量化率:15%、表面品質向上(対GF入り比較)、現行品と同等の生産性確保 
②懸念事項:耐衝撃性低下改良に伴う軽量化効果減少、長期耐久性、燃焼性、におい・VOC

今後:
①耐衝撃性改善検討 
②VOC低減対策検討 
③試験片による燃焼性、長期信頼性評価確認(対熱老化性、耐湿老化性等) 
④コストの算出の把握

 

ルーフサイドレール (昭和丸筒/昭和プロダクツ)

ルーフサイドレール
ルーフサイドレール
(CNFシート、アルミ、現行品はスチール)

目的:CNFサブフレーム(ルーフサイドレール等)量産の可能性評価

目標:
①軽量化率:効果予想(対スチール) 
②生産性:CFRPルーフサイドレール同等以上 
③品質現行品同等

現状:
①期待効果:軽量化率(期待)30%以上、見栄え、組付け性向上(期待)、断熱性・NVH向上(期待) 
②懸念事項:品質低下(吸水)に伴う軽量化効果の縮小、生産性の確保等

今後:
①必要品質評価⇒軽量化効果数値化 
②巻き取り性(時間、作業性)検討 
③軽量化以外の利点(断熱、NVH、EMI等)の評価 
④懸念事項の重要度確認(吸水性、錆、燃焼性等) 
⑤薄肉アルミの加工コスト確認、コストの位置づけ把握

 

Cピラー (イノアックコーポレーション)

Cピラー
Cピラー
(CNF/PP、現行品は強化PPか)

目的:CNF汎用内装品(ピラー)量産の可能性追求

目標:
①軽量化率:20%以上 
②生産性:現行同等 
③品質:現行品レベル

現状:
①期待効果:軽量化に期待(40%剛性向上⇒重量低減)、表面性質向上、現行品並みの生産性確保 
②懸念事項: 品質(耐衝撃性)低下伴う軽量化効果の縮小、CNF凝集による表面品質にバラツキ

今後:
①耐衝撃性改善検討(微細発泡、CNF分散性と成形条件の最適化) 
②バラツキ改善検討 
③吸水性評価 
④破壊状態確認 
⑤試験片による長期信頼性評価 
⑥燃焼性評価等

 

ラッゲージボード (キョーラク)

ラッゲージボード
ラッゲージボード
(CNF/PP、現行品は強化PPか)

目的:CNF内装ボード部品(ラッゲージボード等)量産の可能性追及

目標:
①軽量化率:10%以上 
②生産性:現行同等 
③品質: 現行品同等

現状:
①期待効果: 軽量化率:10%以上、現行成形機使用可(ブロー成形機) 
②懸念事項:品質バラツキに伴う軽量化効果の縮小

今後:
①必要品質評価⇒軽量化効果の確認 
②成形性(流動特性等)改良効果の理論武装
③軽量化以外の利点(見栄え)の評価 
④懸案品質(吸水性、燃焼性、におい・VOC)の重要度確認 
⑤コスト概算

 

トランクリッドアッパー (利昌工業)

トランクリッドアッパー
トランクリッドアッパー
(100%CNF材/CNF紙ハニカム、
現行品はスチールまたはFRPなど)

目的:CNF外板(トランクリッド等)量産の可能性の追及

目標:
①軽量化率:対スチール80%以上 
②生産性、品質:FRP製トランクリッド同等

現状:
①期待効果:軽量化率(期待)50%以上(対スチール)、剛性:約2倍(対スチール)、見栄え、組付け性向上(期待)、断熱性・NVH向上(期待)、耐クリープ性など 
②懸念事項:品質(耐衝撃性)低下伴う軽量化効果の縮小、成形時間の大幅短縮と専門設備必要、塗装性、電磁波シールド性、耐水性、長期耐久性評価、燃焼性

今後:
①必要品質の評価⇒軽量化の効果確認 
②成形時間大幅短縮のための脱水・乾燥工程、接着工程の最適化 
③軽量化以外の利点(断熱、NVH等)の評価 
④懸案品質(吸水、貯水性、燃焼性、EMI等)
⑤一体成形によるコストダウンの可能性検討

 

バックドア・トランクリッド (ダイキョーニシカワ)

バックドア・トランクリッド
バックドア・トランクリッド
(CNF/PA6 CNF/PP)

目的:CNF外板(垂直、意匠)量産の可能性の追及

目標:
①軽量化率:スチール製比50%以上 
②生産性:現行品と同等の加工性確保 
③品質:平滑性確保

現状:
①期待効果:軽量化率:スチール比50%以上、現行同等の加工性、寸法安定性 
②懸念事項:品質(耐衝撃性)低下伴う軽量化効果の縮小、後突性能、CNF凝集による平滑性低下

今後:
①物性、機能性改善(CNF材分散性向上、発泡セルの微細化・均一化等)
②SPEC適合性評価(吸水性、長期耐久性、難燃性、塗装性)
③発泡外観改善(CNF材分散性向上等)
④材料コスト(製造プロセス簡素化、安定供給)

 

ドアハンドル・グリル (マクセル)

ドアハンドル・グリル
ドアハンドル・グリル
(CNF/PA6めっき)

目的:CNF意匠部品(ドアハンドル・グリル等)量産の可能性検討

目標:
①軽量化率:効果予想(対現行品)
②生産性、品質、コスト:現行品同等

現状:
①期待効果:軽量化率:30%以上(約2倍の剛性向上による)、表面品質向上、現行品(PC/ABS)並みの生産性確保 
②懸念事項:品質(耐衝撃性)低下に伴う軽量化効果縮小、CNF凝集に伴う表面品質低下

今後:
①必要品質評価⇒軽量化効果数値化 
②成形温度管理による品質向上 
③軽量化以外の利点(面品質、透水性効果等)の評価、懸念事項の重要度確認(吸水性、衝撃特性)、コスト概算

 

バックドアガラス・ルーフパネル (トヨタ自動車東日本)

CNF補強樹脂ガラス
CNF補強樹脂ガラス
(CNF/PC、現行品は無機ガラス、PC等)

目的:CNF車両ガラス量産の可能性追求

目標:
①軽量化率:50%(対無機ガラス)、20%以上(対樹脂ガラス) 
②生産性:現行射出材同等レベル 
③品質:製品要求品質確保

現状:
①期待効果:現行品同等の透明性、現行品比で軽量効果あり 
②懸念事項:耐久品質、コスト

今後:
①市場適正品質の確保、耐久性能評価 
②材料コストの低減検討(CNFの低コスト化、ハードコートレス化)

 

CNF断熱部材 (三和化工)

CNF断熱部材
CNF断熱部材
(CNF添加ポリエチレンフォーム)

目的:CNF断熱(発泡)部材量産の可能性追求

目標:
①軽量化率:10%以上 
②生産性:現行同等 
③品質:現行品同等

現状:
①期待効果:軽量化率:10%、現行成形機使用可能 
②懸念事項:品質バラツキに伴う軽量化効果の縮小、流動性変化に伴う成形条件管理

今後:
①品質追及(微細発泡、CNF分散性と成形条件最適化) 
②バラツキの改善検討 
③懸案品質の評価改善(吸水性、燃焼性、におい・VOC等) 
④試験片による長期信頼性評価 
⑤製品化へ向けた実用化検討 
⑥コスト概算

 

自動車用CNF/樹脂複合材料の成形評価 (京都大学、京都市産業技術研究所、宇部興産)

  参加機関の現状の検討内容は以下のとおり。

  • 京都大学:①射出・ブロー成形用CNF/樹脂複合材料の提供(各種材料の物性値提示) ②3D成形用樹脂/CNF材料の試作
  • 京都市産業技術研究所:①京都プロセス製のCNF強化ポリプロピレンと各種市販材料の比較
  • 宇部興産:①自動車部品成形用CNF複合材料(ポリアミド系)の組成検討及び共同事業者への材料提供

 

CNFの自動車部品への活用によるCO2排出量削減効果の評価 (東京大学、産業環境保安協会、産業技術総合研究所)

  LCA手法を活用して定量的に利点を確認するために以下を検討中。

  • CNF部材の量産技術シミュレーションによるCO2原単位推算
  • 試作部品およびCNF車両のライフサイクルCO2評価
  • 自動車分野におけるCNF普及シナリオと社会の波及効果

CNF/樹脂複合材料 CO2排出量削減効果の評価
CNF/樹脂複合材料
(CNF/PA6等)
CNFの自動車部品への活用による
CO2排出量削減効果の評価

 

  NCVプロジェクト以外のブースで展示していたCNF強化樹脂の自動車部品の成形品を以下に紹介する。

自動車シートリクラカバー フロントピラーガーニッシュ
自動車シートリクラカバー フロントピラーガーニッシュ


CNF (Cellulose Nanofiber) の課題

  CNFは非常に注目されているが、未だ研究開発が始まってから期間も短く、本格的に工業分野に応用された例は未だ少ない。CNFが自動車に使用されるには、まだ多くの検討すべき課題があり、主に以下の点があげられる。

  • CNF強化樹脂の低コスト化と量産化が不可欠である
  • 成形加工性の検討も今後重要になる
  • CNFの特徴を生かした適用例の検討 など


  NCVプロジェクトにより、CNF強化樹脂の自動車分野への採用促進が期待される。2019年秋に開催される東京モーターショーではコンセプトカーの展示が検討されており、今後の展開が注目される。


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キーワード
軽量化、樹脂、プラスチック、セルロースナノファイバー、CNF、NCV、Nano Cellulose Vehicle、エンジンフード、インテークマニホールド、エアコンケース、ドアトリム、ルーフサイドレール、Cピラー、ラッゲージボード、トランクリッド、ドアハンドル、グリル、バックドアガラス、ルーフパネル、断熱材、フロントピラーガーニッシュ、シートリクラカバー、昭和丸筒、昭和プロダクツ、利昌工業、イノアックコーポレーション、キョーラク、三和化工、ダイキョーニシカワ、マクセル、デンソー、トヨタ紡繊、アイシン精機、宇部興産、トヨタ、トヨタ自動車東日本

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