VWとディーゼル排気問題 (3)
2015年の決算とリコール対応状況
2016/06/02
要約
![]() (CARBのVWリコール仕様拒絶通知) |
VWは2016年4月に2015年の決算を発表した。 グループ世界販売が約1,000万台、売上高 2,133億ユーロ、営業利益41億ユーロの赤字となり、169億ユーロを特別損失として計上した。
ただし、米国でのリコール対策内容については当局の認可がまだ得られておらず、VWとCARB (カリフォルニア大気資源局)及びEPA (環境保護局)間のやり取りは継続しておりリコール費用は確定していない。
また600件を超えると言われる民事訴訟は連邦地裁での暫定合意が4月21日に得られたが、合意内容については緘口令が出されており、次に定められた期限である6月21日の最終合意に向け、作業が続けられている。
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Volkswagen Groupの危機:VWとディーゼル市場の今後の見通し (2015年9月)
1-12月通年 | 対前年比 | 1-3月 | 対前年比 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
2015年 | 2014年 | 2016年 | 2015年 | |||
グループ世界販売(万台) | 1,001 | 1,022 | 2.0%減 | 258 | 261 | 1.2%減 |
売上高(億ユーロ) | 2,133 | 2,025 | 5.3%増 | 510 | 527 | 3.4%減 |
営業利益(億ユーロ) | -41 | 127 | 赤字転落 | 34 | 33 | 3.4%増 |
特別損失(億ユーロ) | 169(うち162が排気関連) | - |
(VWグループ決算) |
2015年グループ決算:特別損失162億ユーロを計上、営業利益は41億ユーロ赤字
エミッションスキャンダルのお詫びと今後の決意が述べられたミュラーCEOの挨拶にはじまるVWグループの2015年決算書には、VWグループ12ブランドの概況説明、エミッションスキャンダルを含むグループマネージメントの状況と課題、VWグループ(12ブランド)連結決算の状況が公表された。VW乗用車ブランドだけが販売台数を落としている。
2015年のVWグループ決算は、特別損失金を169億ユーロ計上し41億ユーロの営業損失(23年ぶり)となった。最終損益も13.6億ユーロの赤字。2015年のQ3(7月-9月)決算で67億ユーロをリコール費用等に計上していたがそれをさらに100億ユーロ以上積み増した。
配当金は普通株1株あたり0.11ユーロ(14年度は4.8ユーロ)、優先株1株あたり0.17ユーロ(14年度は4.86ユーロ)を予定する。幹部報酬も前年度比平均39%削減した。
![]() (2016.4.22.VW発表決算内容) |
エミッションスキャンダル
VWグループは決算書の中でエミッションスキャンダルに関する経緯を説明している。2015年9月18日の米国当局の2.0Lディーゼル車(EA189、289型エンジン搭載車)に対するNOV(Notice of Violation:違反通達)及び11月2日の3.0Lディーゼル車のNOVに始まる、全世界のリコールに対するVWグループの対応状況の説明をしている。
対象4気筒ディーゼル車台数(エンジン種類別)
2.0L TDL | 1.6L TDI | 1.2L TDI | 合計 | |
---|---|---|---|---|
台数(万台) | 660.8 | 366.5 | 46.8 | 1074.1 |
対象4気筒ディーゼル車台数(ブランド別)
VW乗用車 | Audi | Skoda | SEAT | VW商用車 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|---|
台数(万台) | 564.2 | 241.0 | 122.4 | 69.5 | 77.0 | 1074.1 |
対象4気筒ディーゼル車台数(仕向地別)
EU28カ国 | USA/CANADA | その他 | 合計 | |
---|---|---|---|---|
台数(万台) | 849.4 | 60.8 | 163.9 | 1074.1 |
欧州ではEA189型エンジン搭載車のリコール仕様が、ドイツ、スペイン、UK等の運輸当局の了承が原則得られており、2.0L車は2016年1月から、1.2L車は2016年2Q終りから、1.6L車は2016年3Qからリコールが実施される。北米ではEA189型とEA289型エンジン搭載車を含むGEN1(第一世代),GEN2(第二世代),GEN3(第三世代)の4気筒2.0L車とV6 3.0L車について当局とリコール交渉が現在でも継続されている。
VWでは、450人の内外専門家がタスクフォースチームを形成し、内部調査を実行するとともに発見事項をJones Day社(Deloitte社のサポートも受け)の専門家に報告し助言を受けている。現状までの調査では個人の違反行為(ディフィートデバイスソフト作成)の他に、エンジンコントロールの開発プロセスとその認証システム上の欠陥が見つかっている。したがって将来の排気試験においては原則として外部の独立した第三者機関により評価する事を決めた。また無作為に実走行車を選定し、路上の排気挙動試験を実施する予定である。さらにエンジンコントロールのソフトウエア開発プロセスにも新しく規制を導入する。
対象V6 TDI 3.0Lディーゼル車台数
VW乗用車 | Audi | PORSCHE | 合計 | |
---|---|---|---|---|
台数(万台) | 3.4 | 6.1 | 1.8 | 11.3 |
Audiは2015年11月2日の米国当局のNOVを受けて調査した結果3つのAECD(=Auxiliary Emission Control Device:排気制御補助装置)がディフィートデバイスとされる可能性があったが、事前に当局にそれを申請しなかった事を認めて対象車の販売を中止した。
2016年1月4日米国司法省は、EPAの依頼を受け、VWグループに対し訴訟を起こした。起訴はVWグループのディフィートデバイス採用行為は大気汚染防止法違反であるという内容。また1月12日、CARBがVWグループに対し、今回の行為はカルフォルニア健康安全令に違反しているため罰金を科する意図があると発表。以上現在判明しているリスクに対して、VWグループは2015年決算では169億ユーロの特別損失を計上した。
なお、この民事訴訟は連邦地裁においてEPA、CARBとVWグループが係争中であり、4月21日に、三者間(EPA、CARB、VW)の暫定合意(55万人を対象に10億ドル支払う(平均1700ドル/人))が得られたとの報道がある。内容は緘口令が敷かれており、最終合意期限は2016年6月21日に設定されている。この他に刑事訴訟も検討されている。
VWグループと米国当局との交渉状況
2016年1月12日にCARB、EPAはVWが提出した2.0Lディーゼル車のリコール対策仕様提案について拒絶通知を発行した。理由は大きく3つあり、
1) 提案されたリコール計画は詳細さにかける。
2) リコール対策技術の十分な説明と対策が有効であるという評価が不十分。
3) 提案された対策仕様は車の性能と耐久性への影響に関し十分な説明がなされていない。という趣旨であり、拒絶レターの中で14項の不備について内容を公表した。
即ち、2.0L車(GEN1、2、3)のVWリコール対策計画は以下の点が不備・不十分である。
① ディフィートデバイスの影響を受ける車両の指定。
② ディフィートデバイスが付いている車両の法規不適合性。
③ 車の所有者の氏名・住所等の情報を取得する方法。
④ 修理車両の修理方法。
⑤ リコール通知書がない。
⑥ 修理部品の入手性を当局に保証するシステム。
⑦ 修理説明書がない。
⑧ 修理内容が車の燃費、運転性、走行性能、安全にどう影響するかの説明。
⑨ カリフォルニア州でのリコール回収率予測。
⑩ 修理内容による排気各成分毎の平均低減率、平均各成分排気値。
⑪ 修理内容が不適合をどう修正するように設計されたかの説明。
⑫ OBDシステムのデモンストレーションデータ。
⑬ 提案された対策仕様がいかに早く正しい仕様に改修できるかの説明。
⑭ 提案された計画が実行可能でプランが成功するとCARBが確信できる詳細な説明。
同時に、CARBリコール執行部は異例の「リコール執行命令」をVWに出している。
その中で、現在までの経緯を説明すると同時に、過去の4000マイル車、耐久車(排気認証プロセスで定められた排気試験車と耐久試験車)のデータは無効であり、認証テストプロセスが不成立であった事、OBD(On-Board-Diagnosis=車両自己診断)システムも認証が取り消されている。
なお、Audi等のV6 3.0Lディーゼル車のリコール事案は別ケースとなっている。
欧州でのリコールの状況
欧州全体では対象台数は850万台あり、2.0L、1.6L、1.2Lディーゼル車がエミッションコントロールソフトの改修及び1.6L車では吸入空気整流チューブの取付けを行っている。ドイツでは280万台を対象としたリコールが始まったが、自動車局(KBA)からVWパサート、Skoda Superb(合計16万台分)についてリコール仕様に改修する事で燃費が悪化する事が明らかとなり、リコール中止オーダーが出ている。その為、当初計画では2.0L車が2016年1月から、1.2L車が2Qの終りから、1.6L車は3Qからリコール作業に入り、2016年中に改修を終える予定であったが、2016年6月初め時点では5万台の改修に留まっており、VWではリコール完了には当初想定より時間がかかるとしている。また環境温度に応じEGR(排気ガス還流装置)の作動域を車の実走行時と排気測定モード試験時で異なるセットをした点もディフィートデバイスと認め追加リコールを行っている。
販売への影響
2015年のVWグループのグローバル販売台数(対前年比)は2%減、売上高は5.4%増、特損を除く営業利益は+1%と発表されている。全世界でみるとグループ全体への影響は少なく見える。
2015年 | 2014年 | 増減 % | |
---|---|---|---|
VWグローバル車両卸売台数(万台) | 1,001(993.1) | 1,022(1,013.7) | ▲2.0 |
売上高(百万ユーロ) | 213,292 | 202,458 | 5.4 |
特損除く調整後営業利益(百万ユーロ) | 12,824 | 12,697 | 1.0 |
(VWグループ決算より、( )内台数は販売台数)
しかしながら、米国・ドイツで前年同月比の独3メーカを比較するとVWブランドの苦戦が、浮き彫りになる。
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![]() (MarkLinesデータセンター) |
また、米国での販売をブランド別にみると、2015年通年での前年度増減はVWが4.8%の減、Audiが11.1%の増、Porscheが10.1%の増
2016年の1月-4月で見ると、VWが前年同期比11.7%減、Audiが5%増、Porscheが6%増となっており、VWブランドの減少をAudiとPorscheの増加でカバーしている。
米国モデル別販売
1-12月累計(台) | 増減(%) | 1-4月累計(台) | 増減(%) | |||
---|---|---|---|---|---|---|
2015年 | 2014年 | 2016年 | 2015年 | |||
VW | 349,440 | 366,970 | ▲4.8 | 96,426 | 109,248 | ▲11.7 |
Audi | 202,202 | 182,011 | 11.1 | 59,761 | 56,925 | 5.0 |
Porsche | 51,756 | 47,007 | 10.1 | 17,648 | 16,647 | 6.0 |
(出典:Autodata)
今後の節目
6/21 米国連邦地裁 最終結審
6/22 VW年次総会(当初計画では3月末の予定、3カ月遅れとなる予定)
7/28 VW 半年決算(2016年1月-6月期)
<自動車産業ポータル、マークラインズ>