トヨタ:2015年から予防安全技術を量販車種に設定
高度運転支援システムAHDAを2010年代半ばに導入
2014/01/10
要 約
![]() 2012年末から導入した新型のプリクラッシュセーフティ(ミリ波レーダ方式)を標準装備するCrown Majesta "Fバージョン" |
本レポートは、トヨタの予防安全技術搭載を拡大する計画について報告する。2015年をめどに衝突予防安全装備を幅広く量販車にも搭載していく計画を進めている。また自動運転技術を利用する高度運転支援システムAHDA(Automated Highway Driving Assist)を2010年代半ばに導入すると発表した。
衝突予防安全技術については、トヨタは2003年にプリクラッシュセーフティ技術を世界で始めて実用化するなど、先行して導入してきたが、普及型の投入については他社に遅れている。しかし、2014年から欧州で自動ブレーキがNCAP評価項目に組み込まれ、日本でもJNCAPへの追加が検討されている。トヨタは、2015年をめどに、予防安全技術の上級車向けバージョンと普及型を投入開始する計画。
AHDAについては、トヨタは、「自動運転」を強調するのではなく、安全運転の支援や運転負荷の軽減を行うシステムと位置づけている。
関連レポート:
ITS世界会議東京:トヨタ・ホンダ・日産の自動運転技術展示 (2013年10月掲載)
欧州NCAP:2014年から自動緊急ブレーキを評価項目に追加 (2012年12月掲載)
2015年をめどに、2機種の予防安全技術を幅広く搭載
トヨタは、衝突予防安全装備の普及型の投入については他社に遅れているが、限定された条件下での作動であっても安価なシステムが欲しいというニーズがあり、投入を検討していた。
トヨタは、2015年をめどに2機種の予防安全技術を設定する計画。一つは、現在Lexus LSに設定している衝突回避支援型をベースに、新たに開発した衝突回避の自動ステアリングを加えた装備で、価格も高くなるため上級車に設定する見込み。
さらに普及型として、2012年末にCrown Royal/Athleteに設定した新しいミリ波レーダ方式をベースとする安全装備を開発し、価格は10万円以下にするとされる。
2015年から幅広い車種に設定する2機種の予防安全装備
上級車向け (衝突回避支援型 + 自動ステアリング) | Lexus LSに設定されている「衝突回避支援型」をベースに、車両に加え歩行者も検知できるシステムを開発。また新たに開発したステアリングを自動操作し、歩行者を回避する技術を加える(ブレーキだけでは歩行者との追突が避けられないと判断し、また回避先の空間がある場合に限って作動する)。ステレオカメラとミリ波レーダを装備し高額になるため、上級車に搭載すると見られる。 |
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普及型 | さらに上記タイプより手頃な価格の予防安全技術として、ミリ波レーダと単眼カメラを搭載し歩行者も検知できる装備を量産モデルに搭載する予定。 |
現行車種での予防安全技術の設定状況
2014年初め現在で、トヨタはLexus LSに「衝突回避支援型」プリクラッシュセーフティシステムと、プリクラッシュセーフティシステム(ミリ波レーダ方式)を設定している。ミリ波レーダ方式は、トヨタ・レクサスの上級車10モデル以上にも設定している。
また2012年12月以降に発売したCrown Royal/Athleteなどの上級車種には、自動ブレーキ機能を高めた新しいプリクラッシュセーフティシステムを設定した。
現行Lexus LSが搭載しているプリクラッシュセーフティシステム(日本仕様)
衝突回避支援型 | 正式商品名は「衝突回避支援型プリクラシュセーフティシステム」。ミリ波レーダとステレオカメラを搭載する。市街地走行から高速走行までの広い車速域で、車両や歩行者に対する衝突事故の回避を支援する。近赤外線により、夜間でも衝突回避を支援する。 |
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警報を発し、それでもドライバーが回避操作を行わない場合、自車と対象物の相対速度が40km/h以下では自動ブレーキにより衝突回避を支援。速度が40km/hを超える場合も、自動ブレーキやブレーキアシストにより衝突速度を減速し、被害軽減を図る。 | |
オプション価格は、LS460の場合、その他の先進技術(フルLEDヘッドランプ、Adaptive Hi-beam systemなど)とセットで税込み1,254,750円。 | |
ミリ波レーダ方式 (従来型) | システムが衝突の危険性が高いと判断した場合、ドライバーがブレーキを踏むとプリクラシュブレーキアシストが作動してブレーキの制動力を高める。また衝突不可避と判断した場合は、プリクラシュブレーキが作動して衝突速度を低減するとともに、プリクラッシュシートベルトを作動させることで衝突被害の軽減に寄与する。 |
2014年初め時点で、Lexus LS/GS/HS/CT/RX、トヨタAlphard/Vellfire、Estima、Prius、SAI、マークX、Land Cruiser、Land Cruiser Pradoに設定されている。オプション価格は、レーダクルーズコントロールとセットで税込み147,000円。 | |
操舵回避支援 | ドライバーが危険を認知し回避する行動をとった場合には、ステアリングやサスペンションなどを統合制御し、車両姿勢を安定させて回避操作を支援する。Lexus LS/GSが搭載する(自動ステアリングではない)。 |
現行Crown Majestaなどが搭載する新開発のプリクラッシュセーフティシステム
ミリ波レーダ方式 (自動ブレーキ機能を高めた新システム) | 先行車と衝突する場面に遭遇した場合、ドライバーがブレーキを踏むとプリクラッシュブレーキアシストが強力にブレーキ力をアシストし、先行車が20km/h、自車が80km/hの場合では最大60km/h程度減速する。本システムは、自車速度および相対速度が15km/h以上で作動する。 |
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また仮にドライバーがブレーキを踏めなかった場合でも、プリクラッシュブレーキが作動。先行車が20km/h、自車が50km/hの場合では最大30km/h程度減速し、衝突を回避または衝突の被害を軽減する。 | |
2014年初め時点で、2012年末以降に新型車が発売されたCrown Royal/Athlete、Crown Majesta、Harrier、Lexus ISに設定されている。 | |
オプション価格は、Crown Royal/Athleteでは、クリアランスソナー&バックソナー、インテリジェントクリアランスソナー(障害物との接触を防止・被害を緩和する)、レーダクルーズコントロール(ブレーキ制御付)、VDIMとセット(アドバンストパッケージ)で税込み10.5万円。 | |
Crown Majestaでは、クリアランスソナー&バックソナーとVDIMが標準装備されているので、インテリジェントクリアランスソナー、レーダークルーズコントロール(ブレーキ制御付)とセット(アドバンストパッケージ)で63,000円。 |
デンソーがセンサ事業を強化
デンソーは、今後センサの需要が大幅に高まると予測している。2012年に新型のミリ波レーダとレーザーレーダを商品化した。また自動運転に近い高度な技術から、安価な低速での衝突予防安全にまで需要が拡大していることに対応し、東京モーターショー2013で、Entry/Standard/Premiumの3つのpackageに分けて提案した(マークラインズ市場・技術レポートNO. 1238)。
またセンサは、レーザーレーダ、ミリ波レーダ、カメラなどそれぞれ一長一短があり、現在上級車ではいくつかのセンサを組み合わせて搭載している。デンソーは、センサのベストミックスを探るとともに、組み合わせるセンサの数を減らすことに注力している。
デンソーが新しいミリ波レーダとレーザーレーダを開発
ミリ波レーダ | 2012年11月に発表。検知距離を従来の151mから205mに拡大、また35m先での検知角度を、±10度から±18度に拡大した。マツダが2012年11月に発売した新型Atenza/Mazda6の「i-ACTIVSENSE」に供給している。 |
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レーザーレーダ | デンソーは、軽自動車初となる衝突回避・衝撃緩和等に寄与するシステムのセンサとして搭載される新型レーザーレーダを開発した。2012年12月に発売された「ダイハツ ムーヴ」の衝突回避支援システム「スマートアシスト」に採用された。 |
新たに開発したレーザーレーダは、市街路や渋滞といった低速域での使用を念頭にスキャンする領域、距離を設定することで、レーザー光発信の機構を簡素化。求められる性能を確保したうえで小型化・低コスト化を実現し、軽自動車への衝突防止・衝撃緩和システム実現に貢献する。 |
高度運転支援システムAHDAを2010年代半ばに導入
トヨタは、2013年秋に開催された「ITS世界会議東京2013」に、高速道路(自動車専用道路を含む)での高度運転支援システム「AHDA(Automated Highway Driving Assist)」を公開し、2010年代半ばを目標に市場導入すると発表した。
AHDAは自動運転技術を利用した新技術であるが、トヨタはAHDAの目的は「すべてのドライバーがあらゆる状況下で、熟練ドライバーのような運転能力を発揮できるよう」安全運転を支援し「交通死傷者ゼロ」の実現に貢献することとしている。
AHDAは、「通信利用レーダクルーズコントロール」と「レーントレースコントロール」で構成される。
高度運転支援システムAHDAを2010年代半ばに導入
トヨタは、自動運転技術を利用した、高速道路(自動車専用道路も含む)における次世代の高度運転支援システム「Automated Highway Driving Assist(AHDA)」を開発し、2010年代半ばに商品化する予定。高速道路における安全運転を支援し、運転負荷の軽減を目指す。下記の2項目から成る。 | |
通信利用 レーダクルーズ コントロール | 先行車との車間距離の検知にミリ波レーダを使用した従来のレーダクルーズコントロールに対して、この技術は次世代ITS技術である車車間通信技術(国土交通省が車専用に割り当てた700MHz帯を使用)も用い、先行車の加減速情報を利用することで、同時加減速、安定した追従走行など、より精緻に車間距離を制御する。また、不必要な加減速を低減することで、燃費向上や渋滞の解消などにも貢献する。 |
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トヨタと同じ無線技術を採用する車が増えないと普及しないため、「業界で通信機の標準化を進めたい」としている。 | |
レーントレース コントロール | 自動運転技術を利用した新しいシステムで、カメラやミリ波レーダの高性能化、制御ソフトの高度化などにより、道路の白線や先行車両の走行軌跡を検知して適正な走行ラインを算出。そのラインに沿って走行するよう、ステアリングと駆動力、制動力を、全車速で適切に制御する。 |
Lexus LSなどが搭載する"Lane Keeping Assist"が、高速道路(または自動車専用道路)を50km/h以上走行時に、警報を発しまたはステアリング操作を支援するのに対して、新システムは全車速域でまた急なカーブでも作動し、かつステアリング等を適切に制御するとしている。 | |
実用化には、高速道路の詳細な地図が必要になるとのこと。またITS世界会議で披露されたシステムでは、高速道路での合流、分岐点での進路選択、車線変更はドライバーが手動で行っていた。 |
トヨタは、将来の自動運転のベースにもなる「インフラ協調による安全運転支援」の開発に取り組んできた。2009年度に、ITSスポットサービス(DSRC、高速道路上を中心に運営)の運用開始と同時に対応するDSRCユニットを発売。2011年には、DSSS安全運転支援システム(一般道が中心)に対応するHDDナビゲーションシステムを発売した。
2013年5月から、愛知県豊田市において、「信号情報活用運転支援システム」の公道走行実験を開始した。
「信号情報活用運転支援システム」の公道走行実験を開始
DSSS安全運転支援システム実証実験の一環。DSSSは、一般道を中心に、交通管制情報(信号・標識等)や見通しの悪い周辺の状況を、交通インフラからクルマに伝達し、ドライバーの安全運転を支援するシステム。 |
本実験では、豊田市内の1路線を対象として、700MHz帯の電波により信号灯色情報を送信、車両側の実験用車載システムで受信し、音声や画面表示でドライバーに情報提供する。連続した交差点の信号灯色情報を取得し、既に実験が行われている信号見落とし防止支援に加えて、早めにドライバーに減速を促すことにより、CO2排出量低減効果が期待される。 |
<自動車産業ポータル、マークラインズ>